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Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
一章下編『一切の望みを捨てよ』

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Deviance World Online ストーリー5『骨が如き』

「半身を、撃ち抜かれたか」

「……君の敗北は、今この瞬間を以て決定した。大人しく敗北を認めてくれないか」

「クカ、馬鹿を言え」


 狂笑、虚ろに虚空を彷徨う目線。

 レオトールは体の半分、あるいはそれ以上を消し飛ばされて立っていた。


 脇腹、肋骨、肩関節から右腕の全て。

 股関節、唯一脊椎は免れているがもうほぼ誤差だ。

 少なくとも、レオトールはそれだけの範囲を。

 身体を縦に割り、その左半分を殆ど消し飛ばされた状況で。


「未だ、立っている」


 そう、地面に両足を付けて。

 壊れたブリキのように、動いている。

 聖剣『エクスカリバー』の一撃を、準古代兵器の一撃を受けて未だ立っていた。


***


 何故、レオトールは聖剣『エクスカリバー』の一撃を()()()()()()()()()()

 万全でなくとも、レオトールは北方最強の名を欲しいがままにする怪物。

 聖剣からの砲撃ともいえる火力を放つ際に必須となる魔力を鑑みれば、その膨れ上がる魔力を認識できないはずがない。

 なのに、何故無様にもこうして直撃してしまったのか。


「転移、か。対価魔術による転移技法、その威圧には覚えがある。知っているぞ、金銭の神か。貨幣を対価に、転移して放ったな? その一撃を」


 虚ろに揺れる目が、無様に反転し続ける視界の光輝の全てが。

 目の前で悪辣な笑みを浮かべる一人のプレイヤーを、然りと認識する。

 宿っている感情は、憎悪かそれとも別物か。

 判断することすら、できないだろう。


「見事だ、嗚呼」


 本気で、戦っていた。

 アルトリウス、騎士王。

 グランド・アルビオンの王権そのものである聖剣『エクスカリバー』の担い手、或いは。

 黒狼が倒すべき敵の姿を、そこに見る。


「貴様が、騎士王。『騎士王』アルトリウス、貴様がそうだな」


 一歩踏み出した、次の瞬間に地面に膝をつく。

 身体に張り巡らされる神経の電気信号による伝達が、もはや成立しえない。

 起死回生の逆転劇などないほどに、傭兵は此処で倒れている。

 ポーションの一つでもあれば、否。


 もはや無駄だ、この状況を覆せるモノなど存在しえない。


 そのはずなのに、そうであるはずなのに。

 北方の傭兵は、未だ立ち上がる。

 その半身から、内臓を零しながら。


「さぁ、名乗れ。貴様の、名を。騎士王、アルトリウス」


 血濡れの相貌、血みどろの泥中。

 その最中で、白き傭兵は立ちはだかる。

 己が誇りと契約のため、その存在を賭けて立つ。


「我が名は、僕の名はアルトリウス」


 騎士王は、その言葉を受諾した。


「グランド・アルビオンに立った血盟(クラン)『キャメロット』が1人、円卓の王。騎士の王、アルトリウス」


 聖剣を握る、光輝が収束して聖光が湛えられる。

 それは、絶対的正義であり絶対的調停。

 もしくは完全なる、正しさの証左。


「投降してくれないか、命を捨ててまで君がここを守る道理はないだろう。すべての事情は知りえないが、だがそれでも」

「笑わせるな、騎士王」

「何を……?」

「北方の傭兵が、誇り高き牙が。一度受けた依頼を命惜しさに投げ出すなど、ある訳がないにきまってるだろう。もしも、この先一歩でも進みたいのならば」


 一歩、踏み出した。


 先程の武装はもう壊れ、手に持ち得ない。

 レオトールのインベントリに残る武装はただ二つ、一つは『毀れずの絶世(ドゥリンダナ)』が。

 もう片方には、『燃える炎門(テルモピュレイ)』が握られている。

 槍と、盾が。

 残った右手に、その二つの装備を付けて。


「来たりて、取れ」


 空に飛ぶ、脚力の限りを尽くして空に舞う。

 バランスが崩れたその体では、それ以前に心臓が露出しているこの状況でまともに動けている状態の方が異常だ。

 異常であるはずなのに、なのに当然のように槍を振るう。

 依然、ここにレオトールは健在であるかのように。


 勿論、そんなわけもない。

 アルトリウスは、その槍を己が聖剣で払い。

 続く足蹴を、腕で受けた。


「嫌だ、僕はNPCを。殺すべきでない、註すべきでない存在を殺したくはない」

「ならば、死ね」


 絶世たる毀れずの槍と、究極の聖剣が交差する。

 これほど瀕死、これほど限界にもかかわらずレオトールはそれでも互角以上だった。

 一騎当千万夫不当、過去未来現在含めこれほどまでにもなって戦い続けた存在は居るのだろうか。

 いや、居るはずがない。

 その半身が消え去っても、それでも戦い続けれる怪物なぞ。

 居ては、いけない。


「何故だ、何でそこまで死のうとする!!」

「死ぬ気など、毛頭ないとも」

「なら、何故そうも!!!」


 だが、形成が覆るはずもない。

 腕一本の力ではいくらステータスで勝っていても、特にこんな状態では受けきることも出来はしない。

 敗北は絶対的でしかない、だけどもその敗北を覆すかのような気迫がある。


「何故、そんなに戦うんだッ!!!」


 アルトリウスの叱咤は、レオトールに届くはずもない。

 そもそも、レオトールはそのように。

 他者の精神性に同調呼応するように、デザインされていない。

 唯一例外的に、そんな怪物に影響を及ぼせたのは黒狼。


 黒狼という、何処までも交わるはずがなかった運命線を持つ存在だけなのだ。


 黒狼とレオトールは、互いを互いに理解者としている。

 行動理念、行動原理に対しては一切の思考の理解が不可能でありながら黒狼はレオトールの。

 レオトールは黒狼の、行動の結果だけは予測できてしまう。

 何処までも交わる訳がなかったからこそ、だからこそ運命を見ているように互いの行動の結果を理解できてしまう。


「何度も言うな、聞くに堪える」

「……何を!! 命は、惜しくないのかッ!!!」

「惜しいさ、それがどうした?」


 レオトールの槍が、アルトリウスの髪を薄く切り裂く。

 だが、言い換えればそれがレオトールの限界だった。

 もはや限界、もはや極限。

 ありとあらゆる技の限りを尽くしてなお、そこに立つプレイヤーに敵わない。


「仕方ない、実力行使だ」


 聖剣に光が湛えられる、刀身が薄く輝きレオトールへと到来した。

 レオトールはその攻撃を、確かに防ぐ。


 直後に、魔力が揺れた。

 レオトールの武装が破壊された、レオトールが用いている『燃える炎門(テルモピュレイ)』が砕け散ったのだ。


 聖剣エクスカリバーが纏い放つ『仮想』属性は既存のあらゆる属性と異なり、この世界に対して絶対的優先権を保有する。

 簡単に言えば、その攻撃はステータス差による防御がほぼ不可能に等しい。

 そして、如何にギルガメッシュが齎した武装といえどもその法則から逃れる事は不可能だった。


 特殊アーツ、『燃える炎門(テルモピュレイ)』が解除される。


 レオトールの背後で常に炎を宿していたその炎門は、先ほどまでの盤石さが嘘のように崩壊していく。

 レオトールが黒狼と交わした契約は、目の前の騎士の王の尽力によって崩された。

 残る時間は五分、レオトールが契約を完遂するその瞬間までは残り五分もある。


 頭の中で、様々な情景が巡り浮かぶ。

 生きるために己を裏切った元仲間、その愛が故に己が命を捨てた仲間。


 そして、何よりも己を信用し信頼していた黒狼によってその思いは打ち砕かれた。

 疑問視していた誇りに決別を告げた、そう思っていた。

 そんな決別など、最初からできていなかった。


 自分の無力さを、誇りの偉大さを噛み締め命ある限り足掻いてしまうこの身を呪いレオトールは消化試合を始める。

 その誇りは満たされぬままに、だがその強さは無類でありながら。

 体躯は徐々に力を失い、怒りは徐々に消えていく。

 戦いという興奮は時間と共に喪失していく。


『結局、自分は中途半端でしかなかった』


 そんな無力さを噛み締めた矢先に、再びエクスカリバーの極光が齎される。

 文字通りの実力行使、アルトリウスとてこんな所で時間を稼がれるわけにはいかない。

 だからこそ、駄目押しとばかりに極光を放ち。

 

 一気に意識が覚醒し、体は勝手に迎撃の体制をとっていた。

 失った片腕を補うようにもう片腕で剣を握り、あまりの力で震える槍でそのまま聖剣を迎撃した。


 だが、そこまでだった。

 レオトールにとって己の意思通りにその体躯が動いたのはそこまでだった。


 インベントリを開き、ポーションを出すよう意識し、より戦いを続けるためにソレを用いようとしたところで再び気付いた。

 もう既に、ポーションは使い切っていることに。


 同時に、血は溢れ出し足元には血溜まりが出来上がった。

 人外じみたステータスを持っているレオトールといえども生命の摂理には敵わない。

 朦朧とし始め、貧血により体がまともに動かなくなってきた。


 始めて、ここまで明確に死をイメージさせられた。

 内側から蝕まれるわけでもない、外部からの攻撃によって始めてここまでの命の喪失感を味わった。


 まともにやりあえば求められていた後、5分すらまともにやり合えない。

 そんな思考が脳裏を掠め、ここで一旦逃げてはどうかという弱気な自分が現れる。


 ああ、逃げるのも良いな。


 そう無意識に思考した瞬間に、槍が手からこぼれ落ちた。

 この戦いの終わりを示すかのように、レオトールの手から槍が零れ落ちる。

 まるで、北方での墓をしますように。

 レオトールの手からこぼれ落ちた槍が、地面に突き刺さる。


 薄れゆく思考が覚醒する、呪いとなった誇りが彼を蝕む。


 お前は此処で、生きるのか?

 己が仲間を殺したくせに?


 まるで槍が、自分に語ってくるように感じた。

 同時に走馬灯が走る、視界がぼやける。

 襲いかかってくる極光が見える、二度目をモロに受けて仕舞えば次は確実に死ぬだろう。

 だが、今此処で『水晶大陸』を用いて全力で逃げれば、その命を拾えるかもしれない。


 弱気な自分がそう心の中で囁いた時、レオトールの目に一人の男が映った。


 ソレは自分よりも遥かにか弱く、脆弱な骨だ。

 愚かでバカで理解ができない存在だ。

 だが、そんな奴が一言告げた言葉でレオトールは全てを察した。


覚悟は(Are you)いいか( ready)?」


 そう問われたら、こう返すしか無いではないか。


「出来ているとも。」


 男は、傭兵は不敵に笑う。

 その命、今此処でつきようとも。

 例え、その言葉を吐くであろう友が己が死を望んでなくとも。


 此処にいるのは『伯牙(誇り高き牙)』にして誰にも殺されず数多の戦場を潜り抜けた英雄なのだ。


 迫り来る極光を前に、いつの間にか手にしていた水晶を口元に持っていく。

 そうして、レオトールは水晶を。


 噛み砕いた。

ここまで読んできてくださった読者様なら薄々お気づきかと思われますが、後半の文章に違和感を覚えませんでしたか?

もし違和感を覚えたのならば、その違和感は正解です。

この文章は2023年十二月十一日に執筆されたものですので。


さて、終わらせましょうか。

永い長い一章を。


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