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Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
一章下編『一切の望みを捨てよ』

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Deviance World Online エピソード6 『エンドロウル』

 水晶が舞う、輝ける星は星を食らう。

 輝き続ける星は無い、何時か消え去るからこそ星は輝く。

 リーコスとて、例外ではない。


「もう既に、そんな時間だったか」


 スキルが、強制的に解除された。

 肉体の内側が蝕まれている、全身が水晶化していた。


 地面に膝をつく、力が腕から抜けた、


 僅か一夜、僅か30分の戦いはレオトールの死とともに。

 彼の勝利によって、終了を迎える。


「30分、守り切ったぞ? 黒狼」


 その呟きは、もはや声の体裁を保っていない。

 消え去る炎の灯、痛覚すら消えた肉体。

 死に体でありながら、最強は未だ死なない。


「終わりだ……、レオトール・リーコス。貴方は、僕が戦った存在の中で最も強く厄介な存在でした」

「私を厄介か、クックック。何とも随分過大評価ではないか、これほど実直で分かり易い相手など早々居ないぞ?」

「何を……」


 アルトリウスが剣を振りかざし、レオトールの首をはねようとする。

 もう、レオトールに動く力はない。

 総勢3000、実際はもう大分少ないだろうがそれほどのプレイヤーが10秒毎に復活し襲い掛かってくる人外決戦。

 約束の30分、その総てを守り切ることに文字通りの死力を尽くした。


 あのヘラクレスと同じく、その全身が水晶化を始めている。

 動くことが出来ない、どれ程頑張っても。

 限界を迎えているのは、誰の目にも明らかだ。



 だからこそ、誰もが意識していなかった。

 遥か頭上、天空、彼らの頭蓋の頂点。

 そこから落ちてくる、一本の水晶の刃を。


「よぉ、レオトール。今度は、助けは必要か?」

「いいや、もはや生きる理由も方法もない」


 地面に落下する、その骸を知っている。

 我々は、知っている。


 黒き闇、影、漆黒を纏った骨。

 長く短い旅を、短くも長すぎた旅を。

 回想は一瞬だけ、だがそこにある感情は多すぎる。


「というわけで俺は二度目で、お前は初めましてだな。騎士王、アルトリウス」

「君は……、何者だ」

「生憎と質問に答える時間は無い、という訳で任せたモルガン」


 だが感情を整理する暇はない、感情を纏める時間など。

 故に黒狼はアルトリウスを、騎士王を無視しレオトールに剣を差し出した。

 水晶の剣、『伯牙』の証。

 『白の盟主』の代名詞にして、リーコスの秘宝。


「無視を、するッ!!?」

「私を無視できるとでも? 貴方ならば理解、出来ますよね」


 黒狼に向け、エクスカリバーを放とうとしたアルトリウスを牽制しモルガンは告げる。

 ロッソも目を細め、即時に魔術を展開できるように動いていた。

 摩耗しきっているといえども、相手がプレイヤー最強と言えども。

 通させる訳が、無い。


「随分と、戦っていたな?」

「生憎と、敵が強すぎてな」


 会話の始まりは他愛ない言葉だった、静かな言葉の応酬。

 ただの事実確認であり、皮肉交じりの冷笑でもある。

 無駄でしかない、無駄にしか思えない行動。

 だがこの距離感こそが、心地いい。


「どうだった、先史の騎士は。随分と強かっただろう? アレは私でも苦戦する類の怪物だ」

「おいおい、ヒト型は得意なんだろ?」

「常勝の英傑ではない、ということだ。時には、負けなければならん時もある」


 黒狼が手を差し出し、レオトールはその手を取った。

 動かない体を動かし、無理矢理に立ち上がる。

 立ち上がって、今にも毀れるその体を無理に動かし。


「さて、確認だが。復讐は出来たか? レオトール・リーコス、俺の知りえる最強」

「……いいや、結局は復讐心すら湧かなかった。私は、私の誇りに従い剣を握っただけだ」


 黒狼の問いかけに、目を閉じながら答える。

 体から湧き上がる激情は、もはや凍てついていた。

 凍り付いた精神は最初から変わる事無く、何も変わらず彼はそこにいる。


「……やっぱり、俺はお前が大嫌いかもしれね」

「何を今更、私もお前が大嫌いだ。ただ……、嗚呼。ただ星の巡りが運悪く、交わるはずの無い運命を交えたからこそこうして理解できてしまう」

「お喋りはそろそろやめようぜ、これ以上話しても分かり切っていることの確認にしかならねぇ」

「だろうな」


 結論は出ている、黒狼はインベントリから魔法陣を取り出した。

 複雑怪奇、およそ人が扱う領域にない魔術。

 そこに魔力を籠め初め、レオトールの方をチラリと見る。


 レオトールは無言で手を差し出した、手首を軽く切り血を垂れ流す。

 彼の中に内包されている、水晶大陸により回復した膨大な魔力と共に。


 魔法陣はゆっくりと輝きを強め、徐々に二人を包んでゆく。

 その輝きはこの世の全ての目を眩ますような光で、全てを覆いつぶすような光で。


「左様ならば、また逢おう」

「二度と会いたくないね、次に会うのなら敵同士だろうからな」

「フン、違いないな」


 その声が消える、光は一層強くなりすべての生命の姿が消え。

 再び、この世に闇が舞い降りる。


 カラン……


 何かが転がる音、()()()()()が地面を転がり光の中から一人の男の姿が現れる。

 その男は静かに笑い、モルガンたちに手を掲げ。

 軽く一言、言葉を漏らす。


「よっ」


 黒に白金を混ぜたような髪色で、白銀煌めく水晶の剣を持ち。

 心底からの恐怖と、絶対的な冷徹さを併せ持ちながら。

 その極星は、昏く笑う。


「一体、誰でしょうか?」


 モルガンの言葉を無視して、彼は目を向ける。

 はるか天空に、望むことすらも能わない雲の中へ。


『貴方の旅へ、私を連れて行ってください』


 幻聴だ、切り捨てるのは容易い。

 だが、聞こえてくる。

 黒騎士と共に沈んだ、彼女のその目とその口の動き。

 導き出される、その言葉が。


「体は理解者のもの、家は俺の道具がなったか? クソめ」


 罵る、罵っているが笑みは隠せない。

 嬉しい、素直に。

 仮にでも、こんな自分に。

 この世界に居続ける筈がない、この自分に。

 それだけのものを託した、その覚悟が。


「……、ああ」


 よくやく、わかった気がする。

 この世界と、自分がどう向き合いたいのか。

 どの様に、この世界で生きるのか。


「始めるとするか、なぁ?」


 笑いかける、背後に居る四人の仲間に向けて。

 未だ始まらない物語を始めるために、声に出して言葉を紡ぐ。

 今は、この瞬間が心地いい。


「何を?」


 全員が口を揃えてツッコミを入れ、黒狼は笑いながら天を仰ぐ。

 今日も世界はこれほどに澄み渡っている、夜の帷は今開かれた。

 朝焼けが、目に眩しい。


「この、Deviance World Onlineで。最弱種族から始めるVRMMO奇譚を」


 降り注ぐ陽光、曇天が開かれる。

 まるで彼らの門出を祝福するかの様に、黒狼は全てを嘲笑う。

 今この場においては、黒狼こそが主役だ。


「だろ? なぁ!! 来い、『空を征く魔女の焚火(ワルプルギス)』!!」


 彼女の名前をここに告げよう、彼女の真名をここに付けよう。

 空を征くのは、魔女殺し。

 空を征くのは、悪霊殺し。

 退魔からなる、聖なる戦艦。

 しかして示すは、四月の真夜中。

 しかして運ぶは、魔女なり悪霊。

 皮肉に皮肉を足してかき混ぜ、夜に炊かれる篝火は虹を示す。



ーーO Freunde, nicht diese Töne! Sondern laßt uns angenehmere anstimmen und freudenvollere.Freude, schöner Götterfunken,Tochter aus Elysium Wir betreten feuertrunken.Himmlische, dein Heiligtum! Deine Zauber binden wieder,Was die Mode streng geteilt; Alle Menschen werden Brüder,Wo dein sanfter Flügel weilt.


 ああ、讃えよ聴き惚れろ。

 流れ流れる、その歌を。



ーーWem der große Wurf gelungen,Eines Freundes Freund zu sein,Wer ein holdes Weib errungen,Mische seinen Jubel ein! Ja, wer auch nur eine Seele Sein nennt auf dem Erdenrund! Und wer's nie gekonnt, der stehle Weinend sich aus diesem Bund! Freude trinken alle Wesen An den Brüsten der Natur; Alle Guten, alle Bösen Folgen ihrer Rosenspur. Küsse gab sie uns und Reben,Einen Freund, geprüft im Tod; Wollust ward dem Wurm gegeben,und der Cherub steht vor Gott.


 幸福も、絶望も、激怒も、悲哀も。

 全ては無駄だ、全ては意味などない。



ーーFroh, wie seine Sonnen fliegen Durch des Himmels prächt'gen Plan,Laufet, Brüder, eure Bahn,Freudig, wie ein Held zum Siegen.Seid umschlungen, Millionen! Diesen Kuss der ganzen Welt! Brüder, über'm Sternenzelt Muß ein lieber Vater wohnen.Ihr stürzt nieder, Millionen? Ahnest du den Schöpfer, Welt? Such' ihn über'm Sternenzelt! Über Sternen muß er wohnen.


 悪は解き放たれた、正義は最強に破れ去った。

 均衡はここに崩れた、正義の天秤は秤を失った。


「『夜の風、夜の空、北天に大地、眠る黒曜』」


 詠唱が始められる、全ての水晶が魔力となる。

 ワルプルギスは一層音を強め、その太陽を昇華する。


「『不破に予言、支配に誘惑、美と魔術』」


 黒き神は権能を与えたままにした、その意味は悟ることなどできない。

 故にここには事実を一握り、黒狼は全ての終わりに始まりに得た最凶を選択する。

 聞き入れよ、ソレは始まるための終わりの調べだ。


「『ソレは戦争、ソレは敵意、山の心臓、曇る鏡』」


 魔法陣が大きく蠢き、廻り、太陽を具現化する。

 キラキラと輝く炎と水晶の太陽、あまりにも美しい絶対星。

 万象全てを生み出すかの様な、そんな傲慢で醜い太陽。


「『5大の太陽、始まりの52、万象は13の黒より発生する』」


 降臨、する。

 圧倒的な熱を持った、権能が。

 黒き神の、御力が。


「『第一の太陽、此処に降臨せり。【始まりの黒き太陽ファースト・サン】』」


 世界は、光に飲み込まれ。

 悉くは死に絶える、少なくともその様に見える。

 それだけの、絶対が降臨した。






「さぁ、宣戦布告だキャメロット。俺たちは全力全霊を尽くして、お前らの玉座を地に落としてやる」









コレにて、戦いは終幕する。

コレにて、戦争は終結する。



続くは、騎士王との戦いのみ。

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最高や、、、、、 3人の旅路が脳裏に浮かぶ この作品の登場人物全員魅力ありすぎ
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