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Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
一章下編『一切の望みを捨てよ』

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Deviance World Online ストーリー5『心、弱きが故に』

修正版です

 剣と剣が結び合い、また離れる。

 ソレは蠢きのままに光輝を描き、煌めくままに悪辣となる。

 フェイントのフェイント、そのまたフェイント。

 空虚のみで構築された実在は、確かにそこにある。


 『緋紅羅死』の中に存在する龍の魂は、周囲の魔力を汚染する。

 当然、装備する人間の魔力をも染め上げるのだ。

 レオトールの膨大にして莫大な魔力が、全て竜炎に変化してゆく。

 ソレは魔力のみを放出することで、事象化するほどの濃度の魔力。

 魔術ですらない、原始的な自然現象の如くに。

 その炎は、全てを焼く。


「『紅蓮砲』」


 右手に力を収束させ、地面に足を突き立てる。

 退くような衝撃を、気合いで逸らし。

 左手に掴む剣を照準として、撃ち放つ。


 比喩とするならば、聖剣の光輝と同じく。

 だが、その威力の高さは到底比べられず。

 射程は、比べられないほどに短い。


 目の前に躍り出る影に向けて撃ち放った一撃、噴火の如く真紅が生まれた。

 その真紅は、死を齎す命の形。

 並大抵の人間ならば、その攻撃を掠っただけで全身が発火し蒸発する。

 だが、レオトールが砲撃を向けた相手は違う。


「優しいねェ、ブチ殺すぞテメェッ!!!」


 頬に、衝撃が走った。

 レオトールの右腕だった男にして、『伯牙』の第三席。

 名を、テストラ・ヴァターリア。


 彼は、レオトールから放たれた炎を正面から受け切り抜ける。

 まるで雄牛、だが一撃は技巧の極。

 レオトールの頬に叩きつけられた一撃は鎧兜を抉るように斬り込み、そして吹き飛ばす。


「テストラ、随分と愚かな選択だな」

「お前と戦いたかったんだよ、命を賭けてなァ!!」


 彼が振るう斧、新ためバトルアックス。

 ソレは乱軌道の回転と共に、地面を擦りながら放たれる。


 対抗するレオトールの斧剣、回転するように迫り来る攻撃を防ぐのは困難ながら。

 だが読むのは簡単だ、故に魔力を剣に纏わせ斬りつけてゆく。


 一見すれば、レオトールが一方的だ。


 暴虐無比たる炎を蠢かせ、全てを滅却するかの如くに炎で攻め立てる。

 勢いは衰えるどころか増すばかり、打ち合うごとに互いの武装が白熱し。

 同時に、命を摘み取ってゆくように技量も向上していく。

 一見すれば、確かにレオトールが一方的だ。


「緩いぞ、緩いぞレオトールゥゥゥウウウウ!!!」

「抜かせ、馬鹿者。如何にその身に竜を宿すとて、概念滅却の炎は熱かろうッ!!」


 竜を宿す、文字通り。

 瞳孔が縦に切り裂かれ、眼光には炎が宿っている。

 それだけではない、戦うごとに筋骨隆々の体躯に竜鱗が生まれ溢れ落ちてゆく。

 人造の、竜人。

 龍の心臓を埋め込んだことで成立した亜種進化、その成功例にして怪物。


 当然のように竜の炎を無力化し、むしろ己が真なるものだと告げるように咆哮を鳴らす。

 火炎は渦巻きと共に轟々とした唸りを上げ、絶叫のような一撃を放ち。

 されとて、その一撃は双方共に致命とはならない。

 火炎を持つ相手に、火炎は弱点となり得ない以上は。


 レオトールは即座の判断と共に、斧剣をインベントリへと収納した。

 間に合わない、戦いの速度において一手劣る。

 双方共に本気を出した、だからこそ数で劣るレオトールが弱る。

 必然にして当然の摂理、戦いの絶対法則。

 1が2に勝る事はない、もし勝るのならばソレは負の領域に突入した時のみ。

 故に、レオトールは斧剣を捨てる。

 火力を求めるのならばいざ知らず、今求めるべきは火力ではない。


「『紅蓮より伊吹を告げろ、楚は炎。【火焔砲】』」

「だろうなァ!! じゃねぇと戦う意味がねェ!!」


 ()()、ソレは魔術だ。

 無作為な炎の魔力の放出ではない、指方性を伴った魔術の順路にして。

 詠唱を行う事で無理矢理通した、()()()()()()()


 レオトールは天才だ、だがその才覚の殆どは『魔』の才覚だ。

 狂気じみた鍛錬などせずとも、属性魔力さえそこに存在するのならば。

 レオトールは、モルガンを悠に超えた魔術を平然と展開できる。


 100の光条、ソレが一斉に動き。

 空から照らされる光のように、テストラを狙い撃つ。

 火力自体は尺たるものではない、弱体化補正を込みにしても一撃分のダメージは黒狼ですら耐えられる。

 だがこの光条は、()()()()()する攻撃。

 一度浴びれば、いつのまにかHPが削り取られる。

 認識してからの回避は不可能、少なくとも音速での移動速度程度では避けることを許さない。

 音速を認識できる人間の攻撃は、当然音速を超越する。


 物理戦闘が如何に一瞬を削り合うかであれば、魔術戦とは如何に身直に近付けないかである。

 遠距離から、一方的に、蹂躙する。

 ソレは不文律たるセオリーであり、音を放つ間に行われる攻撃を如何に行わせないかこそが重要だ。


「『【光散盾】』」


 だからこそ、魔術師は防御魔法や魔術を真っ先に極める。

 ソレが定石である以上は、極めていない者などいない。

 極めていない人間は未だ定石を知らぬ者か、もしくは若くして極まったモノである。


 レオトールの光条が霧散させられた、その魔術の展開が行われたのだ。

 熱とは光、収束しているからこそ十全な火力を出せるが霧散させられては火力を生み出す事はない。

 熱とは光のエネルギーから生まれた副次的なモノであるという側面がある以上は、レーザーなどはこの対策だけで十分防げる。

 逆を言えば、レーザー攻撃というのは酷く対策が簡単な攻撃であると言い換えても良い。


 常に上位の存在が有効であるというわけではない、属性ならば特に。

 混合だろうが上位化だろうがたとえ性質が変化したとしても、ソレは本来の属性よりもより良い結果を齎すとはならないのだ。

 当然、熱を圧縮し光線に束ねたことも同じと言える。


 概念滅却を可能とする炎、その性質は損なわれていない物の余分な弱点が付与された。

 故にこそ、対策も単調であり簡単。

 速度を重視する兵ならばいざ知らず、魔術素人が使い熟すには些か早すぎる攻撃手段。

 最も、その面倒な攻撃を行なっている人間は北方最強。

 弱点を許容し、あろうことか放置する人間でもない。


 凡ゆる戦いは手の内にある、凡ゆる闘法は頭蓋に入っている。

 故にこそ、彼の戦いを彼はこう呼称するのだ。

 『集積する(スグラッチ)』、と。


「死が2人を分つまで、か?」

「そんなんじゃねェよ、ただ。本気を出すだけだ、『竜因進化ドラゴニックエボリューション』ッ!!!」

「簡単に、殺せると思って欲しくないですわ。簡単に負けることほど、恥は無いので」

「なるほど、私に挑み殺されることもまた誇りか」


 レオトールは、そう呟き手を広げる。

 彼は、終始無表情で戦いを進めていく。

 故にこそ、その内心を推し量る事は難しいだろう。


 否、全くもって否。

 ソレは察する気が無いというモノ、彼は最初から最後の一瞬まで同じ理念しか持ち得ていない。

 即ち、誇りの為に。

 

 『誇り高き牙』、転じて『伯牙』として。

 その始終の全て、生涯の悉く、生命の有らん限りを惜しみなく費やす。

 故にこそ、その理念は単調で単純、簡単で察しやすい。


 そして、故にこそ彼は心弱い。


 彼の生き様は離別と絶望の連続だろう、同時にそこに後悔が介在する余地はなく希望を夢見る時もない。

 だからこそ弱い、だからこそ誇りという弱みがあり刃が鈍る。

 故にこそ、誇り無き者を手掛けるのを酷く躊躇う。

 生きる為でも、何でも良い。

 絶対不変たる唯一無二の誇りを胸に抱くからこそ、初めて殺す価値が生まれる。

 その誇りを抱き、死闘に埋もれるからこそ憧憬が成される。

 唯一無二たる秘めた想いを飲み込むからこそ、彼らという社会が救われる。


 一死を用いて、大業を成す。

 故に、彼らは人たり得る。


 そんな感情すら持たず、己が利益の為に容易く誇りを折り畳み。

 一度契った誓いを忘れ、安寧たる現在に身を置く人間を。

 ただ心、弱き故に。

 彼は、レオトールは殺すのを躊躇う。

 生かす価値も殺す価値もない、生ける屍を殺す気になどなれないからこそ。


 契約があり、誇りがある。

 だからこそ、レオトールは黒狼の依頼の為の戦いでならばその全てを惜しみなく曝け出そう。

 惜しみなく用い、容易く潰し、己が誇りを達して、名すら刻めぬ墓標()に己が血を塗らせるのならばこれ以上ない名誉であるからこそ。

 だが目の前の愚昧どもを殺すというのは、黒狼の依頼を達成する上で必須でない。

 その挙げ句に、立っているのは己が領分を弁えず裏切り挙げ句に武器を壊すという禁忌まで犯して誇りを捨てた蒙昧ども。

 故にこそ殺す刃は鈍っていた、先程までは。


 今は違う、理由明白に今は異なる。

 少なくとも、目の前の夫婦は違う。

 多少なりとも、彼らの中の誇りに準じ彼らはレオトールに殺されに来ている。

 ならば、レオトールの刃が鈍る道理はなく理由もなし。


 彼らの誇りは何であれ、伯牙の誇りに背いたと言え。

 ソレすらも、己が誇りに準じたと申すのならば全てを赦し。

 その雁首揃えて、地に落とそう。


「『ビクトヴェメスの怨嗟、囁きは風、雷は炎。即ち四大なる内の一つ、【雷火の手向(ザンケル・ヴィヴァス)】』」

「『穿たれよ、竜の咆哮。【ドラゴ・ノヴァ】』」


 展開される魔法陣を目先に、片腕を伸ばし。

 迫り来る竜人の傭兵、彼への対策とする。


 腕が巻き上がり消え、新生し現れるは竜の頭蓋。

 呻きは咆哮、威勢は十分。

 ソレは、ドラゴンブレス。

 変状した腕を構え、放たれる一撃がテストラの腹部を穿つ。

 牙、ソレは炎の形状をした牙であり熱。


 滅却だ、滅却なのだ。

 生存を絶対許さぬという意志の下に放たれる、命を刈り取る一撃。

 流星、地から空へ飛び出るような流星の一撃こそ。

 誇り誉ある死を齎す、慈悲。


 頬に傷ができる、結局無傷の勝利などあり得ない。

 目の前で呆気なく消失する様を見守りもせず、次々に襲いかかる攻撃を迎え撃とうと。

 迎え撃とうとし、だが諦めざるを得なくなった。


「はは、はっっはっっはっっっ!!!!!! そうじゃなくちゃ、そうでなくてはやってられんなッ!!!! 最強っ!!!!」

「まさか、喰らったかッ!!!? お前は、そこまで」

「無論、俺は傭兵だぞッ!!!」


 口が絆されそうになった、思わず笑みが溢れそうになる。

 目の前の男は食らった、食らったのだ。

 夫婦の片割れ、彼の最も愛すべき妻を。

 その致命傷を再生するために、そうした。


 この戦いに誇りを齎す為に、レオトールの勝つことを誇りとする為に。

 たとえ負けても、死力を尽くした誇りある戦いとするために。

 彼は己の守るべき妻を、文字通り喰らいその傷を再生した。

 禁忌だ、紛うことなく。

 その禁忌を犯し、そして己の覚悟と力を示す。


「『祖は鉄、融解する獄の番人、汝黒鉄を叩く槌

「遅いッ!!」


 レオトールの詠唱、それを強制的に破棄させた上で。

 彼はレオトールの脳天へ斧を振り下ろす、レオトールは防御を行うために魔力操作を一変させ対応。

 結果、詠唱は無意味に帰する。


 だが、魔力操作はその限りではない。

 むしろ、詠唱など彼にとっては蛇の足。

 翼を得れば竜となれど、翼なき竜は地を這うトカゲ。

 極まっていない以上、ソレは余分。


「『八極拳』『エンチャント:全身』『剛力無双』」


 となれば、近接攻撃に切り替えるのが正解だ。

 過剰なまでの魔力消費を許容し、全身が燃え尽きるよりも先に拳を叩き込む。

 理論で構築された、暴虐ほど恐ろしいものはない。


 全身に纏った炎が拳によって相手の内に叩き込まれる、相手はソレを相反する魔力操作で反発させる。

 相殺しきれない分は利用して、利用されたソレすらもレオトールは燃やし。

 理性を殴りすて、理知の限り。


「『超竜戯牙』、『サイコブレイン』ッ!!!」

「『超加速』、『貫掌底』!!」


 拳と拳の殴り合い、周囲から飛来する一撃必死の攻撃を躱しながらの殺戮の応酬。

 全身が焼けこげ、煤すら残らぬ灰燼の内で。

 死すら生ぬるい、地獄の業火に包まれるように。

 双方の拳が、互いの肉に突き刺さるように。


 だがソレでも、やはりと言うべきであるのか。

 勝者は、さも当然の如くにレオトールであった。


 実力は拮抗、していたように見えただろう。

 最初はレオトールが一方的に見えていただろう、だがずっと余裕があったのはテストラの方だった。

 ずっと焦燥感という余裕があったのは、テストラの方だった。


 今という戦いに没中し、今という生き様に全てを賭けていたのはテストラの方であり。

 だからこそ、こうして。

 過去の全てを背負うように、余裕なく生きるレオトールに敗北する。


「天晴れ、見事」


 心の臓を引き千切られ、なおも動く肉塊に。

 内の粘膜を全て曝け出し、焼かれ続ける旧友の姿にむけて。

 言葉を紡ぐ、血濡れの両手で。


「私も、見習いたいほどに己の全てを賭けていたな」


 何よりも優しく、何よりも北方以外の生き方を許さない言葉だった。

 古きとも、古くからの右腕を殺し。

 得た結末を噛み締めながら、味わう暇すらなく。

 そこに佇む傭兵は、目の前で死に果てた傭兵の武装を取る。


 規格武装、工匠『アンゼル・ブラスミス』が生み出した規格に準じ作成された武装を示す。

 世に1000と出回っていない武器であり、ソレを制作する工房はもはや古くに朽ち果てた。

 その武装が一つ、規格は斧。

 竜の伊吹を浴びてなお、一切の熱を帯びることなきバトルアックス。

 『ヴァターリアの弔い』、そう名付けられた武装を手に取りレオトールは告げる。


 戦いは終わっていない、終わるはずはない。

 残る制限時間は未だ六分以上もある、襲いかかる傭兵は26程度であるが問題なく。

 戦う意味を見出せば、戦う価値を見出せば。

 もはや、弱る心はありはしない。


 どうせならば、弔いと行こうじゃないか。

 古き友への手向であり、裏切り者の誅殺として。


 ポーションを手に取り砕き、全身に浴び。

 再生を促進させ、回復する。

 彼は最強だ、戦いの中でならば。

 負ける道理も、理屈もない。

 ならば、あとは勝つだけだろう。

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