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Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
一章下編『一切の望みを捨てよ』

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Deviance World Online エピソード6 『水晶大陸第二段階』

 アルトリウスの脳裏をよぎるのは、尽きることのない疑問。

 一体目の前の存在が、どのような存在になったのか。

 考える、与えられた猶予は少ない。


「『串刺し(カズィクル)


 当然、レオトールが動かないはずがない。

 空間を蝕むように生成された槍が、ガウェインに突き刺さる。


 アーツと共に発動された一撃、先ほどまでの瀕死がウソのような動きで放たれた一撃を避けれる道理はない。

 腹部を深々と貫かれ、ガウェインは空中に磔にされた。

 串刺し、その言葉のと


侯爵(・ベイ)』」


 まさか、もしも『ワールドエンド(世界の終わり)』に対してその程度の認識しかしていないのならば。

 改めるべきだ、その命を。


 貫かれた部位から、無数の水晶の杭が発生する。

 それは無限大にも思えるほどに伸びてゆき、次々と周囲の生物を串刺しにし。

 一つの城壁を築き上げる、水晶という環境で構築された。

 あまたの生物の磔で完成する、串刺しの城壁を。


「嗚呼、なるほど。今だから理解できる、コレが世界か」


 レオトールの呟きは、誰に向けられたのか。

 誰も知る由がない、或いは単純に独り言かもしれない。

 ただ一つ言えるのは、今のレオトールは人間の視座にいないこと。

 例えるならば、彼の英雄の王。


「ギルガメッシュ、貴様の言っていた余興はコレだな?」

「ほかに、何がある? 戯け」


 黄金の流星、地面に落ちてくるように降臨した一人の怪物がニヤリと笑う。

 今までは着込んでいなかった鎧を纏い、片手には剣を持ちながら。

 それでも、この状況に悦を感じたのように愉しむ。


「そうか、では一つ。私の視界の範疇に入るな、貴様が居ては本領を発揮しかねん」

「構わん、許す。もとよりそのつもりだ、規格外」


 レオトールは視線を外す、背後に聳え立った水晶の城壁を一瞥しそのまま空間を侵食する。

 それだけで、彼の手には水晶で完成された剣があった。

 手によく馴染む、いつも使っているあの水晶剣と同質の武器が手に収まっている。


 絶対に毀れず、耐久度も存在しない、生きている武器。


 僅か半刻ばかりしか触れていないとはいえ、懐かしさすら感じる。

 生涯、ソレを得てからは一瞬たりとも離したことのない武器。

 むしろ、無い方が違和感を感じる。


 一歩踏み出す、地面で目を見開きながらレオトールを睨むアルトリウスを見た。

 恐怖か、それとも理解できないが故の感情か。

 すくなくとも水晶に対して本能的な拒絶と生物的な不可解による困惑があるはず、だけどアルトリウスは震えながらに剣を握っている。


「騎士王、アルトリウス。敬意を示そう、その信念とその意思に。未熟で若く未だ道半ばではあるが、確かに貴様は私が本気を出すに値する相手だった」


 レオトールはそう告げる、本気を出すに値する相手()()()

 その言葉は端的ながらにレオトールの今の状況を、超越した視座による認識を告げている。


 その領域は、全力や本気など出せる領域ではない。

 規格、段階が一つ二つ違う。

 少なくとも、視覚の時点でアルトリウスは理解できはじめた。


「じ、地面が……」


 レオトールを中心とし、世界が水晶に置換されている。

 世界が、飲み込まれている。

 いいや、違う。

 それだけではない、それだけではない。


「もしも、名を与えるのならば今の私は水晶大陸第二段階とでもいうべきなのだろうな」


 スキル『水晶大陸』、この世界に存在する最古のスキルの一つであり。

 またこの星を脅かした生体兵器の能力、それに対する呼称。


 かつて、水晶大陸の効果を『ステータスの10倍化』などと言っていたはずだ。

 そして今、その説明を否定させてもらおう。


 スキル『水晶大陸』の真の効果は、心象の共有。

 この星に眠る、恒星規模のエネルギーを保有する存在が持つ心象世界と情景を共有し。

 数えきれない膨大な、矮小な人間からすれば無限に等しい値の魔力を得る。

 それこそが、スキル『水晶大陸』の本懐であり。

 そして、その副次効果で使用者はステータスが10倍加される。


「『極剣一閃(グラム)』」


 空中に、試しに放った一撃。

 ソレが空間を水晶化させ、空間が水晶に置換された。


 分かるだろう、水晶大陸第二段階は第一段階とでもすべきスキル『水晶大陸』とは一線を画している。


 水晶大陸第二段階、その効果は『心象世界:水晶大陸』の展開だ。

 世界を侵略し、世界に傷を与え、未だ世界に傷が残り、そして世界が対等と認めた心象世界。

 一つの環境の範疇にない、環境。


「何故、何故そうまでしてそこに立つ……ッ!! なんで君は命を賭けるッ!!!」

「誇りがあり契約があり、何より私は傭兵である。それ以上の、理由は必要か?」

「ああ、当たり前だ!! 君は死ねば次がないんだぞ!! 死んだら、一度死ねば二度と生き返れない!!!!」


 ある意味滑稽で、ある意味侮辱している言葉だ。

 だが、いいや。

 だからこそ分かり易いほどに分かる、その言葉に込められた熱意と本心を。

 彼を突き動かす、正義の正体を。


「君のような人間は死ぬべきじゃないはずだッ!! 少なくとも、少なくともこんなところで!!!」

「なるほど、まぁ随分と高尚を垂れる。それが貴様を突き動かす、信念。或いは誇り、合わせるならば正義か」

「ああ、そうだ」


 レオトールをまっすぐ見返しながら、アルトリウスはそう言い放つ。

 本能的恐怖、生物的絶望を感じているはずなのに。

 そんな様子を一切見せず、聖剣を握り本心から言い返した。


「そう、か。そうか、クク……。ククク……、ははは……」


 レオトールは笑う、忍ぶように冷たく笑う。

 そして、そのまま剣を伸ばした。


 切っ先を、アルトリウスの顎に突き付ける。


 一瞬でも動けば刃に当たる、これほどのステータス差があれば戦いにはなりえない。

 当たれば即死だ、STRが20000に及ぶ今の火力を受けて命を保てる自信があるのならば別だが。


「正しさ、正義、貴様の唱えるソレは万人の安寧か。はは、笑わせてくれる。笑わせてくれるではないか、『騎士王(アルトリウス)』」


 徐々に水晶が世界を侵食した、世界が蝕まれアルトリウスにも届く。

 生きた感触すらない冷たさ、ソレを肌に感じながらも。

 それでも、アルトリウスは剣を握り込む。

 偏に、己が正しさを主張するため。

 己が信念を貫かんと、するために。


「如何なる道理、如何なる道義をもってしても。我ら人は弱者の尊厳を踏み躙り、強者の道理を歩まねば生きて行けん」


 剣を、横に振るう。

 アルトリウスは反応できない、首を横一文字に切られ鮮血が舞う。

 地面に転がる頭部を見ながら、レオトールは聖剣を拾い。

 そして、言葉を続ける。


「何たる愚かか、生きるという行為は」


 握る聖剣、悲鳴染みた拒絶と共に聖剣はレオトールを拒絶する。

 だがソレも一瞬、急速に刃は大人しくなり彼を担い手として受け入れた。

 聖剣内の魔力が反芻され、レオトールの緻密極まる魔力操作によって極光を織りなさんとする。


「その命、頂戴するッ!!!」


 真っ先に向かってきたのは『アイアンウーマン』たるポッツ、だがただの人間がレオトール(怪物)に敵う訳がない。

 整列した魔力は、一瞬にして解き放たれ彼女の半身を穿ち。


 レオトールはさらに、彼女の体を切り裂いた。

 鮮血が飛び散り、苦痛と絶叫と恐怖が木霊する。

 余波でプレイヤーどころか地平が穿たれ、ボロボロと土塊が崩れ去り。

 地獄の様相の中で、アルトリウスは復活した。


 世界は、世界の滅びを忌避する。

 如何なる手段を以てして、余りあるリソースを使い果たしても。

 世界は、滅びを回避しようとする。


 今、この戦場でレオトールに殺されたプレイヤーは僅か10秒で復活するようになった。

 黒狼と同じく、僅か10秒で。


「さぁ、命は掛けたぞ。貴様は、何を賭ける?」


 その問いかけ、その意思は不鮮明かもしれない。

 ただ一つ、分かり切った事実がある。


 殺せ、レオトール・リーコスを。



***


「ひゃっほう!! お茶はお茶でも御茶漬けに合うお茶って結構少ないと思うんだよ俺は!! だから俺は伝えたい!! 調理用チョコレートを調理前の状態で渡す奴はサイテーだと!! 240グラムのチョコをどうやって消費すればいいんだよいい加減にしろこの怒りを全力でぶつけてやるからな!! ゆるさないかんな!! どうも黒狼だyo☆彡 夜露死苦、っていう訳でいい加減にダメージ食らいやがれこの糞野郎が!! 戦闘時間間延びしてんだよ、あくしろっての!! へいへい黒騎士とか名乗りながらそんな真っ白な鎧来て恥ずかしくないの? え? 純白鎧の第二形態とか用意していて恥ずかしくねぇの? 恥ずかしがれよ!!」

「「「黙れ、黒狼!!!」」」


 一斉に怒号が飛び出す、モルガンと村正とネロの声だ。

 時間は再び若干遡り、黒狼と月光の騎士ペルカルドとの戦いに巻き戻る。


 黒き神、ジャガーなるナワルの姿に変貌した黒狼が叫びながらに攻撃を放っていた。

 勿論、言葉の意図はくみ取るだけ無駄に決まってるだろう。

 黒狼の言葉に意図はない、あるいは意図はあってもどうせ忘れてる。


 四方八方、パーティーの全員から怒鳴られ一瞬だけ黙った黒狼。

 その次の瞬間に迫る攻撃を、思いっきり剣で弾いた。


「しかし、本当に強いなレイドボスめ!!」

「というか何で普通に喋れているのですか……?」

「しってるかい? 思考入力と自動読み上げ機能と自動読み上げ機能の音声切り替えと音声収録と読み上げ音声をスピーカーにさえしてれば喋らずにしゃべれるんだぜ?」

「嗚呼なるほど、なので妙に棒読みなのですか」


 簡単に言えば、自動読み上げbotを自分の声でさせているということだ。

 ちなみに製作時間で5時間ぐらいとられている、純粋に興味だけで作成したという裏話はここでいうべきではないだろう。

 ともかく、コレが黒狼が喋れている理由である。


「『一刀断罪』」

「マジかお前ッ!!?」


 黒狼は飛び上がり、モルガンは防御を選択する。

 次の瞬間には溢れんばかりの光輝が集い、一閃が飛来した。

 攻撃という攻撃、衝撃という衝撃がモルガンを襲う。

 だがそれでも彼女は、攻撃を防御しきった。


「ナイス!! 流石モルガン!!」

「誉め言葉は、不要です」


 地面を加速しながら疾走する黒狼、ペルカルドの背面から村正が刀を振るう。

 正面ではモルガンが、右側ではロッソがゴーレムを動かし包囲を決めた。

 ペルカルドは軽く息を吐く、直後に剣を動かした。


「中々、一丁前じゃねぇか」

「『【両断】ッ!!』」


 黒狼の攻撃を右腕に展開した盾で防ぎ、村正に一太刀を浴びせる。

 背後に迫るゴーレムの攻撃は魔法『ダークシールド』で無力化、モルガンの一撃は見逃すしかない。

 横からの爆撃をもろに受け、ペルカルドは数歩横に動いた。


「『【煌めく爆撃(エクスプロージョン)】爆縮と共に、火炎は火花を散らす』」

「『理を綴る、影は即ち剣となろう【舞い踊る黒剣】』」


 モルガンの後述詠唱、同時に黒狼が空間に剣を展開した。

 飛来する黒い剣をペルカルドは弾く、一撃一撃の重さはさして。

 だが、その行動で隙が生まれた。

 声が響く、ネロの歌声と村正のスキルの発動が。


「『兵法・五輪』ッ!! 『地の巻』!!!」

「『万雷の喝采よ、歓喜を謳うがよいッ!!!』」


 地面を踏み躙り、続く一撃は衝撃が通り過ぎる。

 歌い舞う演舞、黄金の劇場は激情で包まれていた。

 この、最上の戦闘を祝福するかのように。


「テンション爆上げだな!! ネロのやつが原因かな!? こりゃやっべぇぞ」

「思考が駄々洩れです、少し冷静になりなさい。もっとも、ソレが出来れば苦労はしませんが」

「うむ、良い激情であるな!!!」


 激情を駆け抜ける、狂気狂乱の笑みを浮かべながら黒狼が走り回り。

 その加速を利用して、一気にペルカルドに迫る。


 速さとは力だ、きっと。

 そして早ければ早いほど威力は増す、多分。

 つまり早けりゃ強いのだ、知らんけど。


「☆必☆殺☆」

「『【暴走】』」


 黒狼は取り出した鉄板に刻まれた魔法陣を開放する、それは『第一の太陽』を劣化させた魔法陣。

 剣と共に突き付けた魔術、回避はおおよそ不可能。

 もしかしたら可能かもしれないが、ペルカルドは回避を選択しなかった。

 第三の選択肢を、彼は取る。


「『カウンター(極)』」

「へぇェ!? そんなのありかよ無しだろ梨だよ上手いよきっと!!?」

「ちょっと本当に辞めて!! その言葉が思考のノイズになるんだけど!!」

「そういわれても困るんだが?(憤怒)」


 反論は聞き届けない、それがこのパーティーの主義だ。

 ついでにシリアス展開はゲームに不必要、はっきりわかる。

 ペルカルドの攻撃、カウンターを黒狼に避ける術はあまりない。

 だからこその、水晶剣での防御。

 絶対に毀れない、衝撃に変換される剣など攻撃手段として使うのは間違ってるに決まってる。

 実質防具だ、きっと。


「ふぃー、あっぶねぇ。殺す気だとか、サイテー」

「未だ、手緩いな? アンデッド」

「『手を抜いてやってんだよ、ちょっとだけな?』」


 黒狼の言葉、それごと両断するように到来するペルカルドの攻撃。

 だが間に割って入ったロッソが、ゴーレムを壁にし防がせる。

 この中で最速は黒狼だが、最も弱いのも黒狼だ。

 というより純粋に防御力がない、黄金の劇場のバフ込みでも真正面から当たれば一撃で沈む。

 もはや弱いというか、脆いというのが正解だ。


「『台地よ、泥人形を祝福したまえ』」

「サンキュ、ロッソ。ついでに次の攻撃も頼むわ、このままじゃ俺も死んじまう」

「もうほんと、注文の多い男ね」


 ゴーレムが動く、だがペルカルドの方が早い。

 ロッソの詠唱により傷がふさがる、それより早くペルカルドの斬撃が発生した。

 ソレを横目に、村正の刀を奪い黒狼が放つ。


「『【一刀両断】、ってな?』」


 黒き閃光、煌めきなく発するは斬撃。

 ハッスルしながら乱舞する黒狼、懺悔の一つでも語ってほしい所だ。

 だがそんな時間もない、なので懺悔するよりもダメージを稼げ。


「oh、まじか。結構いい線行ったと思ったんだが、二桁限界とかVITが高すぎんだろ」

「返せや、馬鹿野郎」

「『【刺突】』」

「悪ぃ突き刺したから返せねぇ(笑)」


 青筋を立てる村正、黒狼は水晶剣を握りなおす。

 第二フェーズ、後半戦は此処からだ。

前半と後半の温度差で死ぬって? 文句は黒狼に言ってください。

あと240グラムの油マシマシカタメ料理用ホワイトチョコを渡してきた母に感謝と呪いあれ

主人公に作者の心を代弁させる作品に呪いあれ

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