Deviance World Online エピソード6 『翼のない鳥』
新たな人類、より高みへ上るためのアーキタイプ。
その、なりそこない。
「なんの、ために?」
何のために、生きているのか。
何のために、生まれてきたのか。
私が求めていた言葉の、答えはあった。
意外にも単純で、意外にも簡単な話であり。
だからこそ覆しようのない、絶望だ。
「なれるわけがない、証明なんてできるわけがない……」
新たな人類、新たな霊長の金型など。
出来っこないに、決まっている。
人類の歴史はどれだけ長い? 人類史は3000年を超える巻物だ。
ソレを超える金型に私という個体が、なれるわけがない。
「どうやって、私が新たな金型になれるという証明を……? どう、やって?」
人生の中で怠惰にも感じていた目標が、崩れ去った。
そうだ、出来っこないできるわけがない。
そんな証明などできるのならば、もはや彼女は成しえているだろう。
強迫観念のような困惑に陥っているときに、ふと声が聞こえた。
「よ、久しぶりって程でもないな」
そこに立っていたのは、アンノウン。
よくわからない人間代表とでもういうべき、人がたっていた。
* * *
子が母を愛する、然り。
作られたものは、作り手を愛する。
それは無条件の愛情であり、無限大の愛情だ。
だが母は子を愛さない、愛することなどない。
自我があり己がある、それだけで当人の精神の内在には『自己』という絶対的な支柱が存在する。
それは人間であれば有する絶対的支柱であり、その『自己』の外側に様々な『愛』があり『意図』があり。
だからこそ、人間は人間足りえる。
「なるほどな、つまりはお前は認めさせたいわけだ」
アンノウンはましゅまろの話を聞き届け、そう返した。
言葉にすれば単純な話、結局はそれだけの答えでしかない。
子が親を愛し、けれども親が子を愛さないのであれば。
子は意固地になり親に愛を向けさせようとする、それだけの話だ。
アンノウンは単純で、それでいながら面白そうな話を聞き届け笑う。
それはどこかを懐かしむようで、どこか他人ごとに思える笑い方だった。
自分の感じている感傷を、どうでもいいと言っているような。
「ま、いいぜ? 簡単に認めさせられる方法を教えてやろうか、ましゅまろ」
「出来るわけないじゃないですか、普通に考えて」
「できるさ、できない訳がない。少なくとも現実世界ならばできないだろうが、ここでならば多少なりともできるだろ。少なくとも、俺は一人の怪物を知ってる。一つの答えがあった、この世界ならば答えが存在している。ならばその答えに近づけばいい、それだけで一つの証明ができる」
「新たな人類のひな型になれるような、人間がいたんですか?」
誤魔化すようにニヤリと笑い、そのまま男は立ち上がった。
空を見上げている、一匹の鳥が晴天に線を描いた。
男は手を伸ばし、斜陽を隠す。
「なぁ、翼のない鳥が翼を得て初めて空を飛んだ時。果たしてソイツは海と空を見間違えると思うか? 空だと思いながら海に突っ込む、そんなことがあると思うか?」
「ないと思いますよ、常識的に考えて」
「ああ、そうだ。常識的に考えて、鳥が海と空を間違えるなんてことはない。ソレと同じだ、可能性が空。俺たちは未だ翼をもっておらず空を飛んだことなどない、だがこのゲームでなら翼を得ることが出来る。翼をもって飛び立つことが出来る、可能性という名前の空にな? だからさお前。絶望するのは少し早いぜ? 翼を持ってもいないのに、絶望するだなんて早すぎる」
それだけ言えば男は道を歩き始める、もはや現状に興味がないようだ。
ましゅまろも目標を見つけ、歩き出す。
自分が持ち得ることのない、翼を求めて。
翼のない鳥が翼を得れば、海と空を間違えることなどない。
だからその鳥の道行は、確かに保証されているのだ。




