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Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
二章上編『前夜祭』

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Deviance World Online エピソード6 『超越する』

 認識という壁が剥がれてゆく、案外色眼鏡を剥いだ世界は透き通るような透明で。

 何物も見通すことのできないドス黒い悪意で、覆われていた。


 煌めく剣は、認識する間もなく首元に迫る。

 理解を拒むような一瞬の交錯、僅かばかりの本能が理性を突き動かす。

 それは正しく、ジョーカーの切り所だ。


「ッ、『超越思考加速(マルティネス)』!! 超越するッ!!」


 一瞬で距離を取ろうとして、私は嵌められた事に気がついた。

 喉に刃が触れる、滴る血液が赤黒く染まる。

 十倍に遅い世界で、その男は私に迫っていた。


 何が、平凡だ!!

 何が、模範的だ!!

 何が、モブプレイヤーだ!!


 強い、ただ純粋に強い!!

 戦って初めて理解できる、戦って初めて認識できるッ!!

 何で10倍で動いている私と、鍔迫り合いが成立する!!?


ーー不思議そうだな?


 テキストメッセージが送られてきた、名前もアンノウンから黒狼へと変化している。

 顔を青ざめさせる、まさか。

 思考速度では、私に追いついているとでもいうのか!!?

 スキルの説明に嘘がなければ十倍速だ、それに前に見せた時には確かについて来れていなかった。


 3歩、下がろうとして阻まれる。

 最早そこは壁だった、私は決して狭く無いボスエリアの端まで追い詰められていたらしい。

 顔を青ざめさせ、息を吐く。

 その吐息すら遅い、それなのに彼の刃は遅く早い。


ーー簡単な話だ、超越思考加速だっけか。そのスキルは驚異的だ、けれどトップクラスのプレイヤーには届かない。


「ふざ、けるな!! 少なくともコレはエクストラスキル、私の翼なんだから!! 何で迫れる、私に!!」


ーー何で、俺がエクストラを持ち得ないと思っている?


 手に鈍痛が走る、いつのまにかナイフが刺さっていた、反射的に手を見た隙に黒狼の膝蹴りが突き刺さる。

 再び、壁に叩きつけられて。


 私は首を握られた、両手両足で踠くも逃げ出せない。

 自力の差? いいや、違う。

 実力の不足だ、私と彼の間にはそれだけの差がある。

 クラクラとする頭を必死に持ち上げ、掴む腕に剣を突き立てようとし。

 けれども、やはりそれは無意味だ。


 息を吸い込む、魔法ならば多少は扱える。

 私だけ10倍で動けるのならば、魔法の展開能力も10倍だ。

 あまり、舐めるな!!


「『ファイアボール』!!」


 首を掴んでいた手が離れる、その隙を狙い私は壁に足をつけ。

 一気に蹴り、体当たりをする。

 転がる黒狼だがソレは私も同条件、いや寧ろ私の方が有利なまである。

 何せ、私の方が。

 10倍早いのだから、こそ!!


「ピッタリ20秒ってところか、ましゅまろ。お前が殺すべき相手は、随分高みにいるだろう?」

「ギッ……、リィ……」

「おいおい、あまり興奮するなよ。せっかく生かした意味が、無くなるだろ」


 私は、まだ戦えた。

 だが私では、最早戦えなかった。


 スキルの、強制解除だ。


 クールタイムが始まっている、本当の本当に同じ条件ならば私では彼に勝てない。

 嫌に冷静だ、現状を冷たく等しく理解出来てしまう。

 脳内に埋め込まれたチップが、投与され続けた薬物がこの冷静さを掻き立てるのだろうか?

 いいや、違うだろう。

 もっと単純に、理解出来てしまっているから。

 自彼の差が、目に見えないほどに大きいからこそ。

 敵わないと理解、出来てしまう。


「さて、此処からは楽しい話し合いといこうじゃねえか。最も、拒否権は無ぇから」


 コレほど私が他人の笑顔に恐怖を、根源的恐怖を覚えたことはない。

 ただ憎悪させるのではない、その笑顔には確かな。

 底なし光なしの、悪意があった。


* * *


 戦いは一方的であった、黒狼の一方的蹂躙が展開されていた。

 しかし、実際のところ手を焼いていたのは黒狼の方でもある。

 そのエクストラの力の、大きさを見誤っていたのは黒狼でもあった。


「(エクストラスキル、プレイヤーが勝手に言い出した代物にしては相当的を射てる。規格外、まさしくその通りか)」


 笑顔があった、それ以上に警戒があった。

 だから、敵意と悪意を垂れ流す他ない。

 敵足り得ると認知したから、敵として扱う事しかできない。


 ゆっくりと地面を歩く、地面に倒れ伏せるましゅまろに剣を向ける。

 しばらくは展開できないだろう、そのエクストラスキルは。

 だが戦意は失っていないらしい、此方を睨みながら打開策を考えている。

 その様子に感心し、だから黒狼はアドバイスをした。


「お前、本当に翼を持った程度で人間の領域から逸脱できると思ってるのか? なら滑稽だな」

「嘲笑うんですか、この言葉を……。貴方が翼を得ろ、と!! 貴方が力を持てと言ったんじゃないですか!!」

「間違えんな、お前は規格外になるキッカケを確かに持ってるがまだ規格外になるには弱すぎる。努力をして目標を定めろ、お前が倒すべき敵を。規格外になり得る、脅威を。つまりは俺か? ククク、そうだな。お前が規格外になるための壁たりえる存在、敗北者になってやる。だから倒してみろよ、俺を」


 独りよがりの道化師(ピエロ)、形のない道化。

 自分の好悪では無く、快楽でしか生きれない哀れな生物。

 顔に浮かべる嘲笑は、誰に向けてのものだろうか。

 或いは、誰にも向けられていない虚しい笑顔か。


「一週間後、だ。一週間でその力を鍛え上げてこい、その上で一週間後にある闘技大会に出場しろ」


 ソレは宣言であり命令、否定させない有無を言わさぬ強制。

 男は謳う、謳い笑う。

 最早感情の色など、把握できないほど濃い色で。


「もしも、俺に能うのならば全力で相手してやるよ。『不死王』黒狼と言われている、この俺が。そして俺に勝った暁には認めさせてやる、あのバカ魔女にお前の産んだものは意味があったってな」


 静かな宣言、顔の笑みは崩れていないが何処か怒りを感じさせる。

 そんな彼の言葉を吟味していたましゅまろは、唐突に何かに気づき声を上げた。

 慌てて、黒狼を呼び止める。


「……、ッ!! ちょっと待ってください!! 貴方は、彼女と知り合いなんですか……?」

「知り合いというか仲間というか、一緒にクラン『キャメロット』を破壊しようとしている仲間というか……? ま、そんな感じ」

「え、えぇ……。二重の意味で敵じゃないですか……、私の」

「倒す理由には十分だろ? あと、俺も此処から出られないからもうちょい一緒に迷宮攻略頼んでいい? 具体的には死ぬまで」


 どうも、気が抜ける。

 そんな感想を抱きながら、ましゅまろは息を吐いた。

 どうせ此処でまともに戦っても勝てない、ならば一緒に進める所まで進み死んでしまおう。


 この迷宮から出るには、死ぬ以外の手段がないのだから……。

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