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Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
二章上編『前夜祭』

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Deviance World Online エピソード6 『悲嘆』

 とある場所、とある時間。

 黒狼が改めて、リスポーンした。


「うぃー、久々に死んだぁ……」

「あら、珍しいわね」

「挑む予定のないダンジョンに挑んで死んだ、悲しいぜ。っというかさ、お前に聞きたい話が四つほどあるんだけど時間あるか?」


 テンションが低めなまま、欠伸をしつつ黒狼は声を掛ける。

 赤毛の魔女、ロッソと呼ばれた彼女は振り返りながら黒狼の方を向いた。

 そのまま、目を細める。


「お前が作ろうとしたアーキタイプって、何なんだ? 純粋な規格外っていう意味なら100体以上作った上で幾多か生まれるだろ」

「ふぅん? 難しい質問ね……、具体例なら挙げやすいんだけども」

「へぇ、例えば?」

「このゲーム、かしら。私が作ろうとした規格外、新たな人類のアーキタイプって言うのはつまり理外の思考や力を有する存在ね。このゲームはそう言う意味では正しく、私の作ろうとした規格外の条件に当てはまってる」


 西暦3000年、最早人類は宇宙に進出を終えた。

 宇宙に進出した人類は月面、火星、金星に居住コロニーを作成した。

 人類の絶対生存圏の拡張、ソレは数千年の時を経た人類の進化と衰退の交差点を証明する。

 つまり、星の内側での発展が望めなくなった。


「一つ質問、光を超える情報伝達手段があると思う?」

「無い、必ず」

「ならこのゲームはどうやって通信しているのかしら?」

「……どう言う意味だ?」

「文字通り、の意味よ。遥か星間、このゲームは一切のロスなく起動しているわ。コレは明らかに現代の技術力を上回っている、何せ物理法則に従っていないのだから」


 なるほど、と理解を示す。

 確かに理外の存在だろう、理解の内側にない。

 光を超える情報伝達手段など、現実的に考えてあってはならない。

 そのあってはならないの上を歩む存在を、彼女は作ろうとしていた。

 そう、黒狼は認識する。


「それで、結局は何をすれば完成だったんだ?」

「とある脳波形の制御、かしら。その脳波形はこの世界に干渉するためのVRにも用いられているものよ、そして人体制御の大部分を担う代物。もしも、ソレを巧みに扱えれば、そうね。不可能と言える身体行動や、不可解な思考が出来るでしょうね」

「あー、心当たりがあるな。出来てる実例があるから挙げてるんだろ、ソレ」

「ええ、そうよ。例えば貴方とか、『騎士王』アルトリウスとか。絶対に勝てない状況とか、覆せない盤面を簡単に変えるじゃない」


 ロッソの言葉に、少し目を開き同時に表情が消える。

 何とも、面白くなさそうな表情だ。

 少しの間だけ黒狼は目を閉じ、しばしの熟考の後に言葉を返した。


「なんで無いと断じた? 俺は感じたぞ、アイツにもソイツが。覆せない盤面を覆せるような、主人公補正があるってな」

「そうね、或いはそうかもしれない。だけれども、あの実験は失敗した。ソレが結論であり、私がこの世界の究明に切り替えた理由よ」

「そうかい」


 もはや、議論はなかった。

 黒狼は装備を軽く叩き、首を傾げてそのまま欠伸をする。

 そうして、部屋の扉を開こうとして。

 ロッソの言葉を、聞いた。


「例の品物、村正に渡してるわ。今のプレイヤーのレベルじゃ過剰な威力になるでしょうけど……。ま、自由に使いなさい」

「武器の耐久度は?」

「壊れる前提ね、ギミックとかは私じゃなくビリーの方に任せたから。文字通りのぶっ壊れ武器、になるかも?」


 改めて、扉を開き出てゆく。

 ロッソは彼の背中を見ながら、深く息を吐いて。

 一言、虚空に言葉を投げかけた。


「『一粒の麦が地に落ちて死ななければ、それはただ一粒のままである。しかし、もし死んだなら、豊かに実を結ぶようになる』、か。私は一体いくつ落とし殺し、どれだけの豊かを生み出したのかしらね」


 意味などない、意味などあるものか。

 成しえる全てに、能う全てに。


 神が如き偉業を達した魔女は、けれども能う事なく腐り果てた。

 神のなしえざるものなし、およそ。

 天才は、天才が故に嫉妬する。

 自分が出来ぬ事に、自分が成せぬ事に。

 或いは、自分が知れぬ事に。


 その言葉は誰にも聞かせる気のない、彼女の悲嘆だった。


* * *


 ましゅまろは、再びゲームにログインした。

 明確な目標ができた、明瞭な目的が作られたのだから。

 であれば、辞めるという選択肢は無い。

 もしくは、心の内側でどこか楽しんでいる自分がいた。


「なんか、正面から喧嘩をふっかけられるのは初めて……」


 どこか、不明瞭な必死さの中に確かに存在している僅かばかりの楽しさ。

 その正体はわからずとも、けれども理解を示そうとすれば答えてくれる。

 ゲームとして楽しいという感情だ、この世界に現実感を投影していた中にあったゲームとしてこの世界を楽しんでいるという側面。

 ソレが表に出てきたような気がして、そして同時に心の中の焦りが解消された気がして。


 だからこそ、決意も固まった。


 煽られた、壁を越えたいのならば自分を倒せと言われた。

 規格外になりたいのならば、自分を変えろと。

 ましゅまろは、再びキツく口を結んだ。

 敵だと宣言された、倒すべき相手だと分かった。


「翼の使い方を、覚える」


 『超越思考加速』の力は圧倒的だ、他に比類する力など数えるほどしかないだろう。

 だけどどれほど強い力を持っていても使い方を知らなければソレはただの、オモチャだ。

 今はなく、形なくただ在るだけの玩具に等しい。

 たとえ世界を滅ぼせる力を持っていようが、結論としてそれ以上はない。


「……まずは交流会で強い人と出会おう、そして師事して……。戦い方を、あの人に勝てるための強さを選んだ……!!」


 愚直で率直、分かりやすく直進するのはある種の若さであり素直さの証明。

 そしてソレらを見出せるのは、希望を持っているがため。


 インベントリから通知音が入る、クランからの全体連絡だ。

 集合まであと五時間、ましゅまろは少し唾を飲み込めば軽く息を吐いて。

 そうして、ゲームからログアウトした。

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