Deviance World Online エピソード6 『エクストラスキル』
結論として、人類の新たな雛形となるためには。
人類の新たな雛形であると証明するためには、規格外の力が必要だ。
エクストラと呼ばれる、規格外の。
「で、その情報か実物がほしいでありんすか?」
だから私は、プレイヤーの闇市へと訪れた。
彼女の名前は陽炎、二つ名を持つ商人でありその名は『化け狐』。
DWOにおける三大商売系血盟の一角を担う、『狐商会』を運営しているプレイヤーだ。
中華和風系の建築物の中で、彼女は座っていた。
交渉を持ち掛ければ、うわさで聞いていた悪辣さなどなく話を聞き様々な商品を並べてくれる。
どれもこれも攻略サイトや掲示板などで見たこともないようなスキルの数々、だがその中で彼女がお勧めしてきたのは一つのスキルだった。
「『超越思考加速』、あっちはコレをお勧めするでありんすね。純粋に思考速度を加速させるのがメインでありんすが……、肉体の速度も相応に増幅されるでありんし。効果時間は現実世界換算で20秒、加速倍率は10x、クールタイムは100秒。使用直後はスタミナがしばらく半減するでりんす、非常に強力でありんすけど他思考加速系スキルと重複しないのは注意点でありんし」
「どれぐらいの値段で売ってくれますか?」
「……正直なところ、非売品でありんす。このエクストラスキルは規格外でありこのゲームを始めたてに見える人間に売り渡すなんてできる品物じゃないでありんし、もしも売るのであれば10000000gを要求するところでありんすが……。まぁ払える金額ではないでありんすよね? なのでもしこれを売るのならばあっちが示すクエストを達成してもらう必要があるでありんし?」
一千万の代わりになる仕事……、不安だ。
きっととんでもない話で……、私にそんなことが出来るだろうか。
けれど、私には翼が『力』が必要でソレを手に入れる必要があって。
「そう重く考えることはないでありんすよ、ただ一人のプレイヤーを捕縛するだけでありんす。プレイヤーネームは黒狼、最低最悪の塵であり検証首の男でありんし」
「……え? たった一人を捕まえるだけでいいんですか?」
「もちろん、その男を捕まえれば良いだけ。でありんす、簡単なクエストでしょう?」
「……それだったら、受けます!! そのクエストを受けるのでぜひ譲ってくれませんか!!」
私が契約書に名前を書けば、ソレをじっくりと確認する。
そして彼女は優しく笑うと、私に一つの宝玉を示してきた。
『亜神眼』を発動し、その詳細を閲覧する。
だが、結局得られた情報は乏しく面白味のないものだった。
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アイテム名 スキルオーブ(超越思考加速)
しばらくの間体感時間を1/10とし、デメリットとして100秒間のクールタイムが設けられる。
力に弱さは似合わない、ただひたすらに強く在れ。
弱者はたやすく、淘汰されるべきなのだから。
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手のひらを押し付ける、それだけでスキルを入手できた。
ステータスに刻まれた文字に、変化するステータス。
若干の気持ち悪さを抱えつつ、けれども何が変化したかわからない私は困惑する。
「じゃぁ早速クエストを達成してもらうでありんす、構わないでありんしね?」
「もちろん、頂いたからには全力で仕事を熟させていただきます!!」
「じゃぁ早速、クエストを発行するでありんすね~」
そういわれた直後、私のスタータスに通知が入った。
「クエスト:プレイヤーネーム『黒狼』の拘束」、という文字が記載されている。
同時に渡された紙束に書かれている内容をみた、そこには黒狼と言われるプレイヤーが潜んでいる場所が記載されておりどうやらそのプレイヤーはダンジョンに潜んでいるらしい。
「じゃぁクエスト達成を心の底より、望んでいるでありんし」
「きっと達成します!!」
私は、意気揚々と闇市を飛び出た。
私は翼を得たのだ、空を飛ぶための翼を。
* * *
ふと、空を見上げれば星がある。
ソレは極光か、あるいは月光か。
プレイヤー最強、そう噂される『騎士王』アルトリウスは静かに溜息をつけば。
腰にある剣を一目見る、月光を湛えた聖剣『エクスカリバー』を。
「アルトリウス様? 眠らないのですか?」
「ああ、ギネヴィア。僕は眠らないよ、僕たちは眠らない。けど君は違うはずだ、きっと寝たほうが良い」
「……心配、なさっているのですか? この国の臣民たちを」
「違う、といえば嘘だろう。君たちには死んでほしくない、空にあまねく星々と同じく命の輝きはかけがえなく尊ぶべきものだ。増え続ける『脅威』に僕らに対して宣戦布告を行った『異邦人』らは、決して無視できるものではなく僕の心労となっている」
一瞬だけ、空気が吹き抜けた。
夜風の涼しさの中、けれども少しばかり張り詰めた空気が流れる。
ある種の、緊張からか。
月明りとは導きだ、遥か遠く薄っすらとしかして悠然に輝き祝福がごとき福音をもたらす。
ただの一時も気を休める気が休める時などない、その導きの戦闘に立っているのならば。
己が運命に愛され運命を愛し、運命とともにあるというのならば。
それは万人の幸せを保証する、義務がある。
「安心してくれ、僕たち『キャメロット』はこの国と君たち人間の安全を保障しよう」
それは、傲岸不遜にも。
敗北を考えたこともない、最強の言葉だった。




