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Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
一章下編『一切の望みを捨てよ』

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Deviance World Online ストーリー5『行進』

今回は短いです

 最大、最限、最強の戦い。

 人と、超越者(オーバーロード)との戦い。

 答えは分かり切って居る、征服王は敗北し『王の軍(ヘタイロイ)』は成す術なくただの例外も許さず死滅する。

 だがしかし、そのような明瞭な事実はただの一兵卒にすら分かりきっている上で。

 彼らは、全身全霊で生を謳歌する。


「本当に、相手は人間かよ」


 目深に兜を被った男は呟く、彼もまた実力者だ。

 盟主らには数歩及ばず、名を挙げるには些かばかり時期が悪かったものの。

 彼もまた、北方の実力者。


 なのに、先程の破壊に反応できず気がつけば周囲に現実が壊れたとしか思えない死体が転がっている。

 夜を共にした友や、朝餉を共に食した仲間の死体が。

 心の中の恐怖は抑えられない、だが同時に思うこともある。

 これ程に、誇りある戦いはないと。


「ああ、武者震いが止まらねぇ」


 或いは恐怖への誤魔化しか、何方にせよ興奮せざるを得ない。

 逃げ出したくなるほどの重圧、神々しさと人間らしさを感じさせる神殿の頂点に座す一人の男。

 北方で安寧に過ごすだけでは得られなかったであろう、闘争。


「クソジジイも連れて来たらよかった、剣至になんかなっちまってよ」


 回想か、別のナニカか。

 考えるだけ無駄だとは分かりつつも、遥か遠くの故郷に思いを馳せてしまう。

 闘争に身を浸し、心象すらも通り越した怪物の成れ果てになるのならばこの戦いで誇り高き死を迎えられればどれほどによかったのか。

 まぁ、とは言えどもその思考すら無駄であり余分だ。

 その暇があると言うのならば、剣を握り一歩を踏み込むべき。


「おい!! ゼータッ!! 何か来るぞ、受け止められるかッ!?」

「……ッ!??? 無理だ、迎撃に全振りしろッ!!」


 直後に、空から星が降る。

 否、星ではない。

 流星が如くに見える、ただの武具だ。

 そのどれもが聖剣に魔剣にと言った、人の臨界に立った存在が持ったであろう武装だが。


 反応できたのは精々100人、迎撃となればその半数程度。

 当然、大半の人間は防御など間に合う訳もなく木っ端微塵に爆散する。

 『破壊者』にして『英雄の王』と言う名は聞いていた、しかしこれほど遠いのは想像外でしかない。

 息を飲み込む、そして息を吐く。


 破壊でもあり、救済ですらある。

 何もかもを蹂躙し、一見綺麗な世界をも破壊する。

 緩慢な死ではなく、より暴力的な殺戮を。

 正しく、破壊者としか例えられない。


 全て飲み込んでしまうように、進んできた征服王の行進が。

 全てを平す様に、全てを統一してきた征服王ですら。

 ただただ成す術なく、飲み込まれる。


「ちくしょう、が」


 それは、ゼータと言われた。

 この青年とて同じだ、だだ無力に飲み込まれるだけ。

 赦しはない、報いはない、あるのは齎される死滅のみ。

 震える心臓が止まるその時まで、彼は蠢き戦うことしかできない。


 ソレほど幸福なこともない、心臓が蠢く瞬間まで戦い続けると言うことがどれほど幸福なのかを考えれば。


 きっと、ゼータと言われたこの青年がこの戦いの終末を見届ける時は来ない。

 おそらくその前に意味も価値もなく死ぬだけだろう、間違いなく。

 けれども遙か見果てぬ夢がごとき強大な存在に挑み、そして死ぬのならばやはりその死は誇りある死なのだ。


「まだ、まだァッ!!」


 叫んで、立ち上がる。

 前方へ進む数多の強者の戦列へ、自らも辿って。

 死ぬわけにはいかない、死ぬ余裕などない。

 たとえ死んでも、タダで死ぬわけにはいかない。


 唐突に、夕暮れがより赤い赫へと染まる。

 深紅、全てが染まる赤色。

 空を見上げれば、何かが落ちている。


「……まさか、まさかッ!!? 山脈か!!? なんだアレは!!? 何が落ちてるッ!!? アレは何なんだッ!!?」


 空気との摩擦、擦れる音は世界を脅かす一撃。

 重力が狂う、感覚がおかしくなる。

 三半規管が上下に引っ張られ、狂気が脅威に飲み込まれ。

 言葉を紡ぐ言葉が出ない、コレはなんだ。

 アレは、一体……。


「おい、ゼータ!! 呼吸はできてるか?」

「なん、とかッ」

「それならヨシ、全力で走れッ!! 星間魔術かなんだかわからないが、あんなモノ対応できるかッ!! 魔術の認識が大地のソレだぞ!! 間違っても防げるなんて考えるんじゃねぇ!!」

「考えれたら、こんな弱くねぇよ!!」


 正気を取り戻す、そうだ。

 あんなものに目を取られている暇はない、目を取られていてはいよいよ遅れる。

 戦う前に死んでいく、戦いの中で死ぬことすらなく。

 アレは、対応何ぞできるわけがない。


 星降る夜、或いは星降る夕暮れ。

 乗り越えることすらできない、圧倒的というほかに存在しない。

 ギルガメッシュの愉悦混じりの爆笑が響き渡り、その狂笑が胸に突き刺さっていく。


「う、がァッ……ッ!!」

「くッ、魔力にあてられたかッ!! 魔力を取り込もうと主るんじゃないぞ!! よもや取り込んだとたんに魔力中毒で死ぬぞ!!」


 『青の盟主』の忠告、即座に魔力の収集を辞める。

 彼の言葉通り、惑星が頭上に発生した瞬間から周囲の魔力濃度が異常に上昇していた。

 まるで深海だ、泥土のような重さすらも感じる。

 あの一撃の余波である、その事実は認識できても。

 北方において最強の軍団が、こうまで容易くあしらわれるなど理解できない。


 一人、また一人と倒れていく。

 屍が、時代や場所が違えば最強とまでもて囃されかねない実力者が。

 塵芥のように、地面に臥せって死ぬ。


「歩みを止めるなッ!! その命の一片たりとも無駄にするんじゃないッ!! 全ては、唯一歩先へ向かうために、全てをささげろッ!!」


 へファイスティオンの叫びが響き渡り、幽鬼の如くに傭兵は立ち上がる。

 足が強く疲弊し、体が動かないように感じても足を止めることはない。

 荘厳無比なる黄金の神殿へ、破壊者にして英雄の王の元まで。

 命を懸けて、王を送り届ける。

 死ぬまでは、死んでいない。

 だから、死ぬまでは死ねない。




 星が、消えた。

 今度は認識できる、認識できてしまう神話の領域の魔術が幾千幾万と頭上に展開され。

 その魔術が、星を砕く。

 魔術の消失、地面に降り注ぐ衝撃と重力の多大な変化。

 胃から湧き上がる吐き気を堪え、さらに地面を駆けて。




〈ーーErrorが発生いたしましたーー〉



「今度は何だよッ!! 何が起こっているッ!!」


 認識が認識されない、心象世界でもこれほど理不尽な話はない。

 さらに付け加えればここは現実だ、現実でここまでの理不尽などあり得てはいけない領域にすらある。

 こんな話があってたまるというものか、だが残念なことに。



〈ーー対箱庭消失対象認定開始、個体名『ギルガメッシュ』と認定、無条件に最大機密プロトコルを執行しますーー〉



 これは、彼らにとっては紛れもない現実だ。

 それが白く煌めき、もはやヒトの領域で認識できない天使が降臨する。

 神々とも人間とも異なる、世界の自浄機構たる天使が世界に現れて。

 それでも、アナウンスは継続する。



〈ーー最大リソースを展開、半径100光年に存在する原生生物は半径3000光年から退避してくださいーー〉


 そのアナウンスが流れ、だが途端にそのアナウンスは聞こえなくなる。

 何故か、答えなど答えるまでもない。

 殺されたのだ、ギルガメッシュに対処しようとした天使が。

 空を覆いつくすようにすら見えた全ての天使が、泡沫の夢のように消え去ったのだ。

 視線の先では杯を掲げるギルガメッシュがいる、彼は『王の軍』を品定めするように眺めている。


「……ッ、舐めやがってッ!!!」


 舐めているのではない、視座の違いだ。

 人がアリを見て戦うという感情を抱くだろうか? 神が人を見て、争いという感情を抱くだろうか?

 まさか、抱くわけがない。

 それほどの違いがそこに在るだけ、なまじ人であるからこそ無駄に思考するが故に呪いと恨みを抱く。

 その、視座の違いを理解していても。


「あ?」


 違いを理解していても、実感がない。

 急に地面に青年の身体が倒れこんだ、急速に意識が薄れゆく。

 魔力中毒だ、魔力中毒により体内に魔力が蓄積し内側から崩壊を始めた。

 薄れゆく意識、体はもう動かなくなる。

 死ぬ、脳内にその認識が溢れ出し。


「『それでも、尚』、『王のために』」


 次の瞬間には、青年の体躯は力なく横たわり。

 さらに続く仲間にその体躯は踏みつぶされ、そして。

 そのまま、歴史に名を刻むことなくその青年は死んでいく。

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