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Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
二章上編『前夜祭』

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Deviance World Online エピソード6 『人形』

 あれから三時間程度で、私は王都に到着していた。

 王都外壁、その門の前で降ろされた私はおとなしく列に並ぶ。

 夕方、もはや夜半に差し掛かるというのに何十何百となる人たちが行列を成し王都へ入ろうとしているその姿はこの国の中で。

 『グランド・アルビオン』と呼ばれるこの国の、最重要中央都市であるということを理解させられる。


 列に並び、時間がたつ。

 体感時間は長かったが実際のところ経過した時間は10分程度だろうか、思いのほかすぐに入口周辺まで来ることが出来た。

 私は少しドギマギしながら、厳しそうな女兵士の前に進む。


「次ッ!! 身分証明可能なものはあるか!!」

「ギルドカードで構いませんか?」

「ああ、別に何でも構わん。重要犯罪歴がないかの確認を行うだけだ、武装の携帯も許可している。……まぁ明らかな危険武器を携帯している場合はその限りではないのだが……、違うだろう?」

「はい、ソレはもちろん」


 とりあえず身分証として扱えるギルドの登録カードを出す、ソレを一瞥すれば次に私のほうを一目見てそのまま門を通してくれた。

 そのまま門をくぐる、大きな門ではあるが仕切りの数も多く町中を、見通すには少しばかり視界が悪い。

 だからこそ、その門を通り終えたときに見えた城下町に城は感嘆の声を上げるほどに素晴らしいものだった。


「す、すごい……!!!」


 中世ヨーロッパ、そういわれていたファンタジー世界が私の目の前に広がっていた。

 最初の一歩は無意識に、そのまま駆け出すように足が動く。

 これが、この世界が本当に0と1の電子記号の羅列で出来上がっているのか?

 仮想空間、などという言葉では表現できない。

 新たな現実、現実体験を私は味わっている……!!


 興奮は冷めやらない、だが観光できているわけでもない。

 田舎者と笑われそうなほどに周囲を見渡しながら、街を歩きだす。

 目に焼き付く、この光景が。

 理解のうちにある無理解が、脳に鮮烈な新鮮さを焼き付ける。

 現実でないと認識することが不可能だと、そう思えるほどには現実だ。


「って、そうじゃない!! そうだ、ギルドに行かなきゃ……」


 意識を入れ替え、足を踏み出そうとしたその瞬間だった。

 私は、確かに見た。

 見てしまった、そこに歩いている赤毛の女を。

 魔女を、研究者を、母を。


「……ッ!!」


 ソレは、驚愕であり動揺。

 以外にもあっさりと見つかったことに対する驚きと、無意識的に動く足。


 知覚する間もなく、私は駆けだしていた。


 走る、走る走ってゆく。

 追いかけなければ、見逃すわけにはいかない。

 彼女と話したい、彼女のことを知りたい、彼女が何故私たちを生み出したのかを。

 彼女が私たちを用いて、何を達成しようとしていたのかを知りたい。


 追いかける、追いすがる様に追いかける。

 普通に歩いているようで、私から逃げているかのようで。

 早く遅く、追いつけそうで追いつけず。

 それでも走る、走ってゆく。

 曲がり角を何度も曲がる。大通りを通り抜ける。

 路地裏を、橋の上を、人込みを、ありとあらゆる場所を抜けて。


「初めまして、というわけじゃなさそうね。どうも、お久しぶり。恥知らずにも、私をストーカーして何を知りたいのかしら?」


 ソレは、私と彼女との初めての邂逅であり。

 それは私がこのゲームで何を成すべきなのかを知る、その始まりだった。


* * *


 一人のプレイヤーが地面に膝をついている、プレイヤーネームはましゅまろ。

 つまりは赤毛の魔女を追いかけていた、プレイヤーだ。


 赤毛の魔女、研究者ロッツェ・バレニア・バレンタインは冷ややかな目でましゅまろを見下げる。

 何故、何のために、どういった理由で追いかけてきたのか。

 ソレを理解するためには、少しばかり以上に情報が少ない。


「早く答えなさい、暇は多くないの」

「…………ッ、貴方は。あなたの名前はロッツェ・バレニア・バレンタイン、ですよね?」

「なるほど、リアルの知り合いか。それなら見覚えは無くても仕方ないわね、ええそうよ。私は確かにロッツェという女ね、こっちではロッソと名乗ってるから。それで、何の用事? 研究に関してなら今は完全停止中よ」

「『賢者の石』プロジェクト、その過程で生み出した人間を覚えていますか?」


 ロッソは少しだけ目を開き、直後に表情が完全に消え去る。

 無駄でしかない、厄介だ、面倒なものにつかまった。

 そう言いたげな顔をしてロッソは踵を返そうとし、だがましゅまろに止められる。

 半分泣きそうな顔で訴える彼女を見て、ロッソはようやく思い出した。


「ああ、イレギュラーなのね貴方。イレギュラーナンバーは? 幾つ? そこまで高くないでしょ? VRCを利用活用できるように制作したのは5000までなのだから」

「……ッ!! あなたは私たちのことをなんとも思っていないのですかッッツツ!!」

「逆に聞くわ、何でナントカ思っているとでも考えているのかしら? ひょっとして自分が私や他人に認められているとでも思っているの? 随分と傲慢ね。被造物は造物主を愛するでしょう、どんな形でも害することがないほどに。けれど造物主が愛している保証はないの、貴方は私たち造物主を愛していたとしても私たち造物主は被造物たる貴方を愛する義務がない。猶更、結果も目的も果たせぬ欠陥品を愛するなんて全く以てありえない話よ。その体たらくで愛されると考えているのならばそれはあなたの傲慢、貴方の傲岸。理解しがたい理解しえない同意しえない同調しえない思想そのものよ、憐憫するにも価できない無価値にして無意味な思考回路。無駄を極めた愚劣低能そのもの、ひょっとしてその事すら自覚していなかったのかしら」


 ましゅまろは彼女の目を見る、赤色の透き通った瞳を。

 無機物のように透き通った感情を示さない瞳孔を、無機物のようにうごめく意味を持たない視線を。

 ひたすらに興味がないということを強調するような、冷徹極まる視線を。


「せっかくだし貴方の製造理由を教えてあげましょう、『賢者の石』プロジェクトとは何かを。『賢者の石』プロジェクトは、より高位の人類のアーキタイプ(雛形)の製造よ」

「人類のアーキタイプ……、何のために……」

「我々の発展はすでに黎明を過ぎ去り衰退の道を進んでいるわ、それぞれの衛星や惑星に設けられたコロニーを見てみれば一目瞭然よ。人類は発展の道をたがえ、衰退することしかできない。人類が残した人類発展最後の希望ともいえる企業(コーポ)たちも利権と利潤争いに夢中で世界を統括し地球と月に火星の人類保全進化を担う総合統括演算装置(ハデス)も結局はこれ以上の進化を期待していないわ。いえ、期待できないとしたのでしょうね。そしてこの世界に生きている人間はソレを良しとしている、とてもじゃないけど許せるものではないわ。だから生み出そうと思ったの、新たなアーキタイプを」


 ソレは、私じゃ理解できないことだった。

 彼女は私よりもはるか先を見ていて、はるか遠くを歩いていて、はるか高みで考えている。

 独りよがりに孤独で、子供のようなわがままさを伴いながらも自らが見出した希望をもとに歩んで。

 それは、私では理解できないことだった。


「けど結局は失敗、合計で136425体のアーキタイプを作成したけどその中で人類を超える可能性を内包した存在は居なかったわ。あらゆる薬物、数少ない資源、私が持ち得る財産の総てをつぎ込んで結局この様。見えた可能性は全部私の手のうちから転がり落ちて行き、掴んだ道筋は全部欺瞞の糸にしか過ぎない。神のまがい事をしようとしても、猿のまがい物である人間では到底できないってことかしら。所詮、神すら人のまがい物でしかないはずなのにね? 残酷なまでに嫌な話よ。結局は『賢者の石』プロジェクトは、私たちの理解の範疇で終わった訳。それで失敗作であるあなたはいつまでそこに立っているつもり? その肢体を晒して私に無力感を知らしめるつもりかしら」

「……………」

「貴方が価値を示すのならば、死ぬ気で可能性を示しなさい。貴方が意味を示すのならば、死ぬ気で理由を掲げなさい。そうしたら初めて、私はあなたを愛せる(直視する)かも?」


 被造物は造物主を愛する、けれども造物主が被造物を愛する理由(ワケ)はない。

 それは私の心を深く突き刺した、杭のような言葉だった。

ナイトレインたのちい!!ナイトレインたのちい!!

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