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Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
一章下編『一切の望みを捨てよ』

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Deviance World Online ストーリー5『後悔など』

 レオトールの攻撃は、止まる事を知らず猛威を振るう。

 仲間、親友とも言える存在を殺しても。

 止まるどころか、むしろ一層力が入りながら。


 彼は、かつての友の武器を振るう。

 ソレこそが北方の弔いであり、ソレこそがレオトールの送別である以上。

 彼の、葬送は決して止まることなどない。


「まだかッ!! まだなのか!!! 奴のスタミナはどこまであるというのだ、一体どれだけ動けるというのだ!!!!」


 叫び、絶叫。

 ソレは一種の絶望であり、一種の願いでもある。

 敗北とは死、絶命こそが敗者の末路。

 故に、希望を願い奇跡に縋らんとする。

 仮初の希望を騙る絶望を、声を張り上げ願う。

 彼らとて理解している、たかがスタミナが尽きたところで死にはしないと。


「『ザンク・リリゲル』」

「『ヴェーガン・バルバトロ』!!!! なんでよッ、なんで当たらないの???」

「『ミシュルリリエット』、やはりか」


 レオトールが次に目を向けたのは三姉妹だった、比較的新入りにして魔術を得てとする三姉妹。

 いい加減鬱陶しくなったと言い換えてもいい、魔術による攻撃が。


 レオトールが如何に無尽蔵のスタミナを持っていようとも、ソレは無限のスタミナを持っているという回答にならない。

 万物という資源は有限だ、ならば有限の資源は効率的に消費する必要がある。

 レオトールが剥いた刃は、煌めきと共に攻撃を切り裂く。

 一瞬遅れで周囲が焼失し、直後に純粋無垢な暴虐が襲いかかる。


「させんよ、リーコス」

「『無見無執』『八極剣』」

「亜種スキル、ッ!!」


 視覚欺瞞、感覚偽装に被せ体術を前提とした亜種変状剣術系スキルである『八極剣』を振るう。

 爆発染みた衝撃と共に、前に立ちはだかった姉妹の長であるアリス・ガルゲンを躱し。

 その先にいる次女、リリス・ガルゲンを狙う。


「『それは灰燼、喇叭と共に炎を吐こう。【火葬砲】』」

「『隔絶せよ、其は断崖の雪風!! 【ウェチツテトポリの壁】』」


 衝撃、爆風。

 変形した腕が元に戻るという気色の悪い感覚を感じつつ、呆れ返るように背後から襲いかかる末妹を見る。

 魔力範囲外からの、速攻攻撃。

 いい攻撃だ、間違いない。


 だが、当然の如くレオトールは対応する。


 背後から投げられたナイフを熱で融解させ、加速とともに空気膨張による爆発を浴びせ。

 本命と思わしき曲剣の薙ぎ払いを斧で受け止め、インベントリから取り出した斧剣でカウンターとする。

 手元に熱気を収束させ、魔術定義上の剣を形成し続け様に投擲。

 ソレでも不足だと感じたが故に、喉に魔力を収束させた上での擬似ドラゴンブレスを解き放った。


「やってくれるじゃない、化け物!!」

「よせ、リリス」


 そして、当然の如くに不足だった。

 次女たるリリスが三女たるネシスを回収、撤退したのだ。


 地面を融解させながらも立つレオオールに向けて叫ぶリリス、制するアリスは戦力差を再び測り理解する。

 奇跡さえ起こせば、勝てるという程度の戦力差を。

 天地がひっくり返り、内部から焼け落ちるほどの奇跡さえ起これば勝てる程度の戦力差を。


「そうか、戦列に入っていたか。アリス、利口な貴様ならば理解できただろうに」

「時間稼ぎに付き合うつもりはない、けどもその問いかけに返す言葉があるとするなら。私は利口だから裏切ったんだよ、貴方には付いていけない」

「如何なる理由だ? 私は私の信ずる最善を、最大利益を求め最少被害を追求したぞ?」

「ああ、そうだろう。そうだろうとも、そうでなくては困るのだ」


 レオトールが動く、だが今度はアリスが迎撃を果たしレオトールの剣を弾いた。

 朱色に染まる、朱色に染まった攻撃の連続。

 互いに示し合わせたような剣戟の連続、当然魔術的な攻撃も飛来する。

 レオトールはその殆どを回避せず、だが無力化を果たした上で対処し。


「貴方の迷いとともに、破滅する道は私たちには歩めない。今の貴方ならば、話は変わっていただろうが」


 思わず、握る剣が歪み。

 その隙を狙われ、装甲の隙間を縫って剣を突き立てられる。

 後ろへ数歩、歪む顔を噛み潰し。

 襲いかかってくる矢と短刀を、切り伏せた。


 図星だ、図星だった。

 レオトールは葛藤と禍根の怨嗟に包まれ、己が誇りを疑っていた。

 十二の難行、そこに至るまでにレオトールは間違いなく誰も彼もが持ち得ない人ならざる精神性が故に得てしまった悩みがあった。

 つまりは、誇り。

 己が誇りの正当性、己が誇りの正しさ。

 ソレを求めるように、あの日々のレオトールは迷っていた。


「ふん、図星だったってわけ? 随分と情けない。私たちに誇りを求めるくせして、大元のアンタがそんな様子じゃ私たちは何を信じて進むべきだったというのよ」

「力の、アナタの力をアナタは理解してください。怖いんです、味方でも敵でもッ!! こうして同じ場所に立つことが、こうして話が通じると思えることが!!! 優しくしないでください、人として物を食べ言葉を操り生きないでください!!」

「これが、私たちが離反した理由だ」


 誇りとは、疑うまでもなくそこにあるもの。

 故に、疑うことは愚行であり。

 だが、レオトールはあの日々のうちで疑った。


 いや、疑い出したのはもっと前だろう。

 己の誇りを絶対としながらも、己の誇りを疑い続けた日々がある。

 偽りと幻想に包まれるように、逃げるように正しさを己に課し続けた日々。

 ああ、ソレは正解でも間違いでもないだろう。


 死体の山を無慈悲に、無差別に、無作為に、無理解に、無私的に築き続けたわけではないのだ。

 悩み、葛藤し、理解し、願い、祈り、苦悩し、絶望し、その上で己の限界を知って。

 深淵の深淵、刻み込まれた二重螺旋、血中に流れる牙と誇りを捨てずに。

 死ぬその瞬間まで、そうあるべきと律し続けたその誇りは。

 ソレでも間違っていると、ソレでも正しさはないと思考し。

 己に、一切の自由を許さなかったレオトールは。

 故に苦悩し、故に人ならざる領域へと歩みを止めれず。

 ソレでも、人として生きることを望んだがゆえに。


「それで、見透かしたつもりか?」


 前ならば、ソレは致命的な隙を誘発しただろう。

 だが、もはや今にとってはその問いかけなど。

 精々たる意味はない、もはや。


 答えは得ている、十二の難行で黒狼に告げたように。

 もはや、答えは得てしまっている。


 彼の内心を推し量るつもりはない、故にこれは事実に基づく推測の羅列だ。

 復讐心さえ、殺されかけた怒りさえあればまだ人間であったろうに。

 報復心さえ、殺されかけた悲観があればまだ人間であったろうに。

 願いを告げるように、理解を拒むように、盲目的になればもっと幸運な道があるだろうに。

 人として、生きる道があっただろうに。

 レオトールは、そんな皆ができる簡単なことができなかった。


 初めて、その視点を持ったのは黒狼に『復讐心はあるか』などと言われた時だった。

 つまりは、ソレ以前には()()などという感情が彼には存在していない。


 生きる意味なしでは生きられず、死ぬ理由なくしては死ねない。

 正しさの下でしか許されず、間違いの連続の中で歪んだ正しさを貫き続ける。

 故に、万人が恐れた。

 理解できるはずもない、理解できるのは全く異なる同種のみだ。


 きっとそうだろう、そうなのだから黒狼に出会い生きることを許された。

 この世界は間違っている、如何なる理由であろうと如何なる道理であろうと。

 ソレは純然たる、恐怖の塊を生かし続けているのだから。


「もはや、生かす理由もないだろう?」

「嗚呼、無論。どちらにせよ、これは()()()

「契約なくしては、私たちも殺せないか。随分と哀れな、」


 最強だよ、その言葉を言い切らせる前に目の前の三姉妹は声を失い保護を失った皮脂が禿げ無様に踊るように死ぬ。

 今のレオトールに近づくということはすなわち、毎秒100前後の炎熱ダメージを受けるということだ。

 如何に最上級の傭兵であり、ステータスが人類の臨界に等しくとも。

 人ならざるレベルの力を受け止める、受け止められる道理はない。

 地面に転がる、剣に杖に魔導書。

 ソレをインベントリに収納しながら、減り出した相手を見ていく。

 二十を切った、これで。

 

 余波で死んでいる人間もいる、煉獄のような炎に包まれ踊るように死んだ人間が。

 親しかった、何度も同じ戦場を駆け、勇士の死を看取り、新たな夜明けに安堵した仲間を。

 かつての友、かつての家族、親友にしてライバル、学徒であり語らいあった莫迦ども。

 殺している、殺して殺して殺している。

 黒狼の依頼を達成するために、己の誇りを貫くために。


「『霞の瞳』」


 攻撃は飛んでくる、懐かしさを感じる。

 教えた技だ、教えられた動きだ。

 その全てを集積したからこそ、レオトールは相手する。


 次なる相手は、小柄な男と巨大な女だ。


 徐々に徐々に魔術の包囲網が、的確に詰ませるための魔術が消え去っている。

 突撃槍を携えた女がレオトールを先制し、少年が刀を持って背後から狙う。

 最も、双方の攻撃がレオトールの鎧に防がれたが。


「メロウ、ダンドラ」

「殺しなよ、アンタは正しい。アタイらは、アンタを殺して先に進むさ」

「死にたくは無いからね、全力で殺すよ」


 記憶を探る、否。

 探るまでもない、覚えている。

 集積している、積み上がって脳裏に焼きついている。

 彼は、彼女は行き倒れた末に保護した家族だ。

 どこかの領土が滅ぼされ、身寄りをなくした親子。

 彼女の、突撃槍を構え重装備に身を包んだ女性の名はメロウ。

 美しいという意味の、だがもはやその名前の面影も見えないほどに顔面が傷つき焼けこげた人間。


 息子はダンドラ、勇ましいという意味の名を持つ少年。

 カタナを握り、恐怖に震えながらも母親に背を預けながら剣を振るっている。

 どちらも、レオトールとの関わりは決して浅くない。


 剣は、鈍ることはない。

 誉の内で殺せる幸福に、誇りに包まれ死にゆく彼女らへの手向の一撃が緩むことなどない。

 当たり前だ、手をぬけばその一撃のどこに誇りがある? ソレによって幸福が訪れる人間がどこにいる?

 一体、どこの誰が救われる?


 彼らの内心を理解できる、ようやく。

 遅くて遅くて、取り返しのつかない場所まで来て。

 初めて、レオトールは理解できる。


 結局、彼らはレオトールに対してこれ以上なく原初的な恐怖を感じていただけなのだ。

 殺さねば、死ぬというだけの恐怖を。

 それ以上も以下もない、ただただ純然たる恐怖を。

 どれだけ表露的にしても、気付かれることのない恐怖感を。


「『斬散』」


 言葉なく、斧剣を振るった。

 返す言葉などない、結局そんなものなどない。

 どちらにせよ、裏切りは裏切り。

 背景に如何なる理由があり、如何に赦しを乞うたとしても裏切った以上は何もないのだ。

 それが、彼らの道理なのだから。


「『白銀の雷鳴、流れるは銅、嗎と共に明星明ける開闢とならん』」

「『火炎、すなわち白華の印。印字は軌跡、六芒が星を示す』」


 突撃槍でレオトールを押しながら、メロウは徐々にレオトールを押し込んでいく。

 勿論、詠唱も忘れない。


 白熱し、ソレでも未だ耐える突撃槍を存分に用いながら。

 一撃を、続く一撃を。

 1HPでも多く、1秒でも少なく。

 相手を切り詰めるために、武器を振るう。

 その目に宿るのは後悔か、懺悔か、それとも意思か。


 最も、その願いが叶うことは悠久永遠に来ないだろう。

 近接戦無くしてレオトールを止めることが叶わず、また近接戦でレオトールと戦わなくてはならない以上は。

 レオトールに、叶う術はない。


 近接攻撃においてレオトールの右に出るものはおらず、近接戦闘においてレオトールの右に出る者がいないというのは散々知れ渡っている話であり。

 斧剣が、その風貌にして重量に見合わず軽やかにまう。

 舞って、舞って、舞い踊り。


「負けか、いい友に出会ったんだね」

「『暗き明星、地平を塗り替える。太陽の導、すなわち【紅蓮の羅針】』」


 剣戟の合間、一瞬の空白。

 遺言を残し、己の遅さを知る女騎士。


 詠唱しても、剣戟でも間に合わないと知ったのだ。

 だから彼女は、慈愛に満ちた笑みを浮かべたままにレオトールへその言葉を託す。


 また一つ、返り血を浴びる。

 淡々と、機械染みた動きで剣を振るう。

 背後から訪れる少年の攻撃を、斧剣ではじき。

 そのままに、レオトールは『パリィ』を発動させ。

 相手にスタンを強制付与し、彼の片足を蹴り捥ぐ。


 空中に吹き飛ぶ腕、飛び散りながら灰と化す。

 周囲が焦土となりながら、ガラス質の結晶体の上で歩きながら。

 一人の少年に刃を向けて、レオトールはゆっくりと素早く剣を動かす。


「ソレでこそ、憧れd」


 言い切る前に、全身を真っ二つにさせられた。

 少年は焼けこげながら、地面を転がる。

 死体となって、しばらくのちに消えて生きながら。

 死んだ、死んだ。


 死んでいる、また死んでいる。

 また死体が積み上がり、戦力差が開いていく。

 何か、恐怖を叫んだくせに何かを託すようにして。

 レオトールに向けて、好き勝手言い出して。

 全員が、まるで笑顔で死んでいく。


「それで、満足か? ダンドラ」


 炎がゆらめき、視線が消える。

 火炎の中で、神か鬼のように歩みを進めて。

 まるで行進だ、聖者の行進。

 願いも思いも、弱者の摂理も道理も踏み躙りにがら。

 正しさだけを訴えるように、歩いていく。


 戦いはまだ終わらない、まだまだ双方戦える。

 どちらにも勝ち目はあるし、負ける可能性もあり。

 まだまだ、勝負の行方はわからないだろう。


『命を賭けてるんだろう? 月が見ているぞ?』

「黙れ、炎龍帝」

『後悔しているのか? 私を着込んで、私の力を使い、私に命令するくせに』

「まさか、後悔などないさ」


 飄々と、一見すれば強がりのようにそう告げて。

 レオトールは、強く剣を握りしめる。

 結局、感傷なんてない。


 これは最初から誅伐だ、復讐や報復ではない。

 故に、レオトールに後悔などない。

 何せ、黒狼と出会ったあの日の時点で。

 生き残ってしまったあの時から、いつか殺し。

 もしくは殺されるつもりで、生きているのだから。

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