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Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
一章下編『一切の望みを捨てよ』

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Deviance World Online ストーリー5『黒き狂気の太陽』

 闇が、周囲の空間が揺らめき空間を横なぎに巨大な一閃が発生する。

 各々が各々の対抗手段で、防御や回避を行いHPを保持した。


 二度目、だ。


 ぺルカルドがレベルドレインの対象を変化させ、村正からモルガンへと向けた。

 一気に顔色を悪くするモルガンに反し、一気に前線に復帰して攻撃を連続的に叩き込む村正。


 これは、四度目。


 全てを必死で行っている、なのに届くことがない。

 実力の差異、根本的な技量の不足。

 つまりは、一撃の軽さ。


「第一の太陽を、だがそれでも無理かッ」


 隙が無い、攻撃をねじ込む合間がそこにない。

 津波のように押し寄せる攻撃の雪崩は、仮想の質量を纏う様に黒狼らを追いつめる。

 レオトールに相談し、戦い方を見出していなければすでに敗北していた。

 表に出ぬ、表に出さぬ訓練が無ければ必中必殺の嵐を掻い潜れない。


「だが、それでも想定よりは弱っているッッ!!!」


 だからこそ、自ずと見えてくる。

 ぺルカルドが弱っているという事実を、古き騎士が死に体であることが分かる。

 故に、そのか細い勝ち筋が明瞭にあることを。


「月光の名の下に、月前の眼のもとに」


 されかとて、勝てる道理はない。

 されかとて、負けない理由はない。

 必定の理などなく、必定の命運などなし。


 黒狼の嘲は、敗北の理明を覆すに至らない。

 その程度で覆る、戦いなどではない。


 狂えるほどに、狂おしい。


 怒りは嘆きより、期待は失望より。

 関心は無関心より、愛情は憎悪より。

 相反する感情が、相反する思いを齎す。


「汝、一切の恐れを捨てよ」

「最初から恐れる道理なんざ、ねぇんだよ!!! 笑わせんな、ハッ!!!」

「さすらば、尊ぶ死を齎さん」


 黒騎士は、月光のペルカルドは。

 その言葉はもはや語りかけにあって、語りかけにあらず。

 記録装置、無数回数の進化を果たした結果の末に至ったその末路こそがペルカルドである。

 濁った鉛が、金になれぬが如くに。

 その進化は、魂の崩壊を齎した。


 一撃の重さは、まさしく奪命に相応しい。

 その妙技全てに思考が巡り、等しく全てを薙ぎ払う。

 渦巻く魔力は魔術となり、世界の理が魔法とする。

 もはや闇属性も、ソレどころか光属性も意味を成さない。


「強すぎる、手前本当に攻略方法があるんだろうなぁっ!!」

「俺は嘘をつくが自分の利益にならねぇ嘘は、吐かねェよ!!! 確かに弱点は存在する、ソレは絶対だッ!!」

「うむ、頑張るといい!!!」

「戦力外その1めェ!!!」


 ネロの応援に、毒を吐きつつ頭を抱えたくなる黒狼。

 黒糖と名前を変えたくなるほどに、自分の行動が甘いことを自覚しているためだ。


 モルガンの魔術があれば、マップ攻撃。

 すなわち、地形を塗り替える攻撃でペルカルドを追いやることも拘束することも不可能ではなかっただろう。

 だが、その選択肢を選ばなかった。


 黒糖、改め黒狼はその選択を後悔しながらも喜悦に身を浸す。

 身勝手な勝利など勝ちではない、無慈悲な強行など無意味に等しい。

 戦いに愉悦が無ければ、それは蹂躙でしかないのだ。


「偽悪とて、悪ならば罰されるべきであるのだ。偽善とて、善であるなら報われるべきであるのだッ!! 何故だ、何故ッ!!」


 ぺルカルドの横薙、間一髪で回避する。

 唯一の救いは、この騎士は敵を認識し攻撃を行っているわけでないということ。

 確かに当たれば絶命必至、当たらずとも安全圏などない。

 気の糸を張り巡らせ、針の隙間を縫うように回避を連続させる。

 

「『飛来するは黄金の閃光、【ライトニング】』」

「無駄ね、隙を見出せないわ。モルガン、デバフ系列の魔術はどうかしら?」

「レベル差以前の問題ですね、耐性の基礎値があまりにも異なっていて通用する以前の問題となっています」

「そう、ならポーションも無駄か。絡め手無しの真っ向勝負のみしか受け付けないなんて、ボスとしては大嫌いな類ね」


 ロッソの言葉に、モルガンも同意する。

 小手先の魔術や、遅延を誘発するデバフが一向に通用しないということは魔術師殺しという訳である。

 魔術師である以上は、この相手は最も苦手と言い換えていい。


「手前らっ!! 強化を寄越せってんだ、阿呆ども!!」

「闇属性が濃すぎて一瞬で属性を染め上げられてしまいます、せめてこの闇属性を希薄しなければ」

「モルガン、提案なのだけどアナタのルビラックスの魔力を垂れ流してはどうかしら?」

「黒から薄い黒になったところで、黒である事実は変化しません」


 つまりは、意味がないわけでないが無駄ということだ。

 苦々しく歯を食いしばり、打つ手なしと判断。

 即座に物理的トラップを錬金術で仕込むが、それは十分なダメージソースにはなっていない。

 ロッソはその時点で従来の手法をあきらめ、黒狼と村正に対してバフを与える方針へ転換する。


 だが、モルガンはその手の魔術を得てとしない。

 故にこそ、モルガンは非効率的ながら環境の解析を行い中和する方向へシフトする。

 魔術師、叡智の探究者の本領本懐という訳だ。


「耐えさせなさい、ロッソ。貴方ならば出来るでしょう?」

「耐えさせるわよ、モルガン。私を何だと思ってるんだか」


 属性が蔓延する、ロッソの二つ名である『ウィッチクラフト』の名前は伊達や酔狂ではない。

 そう言われるだけの理由があり、所以がある。

 杖を翳し、各所に配置していた魔石を起動させた。


 世界で最も有名な魔術といえば類感魔術だろう、神への祈りを儀式的になぞり技術化させた原初魔術。

 だが『ウィッチクラフト』なる魔女、つまりはロッソの魔術は其の形式に該当しない。

 ロッソが用いる魔術とは即ち感染呪術、接触を原理とし発生させる魔術。


 より原始的な狩りにおいて、山中の狩人に好まれた狩人の理。

 それはより強大な環境の下で、本領を発揮する。


「生憎と、私の魔術は理屈を捏ねるタイプなのよ? 『素は土、素は肋骨、素は神の御業、即ち【神の模倣の模倣(ゴーレム)】』」


 長々とした詠唱など不用だ、重要なのはその概念が存在しているという事実だけ。

 錬金術を簡略化させ魔術に変更したとはいえ、錬金術に必要なのは記号でしかない。


 記号さえあれば、それを生み出すのは容易い。

 たとえ魔術属性を塗り替えられていようが、それは結局重要な話などではないのだ。

 ここに土があり、ロッソが事前に準備した己の肋骨があり、そして神にも等しき魔力を垂れ流す怪物が居れば要素など満たしているに決まっている。

 地面が蠢き、土くれが人の形となる。


「聖杯は奇跡たらん、其れは生命を生み出す無垢の魂の器であらんがゆえに」


 ぺルカルドの目の光が揺れた、直後に彼の剣がゴーレムの首を切り落とそうとする。

 闇の斬撃、空間属性を捻じ曲げるほどに卓越したソレは通常の斬撃ではない。

 その一撃は、再生不可能の脅威を叩き込むだろう。


 相手が、ロッソでなければ。

 ロッソが生み出した、泥人形でなければ。


 笑みを浮かべる、其れこそが狙いだった。

 ぺルカルドに攻撃させる、其れさえ果たせば。

 もはや、泥人形を壊すことは不可能に等しくなる。


「ねぇ、アナタは今何を切ったの?」


 ロッソの得体のしれない笑み、同時に黒狼は嗤った。

 意図を、その魔術の本質を理解した。

 それは酷く黒狼流で、余りにも悪意と欺瞞に満ちている。


 神の泥人形は人類である、神は完成された生物として己を模倣した。

 だが其の末路がこれだ、神は完成された生物を完成させていない。

 当然の話だ、人は進化し続ける。

 故にこそ完成された生物であり、悠久の未完成こそ真なる完成なのだから。


 この魔術の本質は、つまりはソレだ。

 特定の何かを模倣し、悠久たる未完成を経て完成させる。

 神の模倣品の、模倣。


「よく見なさい? その影だまりを、黒き泥を。そして、慟哭なさい」


 ぺルカルドの動きが止まる、断頭したどころか通常生存不可能なダメージを与えた一撃のはずなのに。

 未だ、蠢く肉片を見て。


 闇が収束する、その一撃を学習した。

 動くことすらできない泥人形は、ぺルカルドを学習し動き出す。

 叡智の実を食わぬ身でありながら、その叡智を追い求めるように。


 頭部が再生する? そんな生易しいモノではない、新たに頭部が生まれたのだ。

 新たな生命として、人造のアダムとして泥人形は立っている。

 蠢きと共に、一歩踏み出すように。


「最高だよ、ロッソ。お前には驚かされるッ!! ハッハッハッ、さすがのお前でもソイツは殺せねぇよなぁ!!!!」


 殺せない、この泥人形を殺す術などこの領域に存在しない。

 この境界の『炭素』が『酸素』が『水素』が『窒素』が『カルシウム』が『リン』が『カリウム』が消失しない限り、無限回の蘇生を行い進化する。

 賢者の石を持たぬ人類の最高峰の技術、これこそが魔術の最奥。

 人体錬成、神の御業すらも遂に人が土足で踏みにじったのだ。


「なれば、遡るのみ」


 だからこそ、ぺルカルドはその驚異を認識した。

 神ならざる身で、神足りえる偉業を目の前にし。

 彼は、再び巻き戻す。


***


 「月光の名の下に、月前の眼のもとに」


 歪む、歪む。

 歪んで、歪む。

 遡行した、何を? 時間を。

 時間が遡行した、事象の逆再生が発生した。

 黒騎士は、言葉を紡ぎ。

 そして、一歩踏み出した。


 怪物は、怪物なのだ。

 たとえ、それが人のような姿をして人のように生きていたとしても。

 同じ領域に、人類は存在しない。


 レイドボス、其れは一つの境界を超越した存在に送られる呼称であり。

 そしてその別側面として、その力を持つ者を抑制する役割を持つ。

 そうでもしなければ、その領域に至った怪物たちは強過ぎるのだ。


「手前らっ、突っ立ってんじゃんねぇぞっ!!」

「アハハハハハ、斯くも良い演目であるなァ? 良いぞ、余を楽しませよ!!」


 村正の怒号、ネロの感嘆。

 それにつられて、黒狼が真っ先に動いた。

 自作の呪われた剣と、水晶剣を構え受ける。

 ぺルカルドの一撃は莫大な衝撃と共に、黒狼は壁まで吹き飛ばされて消失した。


 ロッソが地面に用意したトラップも、モルガンの解析魔術も。

 それらすべてがリセットされ、巻き戻されている。

 ふざけた事象だ、しかしコレがレイドボスなのだ。

 これこそが、レイドボスという規格外。

 生ける事象、蠢く世界、鼓動する境界。


「ちぃっ、手前らぁっ!!!」

「嘘でしょ!? 本当に時間遡行なの!!? いや、まさかッ!! それができるのならばこのゲームは本当にゲームの領域を逸脱しているわよ!!!?」

「あり得ない、ですが起きている」

「いい加減にしやがれ!! 考察より先に手を動かせっ!!」


 村正が武器を用いて、ぺルカルドを押しとどめる。

 しかし、それも限界があるのは道理。

 刀を砕かれ、全身を吹き飛ばされた。


 地面を転がる村正、彼を回復するモルガンに壁を作成するロッソ。

 だが、その壁も一瞬で砕かれ壁の体裁を成さない。

 瀕死にしてピンチ、即ち即死。


「汝、一切の恐れを捨てよ」


 闇が覆い、襲ってくる。

 魔術攻撃が、物理攻撃が。

 安易な表現では雪崩、安直な表現では津波。

 そして、独特な表現では世界。


 それは、ひたすらの恐怖だった。

 戦いをしているのか、蹂躙をされているのか。

 もはやその区別すらできないほどに、一方的な火力。


 黒狼が再び飛び出した、そのままドロップキックを叩き込む。

 もう事前に用意した装備は破壊された、碌な攻撃を耐えれていない。

 だがそれでも、黒狼は満面の笑みで対抗する。

 楽しくて仕方ない、そういう様に。


「全員動け!! 止まって勝てるほど弱い相手じゃねぇ、とりあえずモルガンは解析を辞めろ!! ロッソはバフを全力で行え、村正は旨い具合にッ!! ネロは心象の展開を、このままじゃダメージを与えられねぇ!!」


 黒狼の的確な指示、それを実行するために全員が一斉に動いた。

 もしくは集団戦慣れしていない人間が、ある程度集団戦を学んだ人間に指揮され動きが良くなったと言い換えればいい。

 ぺルカルドを、再度抑え込む。


 とはいえ、戦況が良くなったという訳でないのは事実だ。

 むしろ、悪化しているというべきだろう。

 だが、それでも相手の手札手の内は露見している。

 マイナスだけでないのは救いか、もしくは。


「いや、無駄な思考は後だ」


 ぺルカルドのHPの減少分は無くなった、だがそれはこちらも同じ。

 先ほど消費したアイテムの消費が無かったことになっている、其れは幸運。


 付け加えるならば、攻撃の苛烈さは幾分かマシになっているのもある。

 あの巻き戻し、もしくは逆行には多大な制限があるのは間違いない。

 この世界はクソだが、同時にそのクソ要素はプレイヤーにだけ押し付けられた代物ではなく。

 この世界にあまねく存在するすべてに押し付けられている、だからこそ黒狼は確信を持っている。

 あの力には、制約があると。


「だが何度も起こしての消耗は非効率的だ、相手は思考する存在。侮りで勝てるほど、弱くねぇ」


 恐れるな、退けば死ぬ。

 前へ逃げろ、それが唯一の勝ち筋だ。

 それすらできないのなら、もはや死ぬしかない。


 水晶剣を構える、重い。

 重くて重くて仕方がない、込められた意志と決意の重さが黒狼の腕を鈍らせる。

 それを数多の戦場で、容易く振るっていたレオトールに敬意を示す。

 だが同時に、侮蔑も示そう。


「命を捨ててやる、だから勝利は寄越せ」


 嗤う、笑う、哂って。

 陶工の器物の如くに打ち砕かれて、だがソレがどうしたという。


 道は見えた、ならやるべきことは決まっている。

 生憎と、ここは地下。

 月女神は見ていても、月は見ていない。


「さぁ、月女神。見てるんだろ、寄越せよ。勝利の、方程式とやらを」


 狂乱する黒き月光、相対するは黒き狂気の太陽。

 相反し相対する運命、そうこれは運命なのだ。


 最初に出会った瞬間から決まっていた、ゆえに黒狼は剣を握りなおし目にもとまらぬ一撃を慣れた手つきで止める。

 奇譚、そうこれは奇譚だ。


 絶対に勝てない戦いに勝つ、そんな男の初めての勝利を描く。

 そんな奇譚、なのだ。

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