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Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
1.5章『魔王のキャロル』

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Deviance World Online エピソード6 『真の名を』

「『心象世界、の鍵だな?』」


 問いかけ、ニャルラトテップ()の言葉を聞き流す。

 満ち溢れる怨念、もっと生きたいと言う残穢を一身に受け止めて。

 魔物の王たる村正は、民衆を失った魔王たる村正は。

 その資格を失い、そして得る。


「『波旬変現』『第六天魔王』」


 民衆を喪失した、村正にとっての余分が消失した。

 刀鍛冶に、我欲の為に万物全てを犠牲にする男に慈愛など不要だ。

 ただ焔であれ、可能性を鍛える刀鍛冶であれ。


「儂は焔であればよかった、或いはこの一族に生まれなければ此の咎に出会わず死ねただろう」


 千子村正、千子の名を持つ1人にして刀鍛冶。

 人間として破綻した精神性を持ち、剣聖にその破綻を取り繕われた男。

 ただ許さなかった、世界が運命が。

 その破綻が、取り繕われると言うことを。


「だが、そうはならなかった。儂は此の破綻を、良しとした。己が望みのままに、全てを犠牲にすることを」


 故に第六天魔王、故に波旬変現。

 我欲の儘に、世界を飲み込もう。

 そうして祈るべき捧げるべき神すらも、世界すらも切り裂く刃を作ろうぞ。


 ソレこそが、村正のあるべき姿だ。

 ソレこそが、村正の掲げた盟約だ。

 ソレこそが、村正の人間性其の物。


 きっと、その生き方は哀しいものだろう。

 只々、死した仲間を想うことすらできない。

 己の欲のために、追悼の念すらも燃やし尽くして刃とする他ない。

 自分が進む道に死体の山を築き上げてなお、足りないと叫ぶ血塗れの生き方は。

 その生き方は、きっと悲しいモノだろう。


「『何を言っている? まさか、遊戯に本気になっているわけでもねぇだろう? なぁ、千子村正』」

「NPC風情、と考えた部分があるのは否定しない。けれどもだ、それでもこの世界に生きる総てを蔑ろにしていい理由には足りえねぇ。そんなことは道理が通らねぇ」


 正しきを許容しないのならば、せめても道理を通そう。

 正しきを内包しないのならば、せめても道義を通そう。

 正しきを容認しないのならば、せめても道徳を持とう。


 だが、その考えは神々に。

 或いは黒狼に嘲笑され、虚仮にされた。

 であれば、もはや道義道理道徳を通す必要はない。

 死を以て償え、その愚かを。


「『抜刀・飛燕の段』」


 次の瞬間、緋色の刃が迫る。

 千子村正の心象の象り、目にもとまらぬ早業。

 神速の抜刀に迫らんとする、ただ一撃。


 対する深淵の神は、その一撃を手ではじく。

 闇属性魔力を硬化させ、かぎ爪にしているようだ。

 確かに、合理的な戦い方である。


 一定レベルを超えれば、すくなくとも神の領域にたどり着けば下手に物質を利用するより権能に侵された魔力を用いて武器を形成するほうが数倍も強い。

 なにせ、その武装に魔力を通せば注ぎ込んだだけの威力が発生する。

 必然、防御にも転用可能だ。


「『他化自在』」


 だが、ソレは愚行にすぎる。

 第六天、天魔、他化自在とはすなわち他の所化を奪いて自ら娯楽する。

 世界はその力を村正の心象に当て嵌め、村正を第六天魔とした。

 故にあまねく万象その全てが村正の娯楽にしてすべて、即ち刀に返還されてゆく。

 万象世界が、村正の魂魄にて形成された魂魄刀『千子村正』に変化する。


 必然、神の権能すらも例外ではない。


 同質の質量をもった魂魄刀が神のかぎ爪を破壊する、いわゆる相性が悪い状態だ。

 神、ニャルラトテップの権能は神の門であり所謂『交霊術』と類似する。

 変化する手札と出力こそが、ニャルラトテップの長所であり強みであるからこそ。

 徹底的に、村正と相性が悪い。


「『面白い、ッ!!』」

「何が、面白いだ」


 徐々に出力が上昇する、肉体の組成が変化している。

 鬼人から、天人へ。

 天人から、波旬へと。

 我欲のために、至高の刃を鍛えんために数多の血を流すことを許容する悪魔へと。


「『ーーーーーーー(無貌なるモノ、永久と長しえの眠りより死の埋没へと零落せよ。司る形は蒼きリンゴ、目覚めぬ瞳は永眠の証左。力の形容なれば霧となり、即ち眠りより世界の扉を開くと良いッ!! 【ヒュプノース】)』」


 不味い、そう判断する。

 出力を上げて、初見の技にて一気に屠らなければ。

 同じ技を永遠と続ければ、そのうち力関係が逆転する。

 神の権能を内封し続け、いつか其の身は神に至るだろう。

 現状ですら、もはやその力の性質は神に等しいというのにだ。


「随分と簡単に襤褸を出したな、手前」


 地面を蹴り上げ、急接近しその首をつかむ。

 また別の権能をまとったのだろう、放出される権能の性質が変化していて。

 だが無意味だ、そんなもの。

 他化自在天、その性質は先ほど通り。

 スキルが発動している以上、如何なる権能も。

 村正の魂魄刀に統一され、村正の可能性に内包される。

 そして過去も、未来も其の総ての可能性を刀剣に圧縮した魂魄刀を持つ彼にその力は通用しない。

 必ず、決して。


「窮地に陥れば、逃げるしかできないのか? 負けると思えば保身に走るのか? 詰まらねぇ野郎だ。お前は殺した命の数を覚えてねぇんだろうが、なら責めて最後まで悪役を突き通しやがれよ。そうじゃねぇと、手前が殺した奴らも浮かばれねぇだろうが」


 残酷には殺さない、そんなことをするのならば村正は心象を開けない。

 ただ武器の性能のために殺す、性能を試し実力の総てを引き出すために殺す。

 淡々と、ただ咎人の死体の山を切り裂く様に切ってゆく。


「『くは、キクハハハハハ!! 』」


 神は笑う、人の可能性を見て。

 かつて、この世界を壊した人類の醜悪さを見て。

 やはりと、満面の笑みを浮かべる。


 神殺しの刃、規格の外側にたどり着いた千子村正。

 その力の企画はもはやレイドボスと等しい、所詮黒狼を形代としたニャルラトテップ風情では勝つことは無理だ。

 神の力の大きさを内封するには、黒狼という存在は矮小に過ぎる。

 本気で戦い殺すには、やはり本来の使い手に譲るべきだ。


 負けても所詮、夢の世界(ドリームワールド)に戻るだけ。

 そう考えていたのが、おそらくは敗因だ。

 その心象世界、焔のように燃え上がる熱い鉄。

 彼が辿り辿るだろう可能性を用いれば、神に届き得る刃となる。

 それは、ひどく不味い。


「『神を掌の上で転がしたか、野良犬め』」                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        


 黒狼一人では勝てないだろう、千子村正とはそれだけの男だ。

 今の黒狼では、千子村正と戦えども惨敗するに決まっている。

 けれどニャルラトテップがいれば、神が力を貸しその肉体を癒せば話は変わる。


 なんとも嫌な、面白くない話だ。

 そのくせ、運命は黒狼に味方している。


「何の話をしてやがる? 手前はここで死ぬだけだ」


 刃が迫る、首が切り落とされた。

 ニャルラトテップであった存在の、首がゆっくりと地面に落ちる。


 形代であった肉体が、辛うじて生命を維持していた肉体がそのまま死体へと変貌し。

 ニャルラトテップは決断する、もはやこれ以上の旨味はなく。

 そして、この瞬間を以て契約は果たされたと。


「よぉ、村正。どうだ、最後の一人を自分で殺した感想は?」

「……何を、…………何をっ!!?」


 黒狼の声が響く、村正の視界の先に黒狼は居た。

 ずっとずっと其処にいた、ただ気配を消し誰でもないような炉端の存在と欺瞞して。

 ずっとずっと、村正が()()()()()()()()()()()()

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