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Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
一章下編『一切の望みを捨てよ』

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Deviance World Online ストーリー5『騎士ども』

 衝撃、ソレは攻撃の成功を意味する。

 体を駆け巡る衝撃、ダメージに変換されるかと思った一撃。

 だが、その攻撃はレオトールの前では無意味だった。


 衝撃を地面に流される、本来生じるはずのダメージの大部分が受け流される。


 ダメージの発生、そのメカニズムは至って単純であり熟知すればこのようにダメージを減算したりすることも不可能ではない。

 レオトールが学んだ技とは、レオトールが生涯を経て鍛えた技法はその唯一に特化している。


「『騎士の名乗り』、『我が名はケイ』ッ!!」


 スキル発動、同時に体にエフェクトが発生する。

 騎士系列のスキル、その中でも発生条件が酷く簡単な代物。

 純粋な自己強化のスキル、発生する効果は全ステータスの微上昇。

 勿論、攻撃力も上昇するし防御力も上昇する。

 取得難易度はやや高いが、明確なデメリットの存在しないコレは取得して余りある効果であるとも言えるだろう。

 

「『騎士の誇り』、『騎士の名乗り』『我が名はギャラハッド』。ッ、グぅ!!?」

「囀るな、騎士」


 スキルの発動、名乗りの執行。

 ソレを無駄と断じるように、レオトールの一撃が飛んでくる。

 目で追うのも難しい、素早い一撃。

 これがスキルもアーツも使っていない通常攻撃なのだから恐怖すら感じられる、だがソレで怯えるキャメロットではない。

 目で追えなくとも、受けられる。


 手に響く衝撃、完璧に防御したはずなのにダメージが貫通する。

 レイドボス、ヒト型レイドボスと戦っているような気分にさせられるほどに規格違い。

 一撃の重さという重さが、常識の埒外の範疇である。


 ソレは、大地を穿つ石槌。


 怒号のような爆音、踏み込み一つで衝撃が地面を均す。

 跳ね返ってきた衝撃、踏み込みによって得られる力を用い柔軟な一撃へと変化させる。

 盾で受け止めても、先に盾が破壊されるだろう。

 肉体で受け止める、それこそ論外という話だ。

 死ぬ気でよけなければ、活は見いだせまい。


「『バックステップ』ッッ……!!?」


 伸びるように感じる拳を紙一重で躱す、だからこそ体の陰に隠れた次の槍を見落とす。

 顔面を正確無比に穿たんとする槍の一撃、躱すことは不可能? 否、可能。

 死ぬ気で出したインベントリ内の盾、ソレが刺突を衝撃に和らげた。


 地面に全身が打ち付けられる、むしろソレで済んでよかったと安心するべきだ。

 ギャラハットは一瞬気が緩み、そして引き締める。

 緩んでいる余裕などある訳がない、無理矢理にでも地面から起き上がろうとし。

 レオトールの足に、腹を踏まれる。


「先ずは貴様だ」


 一瞬で顔が青ざめた、この警告は彼の余裕ではなく必殺に足りうるだけの技を放つための時間稼ぎであることが否応なしに理解させられたから。

 それ以上に、肌を舐めるように轟く暴力的な魔力の膨れ上がり方を見れば否応なしに理解(わか)る。


 死ぬ、死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ。


 手が翳される、瞬間に彼のインベントリからナイフが現れ魔力が装填された。

 『魔力視』を用いずともわかる、下手な魔術師よりも高度で繊細な魔力操作を行っている事実が。

 その卓越した技法が、次の瞬間には自分の命を刈り取るという事実が。

 心を震わせ、怯えさせた。


「させるか、てのッ!!」


 モードレッド、彼女の剣がレオトールに叩きつけられたからだ。

 由緒正しい王剣『クラレント』の扱いがまるで金属バットか何かのようだが、ソレは一旦おいておこう。

 実際に、その行動はレオトールを怯ませるのに十分な動きであったのは間違いない。


 体感を崩され、横に飛び退くレオトール。

 技は不発に終了し、そしてようやく周囲に視線を巡らす。


「少し、邪魔ものが多いな」

「ハン、何を言ってやがる!!」

「そうだそうだ、この人数に敵うと思ってんのか!!」

「一斉に掛かれー!! 数で押せばどうにかなる!!!」


 プレイヤーに囲まれていた、その事実は驚くべき話ではない。

 だが囲まれているという事実を理解できていなかった、つまりは感知能力が低下しているという事実を指し示す。

 此れは、良くない。

 余りにも、良くない。


「少し、間引く必要があるな」


 言葉の強さとは裏腹に、自分の集中力の消耗から来る弱さが芽生えた。

 負ける気も、負けるつもりも、負ける未来もない。

 この戦場には無数の剣が刺さり、レオトールが勝利するという事実は確定している。

 あるいは、ソレを覆すほどの象徴がない限りは。

 レオトールの勝利は、覆すことができない。


 息を、呼吸を整える。

 連続的な戦闘、もはや戦闘時間は15と20の狭間に迫っていた。

 長時間の戦闘に分類される戦い、またある程度全力でなければ微々たるもののダメージが蓄積していく戦いでもある。


 回避特化ビルドはダメージに弱い、ソレがたとえ微量でも。


 レオトールはバランス型に見せかけた回避特化のビルド構築であり、ダメージ前提の過剰な攻めは行わない。

 防御という選択は彼の中では三番手であり、第一に回避、第二にカウンターである。

 だからこそ、この状況は望ましくない。


 インベントリを視認せずに整理する、脳内に何があるかなど叩き込んでいる。

 付属効果がある武器や、魔法陣が刻まれた武器は先の戦闘で消費した。

 故に回復を行う類の武装はない、勿論魔法陣が刻まれた板などもソコに含まれる。

 ポーションの類は先の『伯牙』戦で使い切っており、回復手段は自己回復のみ。

 食事などで行える回復は、戦闘中で満足にできる訳もない。


(つくづく天運がない日だ、まぁ王が死んだ日に天運がある訳もないか)


 内心で吐く言葉、夕刻に死んだ征服王の話は聞いている。

 喪失感はない、いずれ来る時だとは知っていた。

 一つだけの不満はある、同じ戦場に立てなかったという一つの事実だけ。

 それ以上の不満は、ない。

 誇り高く、彼の信念に沿って死んだのだろう。

 ソレは少しばかりの羨ましさがあり、だがそれだけだ。


 手を突き出す、思い出に浸るのもここまでだ。


 時間はあるようでない、自分の中で刻一刻と膨れ上がる不調は徐々に全身を錆びつかせるだろう。

 勝利条件を満たすのが、難しくなるであろうその時まで。

 全身を蝕み、錆びついたブリキにする。


「『絶叫絶技(ギャランホルン)』」


 そうはさせない、ソレは許さない。

 北方最強の名など最初から捨ててもかまわないが、この誇りだけは。

 傭兵として請け負った、信念と誇りの上にある約定の遂行という其れだけは。

 果たせないようにするわけには、行かないのだ。


 手に鎖が、『万里の長鎖』が握られる。

 誰にも防がせない、誰もが動くよりも早くに一歩踏み出す。

 放つ一撃は、世界に木霊する空気の絶叫。

 ダメージすら発生し、半ば強制的なスタンを付与する。

 絶対的で、絶望的なアーツのみで構成される最上の一撃。


「テ、テメェっっっつつつ!!!!!」


 エフェクトがキラキラと発生してゆく、VITが低いプレイヤーは其れだけで死亡したらしい。

 直線状にいた人間ならば尚更、発生するダメージの量は伺い知れない量となる。

 分かってはいる、レオトールという規格外にして『剣聖』柳生が真っ向から戦い敗北した相手だという事を。

 だがそれでもキャメロットの面々が死んでゆく惨状惨劇には、耐えられなかったらしい。


 もっとも、幾ら声を上げたとしても。

 敵う訳では、無いのだけれども。


 一歩踏み出す、レオトールの持つ剣には何の効果も付与されていない。

 それでも、人独りを殺すのには十分すぎる。

 五体全てが凶器に等しい、レオトールならば。


「全く以て度し難い、何だ貴様ら。自分の仲間がやられれば叫び、私を殺せば雄たけびを上げるのか? 何度も。何度も何度も何度も何度も生き返る不死身の如き化け物どもめ、その性根は如何程死んでも治らんのだろう。嗚呼、心底軽蔑するさ」


 彼にしては珍しい、本心からの呆れだ。

 もしくは呆れ以上に、目の前にいるバケモノ(異邦人)への軽蔑か。


 何度死んでも生き返る、幾度死んでも進んでくる。

 ソレは人類の中でも最高峰の、最強と言っていい戦士ですらも恐ろしいと感じるに相応の異様さであるのだ。

 少なくとも、半端にその理性に共感できるからこそ。

 黒狼みたく、レオトールにとって一切の共感ができない怪物怪人ならば別だろう。

 だがなまじ、その精神性は一定以上の共感ができるからこそレオトールは淡々と恐れを語る。


「聞いたぞ、如何なる拷問も苦痛なく逃れる術があり。そのくせ精神は我ら人間と同じく、だがしかし人とは思えぬ愉悦快楽に身を浸す。私が渇望の末幾人を殺し手に入れた力を僅か数週で己が力とし幼童が遊ぶかのごとくに振りかざす悪鬼逆賊に等しい悪行。そして異邦人同士で殺し合い、ソレを道楽とする精神の異常性。貴様らから見て私は何に見える? 乗り越えるべき壁か、何度も挑める弱者か。いや、そんなことすら考えていないのだろう? 分るさ、分かるとも。貴様らから見て私は所詮、鬱陶しいだけの塵芥だ。そしてその事実から目を背け、遊技として悦楽に浸る。何たる傲慢、何たる不遜。命の危機なく、精神の苦痛なく、何の誉れも何の使命もなく遊ぶ盤上遊技は楽しいか? 他者を無意図に害し達成感を得るだけの日々がそれほどまでに? その叫びその慟哭にどれほどの意味があるのか聞かせてほしい所だ」


 無駄か、或いは余計か。

 その言葉がこの戦いでレオトールにもたらす影響は酷く少ない、無いと言い切ってもかまわないだろう。

 何も言い捨てずにその首を切り裂くだけでも十分だ、だが敢えてレオトールは告げた。


 何故なら、拍子抜けしたからだ。

 戦う価値すら感じ取れない、少なくともレオトールにそう思わせるだけの戦いでしかない。

 だからこそ、レオトールは罵詈雑言を言い捨てる。


 信念を以て技を磨き、衆生万物を押しのけ己が意志を貫かんとする相手であれば。

 そこまでで無くとも、己が意志を以て剣を握り技を鍛えここにいるのならば決してこんなことは言わない。

 黒狼みたく、最初からこの世界を道化の劇と見立てたうえで全身全霊で楽しんでいるのでも構わない。

 だが、唯流されるままに意志も意図も思惑すらもなく剣を握り立ち阻まんとするその愚衆。

 余りにも、戦うに値しない力だけを持った民衆に呆れが過ぎた。

 真面目に戦っているという行為自体が、馬鹿らしくなる。

 ある種精神構造が類似しているがために、極限にまで張り詰めた精神の糸が緩み客観的な視点が無意識に生まれたために。


「な、なにを」

「グランド・アルビオン、白亜の国。最も美しい大国、何度も何度も耳にしたよ。北方にすらその噂は伝わってきたほどだ。そして実際に戦い、白亜の城の騎士たちはその総てが護国を胸に意志を刻み誇り高く死んでいった時にはその気高さに感動すらをも覚えた。だが貴様らはどうだ、何の意思で我が王に逆らい何の意図で私に牙を向ける? こうして剣を構え向かい戦っている気になっている貴様らに私だけが何故本気で戦う必要がある」


 そう告げ、襲い掛かってきた攻撃を右手で受け止める。

 淡々と、一切の感情の起伏無しに告げられたその言葉の数々は。

 十分にプレイヤーたちを激昂させ、煽りとしてはこれ以上なく十分であり。


「貴様らを見て、あの国がどうして美しく感じなくなったかが分かったよ。貴様ら異邦人が、穢したのだ」


 掴んだ足を握りつぶすとともに、心臓に手を刺し貫いた。

 彼は其れだけで死ぬ、未だスタンから解放されないプレイヤーは蹂躙されるのを見るしかない。

 力なく垂れた手に握られた剣を奪う、死体を地面に投げ捨てる。

 そして、レオトールは睨んでくるプレイヤーを見下し告げた。


「世界を語るという驕りはしない、ただ死ね。或いは、己に自責と自戒を刻み込んで」


 連続的に飛んでくる刃を、矢を、魔術を、魔法を躱し掴み防ぐ。

 長々と喋り過ぎはしたが、そのおかげで幾何かのスタミナもHPもMPも回復した。

 完全回復、万全状態には程遠く総量から見ればわずかでも今の瞬間には十分すぎる量。


 プレイヤー相手では、という前提条件が付くが。


 飛んでくる飛び道具を悠々と切り裂く、切り裂いていく。

 悉くを弾き躱わす、未来でも見ているかのように淡々と。

 只々一切の感情すらなく、作業的なまでに完成された動きで戦う。

 或いは、戦いですらない。


「コレほど空虚な戦いも珍しい、掛ける想いのカケラも無い戦いは」


 呟き、直後に死角へと放たれた一撃が一人のプレイヤーを射殺す。

 いくら大群、幾ら大勢であろうとも絶対的な戦力差は覆せない。

 人が何億と群れようが、星に敵わないのと同じように。

 今この瞬間、何百何千と集まろうと。

 武装したプレイヤーが僅か3000程度集まろうと、レオトール・リーコスという規格外には能わない。

 コレは嘘や欺瞞の類ではなく、確固たる事実に他ならないのだから。


 全身の魔力を活性化させ、自己治癒性を高めていく。

 次の瞬間には、残像を置き去りにする速度で拳が振るわれプレイヤーの一人を肉片にした。

 飛び散る骨と肉、そして血煙にて視覚を奪い未だスタンから逃れられない彼らを潰していく。

 同時にプレイヤーの武器をその手から奪う、不足した武器は戦闘で補充するのが彼の常。

 特にプレイヤー産の武器は質がいい、無駄な機能が凝っており過剰なまでの魔力を流せば相応の威力の魔法を破壊と共に発生させられる。


「『クラレント』ォォオオオ!!」


 モードレッドが叫び、剣に赤雷が生じる。

 余人、武芸者、NPCの騎士たちであればその攻撃は恐るに足るだろう。

 即席の剣術に相応の力が乗った、攻撃は。


「『極限一閃(グラム)』」


 だが、だからこそ相手が悪い。

 バチバチと肌に輝く剣は異様に目立ち、そして持ち主の視界すら防ぐ。

 短く発せられたアーツの言葉、次に行われるエフェクトの一撃。

 攻撃値を直接参照し、結果を押し付ける『極剣』は刃が触れていないにも関わらずモードレッドの体を両断する。


 胴体と両足が別々に地面を転がる、その様は無様殆極まっている。

 だがそれでも戦闘意欲は潰えていない、ポーションを飲み無理矢理再生しようとする。

 だから、レオトールは彼女の手首を切断しポーションを奪った。


「粗悪品だな、無理に効能を上げた結果に品質が追いついていない。発展性も、量産性もない無意味な品だ。まぁ、今はコレで十分か」


 そう告げるとモードレッドの頭部をトマトケチャップにして、ポーションを飲み干す。

 そこに立つのは最強、輝ける輝くべき一等星。

 誇り高き牙、北方最強の『白の盟主』たる存在。

 その事実をプレイヤーは知性ではなく本能で、震える魂で理解する。

レオトールは、このセリフの全部を抑揚なく無表情で喋ってます。

だから怖がられるんだよ、お前……。

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