Deviance World Online ストーリー5『破壊者 ギルガメッシュ』
「我が名は、イスカンダルッ!! 征服王イスカンダルなりぃぃィィィイイイイイ!!!」
「名乗りを返そう、我が名はギルガメッシュ。英雄の王たる破壊者ギルガメッシュ」
刹那、紅き閃光が飛来する。
『赤の盟主』エル・ドラコ、彼が地面を蹴り付け加速し英雄の王の喉元に迫ったのだ。
爆縮と共に、魔力の収縮と発散が発生。
つまりは、火炎がそこにある。
火炎が、そこにあるはずだった。
煤けた煙、吹き荒れる風がそれを蹴散らす。
煙の中にあるのは、エル・ドラコの剣戟を指先で受け止めたギルガメッシュの姿だけだ。
ギルガメッシュは指先で軽く押し返す、それだけで『赤の盟主』たるエル・ドラコは背後数メートルまで弾かれた。
驚愕に目を見開き、それでも笑みを浮かべる『赤の盟主』。
壁ですらない、一つの星がそこにあるかのような巨大さ。
超えられるわけがない壁、限界点にして臨界点。
そもそもステータスの差異が酷く、またそれを超えるための火力が不足している。
「よい、この気分により今宵は無礼講だ。いかなる形で我が命を狙うといい、相応しい一撃で死を贈ろう。現代に生きる英傑どもに、遙か古代の英雄の祝福をな」
「よもや、随分と豪胆であるな?」
「違いない、だが星に人が敵うとでも?」
訳もなし、人の領域では人は星に敵う事がない。
愚かにも、人は星のうちで生きる他にないのだから。
コレは戦いではない、これは戦いなどでなく。
英雄の王たるギルガメッシュに、自分の戦いを示すだけの謁見。
ソレ以上でも、以下でもない。
「俺からいくぜ、『竜因進化』」
『赤の盟主』、エル・ドラコ。
彼はそう叫び、スキルを発動する。
そうした瞬間に、竜が彼を抱擁するように魔力が現れ。
全身から竜鱗が湧き上がり、喉に肺に炎が圧縮され。
人にして竜、竜にして人。
〈ーーレイドボス、生誕しますーー〉
人類の、一種の到達点。
〈ーーレイドボス名『エル・ドラコ』ーー〉
可能性の限界、可能性の臨界。
〈ーーレイド、開始しますーー〉
火炎、燃ゆる竜となった彼が地面を蹴りつけギルガメッシュに迫る。
気迫、理知が及ばぬかのようなその怒涛。
怒りのような、炎の塊。
それは、核爆発のような勢いと威力を伴い。
「クハ、『竜因進化』とはなぁ? 些かばかり面倒だ」
手を掲げる、そしてギルガメッシュは言葉を続ける。
面倒だ、その言葉にすら万感の愉悦を込めて。
一撃で葬らんと、武装を用いる。
「だが此方にも丁度良い武装がある、竜殺しといえばコレであろう? 『ドラゴンスレイヤー』」
音が耳に届く、瞬間。
感覚の異変、意識の理解もなくソレは静かに訪れる。
圧倒的な、違和感。
「ここは、ど
瞬間、死ぬ。
全身が潰され、殺される。
武具『ドラゴンスレイヤー』、ソレは大陸ほどの巨大さを伴う断頭の刃。
古くより竜は強大な再生能力と、恐るべき強度を有しており並の武具では殺すことは不可能に等しい。
否、実質不可能だろう。
現代でこそ、その強靭な鱗は柔になり強大なブレスは劣化した。
ソレなのに、ソレでも竜は依然生物の頂点に立っている。
普通は殺せない、だから普通でない武器を用意した。
大陸ほどの大きさを誇る長方形の剣、その見た目は黒狼が見ればギロチンというだろう。
天空突き抜けるほどの巨大さを伴った、質量兵器。
鉄と魔鉄と魔銀と魔鋼を組み合わせたその剣は、竜の鱗を破壊できぬまでも押しつぶす。
何十何百何千何億ですまぬ重量が、その肉をプレスするから。
竜殺しと言う名も名ばかりの、ただの質量兵器でしかない。
〈ーーレイドボス、討伐されましたーー〉
アナウンスが流れる、ソレより先に動いた影があった。
白銀の、白い世界を背負いながら。
「『銀世界の終焉、融解の世界』」
続く一撃、『灰の盟主』による一撃の絶死。
一つの環境を築くに至ったソレを、僅か一点に圧縮させ放つ。
熱量は摂氏数千度、触れれば水蒸気の解放と共に爆散するのが道理。
爆散できずとも、僅かな傷さえあるのならそこから水蒸気が入り込み筋肉繊維をズタズタに破壊する。
防げば、その全てをも溶かし壊す。
「なるほど、血族か。人の業とは末も恐ろしい、だが弁えたほうがいいぞ? 道理というものを」
ギルガメッシュは、余裕にその一撃を指先で受け止めた。
爆散、水蒸気が周囲を覆う。
その環境の中、ブラスト・ブライダーは続く一撃を放とうとし。
自壊する。
ブライダーはただの人間だったその体躯に吸血鬼と言われた種族の心臓を、人工的に埋め込まれた存在だ。
一つや二つではない、その総数は数百にも及ぶ。
故にこそ、その再生能力は限りがなく全身から吹き出す水蒸気を浴びても彼は生きていられる。
それが、彼の種としての長所であり。
「『ロンギヌス』、かつての聖者を殺した槍はさぞ効くであろう?」
心臓から生えた、その槍が存在を自己主張する。
呪いの槍、神の約定を殺した盟約の槍。
かつてのカシウスが用いた、信滅の槍。
信仰の頂点に存在するその槍は、聖なるモノに弱い吸血鬼にとって弱点である。
当然、その業を受け継いだブライダーにも存分に有効であるに決まっていた。
全身が塵と化し、風化する。
生きていた痕跡なんぞ、存在しないように。
〈ーーレイドボス、討伐されましたーー〉
消失する、その姿がポリゴン片に変化する。
あれほどまでに戦っていた、あれほどまでに再生したその男が。
あっさりと、最も容易く死んでいく。
涙はない、流すほど涙腺はゆるくもない。
死にゆくことは百も承知、わかりきっている。
だからこそ、その死を無駄にしないが為に。
イスカンダルは、刃を握るのだ。
「仮想領域展開、魔術理論構築終了。『万知知りえ、さらに望もう』『久遠の叡智、悠久たる永遠の書架』『空高く積み上がる限りなき叡智、さながら大海の如く』『吾の叡智は、万物常世を凌駕せん』『荘厳たる書架』ぞ」
「なるほど、魔術合戦か。我の望むところであるな、であれば此方も用意するとしよう」
プトレマイオスが、世界という領域を再定義し己の魔術を広げていく。
理屈としては月光のペルカルドが用いる巻き戻しと同じだ、しかし此方が行なっているのは巻き戻しではない。
空間という空間、世界という世界に魔術を刻み込み。
展開している、彼の頭蓋のうちに秘める全ての理論理屈を。
複雑怪奇、星々のように編み込まれた魔術は、ギルガメッシュとて感心するほどの代物だ。
事実、武装を用いぬ形での魔術の展開ではギルガメッシュといえどもコレほどの数は使えまい。
だからと言って、対抗手段がないわけでもない。
烏合はいくら集ど烏合である、究極に至ったただ一つに成す術なく劣り負ける。
究極を究極の座から引きずり落とせるのならば或いは、だがソレを行う為にはあまりにも。
ギルガメッシュという規格外は、あまりにも遠い。
「開け、『ネブカドネザルの鍵』よ。そして望め、『バビロンの空中庭園』を」
世界を開く、空間が裂け頭上を覆う都市が現れた。
そこから魔力が広がり、内部の都市に存在する全ての術式が起動される。
プトレマイオスのソレを星空と例えるのならば、ギルガメッシュのソレは一種の銀河そのものであった。
乾いた笑みを浮かべながら、至る攻撃を知る。
近くすればするほど、再現し模倣ししようすればするほど。
解析を行い、その結果で返しても。
何をしても、その空中庭園から降り注ぐ攻撃はプトレマイオスの魔術の全てを上回る。
戦い、などですらない。
ソレはただの、蹂躙だ。
「だが、ソレは予見していたぞ」
「ならば、どうする?」
「こうする」
返答は端的、行う魔術はただ一つ。
もはや、行える手段は僅か。
書を掲げる、そして魂を削る。
自己存在を対価とし、史上究極極まる一撃を。
今、ここに。
「『天体的救済』」
書を掲げる、瞬間周囲の魔力が操作され術式が露呈する。
それは、この世界の運行に生じる余剰エネルギーの集積。
この星の上でならば、これ以上の出力は発揮不可能と言っていい僅か直径2ミリの線。
内包するエネルギーは、核爆弾凡そ数千個分。
完璧な操作の上でしか成立しえない、ただ一条のソレ。
過剰な勢いで老化し、脳細胞が死滅する。
プトレマイオスはその最中で、やはりと悟った。
この攻撃すら、ギルガメッシュには通用しない。
「だが、見破った」
知り得た、或いは理解した。
攻撃が通用しない理屈、攻撃が届かない理論。
何故ここまで、ギルガメッシュが無法な存在として降臨しているのか。
『天体的救済』に内包するエネルギーを、転換する。
自分のバフに、己のINTを上昇させる事に尽力する。
もう少しで見える、もう少しで知れる。
知覚速度、知覚能力、思考速度、思考能力を。
新たな視点、新たな視座、新たな瞳を。
脳が、脳が足りない。
足りていない、脳みそが。
この莫大な情報を、処理する演算装置がここには無い。
世界という全てを読み解く、手法がない。
「良いだろう、許す。結論を、叡智を与えてやろう。賢者の、叡智と名乗る下郎プトレマイオスに」
情報の羅列、現実性が崩壊するほどの極現実の中でプトレマイオスはようやく知覚した。
そこに見える、王の姿を。
白か、黒か、光か、闇か。
その全てであり、その全てでない。
この領域こそ、より高次の世界だろう。
他の誰もが理解しえない、遥か高みに存在するナニカ。
「ヒントは、必要か?」
「現実性、現実性的崩壊事象……。それが、始まりの一撃の正体……。そして、お前のチカラは現実性の操作……!!」
「クカカカカ、満点だ。であれば、如何にして我が現実を破る?」
プトレマイオスの思考速度は、脳内の電気信号は魔力に置換され。
思考という過程を不必要とする、すなわち一つの真理たる事実に打ちのめされる。
ギルガメッシュが用いる属性は、人類がその意味を失った10の属性が内の一つ。
始まり、世界の始まりを司る『原初』の属性。
その力は現実の定義であり、現実性の操作。
例えば、目の前に林檎があったとしよう。
それを世界が観測した時、そのリンゴの現実性は100%だ。
だから、そこに林檎は存在している。
また同時に、世界が二つの視点で一つの林檎を見たとしよう。
そして一つはその林檎を観測し、もう一つは観測できなかった。
そうなれば、現実性は50%となる。
現実性の操作というのは、この確率を自由自在に変動させる事であり。
この現実という土台で戦う限り、この確率からは逃れられない。
「簡単だ、吾がその現実に対抗してやろう」
「許す、やってみるが良い」
ギルガメッシュは、現実性を操作し自分に対して余りにも強固な現実を敷いた。
他の現実、他の事実が歪むほどの、圧倒的な現実を。
傷がつくはずが無い、その現実に他の現実性があまりにも劣るのだから。
例えるのならば、砂の剣でダイヤを切ろうとしているようなモノ。
切れるわけがない、これが道理だ。
「どうした? 早くせねばその頭蓋、内側から宇宙が現れ崩壊するぞ?」
発狂、現実かどうかすら理解できぬ空間で。
黄金の王は、嘲笑う。
理知や理解の範疇にない、その術式は絶対性すら崩せる。
認識は仮定に仮定を重ねた上で、さらに仮定を重ねなければならないほどに。
頭脳で理解するという行為の、如何なる無駄か。
「だが、成したぞ」
だが、それでも。
プトレマイオスは成功させた、ギルガメッシュが持ち得る絶対性の防御壁を。
己という、究極を破壊した。
彼の現実性は大きく下がる、元が数億数兆とすれば今は数千だろうか。
これでも以前、その硬さにして強さは変わらない。
だが、それでも。
『赤の盟主』ほどの存在が放つ一撃を、無傷で受け取るなどという該当はもはや不可能に決まっている。
「見事、その魂その体躯。諸共朽ち果てると良い、死体を弄ぶ真似はせん」
ギルガメッシュの言葉、それを聞く寸前にプトレマイオスは死亡する。
当然だ、世界を俯瞰出来るほどの思考加速の最中で。
現実を根底から破壊する『原初』という属性を操作し、ましてやその属性を読み解いたのだ。
肉体が、魂が朽ち果てる。
ほんの一瞬にも満たない、光の瞬きと同じような速度で行われたこの応答。
だがソレによって漸く、ギルガメッシュの防御面での絶対優位性は崩れる。
「まぁ、それがどうしたという話ではあるが」
呟き、思考加速の領域から脱したギルガメッシュは目の前で技を放たんとする『透の盟主』たるヘファイスティオンを影の剣で切り裂くと。
続き迫る、盟主を見る。
「『傀儡人形演劇幕』」
魔力の膜、空間を覆うソレは認識領域を極端に狭める。
『黄の盟主』、パプリオ・デザイアだ。
彼女は展開した空間内部を歪ませ、認知を変化し精神に干渉する。
つまりは、相手を自殺させる。
「少しは期待したが、よい辞めよ。つまらん道化の技など見るに堪えん、全くの期待外れだ」
最も、その攻撃はギルガメッシュに届くわけもない。
通常攻撃、物理攻撃ならばいざ知らず。
自害を強制させるなど、そんな小細工が有効であるわけもなし。
「『デバラヴュラスの護符』、さぁ次は誰が来る?」
無造作に取り出した宝物、ソレを振り翳せば展開されていた魔術は反転する。
パプリオの攻撃が、パプリオに跳ね返る。
ただの一言も発する余裕なく、彼女は自害を強制された。
皮肉にも、己が放った魔術によって。
今回、ギルガメッシュと戦った盟主
『赤の盟主』
『灰の盟主』
『青の盟主』
『透の盟主』
『黄の盟主』




