Deviance World Online ストーリー5『英雄の王ギルガメッシュ』
「クハ、クハハハハハ!!! 良い、何とも良い余興ではないか!! 前座とはいえ案外楽しませてくれる、やはり目を封じたのは正解であったな?」
ギルガメッシュの愉悦混じりの言葉、未だ征服王との距離は遥かに空いている。
だが、彼の眼にはすぐ目の前にいるかのように映っていた。
愉しみのままに、彼は魔力を操作する。
そうすれば、彼の背後に無数の武器武器が現れた。
空間の揺らぎと、共に。
「さて、何処まで耐えられるのか。見物、であるな?」
ギルガメッシュが言葉を告げるとともに、無数の武具が射出された。
速度は亜音速、或いは音速。
目で追いかけては回避は不可能、落星のように到来するその攻撃は盟主どもを穿つ。
未だ、先ほどの攻撃の衝撃を。
空間、現実の歪み、或いはバグとでもいうべき。
人知では計り知れぬ一撃から、逃れられぬ愚昧どもへ向けて。
***
眼前に広がる黄金、或いは英雄どもの遺物。
征服王らに、避けることは不可能。
「鬨の、」
だからと言って、負けることなど。
素直に負け、この命を明け渡すことなど。
論じるに、能わず。
口を開く、軍馬を走らせ軍を率いる。
僅か1キロ、僅か1000メートル。
それを縮めるための、それを短縮するための。
王たるギルガメッシュに、力付くで謁見するための。
「鬨の、声を上げよ!!!!!」
怒声、怒号、声なき声。
叫びは勢いに、数千余りの人間が死に臆せず突き進む。
愚かにも、唯一人の王のために。
無造作に、 過去に生きた英雄英傑の魂にして、ギルガメッシュの名の由来。
死してなお、ギルガメッシュに傅く事を選んだ魔剣聖剣の悉く。
それらが緻密綿密無比極まりなく、全てを殺すように放たれる。
『破壊者』ギルガメッシュ、この世界に君臨する頂点が一人。
遥か古代より生きた、神話の体現。
或いは、神話の作り手だろうか。
どちらにせよ、どちらでも。
「挑むは神話ッ!! 進めば蛮勇、臆せば匹夫、されど討ち果たせば英雄なりッ!!!」
そんな、理屈なぞ。
もはや此処にいる戦狂いにとって、北方に置いてきたものだ。
迫りくる攻撃、極星に等しき落命。
それは光輝たる絶命、或いは絶滅。
当たれば即死、当たらずとも即死。
ならば、命を捨ててでも防ぐのが方策というものだろう。
それすらできぬ輩は、此処に居らず。
「『金剛壁』!!!」「『鋼鉄山脈』ッ!!」「『深緑の大樹』よ!!」「『麗しき水鏡』」「『ソラを覆う氷海』なれば!!」「『猿戯・投擲の舞』、ガぅ!!!!」「『聖天、鎧地』ッッツツ!!!」「『コンチネントシールド』」「『防神技法』ぅぅぅうう!!!!!」「魔眼開放、『境空』」「『抜刀:断空』」「『風舞の精霊』ぇぇぇえええ!!!」「『ヴェルレ・フォル』」「照準設定ッ!! 『魔力砲』ォ!!!」「『ジ・アース』、ッ!!」「『黄金の守り手』ェ!! 間に合えェェ!!」「『ウェズフルム』ッッ!!」「ウォォ!! 『金剛竜燐』」「『ヴァンヴァルス』、『ヴァルヴァレロ』」「『守護騎士の誇り』ィ!!」「『魔力隔壁』ぃぃ!!」「『火炎精霊の守護』ぉ!!?」「『聖タラレスの偉業』」「『煉獄の暈』」「『巨人の盾』ィ!!!!!」「『属性魔力無効』、足りない!!?」「『魔神の祝福』を!! 此処に!!」「『流星砕き』ィィィイ!!」「『抜刀』『真打、魔斬り』」「祈りをッ!! 『太陽神の御加護』」「チィ、『磁鉄防壁』」「『錻力の壁』ッ……!!」「『グラス・シールド』」「『三千世界・防の技法』」「『暗黒の断絶』、これでも!?」「『獣傑の巌壁』」「『ゴッド・プロテクト』!??!??」「『金剛壁』、改め『金剛鉄壁』!!」「『聖女の祈り』ぃ、『聖女の守り』ぃぃい!!」「『運命的守護』」「『剛炎の守護』!!!!!」「『守護魔導、第三項』」「『ネブレビュラスへの祈り』!!」「『白金の城壁』を!!!」「『マルドワルドの法則』」「『甲虫の背羽』、ギィ……」「『天上の楼壁』、これでもォ!?」「『守護霊・霊灰防』」「『電脳的強化』ぁ!!」「『天輪』、ッ」「クゥ、『霊魂魔装』!!!!」「『魔竜極防』」「『ドグラムマグジム』」「『絶命の誓い』『専守の誓い』」「『王墓の守り手』」「『逢魔の秘匿』」「『ジ・アザゼライリス』」「『命約の盟約』より、『防衛の誓い』ッ!!」
一瞬にして展開される魔術に魔法にスキルの数々、その防御をいともたやすく突破するギルガメッシュの攻撃。
規格外、という言葉では表せない。
そんな安易で中身のない、形だけの言葉が罷り通る領域に存在しない。
人類の枠組みを容易く外れた人類、世界という規格にすら留まれないだろう。
正真正銘、そこにいるのは領域外の埒外なのだ。
「良いぞ、良いぞ!! 踊れ下郎、せめてもの余興なのだッ!! 命を掛けて我を楽しませて見せろ!!!」
笑みを浮かべる、殊更本人も高ぶっているらしい。
上機嫌にそう叫び、笑いながら武具の射出を止める。
魔術の攻防、その煙により視界が遮られたのだ。
此れでは見えない、コレは余興というのに逃げ惑うヒトの姿が見えなくては面白味もない。
だからこそ一斉掃射を取りやめ、そして笑う。
予想以上にしぶとい、或いは英雄の域に迫りくる。
征服王の、その配下どもを。
「良いな、半分も死なんか。随分と温い世界になったがゆえに期待などしていなかったが、この大地に生まれていなければそこまで羽化できたのか」
攻撃を辞める、直後に届く矢の攻撃を取り出した剣で弾いた。
攻撃が途切れた瞬間に、矢を放たれていた。
ギルガメッシュはますます笑みを深める、楽しいに決まっている。
下郎と蔑むべき人類が、ここまで成長しているなどと予想できるものではない。
「まぁ、其れでも滅びに対抗するには些か以上に不足よなぁ? 必定、この我に挑むにしても力不足。だが己の身の丈を弁えたうえで身の丈以上の蛮勇に身を浸すというのならば、やはりヒトの可能性というのは侮りがたいモノであるといえよう」
だから、全力で歓待しよう。
そういう様に手に持つ剣を、空間に投げ込み収納し。
指を鳴らして、疑似的に時を止める。
現実性が急速に希薄になる、希薄になった現実の中でギルガメッシュは空をなぞる。
それだけで、天を覆うかと思えるほどの矢を破壊しつくし地面に落とす。
再び、指を鳴らした。
落下すべき矢は落下をはじめ、征服王の一軍は現実を認識できぬままに矢を射る。
手を止めれば、道は拓けない。
止めるべき手がそこにないのならば、やめるべき理由もないに決まっている。
「まぁ、愚昧どもに無意味を説くのも無意味な話か。子蝿が如き鬱陶しさとはいえ、ほどほどに遊んでやろう。弓矢には此方も弓矢で対抗する、全くの道理だな?」
再度空間に手を伸ばせば、そこに弓が現れた。
ギルガメッシュは其れを軽く引き絞り、そして放つ。
直後、轟音と共に天空が真紅に染まる。
その弓の名は『星神弓:ヴァンデルヴェルドヴェヴェルシル』、空に浮かぶ星を星のままに全長一メートル未満の弓に加工し作成した超越兵装。
放つ矢は宇宙からの飛来物、即ち流星にして隕石。
内包する魔力は、数百万MPに比類する。
とはいえ威力は重力による加速、そしてただの質量のみだ。
「さぁどうする? どのようにして免れる? 一時の氷河期を作り上げた神話の一撃だ、よもや従来の方法などで防げるなどと考えているわけではあるまい。さぁ魅せてみろ、ヒトの底力というものを!!! クハハハハハハ!!!!!! アー、ハッハッハッハッハッハ!!!!!!」
星が迫る、地球規模で影響を及ぼすその攻撃。
或いは攻撃ともいえぬ災害に対して、『王の軍』は無数の防御魔術を展開する。
展開するのだが、無駄である。
数百万MPに匹敵する隕石、それは小惑星の領域すら飛び越え衛星に等しい。
像に対して蟻が成す術の無いように、たかが数千に行かぬ烏合の群れでは星は砕けない。
迫る星の勢いは衰えるどころか、ますます増すばかり。
その光景を見ながら、ギルガメッシュは少し悪びれた顔をしてこう宣う。
「少し、気を良くし過ぎたか」
弓を放り投げ、ギルガメッシュは改めて空間から武装を取り出した。
重力が互いに干渉し合い、微細とはいえ違和感を覚えさせるその状況で。
彼は平然としながら、其の武器を振るう。
武装名、『デドラヴァルバスヴィクヴァリアの錫杖』。
ギルガメッシュは、苦笑いと共にその武装を一振りし。
直後に、ソラに浮かんでいた流星。
その周りに無数の目が現れ、流星へ魔術を行使する。
何千、何万、何億という魔術を。
当然、その流星は砕け魔術という体裁を崩す。
つまりは魔力へと変換される、何百万という魔力へ。
「星辰維持可能を刺激したか、まぁ良い。許す、今の我は機嫌が良いのでなァ。精々、鏖殺するに留めてやろう」
ギルガメッシュが言葉を放つ、錫杖を。
『デドラヴァルバスヴィクヴァリアの錫杖』を放り投げ、次に黄金の杯を手に取った。
それを掲げる、その聖杯を。
『ミダラビクト・デンヴァンィヒの冒涜聖杯』、を。
次の瞬間には先程の流星を砕いた際に溢れた魔力が収束し、聖杯の中へと注ぎ込まれる。
次の瞬間にものすごい威圧を伴い、世界に現れた天使とでもいうべき存在が現れ。
その全てに、状態異常を付与した。
絶死という、状態異常を。
現れた天使は消失し、改めて戦場には『王の軍』とギルガメッシュが残るのみ。
依然突き進んでくる彼ら、今の一人遊びを目にして尚も足を止めぬ蛮勇心。
ソレでこそ、笑みは益々深まるばかりだ。
だがしかし、ソレでもその数は多すぎる。
ソレに試練を与えず謁見させるなど、神々が許してもギルガメッシュが許すはずがない。
再び、虚空を掴む。
そうすれば、新たに一つの剣が現れる。
「さぁ幾らかばかりの攻めといこう、我とて易々来られてばかりでは威厳の立つ背がない。下郎ども相手に本気を振るうなどと恥ずかしい真似はせんが、生憎とコレ以下の武装の持ち合わせもないのでなァ? 精々無様に蠢くと良い!!」
長々とした口上、次の瞬間に軽く振るわれるその剣。
見ればわかる、フランベルジュのように曲がった刀身は暗黒に染まり異様な覇気を放ち続ける。
呪いか、禍か、災厄か。
否、全て否である。
ギルガメッシュがすでにソレを握った時点で、その剣はもはやその領域に存在していない。
その剣は、すなわち災禍である。
振れば刀身から呪いが湧き出し、空間を蝕むように世界を走る。
絶対的滅亡、滅亡的破滅。
生命を生かす事すら許さない、罪過と禍根の魔剣が一振り。
イスカンダル、征服王はソレを視る。
再び現れた、如何しようもない絶望を。
乗り越えられぬ、伝説を。
「ぬぅ、よもや其処まで。よもや其処まで遠いのか、英雄の王たるモノよッ!!」
慟哭? まさか、ソレは歓喜。
世界の果てまで見ても、己より強い兵団などなし。
そう驕っていたイスカンダルを、ただ正面からねじ伏せてくる。
恐るべき、恐れるべき怪傑。
ならば口から迸る言葉は、歓喜の他にありはしない。
コレほどまでに誇りある死など、他にあると言うものか。
その叫び、その言葉に偽りなし。
剣を掲げ、馬を走らせる。
どこに居ようとも絶死は不可避、ならば先人を切り突き進むのが征服王の流儀なれば。
軍勢の真先で、道を拓くがその役割だ。
「だが縋り付くぞ、その喉元へ!! 皆の者、儂を守れぃッ!! この刃の鋒でもあの王の喉元へ突きつけねば如何様に死ねると言うのか」
叫びは児玉する、空間を震わせ音を轟かす。
瞬時に『対抗魔術』が展開され、広がる災害たるその一撃を消失させてゆく。
攻撃と攻撃の押し付け合い、魔力が尽きるまで行われる合戦が一つ。
ソレは暴虐にして暴力、神すら震える攻防となる。
地面を走る、軍馬が。
地面を鳴らす、鬨の声が。
地面を震わす、魔術の攻防が。
「抜けたかッ!! だが幾ら死んだ!? 我が軍勢は、儂が『王の軍』は如何程となった!!?」
「はっ、もはや先ほどの半数もいませぬ!!! 残る我らは僅か400幾許か!!!」
「まだソレほども付き従ってくれているのか、ソレは僥倖ッ!! その幸福に感謝せねばなァァ!!!!」
「伝令、伝令ッ!! またあの連射です、また来ますッ!!!!!」
再度、空に瞬きが走る。
先ほどと同じく、かつての英雄の武装の連射。
ソレは空に瞬き、一瞬にして降り注がんと蠢いている。
再度、ソレを見てイスカンダルは笑う。
豪笑する、その蠢きの真意を悟り。
イスカンダルは、笑みを浮かべた。
「漸く、ようやくあの居城の麓まで来たかッ!! ソレほどの犠牲を支払って、ようやく辿り着いたと言うべきか!!!!!!」
英雄の王、破壊者とて己の城を壊すのは躊躇うらしい。
先ほどの猛攻を凌ぎきり、僅か100メートルまで詰め切った。
征服王は、イスカンダルは声を上げて歓喜する。
ギルガメッシュにとっては戦いとも思えぬ戯れであろう、だがその戯れでもイスカンダルは彼奴の眼前までたどり着いた。
息を整える、同時に城の其処彼処に様々な威容の人が現れた。
間違いなく、彼らは嘗ての英雄だ。
ギルガメッシュを王と仰ぐ、英雄だ。
「征くぞ、我らよ!! 命を燃やせ、我が『王の軍』よォォォォオオオオオッッッッツツツツツ!!!!!!!!」
怒号、そして突き進む軍勢。
たとえ負けると分かっていても、道なく虚空とわかっていても。
イスカンダルらは突き進む、命ある限り誇りを抱いて。




