Deviance World Online ストーリー5 『絶対秩序』
時を歩む
全てを知ってなお求める
何が正しき、何が悪しきか
まるで、道ゆく蛇の如く
揺れゆく此処こそ、秩序となれば
天に輝く一等星は、地に落ちる事などない様に。
地に遍く人類が、天に輝く綺羅輝羅星になれないように。
運命とは等しく万人に道を引き、その道を歩まさせる。
だが時に運命を覆す存在が現れ、その人間を我々はこう称す。
英雄、と。
「故に、英雄の王たるギルガメッシュよ。儂は問おう、貴公は何故英雄の王と名乗る?」
イスカンダルが体を広げ、イスカンダルは声高く叫ぶ。
明朝、天に星々が昇った時。
イスカンダルの声に呼応して、英雄の王たるギルガメッシュは降臨した。
「何故、と問うか」
愉快そうに、笑みを讃えながら。
ギルガメッシュは片手を掲げ、イスカンダルの前に現れる。
王を自称するモノが2人、雁首を突き合わせ確かに笑っていた。
「その答えなど語るまでもない、故に我は語らん。己が目で見定め、理解してみせよ」
「なればその自身を打ち砕くまでである、ギルガメッシュ」
「吠えるな下郎、酒宴が先だろう? ソレとも敵と呑み語らうことこそ我が戦いと告げた言葉は嘘であるのか?」
「ソレこそ、まさか」
笑い、睨み。
そして互いに己が座すべき玉座を展開し、机に酒瓶を並べる。
イスカンダルは水の張った桶に、酒瓶を5本ほど入れ魔術によって冷やしていた。
ソレに対してギルガメッシュは、酒瓶をそのまま置くと手を加えない。
ただ静かに、椅子と共に広げた机に酒を並べた。
どれもが国宝級、そのどれもが絶世の味を誇るだろう。
イスカンダルは一眼見るだけで、その美味を連想させられ思わず喉を鳴らした。
飲まずともわかる、純粋な飲み比べでもはや敗北したと。
「王としての格など語るまでもなく、これで全ては決着したな」
「まさか、酒に味は欠かせんが味だけが美酒を作るものでもなかろう」
「ふむ、まぁ否定はせんとも。勝利の暁に呑む酒ならば、たとえ美酒でなかろうと美味いものだ」
「おお、わかっているではないか!!」
絶世の美形を傾け、そのまま鎧を一部解除すれば。
ギルガメッシュは盃を手に取り、差し出す。
イスカンダルはその盃に、一先ずと言いながら手元の酒瓶を開けて注いだ。
溢れるかのように、勢いよく注がれるワインを見てギルガメッシュは眉を顰める。
まるで蛮族の飲み交わしではないか、悪態を付くように呟いた言葉にイスカンダルは半分笑いながら済まん済まんと謝罪し。
だが、自分の盃にも同じように乱暴に入れる。
「これが儂の流儀よ、英雄の王」
「フン、蛮族の流儀であるな」
「されとて美味い酒はどのような飲み方をしても得てして美味いもの、もしくは繊細な入れ方をせねば味わえぬほどにお子ちゃまであったか?」
「黙れ下郎、我が餓鬼ならばこの世の全ての下郎は生まれてすらない」
そう言い放ち、ワインを煽るギルガメッシュ。
喉を潤し、アルコールという成分が精神を高揚させるように働く。
だがギルガメッシュはその一口を飲んだだけで、そのまま器を空に放り込んだ。
「仮にとて王と名乗るのならばもう少しマシなものを飲ませよ、下郎」
「まさか、故郷の酒に勝るものはあるまい」
「であろうな、故に己で楽しむ分には構わん。だが語らいに相応しい酒とはいえん、そういっているのだ」
ギルガメッシュの言葉に通りだといい、同時に何を用意したか尋ねるイスカンダル。
そうすればギルガメッシュは待ってましたとばかりに酒瓶の栓を抜き、イスカンダルが用意した盃を一瞥した後。
空間から、新たな盃を取り出す。
音も静かに盃に酒を注ぎ、七分目ほどまで入った時にその盃をイスカンダルへと渡した。
「その盃では味わえんだろう、真なる味を味わうのならばこの盃を使え」
「差し出されては敵わんな、ありがたく飲ませてもらおうとも」
そのままイスカンダルは豪快に盃の中のワインを流し込んだ、同時に世界が一変するような感覚を覚える。
美味い、美味すぎるのだ。
世界の認識が変化するほどに美味しい、喩えようのないほどの味がする。
この世界のどこを探しても、これほどの酒はないだろう。
そんな美酒を口にし、イスカンダルは思わず唸る。
「うぬぅ、酒は一流であるか……。では摘みはどうだ、酒と共に食す飯が一流でなければ酒のみの王でしかない」
「無論、あるとも」
再度、空間が歪み食べ物が現れる。
肉に野菜、魚に果物。
この世のありとあらゆる食物が現れ、空中でひとりでに動き調理され。
様々な食べ物が机一杯に広がってゆく、この光景には流石のイスカンダルとて舌を巻いた。
魔法文明、その絶頂にこの世界はある。
ソレなのにも関わらず、イスカンダルは目の前の光景を理屈によって説明できない。
まるで魔法だ、魔法を用いていない魔法である。
「時間がないので急拵えではあるがこんなものか?」
「全く、本当に驚かされる」
呆れ帰ったようにイスカンダルは告げると、ギルガメッシュが差し出したハムを食べた。
これまた美味い、文句のつけようがないほど。
戦ってすらいない、ソレなのに格の違いを判らされて辟易としつつ。
ソレでも、イスカンダルは目を見開く。
「前座はここまでで構わんだろう、のぉ?」
「無論、本題があるならば語るといい。どうせ結末は決まりきっているがゆえに、下郎」
その自信、その王のあり方を見て。
イスカンダルは、口を開いた。
***
王とは何か、英雄とは何か。
征服者であり王たるイスカンダルはその言葉を言い放ち、ギルガメッシュは大いに笑う。
不遜だ、不敬たるその言葉に失笑を漏らしたのだ。
「英雄の王の意味を問うか、征服者。語るまでもない話だ、されとて二度も問われて答えぬのは王の度量であるまい。しかしだ、些か名の張る下郎といえども尋ねるばかりと言うのは無礼極まる。なれば先に己が考えを示すのが道理であろう、答えよ。遥か彼方から異国を訪れた征服者、何故我が名を問う?」
「無論、墓標に刻む名の意味を知らねばならんとも!! 臣下を持たず破壊者と名乗りし王。まるで酔狂、まるで滑稽な道化である。だがその威風はまさしく英雄にして王のソレ、儂とて見たことがない威圧である。なれば、なの意味を問うべきであろう。何故、英雄の王と名乗るのだ」
ギルガメッシュは目を伏せ、遥か太古に思い耽る。
英雄の王、そう名乗ったその日を思い返した。
深い意味はない、否。
深い意味しかない、だが今ではその意味が通用しないだろう。
ソレほどまでに古い、古代の話がある。
「一つ、我が考えはこの世にて通用せん。一つ、我が想いはこの世にて通用せん。一つ、我が力はこの世にて失われている。されはとて、我が名の意味を知りたいと言うのならば」
「無論、理智を超える回答を儂は求めておる」
「なれば、我は言葉を告げることとしよう」
天を見上げよ、地に伏せよ。
ギルガメッシュの言葉が響き渡り、星が降るかのように流星が流れる。
赤い一等星が地平を照らし、渦巻く空気は朱色に染まって。
英雄の王たるギルガメッシュにより、空間が揺らぎ一つの武装が現れた。
原初にして、絶対なる十四の二。
至上武装にして絶対兵器、世界の終わりを告げる者。
即ち、ソレこそが破壊の権化。
世界が呻き叫びを上げる、幾千幾万の時を駆け再度現れたその兵装に世界が叫ばんとする。
星の終わりの恐怖を感じる、神秘的なまでの終わりによって世界が絶望を告げるかのようになり。
世界が、星が、遍く全てが叫ぶ。
ーー警告、警告、遍く声明に警告しま
「黙れ、即刻滅ぼされたく無ければ」
世界が上げる悲鳴を、世界が告げる終わりを。
何より、星が終わる終焉を。
ギルガメッシュは一言で、握りつぶした。
「今宵此度の戦の主役は我ではない、故にその範疇に我を捉えるのならばその規格の力を扱おう。その時は覚悟するといい、神話の戦いが霞む滅びをここに表すぞ?」
音無き音、世界の悲鳴。
ソレが急速に薄れゆく、これ以上ギルガメッシュの機嫌を損ねないために。
もしもこれ以上機嫌を損ねれば、その時は本当に世界を滅ぼすだろうという圧が有った。
そしてその様になれば、この星の上に対応できる存在がいないと言うのも明白だ。
戦えば、先に世界が滅ぶ。
まさしく、世界が滅ぶ戦いが始まる。
故に、世界はその警告を辞めた。
「むぅ、なるほど。よもやとは思っていたが、神話の怪物であったか」
「違うな、我は怪物ではない。王であり、人だ」
「これは失礼をした、しかし今の威容。儂は知っておるぞ、その恐怖にして狂気を。渦巻く根源的な、生きることではなく存在を脅かす恐怖を。ぬぅ、惜しいなぁ!! リーコスであれば、レオトールであればその力の正体に見当がつくものを!!」
「なるほど、『水晶大陸』か。あのスキルは我も目を疑った、まさか『ヘラの栄光』や『闇と魔を司る純潔の神』の思惑が実を結ぶなど。唯一例外たる第一かと思っていたが、その実やはり思惑通りであったと言う訳であるとはな」
ワインを一口含み、鼻腔を過ぎ去る香りを楽しみながらギルガメッシュはそう呟いた。
イスカンダルは言葉を放たない、と言うより彼の言っている内容が全くもって不明だ。
例えるのならば情報量が違う、前提知識が大きく違う。
まるで子供の様な思いを抱き、むず痒さを覚えながらも口を噤むしかない。
「第一、第一といったか。かの水晶にはそのような、通り名とでも言うべきものがあるのか?」
「ん? あぁ、余計な情報だったな。つまらん独り言と流せ、どうせこの世にて再び14全てが集う訳もなし。ソレに、もはや征服者の人生にて相見る事はない」
「全くひどい言葉であるなぁ、ハッハッハ」
「ナニ、自瀬の句を読む猶予がある分マシとも言えようか」
ギルガメッシュの冗談、笑えない話にイスカンダルは冷や汗を掻く。
流石に目の前で圧倒的上位の存在から呑気に殺害予告をされて、冷や汗の一つも掻かない豪胆の者ではない。
というか、こうして対話することだけでも胃がキリキリと締めあがり全身の水分が膀胱へと集中する様な思いなのだ。
死という大鎌を首へと突きつけられている様な状況、安堵安心を抱ける方が怪物と言える。
「さて、英雄とは何ぞや。王とは何ぞやを我に問うたな? なれば答えはただ一つ、我が背負った墓標の全てこそが英雄でありソレら全てを背負っているが故に我は王である」
「……、なるほど。さぞ臣民の全てが一騎当千の英傑と推しはかれる、となれば納得できよう話だ」
「まさか、ただの一足にて踏み潰され蹂躙されて。ただ一瞬を稼ぐために全てを投げ捨てた弱者だ、されとてあの兵器に挑んだ以上その全てを我は英雄と認める」
「失言だった様だ、申し訳ないギルガメッシュ」
何かを懐かしむように、懐かしさと共に思い出すように告げられた言葉を聞きイスカンダルは思わず頭を下げた。
王たるものが軽々しく頭を下げるべきではない、それは己が価値を下げる行為である。
だが、その価値を下げたとしてもだ。
ここでは謝らねばならないと、イスカンダルは直感した。
「別に謝罪はいらん、征服者よ。その推量と事実が異なっただけである、別段恥じる話でもない」
「ぬぅ、度量でも負けたか。儂ではどうやら、主に勝てん様だな」
「決まっている、新たに人類が繁栄したその時から誰しもが我らに敵う事はない」
周囲の料理が消え始めた、ギルガメッシュが空間に収納しているのだ。
そうされていく中で、イスカンダルも席から立つ。
語らいは終わりだ、何故であるのか。
ソレは無粋にも様々な武装を持ち、王の座すジグラットへ攻め入らんとする異邦より来た数万の軍勢が控えているから。
もはや、語る時期を逸したのだ。
「待て、征服者。一つ問う、人は何故生きていると思う?」
「謎掛けか?」
「いや、仮にでも王を名乗る不敬者だ。故に、この言葉に何かしらの結論を持っているのかと思ってな」
「なるほど、しかし人は何故生きているであるか」
去り際、唐突に告げられた言葉にイスカンダルは少し悩む。
生きることに理由など考えたことがない、イスカンダルにとって生きることとは当然のことだ。
だが、その答えにもし結論を出すのならば。
しばし悩んだ末に、ギルガメッシュへと答えを示す。
「何かを成したが故に、人は生きているのだろう。誕生をなしたからこそ、この世に生まれ。戦う術を成したからこそ、魔物と戦い。死を拒絶することを、ソレを為せなかったが故に死ぬのだ」
「ふむ、なるほど。面白い人生観だ、故に我は王たる征服者に示そうか。これから何を成し、死にゆくのかを」
笑い、最後に第二たるソレを仕舞う。
直視することすらできない、恐怖の権化のソレを。
空間の中に溶け込む様に収納し、そして振り返った征服王の目を見て。
圧倒的上位者としての語らいとして、道を示す。
「もはや成すべき事など無い、下郎どもは朝日を拝むことなく昼天の元に臓腑を晒しながら怨嗟すら叫べず死ぬのだ。煉獄で焼かれる様な痛みも、氷結された夜に閉ざされる様な恐怖もなく。剣の一つが能うことなしに、無為無駄に死んでゆく。ソレがお前の末路だ、征服王」
ギルガメッシュは笑みを浮かべ、嘲笑いながらジグラットへと歩もうとする。
しかし、その行動はイスカンダルによって止められた。
歩ませない、言われ続けるのが王ではない。
背後にひかえる3000の兵の意思を背負い、この場に立っているが故に征服王なのだ。
「なれば此方も、主の末路を示そう。主は我らの死骸に沈む、我らの血と死骸に塗れた敗北の下で主は勝利を拝むのだ!! 確かに、我らは弱者。吹けば消し飛ぶ塵芥の雑兵よ!! されとて、明日の旭を1人でも拝むものがいれば我らは夢を追い求められる!! 我らの勝利は生命の存続ではない、儂が成せずとも!! 誇れずとも構わん!! 我が夢を追い求めるものが居る限り、我らは突き進める!! 故に、我こそは征服王!! 故に我こそはイスカンダル!! 北方の全てを征服し、されとて飽く無き探究は先を追い求め!! 見果てぬ夢を追い求め!! 終いに北方を抜け出した正真正銘の愚王にして、征服王たるイスカンダルである!!」
正真正銘、宣戦布告だった。
その言葉は正しく宣戦布告であり、そして勝利宣言でもあった。
ギルガメッシュはゆっくりと口角を上げ、姿が掻き消える。
ーーなれば来い、征服王
最後に聞こえた声、もしくは囁き。
イスカンダルの耳に届いたその音は、その宣戦布告を認めたものであるのだろう。
だからこそ、イスカンダルは胸を張り。
悠然として、草原を歩んだ。




