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Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
一章下編『一切の望みを捨てよ』

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Deviance World Online エピソード6 『Are you ready?』

 心象世界、そういうには酷く矮小で小さく。

 だが無視するには、其れは余りにも強大過ぎた。

 それこそ、その刀剣こそが村正の心象が()()


 正確に評すならば、その剣こそが心象の鍵。

 己が心象を開く端末にして、己の存在定義の再定義。


「さぁ、斬るぞ」


 村正は一歩踏み出す、直後に火炎が追随した。

 焔と共に、剣戟がペルカルドを焼き払う。


 この刀剣、この妖刀。

 魂魄刀・千子村正が擁するチカラは村正の全て。

 かつて作り上げた悉くを、今から作り上げるであろう可能性を刀剣に圧縮した概念武装。

 ネロのトラゴエディア・フーリアと同質の、だが本質が大きく異なるその剣。


「『真打・影丸』」


 それは、現実や虚構など関係なく村正が作り上げた刀の特殊アーツを発動させる。

 究極の一がないならば、至高の数多で対抗するだけ。

 至極単純、簡潔明解。

 故にこそ、脅威である。


 一歩、後ろに後退した。

 月光の騎士が、ペルカルドがその攻撃を恐ろしいと認識した。

 一太刀浴びれば、鎧をも貫くであろう一撃と。


「心象が産物ゆえに、世界そのもの。汝の剣は確かに我が脅威たるな、ダメージではなく肉体に焼き付けられる……ッ!!」

「『へぇ、解説サンキュー死にやがれ』」

「ロッソ、分散してるバフを村正に集中させろ!! DPSならモルガンだが……。一撃デカいのを入れれば、付け入る隙を誘発させられる!! ネロはそれ以外にバフをかけろ、理屈は分かんねぇが『黄金の劇場(ドゥムス・アウレア)』が無力化されてやがらぁ!!」

「了解、『エリアヒール』。『汝は焔、焼ける熱【火よ、焔よ】』!!!」


 黒狼の指示、それと同時に群がる黒狼が一斉に退く。

 村正の発するエフェクトの量も質も、心象の鍵を得た直後から大きく変化していた。

 刄から迸る力は絶大、間近に喰らえば味方である黒狼ですらダメージを負う。

 それほどの、衝撃がある。


「モルガンッ!! 魔術で武器くれ、武器!!」

「嫌です、ロッソがやりなさい」

「仕方ないわね、受け取りなさいッ!!」


 同時に複数のアイテムが射出される、次々と武装が黒狼の方へ飛んでゆき其々の黒狼が武器を手に取った。

 行うのは、村正の補助。

 杖を、剣を、槍を手にして次々と攻撃を開始した。

 当然、村正には近づかない。


「手前も手前でまどろっこしいな、黒狼!!」

「そう言うなよ、こちとら全力全霊なんだからさ」

「よく言いやがる、腐れ骨め」


 軽口を叩きながら、黒狼も黒狼で攻撃を放ち続けていく。

 負ける訳にはいかない、負けることなど許さない。

 敗北など、この戦いではあり得ない。


「さぁ、全部だ。全部掛けて、勝ってやる。だから、お前ら全員全部を寄越せ!!」


 返事? 不要、必要なのは興奮のみ。

 狂えるほどの激情が、狂おしいほどの狂乱のみが。

 この戦いに、活路を見出す。


「その喉元、掻っ切ってやらぁ!!」


 居合の構え、その姿は知っている。

 皆が皆、その技を知っているはずだ。

 否、知らぬはずがないだろう。

 人間国宝、剣聖と言われレオトールにさえその技を認められた至剣の一撃。

 知らぬ、道理などある訳がない。


 抜刀。






 音は、既に超えている。








* * *


 全てを、音を置き去りにした神速の居合い。

 柳生のステータス、決して高くなく殆どレベルもスキルも入手していない彼女の技ですらレオトールに焦りを覚えさせた。

 ならば村正が、もしもステータスも整え己という存在を用いた刃で振るう一撃を魅せれば。

 その攻撃は、どれ程の力を振るうのか。


「ぁ………、がァ………。見事、だ」


 鎧が砕ける、HPが一気に削られた。

 それで尚、未だ死なない。


 黒潰しの騎士、月光の騎士、月光のペルカルドは未だ。

 否、月湖の騎士『ペルカルド』は未だ死なない。

 生きている、生きて。

 そして、立っている。


「ちぃ、万策尽きたって所か」

「残り二割ほど、削り切る手段はありますか?」

「生憎と、貴方はともかく私はMP切れ。補助も何もかも全力でして、それで及ばないのね……?」

「うむ、もはや心象の維持も限界であるぞ!! 出来たとしても、あと二分もない」


 負けだ、敗北に違いない。

 村正の手から、魂魄刀が消え落ちた。

 幾ら村正が柳生の弟子であろうと、その神業を再現するなど容易くできる訳もない。

 至剣、剣聖、神速の抜刀術とはそういう事だ。


 そして、それと同じことは他全員に言える。

 万策尽きている、というより有効打を与えられるアタッカーがいない。

 ネロはバッファー(補助特化)、モルガンはマジシャン(後衛大規模魔術師)、ロッソはアルケミスト(構築者)

 個々人の技量が高すぎて薄れがちだが、そもそもココにいる全員がアタッカーを担えるほどに能力が特化していない。

 あくまで、今まで戦えていたのはレオトールが指示した事前準備とある程度以上の幸運。

 そして、彼ら彼女らの才覚があっての話。


「どうする、撤退でもするか? 手前がリーダーだろう? 黒狼」

「はっきり言えば、私はソレを進言しますね。体内の魔力濃度が酷く薄れている、逃げるための転移魔術ならば一度は展開できるでしょうが……。戦うための魔力を捻出するのは、酷く難しい」

「ゴーレムはあるけど、移動係兼防衛用よ。戦闘能力は期待してほしくないわね、分かってると思うけど」

「うむ、それ以上に相手が悪すぎるのであるな!!」


 否定か、それとも提言か。

 何でもいい、何だっていい。

 彼女らは、この盤面をひっくり返せる駒を持ち合わせていない事だけが事実。

 其れだけが真実であり、それ以外は不要。


 彼は考える、黒狼は考える。

 これから何をすべきか、何ができるか。

 そのうえで、口を開き。


「まぁ、んじゃ仕方ないか」


 黒狼は、あっさりそう言い飛ばした。

 そのままインベントリを開き、目の前で第四形態に変化しつつある月湖の騎士『ペルカルド』を見る。


「万策尽きた次の手を打つしかないねぇ? だろぅ、なぁ? それにさ、こうなることは予定調和だし」


 緊張が走った、黒狼以外の四人に。

 予定調和だと? 言うに事を欠いて、死力を尽くした四人を嘲笑う様に現状を予定調和だと?


 怒りよりも先に困惑が、困惑と共に怒りが沸き上がる。

 何を言っている、この男は。

 いうに事欠き、何を。


「……手前、そう言うからにはあるんだろうな? 万策尽きた、次の一手が」

「んぁ? ()()()()()()()()()()、俺がソレを用意するタチに見えるか?」

「なら、今の手間の発言は何だ?」

「いや、別に。たださ、いい加減俺も出し惜しみは辞めようかなって」


 半分笑いながら、少し恥ずかしそうにそう告げる。

 そして、ロッソの傍に控えているゴーレムに手を翳し。

 スキルを、此処で発動させた。


「『【深淵】【汚染強化(深淵)】【精神汚染(深淵)】』」


 泥人形が、融解する。

 内側から湧き上がる、見るも悍ましいその力に包まれてゆく。

 この世で最も醜い感情、それでいながらある種の冒涜的な美しさを誇るその力が。

 故に、この言葉に応じるのは必定だった。


「『来いよ、ゾンビ一号』」

「最終決戦に、欠員なんて悲しいじゃねぇか」


 次の瞬間、黒狼を中心に魔力が吹き荒れる。

 知っている、此処にいる全員はその魔力を知っている。

 いいや、知らな筈がない。

 何時間、何百分の時間をかけてソレを製造した?

 一体どれだけの物資と、どれだけの資材を投入し。

 その、戦艦を。


 否、違う。

 ()()()、造り上げた?


「ワルプルギス、そう名付けましたよね? 黒狼」

「『最終決戦に、お前がいないのは違うだろ?』」


 ロッソの泥人形が、ゴーレムが変質する。

 人の形、ヒトの姿、腐敗した肉の塊だった彼女を模す様に。

 いいや、そうじゃない。

 彼女の心象が、人造の生命体を変質させている。


 かつての『銀剣』、グランド・アルビオンの騎士が一人。

 そして黒狼の右腕にして、黒狼の剣。

 生ける屍、心象を開きし者。

 あるいは、恋に焦がれた乙女。


 空を征く、魔道戦艦の心臓にして心象。

 魔道戦艦の動力であり、そして黒狼が持つ一つ目のjoker。

 

「『さて、最終決戦なんだ。出し惜しみで負ける、なんて糞ダサい真似をしたくもねぇ。という訳だ、使わせてもらうぜ? 【女神寵愛(闇)】』」


 神は、黒狼に微笑む。

 いいや、最初から神々は黒狼に微笑んでいた。


〈ーーアナウンスを告知しますーー〉


〈ーー『騎士よ、せめても幸福な死を。異邦の骨よ、よりよい明日への道行きを』ーー〉


 魔力が流れ込む、万能感に酔いしれるほどの圧倒的な力の奔流だ。

 暴れ狂う力が黒狼の体内を蹂躙し、体から湧き上がる。

 一つは月光に照らされた湖のように、一つは荒れ狂う山脈の霧のように。

 二つの相反する力が、太陽と月光の力が黒狼の体内で混ざり合い。

 三つ目の、新たな力に変質する。


「『いうなれば、これは日食属性か。太陽が月を輝かせ、月は太陽を引き立てる。ゆえの昇華であり、故の破滅か。面白い、一夜限りの与太話の締めには持って来いだろ』」


 にやりと笑いながら、目の前で変化を終えたペルカルドを見た。

 彼も彼で大きく変質している、月光を思わせる白銀鎧に漆黒の魔力を奔流させ黒雷を纏い立っている。

 最終決戦に相応しい姿だろう、双方ともに。

 だからこそ、黒狼はインベントリを開き武装を取り出す。


「『第零式装【火劍】』……、手前ぇ。この状況で出さざるを得ないのは分かる、だが相当なじゃじゃ馬のそれの要求ステータスを満たせたっていうってのか? あるいは、使いこなせるとでも? 一撃放つが限界ってところじゃねぇのか?」

「使いこなす、だ。間違えんな、村正」

「無茶だ手前!! 打ちなおしたと言えども、彼奴は狂い炎!! 使える保証なんざ……」

「るっせぇ、出来るって言ったらできるんだよ」


 嗤いながら、黒狼は剣を引き抜く。

 レオトールが渡した、『津禍乃間』を打ち直し完成させた『火劍』。

 世界を滅却する炎を吐く竜の鱗を加工し完成させたその剣は、今のプレイヤーの手に余るオーパーツだ。

 だがその剣を抜き去りながら、黒狼は構える。


「それで、例の口上は言わないのですか?」

「『言ってほしいのか? お前は』」

「勿論」


 仕方ないなぁ、苦笑いと共に剣を構え。

 月湖のペルカルドを見据えた、殺すために。


 時間は掛けられない、そして失敗は許されない。

 約束の30分は目前に迫っている、そして目的を考えれば事実1分もない。

 ペルカルドのHPの二割を、一分で削り切る。

 可能か不可能か、考えようとして辞めた。


 ココに立っているのなら、それは可能なのだ。


 ニヤリと笑う、そして大声で叫ぶ。

 少し離れた戦場で戦う、彼にも届くように。

 己の覚悟と、そして戦いの始まりを告げる言葉を。


「『Are you ready?』」

「できて、居ますよ」


 呼応する、伝播する。

 世界が震え、恐怖が返り咲く。

 絶対的な冷徹さと、誰もが憧憬する気高さを持った。

 その魔力が、伝播する。


〈ーーレイドボスが誕生しましたーー〉






 ソレは、かつてありし悪夢。

 世界を滅ぼす呼び声、原初の始まり。






〈ーーレイドボス名:繝ャ繧ェ繝医?繝ォーー〉





 誇り高き牙に伝わった、死なずの英雄の伝説。

 彼が成した偉業は、確かに現代まで伝わった。





〈ーー訂正します。ーー〉




 神々の難行を乗り越えた英雄は、世界を滅ぼす力を内に秘めた。

 いつか、人類が滅びを乗り越えられるように。

 己が死後、人類が存続するために。





〈ーーワールドエンドボスが誕生しましたーー〉





 黒騎士、月湖の騎士『ペルカルド』は慄く。






〈ーー全プレイヤーに伝達します、全プレイヤーに警告しますーー〉





 その警告を聞き、彼の誇りが成されたことを理解する。

 あるいは、もはや引き返せぬ道を彼が選んだのだと確信した。





〈ーー『ワールドエンドボス名:レオトール』が誕生しました。死力を以て抹消してくださいーー〉






「水晶大陸、第二段階。バカな……、ソレは成立しえないはずだ……!! あのヘラクレスですらも、10度死に心象から逃れるのがすべてだったはずだ……ッ!!」


 本気で驚いているのだろう、当然だ。

 ギルガメッシュが余興と断じたほどの、異常事態。

 全てを見ることなどできない彼にとって、ペルカルドにとっては其れは不可能であり不可解。

 だが、黒狼は違う。


「『なら、耐えられるほどに()()()()()()()。最弱は最弱なりに、その総てを注ぎ込んだだけだろうが』」


 居合い、抜刀。

 火炎が迸り、世界を焼く。

 月湖の騎士はその刃を受け止め、初めて目の前の男を知った。


 黒狼という、この世界に訪れた最悪を。


「『さぁ、ぶち殺すぜ?』」


 ソレは悪意か、或いは好奇心か。

ゾンビ一号復活の理由。

1、ロッソが泥人形を作っており器として使えたから

2,そもそもゾンビ一号は死亡しているわけではなく、生きていない状態にしているだけだから

3、魔道戦艦『ワルプルギス』が稼働しておらず、待機状態だから


めちゃくちゃ簡単に言えば、実質生きてるから魂だけ呼んで器に入れれば力を取り戻せるよね。

という、訳の分からないことです。

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