Deviance World Online エピソード6 『ネックレス』
今日は血盟『キャメロット』の集会だ、私のような初心者にも招待が送られてきたのでせっかくだし集会に赴こうと思う。
いそいそと装備を整え、定期便を待つ。
中世ファンタジー風を売りにしているだけあり、嫌がらせのような手間や面倒もある。
ステータスを極めたら走ったほうが早くなるとかよく聞くが、多分気のせいだろう。
「気のせい気のせい……、気のせいだと思わせて?」
私は馬車の横で並走しながら弁当を食べ、ついでに頭の上に瓶を乗せながら水をこぼさ無いようにしているアンさんを見てそう言った。
* * *
「いやぁ、暇なもんでねぇ?」
「なんで曲芸じみたことを五時間続けてやってられるんですか……?」
「見せてもらおうか、モビルスーツの性能とやらを。って奴だよ、ニーニョ」
相変わらず訳のわからない事を喋りながら、もしゃもしゃと何かを食べていた。
多分この人はアレだ、身内と外の区別が碌にないタイプの人間なのだろう。
友達として付き合うのは良いだろうが、近くに居て欲しくないタイプの人間なのだ。
「で、なんで王都に向かってるの?」
「え、アンさんはキャメロットの集会に向かうんじゃないんですか?」
「まっさかぁ、フレから武器が完成したって連絡があったから取りに行くだけだよ。ついでに公式の闘技大会にも参加しようかなとも、確か開催が一週間後だっけ?」
「そうなんですか? あまり詳しくなくて」
そういいつつインベントリを開いて通知を確認する、確かに一週間前キャンペーンとして通知が来ていた。
なるほど、イベント二つを同時進行するのか。
確かに現実世界では一か月程度の時間の経過と言えど、ゲーム内では3か月近くの時間が経過している。
最近始めたばかりのプレイヤーと、前々からやっていたプレイヤーの実力差は決して馬鹿にできないだろう。
いずれにせよ、私も参加してみたい。
「イベントは二種類あるんですね、片方は闘技大会でもう片方が冒険系……?」
「前者は玄人むけ、後者が初心者向けってところだな。正直、どっちを選んでも相応の旨味があるぜ? けど闘技大会に出場するのはお勧めしねぇ」
「何でですか?」
「そりゃ簡単よ、出場するプレイヤーの実力がバグってるから。血盟キャメロットだけ見ても『聖剣使い』、『騎士王』アルトリウスに『太陽の騎士』ガウェイン。ランスロットやその他諸々、とてもじゃないが初心者がトップ10に入れる猶予はないね」
彼が羅列した名前は、このゲームをやっていれば。
それ以上に血盟キャメロットに所属している人間であれば、知らないわけがない。
特に『騎士王』アルトリウスは重要だ、なにせ血盟『キャメロット』の長にしてプレイヤー最強。
先の戦争で発生した『ワールドエンドボス』相手に苦戦しながらも戦い、そして一切の被害を出さなかったとされる最強のプレイヤー。
はっきり言って知らない人間のほうが少ないだろう、間違いなく。
「まぁ、それ以下のプレイヤーは基本参加しないという噂があるけど。両方同時に参加するなんてできねぇし、まぁ自分の気分に従うのが正解だと思うぞ」
「なる、ほど? ですが時間はまだありますしゆっくり考えようかな」
「それもまた悪くない選択だと思うぜ?」
そういいながら、彼はインベントリを開いて一つのアイテムを取り出す。
ソレはネックレスだ、中央に何かの紋様が刻まれた白みがかった長方形の水晶があるネックレス。
彼はソレを取り出すと、そのまま私のほうへと渡してきた。
「全ステータス+10のネックレスだ、王都に行くんなら適正レベルが10ほど上がるだろうし折角だから持っていったらいいぜ?」
「え、そんな物もらえません!! そのアイテムって絶対高級品ですよね、そんなものを私がもらうなんて……!!」
「いらないのなら適当な場所に捨て置いて構わねぇから、それにレアアイテムではあっても厄ネタでもあるんだ。ぜひ、貰っといてくれ」
彼は一方的に私へ押し付ければ、そのまま装備を整え立ち上がる。
夕食兼、休憩時間も終わりのようだ。
馬車にプレイヤーやNPCが集まりだし動き出している、私も乗らなければおいて行かれることだろう。
はっきり言って不信感がある、彼のことは詳しく知らないしこのアイテムが厄ネタとも言っていた。
だがアンさんは別に悪い人ではないと、思う。
少し、眉を顰め悩む。
貰いものだ、それ以上に貴重な品でもある。
鑑定するべきか、いや鑑定するべきだ。
心の中でスキル名を唱えた、『亜神眼』と。
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アイテム名 水晶のネックレス
不破壊の特性を持つ、水晶。
装備した者に全ステータスを+10する効果がある。
星の滅び、星の終わり、始まらぬ飢餓の終わり、終わらぬ飢餓の始まり。
其は、星を食む一等星。
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……フレーバーテキストが一層、謎だ。
いや、もともと謎めいたフレーバーテキストではあるが今までならばある程度の意味が通じていた。
だが今回は違う、意味が読み取れない。
「や、厄ネタって……。どんな、厄ネタなんですか?」
「別に大したものじゃねぇ、危険性は排除できてる……ハズだ」
それだけ言えば、彼は走り出した。
私は一つ唾を飲み込む、独特で特異な恐怖に包まれている。
これは、一体何なのだろうか。
「おーい、嬢ちゃん。置いていてってしまうぞ」
「すみません、乗ります!!」
御者さんにそう言われ、私はあわてて乗り込む。
どちらにせよ行くべき場所も、目的地も決まっているのだからゆっくり行こう。
嫌な予感は拭えなくても、それは変化の予兆でもあるはずなのだから。
きっと、悪いことばかりでもないのだろう。




