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Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
一章下編『一切の望みを捨てよ』

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Deviance World Online エピソード6 『千子村正』

お詫び

SFに興味ない、作者の戯言に興味ない、主人公たちの戦いだけ見たいという方は前半を無視してください。

分かりやすく空白があります。


それ以外の方へ

・・・着いて来れるか?

 一刀、一振り。

 そのこと如くが、致命に至る必殺たらん。

 たとえステータス差があろうともソレは違いない、究極極限に至った技巧で成し得た太刀はレイドボスにすらも拮抗できる。

 ただし、其れは剣で防がれなければの話だ。


「『点敵穿責』、『万里一刀』っ!!」

「『ダークプリズムプリズン』」


 スキルの連続的な発動、だが一つの魔法にソレは踊る。

 レイドを前提とした強さを持つ月光の騎士、たとえ弱っていたとしても現段階のプレイヤーがタイマンを張れる存在ではない。

 背後から降り注ぐレイピアの魔術に空中を待って到来する斬撃の魔術、モルガンが展開したそれらは確かにペルカルドに向かって突き刺さる。

 だが、有効打ではない。

 黒狼の『第一の太陽』や、村正の一太刀のような一撃で盤面を塗り替える攻撃でなければやはりSTRなどの関係から有効打にはなりづらいだろう。


「やはり、手前さんをねじ伏せるには至高の一太刀か究極の一振りでなければ駄目みたいだな?」


 そして、その言葉は強がりだった。

 そんなもの、用意できるのならば村正はここに居ない。

 究極、至高、いずれも存在せぬからこそその座に居座っている。


 言い換えれば、コレはある種の敗北宣言でもあった。

 自分の力ではペルカルドに能わないと、自分の能力では月光を切り裂けないと。

 そう、言っているに等しい。


 まさか? そんなわけが無い、もしも村正がその言葉を吐くような男ならば人間国宝と呼ばれる柳生に擁される鍛治氏ではない。

 妖刀を作りし、刀工がそのような矮小な存在であるわけが無い。

 彼という人間が、その程度の器に収まる道理などあるわけはない。


「ならば魅せてやろうじゃねぇか、儂の『至高』って奴をよ」

「ほう? 汝に一体、以下程のことができる? たかが鬼風情が。所詮は鍛治士風情が、一体何を?」

「別に、大したことは出来やしねぇよ。だけどな、月光の騎士」


 剣を突きつけ、村正は振るう。

 剣戟、居合、間合いが触れ合い火花が散る。

 勝負は一瞬、されども結果は明白。


 村正が鍛え抜いたその刀は、既に砕かれた。


 耐久力の減少、直接的な原因はそれしかない。

 基礎火力が違いすぎる、碌に打ち合ってもないと言うのに砕かれたのだ。

 故にこそ、これは予定調和であり絶対的な乗り越えるべき壁。


「手前の攻略法は、既に見えてるんだよ」


 砕かれた二刀をインベントリに収納し、腰に差していた二刀を抜く。

 構わない、使い潰す。

 その意思があり、それに足る相手である。

 勝てる相手ではなくとも、勝ち筋は見えている。


「さぁ、時間を寄越せ!! 儂が、俺の境界を見せてやるっ!!」

「なるほど、汝の心象。確かに、それならば私をも攻略できようか」


 最も、月光はそれを許さないが。

 

 心象世界、心の在り方を演算領域に押し付けマクロたるこの現実世界を自分の精神性の観測と言う形で塗りつぶす。

 既存領域の侵略、世界に対する冒涜、故にこそ世界に対する絶対的な優先権が或る。


 その話をするためには、現実世界で提唱された理屈が幾つも必要だ。

 これは根本的な話、脳機能の話であり記憶や感情という曖昧模糊なモノを元に組み立てられた精神論などではない。

 実際のところ、現実に於ける脳機能の解明はハワード・F・ラヴクラフト博士が最後となるが与太話じみた研究結果はいくつも存在している。

 コレは過去に提唱された文献からも明白であり、特に有名なのは2158年にガリウス博士が提唱した世界空洞説や2541年のバリガン教授が発見した脳のパラドクス領域などを元にすれば分かる話だ。

 もちろん、どちらの説も学会では異端扱いであり真実として話を組み立てるなら実在世界の不安定性が露呈する。

 それ以前に同一研究による同一結論が他学者によって出さなかったのも問題とされている要因だろう、とは言えこの辺りは仕方ない話でもあるかもしれない。

 脳と言うより認知認識と言うものは非常に移ろい易いものであり、実際に同一存在を認識していたとしても挙げられる結論は全くの別物になる。

 生物研究、動物研究などを専攻とする人間であればコレは酷く納得できる話だろう。

 実際に本能の範疇を大きく変えた行動を意図的にさせる場合、指数関数的に行動パターンは増殖し複数の結論に回答は分岐する。

 逆に、脳機能が酷く単純であれば幾ら複雑であったとしても多個体が同一結論に陥ることはある。

 詰まるところアレだ、迷路内で迷った時にとりあえず左に行くように本能が設定されているのならば全員同じ経路を辿るだろうと言うヤツだ。

 とは言え、そう言う謂わば脳機能が未熟であり発達仕切っていない存在は現段階でこの話題の外だ。

 人間や、そこまで行かなくとも魚類ですら一定以上のランダム性は併せ持つ。

 昆虫でも条件次第のランダム性は持ち合わせている、のだが昆虫の脳メカニズムはこの話題の最低ラインに立っていないので無視しよう。

 

 大きく話が逸れた、元に戻そう。


 つまり、何が言いたいかと言えば全ての存在が全ての事象を同じように認識するわけではないと言う事だ。

 それは同一存在に検証したとしても、同じと言える。

 もちろん、これを何億何兆何京と試行回数を増やせば99%や或いは99.999999999999999%同一の回答となるだろうが重要なのは末桁の9に不足している1であるのでここでは省かせてもらう。

 全ての存在が同一の認識をしている訳ではない、これはある意味この世界と言う法の穴であり現代のVRCにおける最大の問題点ともされる。

 実際のところでは、2000年代から少なからず話題に上がっていた読解力の欠如と言うのがこの点に入るだろう。

 読解力とは認識、読解力の欠如とは認識能力の低下を誘引する。

 この事実は1000年経過した在来人類でも大きく変化はない、読解力や個人の思想感想に依存する学習は社会全体の利便性が向上しても改善するのは難しいのだろう。

 もしくはある種の豊富な情報媒体に手軽な形でアクセス出来ることから、作者が示そうとした一定の回答から大きく外れるような思考が可能なのか。

 現代社会に対する問題定期はほどほどにしよう、結局ソレは無意味な話であり現代を生きる人間が社会を新ためんとする意思がなければどうしようもない話であるからだ。


 何が言いたいかと言えば、認識だ。

 認識こそが世界を侵食、或いはこの現実を改竄可能な唯一のアクセス方法である。

 我ら生命体、或いはどれほど極小であれども『精神』を持つ存在は自己パーソナル領域に絶対的な心象を有している。

 ソレを映像化、画像化、具現化させる方法は未知数にして非論理的な方法を行使せねばならないがカスルブレホード波を用いた実験ではいくつかの他者認識を映像化することには成功した。

 そう、心象に関してはゲーム内のみに存在する虚構ではなく確かに現実世界に有り得る話なのだ。

 だがその心象世界にアクセスすることは酷く困難かつ、理論的には不可能に等しい。

 自己パーソナル領域は、その名前の通り絶対的な自己からなる自分自身である。

 言い換えれば、他者を受け入れる猶予のない領域。

 別の解釈や、別の認識を擁することがあり得ない防衛機構と言い換えてもいい。

 自分という存在の骨子であり、自己存在の肯定そのもの。

 もしもその領域を他者に公開するのならば、その存在はを自己以外の他者を自己以上に肯定し他者に依存した性質こそが己を構築しているのか。

 もしくはどれほど他者が干渉しようとも決して崩れぬ絶対的な精神性、或いはソレほどまでに強固な信念などを擁している可能性が非常に高い。








 そして、村正は絶対的に後者である。

 己が信念を、他者を顧みない絶対的な自己を持つ。

 少なくとも、刀剣に関しては。

 彼ならば、心象を開く資格がある。


 必要なのは時間だけ、時間さえあればその世界は開かれん。

 一切合切、切り伏せんとする最強に至る道は。

 既に、或る。


「俺に任せろ、村正ッ!!」

「『おいおい、俺を忘れてんのか? 月光風情が』」

「月女神の祝福を受けてる汝が言うか、骸の頭蓋が」

「『月光の祝福か、一切使ったことねぇよ!!』」


 時間を稼ぐ、そう告げて躍り出たのは黒狼だった。

 モルガンの魔術の展開よりも、黒狼の方がよほど遅延には向いている。

 黒狼、黒狼たちが闇から溢れながら襲いかかってゆく。

 その姿は幽鬼、その形は影。

 正しく、怪物。


「『ザンクト・ヴァルタール』」

「隷属系統、黒狼ッ!! エフェクトに触れれば魔術が崩壊しますよ、その術式も例外ではないでしょうッ!!」

「『魔力支配か、なるほど? 面白い事をするなぁッ!!』」

「分かりきってる話だ、エフェクトも回避すりゃいいってわけだろ? 時間稼ぎは任せろ。あれをメタるのは相当、厄介だぜ?」


 発生するエフェクトはペルカルドの全身を覆う、武器すら例外ではない。

 武装で受ければ或いは、いやそれでも厳しい所はあるだろう。

 そして受ければ、間違いなく一撃で葬られかねない。


「『【顔の無い人間(ジョン・ドゥ)】ッ!! 対象選抜はしてるんだろ? お前ほどの怪物ならな!!』」

「なるほど、私の皮を被ったか。黒染めの騎士ならばともかく、白銀に身を包む騎士など多くいる」


 ならば、その効力を無力化するまで。

 魔力の支配は確かに厄介で有り、正面で受ければ厳しいところがあるだろう。

 だから、立ち位置を変える。


 先程までそこに蠢く影は全て黒狼だった、黒狼と認識されていた。

 だがこの瞬間からは違う、ここに蠢く影の全てが月光のペルカルドである。


 もちろん、そんな欺瞞は通用しない。

 通用しないと言うより、絶対的な効力を持ち得ないのが道理だ。

 月光の騎士はここに一人しかない、レイドボスたるペルカルドはここに一人しかいない。

 その観測はもはや絶対、世界というシステムに認められている以上は騙しようがない。


 だから、システムを誤認させた。


 対象は黒狼自身、だけではない。

 黒狼が羽織ったのは本質の伴わない、嘗て存在したであろう名もなき騎士ペルカルド。

 そして『発動者たる月光の騎士ペルカルドには効かない』と言うシステムに対してはこう欺瞞した、『騎士ペルカルドには効かない』と。

 普通ならば致命的ではない、致命的ではないはずなのだ。

 この程度の欺瞞で崩せるほど、魔力化できるほど魔法とは単純でなくスキルとは単純でない。

 だが、この時ばかりは相手が悪い。

 黒狼という、圧倒的なまでのイレギュラーが。

 ヘラクレスという怪物を殺した内の1人が、ペルカルドを本気で相手にしてるのだ。

 全てを殺し尽くしたとしても、この男は尚食らいつくだろう。

 この世界を盤上の遊戯程度にしか思ってないからこそ、誰よりも本気になれる。


「『さぁ、フェーズ2だ。今の俺は、お前にどう見える?』」

「認識の改竄、世界との見解の相違だな。未だ、私には汝が影に見えるぞ?」

「『だが、世界はそう思ってないみたいだぜ?』」


 顔の無い代行者、顔の無い代弁者、顔の無い執行者。

 姿形はあれども本質はない、本質は捉えられても姿がない。

 記憶に残らない記録、改竄された改竄事項。

 虚ろの真、真から出た嘘。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、これこそが黒狼の『顔の無い人々(ジョーン・ドゥ)』のチカラ。

 姿がブレ続ける、黒狼と白銀の鎧を纏った騎士との姿が二重に見える。

 黒狼が『顔の無い人間(ジャン・ドゥ)』を解除しない限りは絶対に、必ずブレ続けるだろう。

 世界が騙されているのだ、個人がソレを覆せる道理などあるわけがない。

 もしかすれば、世界に干渉しシステムに再演算させれば黒狼を正しく認識し直す可能性はある。

 だがしかし、そんな事象は起こり得ない。


 村正が目を開けた、己の心の形を正確に捉えた。

 刀を握り直し、構えを解く。

 やるべきことは単純明快、そしてやれることもただ一つのみ。


「へぇ、準備は整ったようね? 村正」

「お陰様で、な?」

「そう言う事なら、部隊を譲ってやろうか」

「へっ、随分と偉そうじゃねぇか」


 一歩踏み出す、二歩抜刀。

 三歩至るは、四歩(しほう)に刀剣。


 ペルカルド(こくろう)の一人が切り裂かれ、月光の騎士の太刀筋が通る。

 その一手で村正を守るべき二振りの刀は砕け散った、だがもはや役目は果たした。

 残るは、心火のみ。


「『焔を宿し、我が身を投じ』」


 詠唱が始まる、もはや彼を止められる存在はいない。

 絶対たる心象、絶対たる至宝、絶対たる一太刀。

 その刄は、現世を燒く。


 衆生万物、三千世界の天地に輪廻。

 驚天動地の至高が逸品、震天動地の至高が一振り。

 もはや無理としか言えない、遊戯や戯れの領域は超えた。

 身が焦げ燻りながら、己が信念を貫き通した業がある。


「『幾重に鍛えた玉鋼、宿業を以ってここに成そう』」


 胸から、村正の胸が輝き刀剣の柄が出てくる。

 いや、柄ではない。

 柄に収まるべき鋒、剥き出しの刃。

 鍛造されたばかりの、刀がある。


「『此れなるは、古今無双の妖刀なり。【魂魄刀・千子村正】』!! 我が魂の真髄、存分に味わいやがれ!!」


 それは、正しく妖刀であった。

結構ね、色々書いたけど殆ど蛇足だったりします。

アレだよ、書きたくなったから書いたんだよ。


そして次回、村正の能力説明ターン……。

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