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Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
1.5章『魔王のキャロル』

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Deviance World Online エピソード6 『空を見よ、天仰げ』

 夜空を見上げれば星が見える、それは至極当然で当たり前の話だ。

 黒狼はソラを見上げながら、椅子にもたれ掛かる。

 つまりは、宵闇が世界を包む中でいくつかの思考に没頭していた。


「おい、手前」

「なんだ、村正」


 そんな折、声をかけてくる人物がいた。

 黒狼は目を閉じたまま返す、疲労が溜まっているのだ。

 朝焼けを肌で感じながら、冷たい朝の冷気を嗅ぐ。


「手前は肉体を得たんだよな? そいつはどう言う理屈なんだ?」


 投げかけられた質問、そこで漸く黒狼は目を開けた。

 そう、()()()()()

 常世を認識し、だからこそ世界の色を把握する。

 初めて、黒狼はこの世界で人間として存在していた。


「簡単に言えば、レオトールの全身の骨を空間置換で入れ替えて進化した」

「……大きさとかは合うもんなのかねぇ? 常識的に考えて」

「合わねぇよ、ただステータス差で俺の骨じゃレオトールに傷を入れられないし進化で勝手に俺の体が適合する。細かい微調整はロッソが術式に組み込んでくれてたからこその無茶苦茶って訳だ」

「へぇ、まぁ随分と面白い事をしていたって言う訳だ」


 その言葉を聞けば、黒狼は静かにステータスを開く。

 随分と、随分と多くのスキルが獲得出来てしまった。

 嬉しい誤算だ、レオトールの死体を利用した甲斐がある。


「物理系スキルが山ほど増えてんなぁ、殆どブラックアウトしてるけど使えるだけのスキルでも軽く10はくだらねぇ。ステータスも相応に上がってるし、レベル1でも弱体化してる気にならねぇ」

「そいつは随分と、良かったと言えばちぃとばかり不謹慎か?」

「別に? 気にすることはねぇよ、双方合意の上で殺したし奪った」


 そう言い捨てれば、黒狼は架空に手を伸ばした。

 魔術の展開、その予備動作。


 体内に内包、圧縮された魔力が蠢く。

 水晶の魔力、レオトールを殺した原因にして彼を最強たらしめた証。

 ある意味での呪いにして、災い。


「しかし相当な爆弾を渡されちまったよ、ホント。俺が後処理をしなきゃ、今頃グランド・アルビオンは滅んでてもおかしくないぞ?」

「冗談めかす割には、随分と深刻そうじゃねぇか。一体全体どう言う話だ?」

「この水晶の魔力、どうも侵食して周囲を蝕む性質があるらしい。しかも蝕んだ場所を水晶化する始末、その水晶は耐久度が存在しない謂わば破壊不可能オブジェクトって訳だ」

「……ほぉ? そいつは例の剣の素材か?」


 村正の問いかけに黒狼は頷く、レオトールの水晶剣。

 無銘の剣、光に透かせば半透明なソレ。

 彼はその剣をこう呼称した、生きている剣だと。


「心象世界、具現化した心をそのまま剣にしたワケ。しかもこの世界に存在しない破壊不可能な水晶を用いた代物、世界全てを探してもこれ程の素材はないだろ。あるいは、これ以下の素材も」

「不破壊という事たぁ、つまり不干渉。剣の形状に削ることも無理という訳か、異様な雰囲気を感じる訳だ。……、待てよ? なら一体其奴はどうやって出来上がったっていうんだ?」


 肩を竦める黒狼、身を乗り出し村正は水晶を睨む。

 薄らと白い冷気? を出しているソレ、確かに常世の代物には到底見えない。

 黒狼の手から奪うように、その水晶を手に取ればマジマジと観察を始める。


「……へぇ? 随分と、まぁ随分な代物……? 駄目だ、分からねぇ。儂には独特な硝子細工にしか見えやしねぇよ」

「だろうねぇ? 鑑定を弾く事以外は本当に唯の水晶だからなぁ」

「だが、確かに加工は無理な様だ。儂のスキルの対象にならねぇ、というより『魂魄刀』と同じくこの水晶がある空間は別世界として認識されてるらしい」

「境界、或いは位相が違うっていう感じか」


 村正の言葉を復唱する様にそう返せば、黒狼は欠伸をする。

 暇を持て余している黒狼とはいえ、ゲーム内でも持て余すなど考えもしていなかった。

 ソレこそ、呑気に空を見上げることなど考えも。


「ソレで、どうだ? 住み心地っていうのは。お前ら全員の要望を叶えられる位にはロッソが頑張ってたろう?」

「まぁ、な? 工房が注文通り……。いや、注文以上に完成されてたのは背筋が震えたよ。流石は造り手だ、痒い所を解ってやがる」

「魔道戦艦ワルプルギス、その最大の目的は武力利用ではなく移動要塞という点だ。俺たちのクランはクリエイターが多い、だからこそ生産能力を持つ移動要塞が欲しかったワケだが」

「ああ、これで鬼の里から離れる理由も出来ちまった。王の座も手放す事になりそうだなぁ、全く」


 魔王、魔王千子村正。

 ソレは彼の肩書きであり、彼を証明する一部でもあった。

 魔物を統べる王、一介の鍛治士風情には不釣り合いな肩書きではあるが確かにソレは信頼の証。

 だからこそ、少し悲しげに村正は呟く。


「慕われてるんだから捨てる必要性もないだろ、別に」

「そういう訳には行かねぇんだよ、道理は通さねば筋が通らん。儂が王である必要性もない、或いは神から直々にクエストで指名手配されている手前の方が王に向いてるかもな? 不死王」

「辞めろ辞めろ、というか何だよその二つ名。一気に広まり過ぎだろ、掲示板でもちょっと騒がれてんだぞ?」


 また、黒狼の名も大きく広がった。

 あの戦争で黒狼がレイドボス『黒騎士』或いは『月光のペルカルド』を討伐したのは紛れもなく。

 そして、黒狼本人が無名のプレイヤーだった事も相まってその名は爆発的に広がる事となる。

 言い出しは、『脳筋神父』ことガスコンロ神父から。

 与えられた名は『不死王』、アンデットでいながらヒトの体躯を奪い再誕するその姿は正しくその名が相応しい。

 同時にあの戦争の後で掲示板でキャメロットへ宣戦布告を行った事も話題性へ拍車を掛けた、一度騒がれれば黒狼も二つ名プレイヤーの仲間入りとなったのだ。


「しかしクエスト、クエストねぇ? 何がきっかけで俺に指名手配が掛かったのか」

「発端はガスコンロ神父だろう? あの脳筋神父が神からの宣告を受け手前の命を狙った、まぁ違いなく何らかの裏がある」

「そのためにも深淵に行かなきゃならないな、例の神。正しく言うならヤヤウキ・テスカトリポカ、アイツに問い詰めなくちゃならない話が出てきたねぇ?」

「全てはグランド・アルビオン攻略から、手前の目的は増えちまったが儂らの総標は変わっちゃいねぇ」


 肩を竦め、もう一度椅子に背中を預ける。

 一歩進んだが、5歩も6歩も目標が遠のいた様に感じていた。

 いや、違う。

 結局はタスクが増えただけ、目標への遠さは関係ない。


「遠い未来の話は程々でいいや、どうせ毒にも薬にもならねぇ」


 その言葉を吐けば、黒狼は立ち上がる。

 ソレを見て村正はインベントリを操作した、現れたのは二振りの刀。

 片手でソレらを掴めば、黒狼へと渡す。


「ついに完成したか、俺の武器」

「前者は再調整を、後者は新造だ。魔法と科学を掛け合わせた正に趣味じゃない逸品、依頼通りに完成させたが二度と創たかぁ無ぇな」

「良いじゃねぇか、ロマンだよロマン。ソレともカタカナ表記は嫌いかい?」

「浪漫だろうが、違いはねぇだろうよ。あくまで儂は見る専って奴だ、その機構はな」


 それだけ言い合えば気まずい沈黙が訪れる、互いに苦手な沈黙だ。

 また空を見て欠伸をする、眠気が体を襲う。

 そんな時に元気のいい声が飛んできた、ついでに突進も。

 甲板の上で立っていたからこそ、体が吹き飛ぶ。


「うむ!! ナイスなのだ!!」

「あっぶねぇなぁ!? オイ!! 下手したら落っこちてたぞ!!」

「む? だが死なんだろう?」

「チッ、つうかケラケラ笑うな村正。お前を突き落とすぞ? 多分、お前なら死ぬぞ?」


 おちゃらけた様子で言葉を吐く黒狼、村正も苦笑いで悪い悪いと返す。

 激突部をさすりながら立ち上がった黒狼は軽く背伸びをしながら、腕を伸ばす。

 次の瞬間には剣が握られていた、軽く魔力を流せば刀身から薄く白い霧が出る。

 水晶剣、ただの綺麗で壊れないだけの剣。

 ソレを握れば、黒狼はつぶやいた。


「敵襲だ、ボイチャを開けろ」

「いよいよか、3日も持ったと考えりゃ早い方かねぇ?」

「ハッ、アナーキーじゃねぇのに3日しか持ってないんだ。短すぎる、が正解だよ」

「うむむ……、怖いのである!!」


 爆発音、地響きと共に狙撃が始まった。

 黒狼はソレを回避できずに受ける、次の瞬間には右腕に穴が空いている。

 だが、方向は特定した。

 そう言わんばかりに目を向けると、直後に魔力が収束。

 暗黒の槍が、形成される。


「『貫け、【(ランス)】』」


 言葉短く切り出された詠唱、直後にその長さに見合わない槍が形成され発射される。

 力を得た、これこそがその証明だ。

 レオトールが死に、彼の肉体を奪って得たステータス。

 おそらくは、そのステータスは全プレイヤートップと言っても過言では無い。


 現在ステータス、オール500越え。


 ソレはレオトールが積んだ研鑽の証であり、ソレは黒狼の弱さの証明でもある。

 そして、黒狼がスタート地点に立てたと言う証明でもあった。


「ネロ、バフを盛れ。少しばかり肩慣らしをする、ステータスの過剰マイナス補正を消す作業も終わったんだ。少しばかり、暴れても良いよなぁ!?」

「ふん、勝手にしやがれ。モルガン、手前に着地は任せた!!」

「『敵襲ですか、愚かな。そして村正、無鉄砲に飛び降りないでください。衝撃緩和だけは請け負います、ダメージはスキルで相殺しなさい』」

「余も!!余も!!」


 黒狼が真っ先に躍り出て、村正が後を追う様に飛び降りる。

 最後にネロが落下し、モルガンの魔術が展開された。

 後夜祭、先の戦争の後の祭りが始まる。

二章に入る前の間話です。

不定期更新になります。


 二章本編の作成までは大きく時間を取らせていただきます。

 その間の余興として、質問を募集します。

 この話の感想欄に質問を記載してくだされば、次回以降に作る質問回答コーナーにて返答いたします。

 そういうわけで、もしよろしければ質問など。

 色々、お待ちしております。


 ちなみにまだ0件です。

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― 新着の感想 ―
いつも楽しく読ませていただいております! 黒狼がレオトールの骨を自分の骨と入れ替えたことで死体の肉とスキルやステータスも一緒についてきたという感じなのでしょうか?それではスケルトンの一番手っ取り早い…
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