Deviance World Online エピソード6 『The Carol of the Old King』
はっきり言おう、黒狼は最低最悪の悪漢であると。
人間性としてはこれ以上なく低俗で最低、自己欲を満たすのならば煉獄にすら投身する。
そのくせ趣味をえり好みし、自分の出した結論を達成することのみを生きがいにして。
いわゆる塵屑、それが黒狼という人間だ。
「いや、まぁ可哀そうだとか哀れだとか思ったりもしたんだぜ? けど所詮NPCだしさ。それにアレは明確にお前の足枷にもなってたし、相談なくやったのは悪いと思ってるけど」
「……………………………………」
「まぁ、お前は全部を踏み躙る覚悟を決めたんだろ? そうやってそこに立ったんだから。ほら、笑えよ? 勝手にとらわれ勝手に抜け出した道化師が」
「……………………………………………………………そう、か」
黒狼は下らない理由を求める、自分の行動を正当化するために。
そして村正は与えてしまった、最低最悪の屑に理由を。
道理道徳一切介在しない、ただの理由を。
「そうか、そうか………。手前は、そういう奴なんだな?」
「文句があるなら実力で黙らせてみろよ、先に舐めたことをして正義面をしだしたのはお前のほうだ。何が至っただ、何が完成だァ? あの戦いは終わりじゃねぇ、始まりなんだよ。ワールドエンドっていう目標が見えて、キャメロットを崩す最低限を完成させて、俺たちは初めて戦いの土台に立ったんだ。その中でお前だけがやり切った風な雰囲気をだされるとさ、ムカつくんだよ。別にベストを尽くせなんていうつもりはねぇけど、キャメロットを倒すまでは手を抜くのは無しだ。一人、目標にたどり着いたからって何腑抜けてやがるんだよ」
「建前を並べんじゃねぇ、儂でもわかるようになったぞ。手前の本音は其処にない、あるのは遊びたいの一言だろうがよ」
「笑わせんな、そんなものは大前提だ。そのうえで、俺はこの言葉を発してんだよ。俺の言葉のすべてが適当なでまかせやノリだと思うんじゃねぇ、勝手に規定し諦め納得するその癖を改めて出直せよ。それもせずに仲間ずらをしてきたからこそ、俺はお前の余分を消し飛ばしたんだ」
黒狼たちは仲間ではない、信頼しあう間柄ではない。
ただ目的のために利用する、そこに一切の甘えなど不要だ。
自分の理念に従い、己の目標を目指し続ける。
それこそが、このクランに許された理念であり盟約なのだ。
「やはり、儂は手前が嫌いだ」
「見解の相違だな、俺は結構お前を買ってるぜ?」
それぞれが武器を構えた、黒狼が水晶剣を村正が魂魄刀を。
以外にも、怒りが湧いてこない。
煮えたぎるような怒りが湧いてこない、自分にこんなことをさせたというのに全身を震わすほどの怒りがない。
いや、そもその余分すら先ほど切り捨てたのか。
今残っているのは先ほどの情動の惰性、血管が切れるほどに沸き上がった膨大な怒りという余熱の発散。
あるいは死した仲間へ道理を通すという、理由があるからだろうか。
すくなくとも、至ったという自覚と同時に未だ道半ばという確信を得た村正にとっては。
もはや、刀以外の総ては塵芥に等しい価値にしか感じられなくなってしまった。
人間として本来あった魂の形に、落ち着いてしまった。
「そうか、これが心象か」
荒野、砂塵吹き荒れ熱気蔓延る灰燼の大地。
その大地に無数の可能性が突き刺さっている、かつての今の未来の可能性が。
燃え続ける熱量は村正の魂という鋼を熱し、村正が持つ意思でその魂は形成される。
「これこそが、我が心象。我が世界、我が絶対、我が境界」
心象世界を開く人間は人の精神性を保有しない、その精神は焼けただれた皮膚のように醜悪なナニカに変貌している。
そもそもが異形の精神を保有していたレオトールと違い、自らの意思で規定し変貌しているから。
そして村正も、その領域へ踏み出した。
踏み出してしまった、踏み出でてしまったのだ。
「迷いも怒りもねぇ、ただ今は手前を殺したい。儂をここまで押し上げた奴らに報いるために、手合わせ願おうか」
「嗚呼、畜生。なんだよソレ、どこだよここ? お前の世界、クッソ面白いじゃねぇか」
心おどる、心躍る。
躍動する、興奮する。
満ち満ちた未知だ、道理道徳倫理すらない絶対的な心象世界だ。
黒狼は満面の笑みを浮かべ、右腕を挙げる。
村正は静かに、背後で踊る剣をつかむ。
「『神域再定、今ひとたび神に至らん。未完成なる心象を、正しく作り上げるために』『■■■刀境界【■■■■】』」
「『虚ろなる仮面、嘘たる真。真実は掻き消え屏風に虎が居座りつく。ここはどこだ? 私は誰だ? 嗚呼その通り、私こそが【顔の無い人々】』」
黒狼が完全に覚醒する、黒い波が渦巻き黒狼という個体が群体となる。
それは正しく民衆そのもの、悪意によって規定し悪として成立した黒狼という群体。
それは群がる様に、王に迫る。
対して王は、心象世界の最奥で背後に広がる刀剣に魔力を迸らせ。
その無数の軍勢を迎え撃つ、極めた一刀が無数の総てを蹂躙するというように。
〈ーーーレイドボス、降臨しますーーー〉
それは絶えぬ焔の明かり、消えぬ炎の滾り。
ただ一人の民衆を殺す、王の刃。
絶対的な、魂魄の証明。
〈ーーレイドボス名『第六天魔王:千子村正』ーー〉
一斉に笑う黒狼に対して、村正は足元に転がっていた頭部をつかむ。
庚と呼ばれた誰かの、その頭部を。
掴んで放り投げ、心象の炎に焼かれて。
〈ーー特殊環境により、弱体化条件が発生しませんーー〉
滴る血液が灰となるまで、村正は死んだ彼らを想い続けよう。
ただ究極の一刀にいたる糧として、第六天の奥底にひっそりと。
それこそが王の責務なのだから、おそらくきっと。
かつての村正が抱くべき、枷なのだから。
〈ーーレイド、開始しますーー〉




