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Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
1.5章『魔王のキャロル』

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Deviance World Online エピソード6 『痴れ者が』

 地面に降り立つ、足跡がクッキリと地面に刻印される。

 ソレなのに、それだけの衝撃を受けても一切のダメージがない。


 体に走る衝撃を流す、そして黒狼は舞い踊った。


 加速する、すなわち流星。

 瞬きの様に攻撃が放たれ、暴力による蹂躙を執行する。

 ソレは最早ただの破壊だ、爆発と衝撃の。

 土煙の中から黒狼が顔を出した、目の前には敵がいる。


「初めまして、ですね」

「俺からは、お久しぶりか? 探究会のパラス」


 黒狼の言葉に首を傾げる彼、実際覚えてなくても仕方がない。

 ゲームを開始して間もなく、出会ったのも初めの初め。

 黒騎士との邂逅、そして彼がレイドボスだと発覚する時に顔を合わせただけの相手。

 覚えている方が不思議なものだ、或いは黒狼が執念深いだけなのか。

 別にどちらでも構わない、顔見知りだろうと敵ならば殺すのみ。

 理由のない、脳死的な闘争を求めてるだけだ。


「『魔力眼』、『武道』」


 黒狼のスキル発動、全身にエフェクトが発生する。

 彼から引き継いだのはステータスではない、いいや正確に言えば。

 彼から引き継いだのは肉体だけではない、彼のスキルも引き継いだ。

 体躯に蓄積された経験、スキルは黒狼も手に入れた。

 勿論、全てではない。

 ただレベル1で解放されるスキルならば、使えるのだ。


「双方希少なスキルを使いますね、キャメロットに敵対せんとするに相応しい……ッ!!」

「『八極拳』『貫掌底』、技はまだまだだがスキルは十分だぞ? そう簡単に勝てると思うな」


 黒狼のモーション、ソレを幾ばくかの余裕を持って回避するパラス。

 流石にレオトールほどの実力はない、寧ろカウンターを入れられかねない始末だ。


 だが、そのステータスは正しく脅威。

 まともな一撃を当たられて仕舞えば、そのダメージは不相応な衝撃と共に吹き飛ぶだろう。

 スキルを発動してならば、より尚更。


「ええ、なので真面目に戦いません」


 その言葉に、黒狼は強い違和感を覚えた。

 真面目に戦わない? 正面に、こうして立っているのに。

 その言葉の真意、本意を測りかねる。


 だからこそ思考が挟まり、攻撃の精度が劣化する。

 戦いとは同じ行動を無限回数行うこと、劣化した精度でできる行動では一度たりとも同じ行動を取ることはできない。

 つまりは、ただでさえ当たらない攻撃が余計当たらない。


 特に現状、黒狼はならないスキルを発動して戦っている。

 そしてパラスは積極的な攻めをしていない、その時点で黒狼が勝てる要素は少ないのだ。

 改めて言っておくが、黒狼が勝てる相手は超限定的であり近接戦闘特化型以外は黒狼が苦手とする相手である。

 回避軽戦士や後衛魔法使いなど、苦手中の苦手なのだ。


 そして、もう一つの問題も表面化した。


 一度もダメージを受けていないはずなのに、HPが減少している。

 状態異常、『目眩』『吐血』『出血』『肉骨乖離』etc……。

 そして何より、状態異常『水晶大陸』。


 調整が済んでいない、レオトールの体を乗っ取ったは良いが身体相性ではなく進化で無理矢理に身体を合わせただけの黒狼では肉体が馴染むまでの間。

 順当、まともな戦闘行為は行えない。


「チッ、思ったよりも早いなッ!!」

「バカッ!! 戦闘行為は厳禁だって言ったでしょ!!」

「悪い悪い、もうちょいイケると思っただけなんだ」


 ロッソが遅れて到着し、戦場に介入した。

 結界を形成すれば、錬金術で作った注射器を黒狼に突き刺しながら眉を顰める。

 体が軋む、バキバキという音が聞こえるようだ。


「戦闘をしないか、或いはログアウトしていなさい。その肉体を摩耗させて、使い潰すのなら話は別だけど?」

「流石に、な? 大人しくログアウトさせてもらおうか」


 代償は多い、力には対価が付き物だ。

 輝ける一等星の、輝くべき一等星に成り変わった屑星がその力を払うのならば必然的に多量の代償を捧げなければならない。

 そして、黒狼にとってはソレは時間だった。


 現実から消失する、或いは現実へと帰還する。

 戦闘中なのに、戦闘中にも関わらず。


 体が徐々にポリゴン片に変換されている、黒狼が視界に表示されているエラーを受け入れたのだ。

 つまりはそれほどの肉体的負荷を、つまりはそれほどのエラーを内包していたということ。

 緊急離脱が許されるほどに、今の黒狼はボロボロだったのだ。


「さて、相手は私よ」

「まぁ別に構いませんか、とはいえ貴方の戦闘能力は把握済みですが」

「調べ尽くしてる? あら、それにしては随分と杜撰なことをしてるわね」

「ほう、何を……」


 一歩、一歩踏み出させるだけでロッソの勝利が揺るがなくなる。

 一瞬にして地面を媒介に展開されていた錬金術が発動し、彼を絡め取った。

 そのまま粉塵を放つ、爆炎と黒煙が舞い上り数百から数千ほどの熱量が彼を襲った。


「くっ、ダメージはともかく……」

「あら、何を温い事を言ってるのかしら?」


 状態異常が、そう続けようとした言葉を遮りロッソは言う。

 この攻撃は目潰しでしかなく、本命は錬金術によって製作した()()()()()()


「『灯火よ』」


 わずかその一言、わずかな詠唱。

 『詠唱』スキルを利用し、魔法陣の才能を高める事で発動する魔術の能力は飛躍的に上昇する。

 詠唱とは魔術という数字に掛け算をするという事だ、そして当然ロッソ並みの魔術使いが魔法陣を描き魔術を放つのならば。

 その攻撃は、酷く強い。


「ぐわぁぁぁぁあああ!? 折角の装備がッ!!」

「ヒュドラ産の防具なんて珍しいでしょ? 頑張って買い直してね」


 ロッソが冷たく言い放ち、焦げ付く装備を眺める。

 ヒュドラの装備は確かに強い、だからこそ対策も既に用意されているのが必然。

 一般的な手法、と言うには少しばかり難易度が高いとは言え使える人間にとっては当然のセオリーだ。

 火達磨になるパラスは、損失を想像して顔を青くする。


「貴方と戦うつもりはありませんよ!! 割に合わないッ、錬金術師のフィールドで戦うなど!!」

「けど、先に手を出したのは其方じゃない?」

「ソレを言えばキャメロットに手を出したのは其方でしょう!! むしろコレは温情でもあるのですよ、そんな弱小クランで対抗できるなどと!!」


 醜い言葉を聞かず、周囲に広げていたワイヤーを引く。

 トッププレイヤー、そう言われるロッソやモルガン相手にソロで対抗しようなど笑わせてくれる話。

 パーティーやレイドを組まれれば話は大きく変わるが、少なくとも己の領地領土で負ける魔術師など。

 錬金術師など、この世のどこに居ると言うのか。


「うぐぅ……、中々やりますねっ!! ヒュドラ装備でなきゃ即死でしたよ!!」

「えぇ……、逆になんでソレで即死してないのかしら……。サービスしなきゃ、『灯火よ』」

「にぎゃァァァァアアアア!!! 装備がッ!! 時間がぁッ!!」

「まだ生きてる、ゴキブリかしら? 『灯火よ』」


 尚且つ、彼女らの背後にはワルプルギスが。

 無限の魔力を有する魔導戦艦がある、時間当たりの生産量に限界はありルビラックスほどの無法存在ではないモノの黒狼が浪費してなお魔力は潤沢に存在する。


 負ける、訳がない。


 追加で5、6回ほど放てばポリゴン片に変化した。

 手を軽く叩き、視線を村正の方へ向ける。

 村正の方が数が多いこと、そして魔術みたく相手の処理殲滅に特化していないという事を考慮してなお早い速度でプレイヤーを切り裂いていた。

 軽い拍手と共に、ロッソも参戦する。


「手を貸すわ、ちょっとしたお礼よ」

「はっ、要らねぇよ。そんな細かいことを気にしてたら切りがねぇ、旅は道連れ世は情け。儂らは呉越同舟の泥舟乗りだろうが。恩を売ったり売られたり、なんざしてたらみみっちくて仕方ねぇよ」

「けどよく言うでしょ? アルカテロの銀貨は人の手を巡る、って。善意っていうのは押し売りぐらいが丁度いいの、常識よ?」

「恩を売られちゃ返さなけりゃならん、面倒ごとの始まりになるだろうが」


 愚痴る村正を半分無視し、ロッソは通称『流星』と言われる魔術を広げる。

 杖の頭に光が輝き、こぶし大の光弾が飛んで行った。

 狙いは正確、確かにその攻撃は襲い掛かってくるプレイヤーの頭部へ当たりスキルの発動を中断。

 もしくは、キャンセルさせる。


 技術が高い、誘導系の攻撃は脳内で描いた軌道をトレースさせる関係上操作習熟度がすべてを語る。

 魔術師を語るのならばこの魔術を見ろ、プレイヤーの間ではそういわれるほどの。

 いわば初心者と中級者を見分ける一種の登竜門的扱いをされている魔術、実際に火力を伴う攻撃であるからこそより顕著にそれは示される。


 ふぅ、と息を吐き最後のとどめは村正に任せ周囲の空間探知を優先するロッソ。

 その意図意識を理解した村正は、首切りマンとかしながら地面に血痕を残してゆく。

 バイオレンスだ、もっとも数秒後には消える程度の血痕だが。


「決着はついたぞ、ロッソ」

「ほかに敵もいないみたい、そっちはどうなのかしら? モルガン。いろいろよそ見をしていたようだけど?」

「周囲の索敵をしていた、と言い換えてください。貴方みたく、敵陣に躍り出るというわけにはいかないのです」


 二人の言い合いは既に日常風景、村正はその様子を無視しながらやって来た鬼の方へ視線を向ける。

 ここは村正の居城にして山、村正の鍛冶場そのもの。

 当然、彼の配下である鬼もいる。


「手前ら、無事か?」

「結構厳しいところがありましたが、死者はゼロです」

「上出来だ、怪我人は此方に回せ。此奴にやらせる、構わんな? モルガン」

「許した覚えは、ありませんが……? 別に構いはしませんけども」


 モルガンが小首を傾げながら周囲に回復魔術を展開する、即座に周囲で怪我をしていた人々が回復してゆく。

 超回復、部位欠損の一つもないとは言え尋常ではない怪我をあってる人はいる。

 ソレを次々と、そして簡単に回復する様は聖女さながら。


「ソレで、どうするつもり? ここがバレた以上は早く移動でもした方がいいんじゃないかしら?」

「……いえ、そうですね。その必要はありません、むしろ此処に残り迎撃するべきです」

「はぁ? 手前、馬鹿なのか? そんな事をすりゃ儂らだけでなく鬼どもまで巻き込んじまうだろうがよ」


 村正が呆れたように言い捨てると、そのままワルプルギスを見る。

 ワルプルギス、魔導戦艦にして移動要塞。

 『混沌たる白亜』のメインベース、と言い換えてもいいだろう。


「早く移動するぞ、無用な被害なんざ出す必要はねぇ」

「……いえ、コレは決定事項です。ソレとも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 次の瞬間に、モルガンの首筋へ刃が迫っていた。

 冷めた目で睨む、彼女の言葉を否定するように。

 改めてさせる、そのために。


「手前……、耳穴かっぽじってよく聞きやがれ。今すぐに、此奴を移動させろ」

「ええ、()()()()


 次の瞬間、村正の刃は光を反射しモルガンの首を正確に攻めた。

 だが、出血が。

 攻撃が、ダメージが通ることはない。

 モルガンが、彼女が村正の一撃を防いだからだ。


「手前が喚くのは勝手だが、儂らのせいで此奴らが死ぬのは道理も糞もねぇってもんだ。そこんとこ、分かって言ってやがるのか? 手前は」

「ええ、高々NPCが20か50か幾許か死ぬ程度の話でしょう? 分かってますとも。ソレとも何か、偽善や慈悲にでも目覚めましたか?」

「手前、いい加減にしろよ?」

「或いは、所詮NPCに現を抜かすほど。貴方は、愚かでしたか?」


 村正、いや。

 剣聖一派に、近接戦闘を挑むなど無謀の局地に過ぎない。


 また等しく


 モルガン、いや。

 魔女たる妖精に、猶予を与えるなど愚の骨頂極まりない。


 つまりは、次に生まれたのは極技の競り合いだ。

 村正の剣先、切先が迫り同時にモルガンの魔術が村正を捉える。

 攻撃は相殺され、魔力混濁による一瞬の空白が発生し。

 村正の手に握られていた刀が、煌めく。

 同時に、村正の視界の外から攻撃が発生した。


 お世辞にもモルガンは強いと言えない、少なくとも対処法などは無数に存在する。

 特に近接戦闘においては彼女ほど弱い存在も珍しい、一概一瞬の対応速度の悪さも身体能力の低さもソレを加速させていたりするだろう。

 つまりは弱い、要約する必要性すらない。


 だが、ソレは同じく村正にも言えることだ。

 近接戦闘、より早きに重きを置く彼も知覚外からの攻撃には弱い。

 所詮は鍛治士、所詮は刀造り。

 戦いは得手ではない、故に本来は互角であり相殺。

 いわゆる引き分けで終わるはずの、戦いだ。


「うむ、余を。殺すつもり、か?」


 だが、その一言で勝敗という概念は掻き消える。

 人は幼女には敵わない、或いは人である限り弱者とは絶対的な強さを持つ。

 仇を与えるべきで無い弱者とは、その時点で勝敗の概念を超越しているのだ。


「ちぃ、そこを退け」

「むぅ、嫌じゃ」

「二度目は無ぇ、何方にせよ問いたださねばならん」

「ならばその矛を納めよ、或いはそこまでして余を殺したいのか?」


 舌打ち、息を吐き捨てながら荒ぶらせていた魔力を抑える。

 納刀、そのまま目付きが悪い目をより尖らせモルガンを睨んだ。

 どちらにせよ、同じ条件下ならばモルガン相手に先手を取れる。

 打算的な思考と共に、村正は口を開く。


「再度問い詰めねばならん、何故愚かな行為をしようとする?」

「愚か、断じるのは簡単ですが少しばかりそそっかしいのでは?」

「二度も同じ事を言わせるつもりか?」

「いえ別に? 理由の説明でしたね、ええそう難しくはありません。いくつかの魔術的要因によりワルプルギスの稼働が……。そうですね、技術的問題です。納得していただけましたか? 村正、或いはこれでも納得できないと」


 表情一切動かさず、言い返すモルガンに対して村正は舌打ちを返すとそのままログアウトする。

 ネロは何を考えているのか走り出し、しばらくしてロッソが口を開いた。

 ただ静かに、一言だけ。


「止める気はあるの?」

「全く」

「そう、なら雨が降りそうね」

「地は固まるのでしょうか? 楽しみです」


 2人の会話はそこで終わりだ、少なくともそれ以上に言葉を交わす気はない。

 ただ静かに笑みを浮かべるモルガンと対照的に、ロッソはニヤリと笑っていた。

二章に入る前の間話です。

不定期更新になります。


 二章本編の作成までは大きく時間を取らせていただきます。

 その間の余興として、質問を募集します。

 この話の感想欄に質問を記載してくだされば、次回以降に作る質問回答コーナーにて返答いたします。

 そういうわけで、もしよろしければ質問など。

 色々、お待ちしております。

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