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Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
1.5章『魔王のキャロル』

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Deviance World Online エピソード6 『例外な存在を知るだろう』

 牢獄か、或いは一室か。

 まぁ細かいことはどうでも良い、此処が『探究会』によって用意された一室であること。

 そして、そこに1人の女性が捕らわれているという事だ。


「……神、ですか?」

「ああ、細かな話はさておきとある環境か境界への道が開けた結果に異端の神が降臨し始めている。そして君たちが住んでいる山の上に、その出入り口のようなものが開き始めたのだ。……ソレについて、君は何か知っているかね? 勿論些細なことでも構わない」

「変化、異変ですか?」


 ここにいるのはポリウコス、そして鬼人である庚という女性だ。

 周囲にはそのほかにも、何人かの探究会の面々がいる。

 彼らはそれぞれのインベントリで情報を交換、共有しながら今起こっている事象を推察しているのだ。

 そう、村正の拠点となる山の上に唐突に現れた孔の正体を探るために。


 神、神性、神霊。

 言い方は様々だが、結論として一つの話に収束する。

 ソレは即ち、我々の、人の叡智を超えた存在であるという事。

 その存在がこの世界に干渉し、あまつさえ明らかな異変を発生させている。

 これは探究会にとって、否。

 ポリウコスにとって無視できるものでなく、そして酷く興味をそそられるもので。

 だからこそ、半ば強引な手段を用いてまで事情聴取を行った。

 行わなければ、ならなかった。


「すこし、心当たりがあります。最近、村のほうで黒い影に関する報告があるのです。村正殿……、あの方は気づいていないようですが……」

「黒い影、であるか。随分と抽象的で……、だが実に興味深い。一体どのような影なのだ? 魔術を用いた影か、或いは」

「認識阻害に近いと思います、貴方も既に知っているのでしょ?」

「無論、既に探究済みだ。鬼人、というのは些か憚られるが周囲で散見されるオーガに付属する機関である角は優秀な魔力感知装置であり所謂『魔力視認』と似た働きを可能とする。魔法攻撃などに優れていない君たちが魔術に対抗するために進化の末に獲得した特異器官というわけだ。それで、なるほど。その器官で判断した結果、ソレは魔術の類では無く認識阻害という結論に至ったわけだ」


 ポリウコスは冷静に、淡々と情報を纏める。

 興味深い、故に知りたい。

 脳内で倒錯的に広がる情報、それらを冷静にまとめてゆく。

 まずは事実を、次に推察を、最後に妄想を。

 物事の優劣を明確にし、偏った視点ではなく普遍的な判断のもと主観的な意見を解剖する。


 知識の探究に犠牲は付き物だ、しかし犠牲ばかりを生み出すのが探究ではない。


 今持ち得る知識を、今持ち得る技術をもとに冷静に判断し現状下での最適解を編み出す。

 このことこそが探究であり、ポリウコスが行うべき探究。

 証言をもとに状況を把握し、理解を深め。

 そして、やはり問題に激突する。


「黒い影は、確かに魔術的要素を使用していなかったのだな?」

「はい、確かに」

「……となれば事態は想像以上に不味いのかもしれん、最悪はレイドボスが誕生する可能性も……。いや、今推察することではない。ひとまず聞きたい情報はコレが総てだ、遅まきながら謝罪をしよう。済まなかった、淑女ともいえる君をこのように半ば脅迫し拉致したことはとても褒められる行為ではない。申し訳ない、次があれば気を付けるとしよう」

「いえ……、いいえ。そうですね、謝罪を受け取ります。実際、あんなことを聞かされては私も無視することはできませんでしたし」


 双方言葉を交わす、ポリウコスがある程度の最善を求めて行動した結果に行き過ぎた行動を行ったのは確かだ。

 それを許すのは庚の心の広さと、また事態の深刻さあっての話。


 事態はすでに手遅れだ、だが致命的では無い。

 まだ挽回できる、その可能性が存在する以上はポリウコスは手を止めるわけにはいかない。

 探究者としてではなく、人として。

 ひとりの人間として、その神を目覚めさせてはいけない。


「ありがたい、故に確信がある。あれは君たちが発生させたモノでないと、君たち鬼種は我々と同じ人間であると」


 ポリウコスはそう告げ、そして椅子から立ち上がる。

 可能性は三つあった、そしてそのうちの一つが潰えた。

 残るは二つ、そしてその事実を確定させるためにもう一つの証拠が必要だ。

 確固たる、証拠が。


「確かめねばならん、何故神が降臨せんとするのかを」


 小さな呟き、ソレは焦りから来るもの。

 知っている、ポリウコスはその知識を知っている。


 神を、人種よりも上位存在へ願い聞き届けられるようにする魔術の種類は唯一だ。

 対価魔術、価値を捧げそれ以下の願いを叶えてもらう魔術。

 術式の詳細は不明だ、だがある程度は読み解ける。

 だからこそ、動機が分からない。

 何故、何を降臨させるのか。

 ソレを、理解できないでいる。


「時間は迫っている、早く解明せね「させない、でありんし? 『インフォメーション教授』」


 次の瞬間、その周囲一帯全てを焼き尽くすような。

 ()()()()が、降臨した。


***


「村正、そっちは片付いた様ね。一息つきたい物だけど……、ええ。そうも、行かないか」

「ロッソ、そいつは……。いや、なるほど」


 村正は息を吐く、そしてロッソの方を見た。

 視界に映るは、一二三……。

 八人ほど、といったところだろう。

 決して多くはない、だがその中に見知った顔がある。


「ガウェインにランスロット、手前ら……。何用でここを襲撃する? 曲がりながらでも正義を掲げてたんじゃねぇのか?」

「……君は其方側に加担しているのか? 千子村正、ならば敵となるしかない」

「何を言ってるのか、私は凡そ察しが付くから言い返すけど。この先にある鬼の村を殺す気があるなら、私たちは貴方たちと戦うしかないわね」

「『ウィッチクラフト』、今は貴公と話していない」


 村正の言葉にガウェインが返し、ロッソの言葉にランスロットが返す。

 言葉の応酬、少なくとも和解の道は見えない。

 ロッソは軽く息を吐く、どうにも状況が悪すぎる。

 少なくとも『キャメロット』が動くことなど、全く以って想定外だ。


「確かに君は我々の敵となった、けどそんな外道をする輩には見えなかった。見損なったぞ、千子村正ッ!!」

「儂の道は儂が定める、手前に正義を語られる道理なんざねぇ。この先、鬼の村を襲撃すると言うのなら、儂は手前らの敵となろう」

「どうやら、貴公は変わったらしいな」

「結論のわかりきった話し合いは終わった? 正義の騎士サマ?」


 ロッソは嫌らしい笑みを薄く浮かべ、そのまま杖を握る。

 直後、ランスロットの剣戟がロッソを強襲し防御術式がロッソの身を守って。

 だが、防御術式が直後に破壊される。


「少し邪魔だ、貴公は。だから、盤面を変えることにしよう」

「奇遇ね、私も同じ考えだったわ」


 ランスロットの持つ、最も弱き『湖の聖剣』アロンダイト。

 その性質は無数回の攻撃判定、いわば剣の形をしたチェーンソー。

 攻撃回数分防ぐタイプの防御術式とは極めて相性が悪い、円卓の二番手。

 即座に後ろに下がりながら、ロッソは口を開く。


「随分なことじゃない、円卓の二席。最強格のプレイヤーにして違うことのない最優、勝つのはひどく厳しいかしら」

「随分な評価だ、その評価に甘え違わぬ強さをお見せしよう」

「あら、普通は手加減する物じゃないの?」

「これだけの悪辣な罠を用意しておきながら、何を言うのか」


 蝶か花か、或いは蛾か。

 美しさ清廉さを伴いながらもどうしようもない毒牙を濡らすロッソを見て、ランスロットは言い返す。

 ランスロットは魔力感知が得意ではない、装備の兼ね合いもあり決して。

 だがそれでも、スキル『直感』が訴えてくる。

 罠が、あると。


「何が目的だ、貴公ら2人がそこまでして秘したい何があると言う?」

「さぁ? 少なくとも、今の私は村正の味方よ。結果こそ見え透いているからこそ、最後の安寧を見せてあげるのは仲間としての役割じゃないかしら」

「随分と残酷なことを、その結果無辜な人間が何人死ぬ!!」

「興味ないわね、別にNPCが幾ら死んでも私には関係ないもの」


 次の瞬間、地面から無数のレーザーが現れランスロットを襲撃する。

 その威力は半端ではない、魔力耐性が高いランスロットといえどもその攻撃はダメージを負う。

 確信だ、故に対応する。


「『魔力耐性』『超感覚』『メローシュンの嗎』」


 加速、攻撃を降り切らない正面からの突撃。

 インベントリから大楯を取り出し、その攻撃を全て受ける。

 最善ではない、けれど最優。

 その判断は、確かに正しい。


「戦闘経験豊富ね、漢解除か。確かにトラップの常としてその系統の解除方法だけは弱い、だって解除してないですし?」

「魔女と持て囃されているといえども所詮は人だ、その思考はやはり見え透いている」

「あら? 笑わせてくれるわね、その解除方法には致命的な欠点があることを知らないのかしら?」

「無論、対策済みだッ!!」


 ウィッチクラフト、魔女たるロッソが最も得意とするのは陣地を構えた迎撃戦。

 ランスロットとて同様だ、攻めいる戦いは得手ではない。

 だが、突出した騎馬は必然的に攻城戦にも強くなる。

 つまりは、攻守ともに隙などない。


 まさしく鉄壁、まさしく最優。

 完璧でないからこそ、付け入る隙が介在しない。

 自力で負ければ、そのまま押し切られてしまう。

 たかがプレイヤー、たかが円卓、なのにこれほど遠いのか。


 ロッソはそう思考し、首を振る。

 ダメだ、敗北思考を重ねればいつかそれは現実になってしまう。

 負けるわけにはいかない、負けてしまっては結果を潰されてしまうにきまっている。

 そんなことを、そんな事実を許してなるものか。


 水面下で展開していた術式を展開する、回避しない解除方法を行うのならば受ければ負ける魔術で戦えばいい。

 即死、などという超高等属性は一時間以上念入りに準備せねば展開すらできないがそれ以下の手段は存在する。

 いわゆる毒の継続ダメージや、出血などの防御貫通ダメージ。

 今回展開するのは、炎傷属性だ。


「『【紅6式・マジックテルミット】』」


 魔術の展開、目下に現れた魔法陣を見たランスロットは即座にインベントリを開こうとする。

 火炎に対する対処は、生憎と有効なものはない。

 魔術的な火炎ならば魔力防御で、物理的な火炎ならば炎熱耐性で誤魔化せるが。

 混合された魔術の場合、とてもではないが有効対策手段はアイテム依存になる。


「『混合する、褪鉄の75、軽銀が25より導かれる。反応せよ、加速せよ。膨大な熱、融解とともに炸裂せん』」

「ッ、熱量が……!!」


 現状ですらその温度は数百に達するだろう、その熱気がますます上昇する。

 彼の鎧はその熱気を浴び、彼のステータスを阻害する拘束へとなり果てた。

 だが、いまだ動く。

 HPは尽きていない、いまだ戦う意思は健在だ。

 だからロッソも、手を緩めない。


「『混合する、追加する。褪鉄の75、軽銀が25より導かれる。反応せよ、加速せよ。膨大な熱、融解とともに炸裂せん』」


 後述詠唱を織り交ぜる際の最大の利点、それは魔法攻撃の威力上昇を見込めることだ。

 魔法魔術攻撃は一度展開すれば、もはやそこまで。

 それ以上に攻撃力が上昇することは、まずない。

 だが後述詠唱を合わせた場合、この火力は詠唱時間や投じた魔力量に応じ上昇する。

 もちろん、実際の戦闘では使いあぐねる部分が多い。

 だがその戦い方も、ロッソが使えば実戦的となる。


 なにせ、なにせだ。

 彼女の戦いはその場所の滞在時間がすべてなのだ、同じ領域同じ範囲にとどまり魔力を浸透させ、無数の物理魔術を問わないトラップを作成し毒壺を創り上げる。

 対黒騎士、月光のペルカルド戦では周囲の環境を塗りつぶされ続けていた関係でそこまで優秀な活躍は出来なかったものの現在は違う。

 相手はプレイヤー、最強核と言えアルトリウスでない。

 ならば、戦う方法も存在する。


「流石、あのモルガンが毛嫌いするはずだ……。甘く見積もったつもりはないが、無意識にモルガンよりも黒の魔女より弱いと思っていた部分があった」

「……私がぁ? 彼女より下ですって?」

「認識を改めよう、貴公は()()()()()()()()()()()()。そして、()()()()()()()


 直後、炎の中からランスロットが飛び出した。

 鑑定を行う、そのHP量は決して多くない。

 炎傷ダメージに先ほどまでの直接的な攻撃力、普通ならば死んでいてもおかしくないはずの攻撃を受けて。

 それで、なお脅威足る。


 ロッソは即座に判断した、ゆえに右腕を切らせる。

 円卓の騎士、最優の騎士相手に何の被害なくかてるなど思ってはいないが腕を奪われるとは思えなかった。

 だからこそ腕を奪われ、カウンターとして魔術を放とうとしたとき。

 その瞬間で、右足を奪われる。


「うそ、でしょ? 早すぎる、見えないなんて科学的にありえない……!!」

「あまり甘く見るな、と言っておく。おそらくは、無意味だろうが」


 円卓の騎士、最優の騎士、湖の騎士ランスロット。

 アルトリウスの比類する右腕、ガウェインと並ぶ片翼。

 弱い、わけがない。


「改めて問おうか、何故守る?」

「……興味あるじゃない、神様の姿って。私が、解剖しつくして(探究しつくして)見ようかなって思っただけよ」

「その結果、大勢が死ぬぞ。100か200か、あるいはそれ以上か」

「知らないわよ、私は知れたら十分だから。ああ、けれど彼に肩入れするのは哀れだからかしら? どうせ覆せない結果があるのに無駄にあがこうとしてる姿が哀れだから肩入れしてるところがあるわね。究極、完成に至って満足するなんて呆れるぐらいにかわいそうじゃない?」


 『ウィッチクラフト』ロッソ、血盟『混沌たる白亜』に誓った盟約は【叡智の究明】だ。

 そのためには、あらゆる犠牲を厭わない。

 他人に同情など覚えず、他人に共感など示さず。

 ただ我欲のままに、彼女は笑う。

 その知識欲を、満たすために。

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