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Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
一章下編『一切の望みを捨てよ』

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Deviance World Online ストーリー5 『決戦前夜』

 黒狼は、この世界に再度君臨する。

 ギルガメッシュと再会してから、十三日目。

 彼が宣告した十四日目の前日、いつになく思い耽っている様子のレオトールを横目に改めてこの場に血盟のメンバー全員を招集した。


「さてさてさてさて、さてだ。現状の確認とするべき事をまとめようぜ? あの王様の言う通りなら、決戦は明日だしな」


 黒狼の言葉に、モルガンが頷きロッソは地図を広げた。

 ここは迷宮、ではない。


 村正の拠点外れ、鬼たちの集落の外れ。

 そこで、黒狼たちはワルプルギスを持ち出し最終調整を行なっている。

 外では鬼の連中が物珍しそうにワルプルギスを囲みつつ、同時に黒狼の依頼を受けて事情を把握した鬼は村正の指示によって外装の溶接の安全性の確認をしていた。


「山中に存在している準古代兵器、通称『音響装置』を奪取するために征服王は西側の谷の目前に前線を敷いています。つまり、ギルガメッシュのジグラットが位置する場所ですね」

「マジでやんの? あの王サマ、ギルガメッシュに勝てると思ってるのかねぇ」

「いいや、思ってはおらんだろう。だが戦わねば奴の誇りは満たされん、眼前に乗り越えれぬ壁があればそれを踏み潰さねば仕方がないのがあの男の性分だ」

「面倒な性分ねぇ、本当に」


 静かに同意しつつ、黒狼は地図を見る。

 目指すべき場所は山中の中央、その下に準古代兵器が保管されている場所があり。

 そしてそこを守る、一人のレイドボスがいる。


 黒騎士、改めて対面するのはゲーム内で二ヶ月ぶりだろう。

 長い時間だった、同様に短くも感じられる日々だ。

 あの男と別れた時は戦うなどと考えていなかったものだ、ソレほどまでにあの怪物は重厚な雰囲気を醸し出していた。


「戦闘員は、モルガンに俺にロッソと村正ついでにネロ。レオトールは別経路で侵入するプレイヤーの足止め……、本当にソレでいいんだな? レオトール」

「黒騎士との戦いを優先できずに申し訳ない、だがプレイヤーと共に傭兵団『伯牙』が来るのならば私は彼らと戦い問わねばならん」

「……貴方の我儘を受け入れるのは酷く納得し難い事です、しかし盟主たる黒狼が許可すると言うのならばこの言葉を飲み込まねばなりません。これは、全員の総意です」

「道理を通せないことを残念に思う、だが同時に私の意思を尊重してくれる事を感謝するとも」


 レオトールとモルガンの会話、ソレを横で聞きながらネロは声を上げる。

 挙げられる質問は単純だ、そして必ず考えなければならない話であった。

 ソレは何か、単純に勝てるのかと言う問題だ。


「問題ない、とはいえないが勝つ算段は用意した。あの黒騎士は一定範囲に入らなければ攻撃を仕掛けない、だからそこに入る前に各々最大火力を準備し一撃目で最低でも片足を持っていく。流石の怪物とはいえ、片足がなければ機動力は相当おちるだろうよ」

「回復された場合は? 手前はどう考えてやがる?」

「だから、お前の作った式装を使う」


 式装、ソレは黒狼が依頼し作成させた武装。

 村正はワルプルギスの調律に殆ど時間を掛けられなかった、ソレは黒狼に特定の武装の作成を依頼されたため。

 その装備は黒狼に依頼されたタイミングから作成され、そして今宵にて完成する。

 レオトールにより渡された『津禍乃間』を打ち直し、誰もが使えるように成形し直した特殊武装『第零式装【火劍】』だ。

 竜の鱗で最も柔らかい逆鱗を切り出し、鱗同士を擦り合わせ刃とした『津禍乃間』を村正の技量により打ち直した名刀。

 一度抜けば、刃に収束した膨大な()()()()()()によって回復治癒再生修復不可能な一撃を与えることが可能となった。


「待て、アレは未完成だろう。私以外が使えるのか? いや、厳密にいえば私と黒狼以外でという話になるが……」

「無理だったよ、焔が蠢いちまって儂ですらまともに触らせん。だが、まぁ構わんだろ? そもそもモルガンにロッソはまともな棒振りすら出来やしねぇからな」

「失礼な、魔術を用いれば私はアルトリウスと打ち合えますよ?」

「失礼ね、ゴーレムを使っていいならレオトールさんの動きを再現できるわ」


 つまり論外、村正はそう言うように視線を向ける。

 流石のこれには黒狼も否定することができない、諦めて首を振る三人。

 睨む二人の魔女は、早速とばかりに魔術で剣を取り出した。


「喧嘩よ喧嘩!! 私のどこが弱いっていうの!!」

「喧嘩です、知らしめて差し上げましょう」


 そう言った直後、黒狼と村正によってその剣を破壊される二人。

 呆然と固まっている二人、実力の差が明確に見える。


 最初に言っておくと、黒狼や村正が異常に強いわけじゃない。

 何なら成長も禄にしていない、精々レオトールの指導を軽く受けただけだ。

 なので、この結果は二人の実力不足以外の何物でもない。


「やめようぜ? 流石に、剣の中を開けて軽くしてるやつがまともな剣を振れるとは思えないし」

「諦めりゃいいものを、というか魔力で剣を形成すんじゃねぇ。その程度の武器なんぞ、儂らでも簡単に破壊できらぁ」


 ボロクソに言われ、大人しく椅子に座る二人。

 黒狼と村正は肩をすくめ、レオトールに目配せを送る。


 流石のレオトールも、これほどの悲惨な現状を見せつけられては言い返す言葉を持たない。

 納得したように黙り込み、眉間を抑える。

 もしも、レオトールの言葉を代弁するのならばこの程度のレベルでレイドボスを倒せると思っているのか。

 その類の話だろう、きっと。


「一番ヤバいのは機動力を持ったままの黒騎士が迫ってくることだ、俺はともかく後衛二人を潰されたら負ける。具体的にいえば、ロッソとネロをだな」

「ん? なんで余がヤバいのであるか?」

「お前のバフ量がおかしいんだよ、ネロ。お前がいるか居ないかで勝率が……、ソレこそ50%ぐらい変動するんじゃね?」

「むぅ? そんなものか?」


 不思議そうなネロの横顔を見つつ、黒狼はさらに話を進めていく。

 黒騎士、その力や能力の正体だ。


 黒騎士はレイドボス、その中でも最上級のバケモノである。

 何せ、レオトールの保証があるのだから間違いない。

 普通に考えれば数千の軍を率いて戦うべき、そんな存在である。


「だが、俺はレオトールを除いた五人で倒せると考えた。何でかわかるか? なぁ、ロッソ」

「あるんでしょ、秘策が」

「ねぇよ、そんなもん」

「はぁ? じゃぁ、どうやって倒すって言うのよ? ソレこそレオトールさんを連れてきた方がよっぽど勝率はあるわよ?」


 彼女の言葉に、黒狼も同意した。

 その上で、黒狼は不適な笑みを浮かべる。

 骨のくせに、表情豊かに。


「勝率勝算度外視だ、そもそもこのメンバーで万に一つ勝てる方法を編み出せる奴がこの世界のどこにいる? 諦めて俺に命運を差し出せ。俺が勝たせてやるよ、あのレイドボスに」


 黒狼の不敵な笑みと、その言葉に全員呆れたように反論をあきらめる。

 勝てっこない、それが回答であり実際問題黒狼の脳内にしか勝ち筋は存在していない。


 否、勝ち筋など最初から存在していない。

 もしも黒狼たちが勝てるとするのならば、それは黒狼のテンションが徐々に上昇していること。

 ただその一点に総ての望みを掛ける他にないのだ、たとえ確率が見えないほどのゼロの彼方に有ろうと。

 たとえそれが那由多の彼方でも、あの騎士に勝ちたいのならば掛けるべきなのだ。


「それに十分勝算はある……、違うな。ステータスを覆す手段はある、はっきり言ってヒュドラより容易い戦いだ」

「言いましたね?」

「言ったさ、それに魅せてやる。俺の言葉が、真実だってな」


 ワルプルギスが唸った、強風が吹く。

 風が巻き起こり、だが一切の風にあたる事無く中の六人は佇んでいる。


 ここはワルプルギスの最奥、完成された王の玉座。

 五人の悪が集う、悪辣なる円卓。


 その願いは、その思いは最初から捻じれ曲がっている。

 妄執がゆえに、正義を正すなどとという妄言を垂れ流しだした。

 それはもはや正義ではない、正義であるはずがない。

 そこに正しさは宿らない、ゆえにそれは正義ではない。

 ただ正義を苦しめる、大衆悪でしかない。

 黒の魔女は、モルガンはゆえに悪である。


 万人が求める満足は到来しない、共産は最終的に支配される。

 それを敷けば、もはや万人の満足はあり得ない。

 その事実を理解しながら、納得しようとせず。

 己の正解を貫く以上、彼女は歴史によって証明される悪となる。

 善意によって生まれる悪、世界が糺した悪。

 黄金童女は、ネロはゆえに悪である。


 自己欲求の成就を願い、自己のために総てを無視する。

 それはもはや探究ではなく、害悪である。

 人類に対しての、無辜の人々に対しての悪だ。

 他者尊重がない、その時点で彼女は悪である。

 ウィッチクラフトは、ロッソはゆえに悪である。


 ただ一つの究極を目指した、ただ一つの完成を目指した。

 正解を創り、破棄し、正解を求めた。

 無限回の試行錯誤を重ね、迷いの迷宮に彷徨っている。

 その過程で他者を踏み台にする、その行為を悪と罵り己が為に手を止められない。

 自らを悪と定義し、信念を貫いた。

 妖刀工は、千子村正はゆえに悪である。


 黒狼は、悪である。

 この世で最も醜く、普遍的に広がる悪だ。

 正義を知り、正しさを知り。

 そのうえで悪を歩もうとしている、もはや庇う事すらなく悪である。

 正しさはない、ゆえに彼は悪である。


「無法者だ、俺たちを縛る鎖は俺たちでしか作れない。だが俺たちは俺たちで縛られることを望んだ、俺たちは互いに手を組むことを行った」


 正義はない、ここにあるのは我欲に溺れた悪意のみ。

 他者から見てソレが悪であるのかなど関係ない、もはやソレらは悪と定義され甘露にして脆い道を構築している。

 一歩めは各々が踏み出している、ソレが故にその道を引き返すかなどと言う質問ではない。

 この言葉の意図は即ち、目的を忘れるなと言うことだ。


命を(Are yo)懸けろ(u ready)?」


 人は二人いれば運命が交わり、三人いれば絡まってゆく。

 運命の三女神が編み作り上げるセーターは、無数の運命の糸を絡み合わせた芸術作品だ。

 当然、最初の意図と違った箇所に存在する糸もある。

 ここに集う五人は、その意図と違った場所へ向かう可能性があると黒狼は告げており。

 その覚悟を持って、命運を任せる気はあるのかと聞いている。


「無論、語るまでもないでしょう」

「思いを間違えても、答えは同じよ。重要なのは、先へと進む意思だけ」

「儂はただ一振りを望むのみだ、覚悟なんざ終いに終わってらぁ」

「うむ、運命はもはや決まっているのみである!!」


 答える四人に、黒狼は笑った。

 そして、首を振りそのまま。

 黒狼は、机の上へ足を叩きつける。


「さぁ、始めんぞ。キャメロット攻略戦、その前日譚的なレイドボス『黒騎士』の討伐を」


 間違いなくそこには、熱気があった。

 覆すことができない、確かな熱気が。


***


 夜更け、レオトールは空を見て天命を占っていた。

 彼には占いに一日の長がある、もしくは無用な知識すら得なくば生きれなかったのか。

 空を見て、地に目をやり。

 そうして、隣にいる神を知る。


「神か、何とも酔狂な話だ」

『ー』

「聞こえん、意味もわからん。圧縮言語というやつか? 黒狼ならば解読できようが、私に語られても何も解るまい」

『ー』


 彼女の、女神が告げる言葉は悲哀に満ちていた。

 泣くように、囁くように意思を伝えるその言葉。

 だが、レオトールはその全てをバッサリと切り捨てた上で。

 冷徹に、言葉を綴る。


「神を私は信奉しよう、神を私は理解しよう。だが、何も与えん汝等に何を施す? 何を返せという? 滅びを良しとし文明を押し留め。我欲のために世界に歪みを生んだ汝等をどうしろと? 言っておくが私は、何も為さん存在は嫌いだ。施し、上位に立っているように見せかける汝等が嫌いだ」

『ー』

「語りたければ剣を持て、いい夜だ。決戦前夜に相応しい夜ではないか、なぁ?」

「お、めっちゃ美人じゃん。その女神様、名前は?」


 レオトールの言葉、ではなく。

 深淵スキルが訴え、故に赴いた黒狼にレオトールは言葉を投げる。

 夜風が冷たく、確かに決戦前夜とするにはちょうどいい夜だ。


「で、何のようだ? 女神様?」

『ー(どうか、彼を黒騎士と戦わせてくださいませんか? 彼の妄執はもはや)』

「知るか、テメェで伝えろ面倒くさい。もしくは力づくで言い聞かせてみろ、雑魚ながらに相手してやるよ」

「結論は一緒だったか、どうする女神?」


 武装を構える二人を見て、女神の姿は消えていく。

 黒狼はソレを見て、そのまま天に浮かぶ月を見た。


 月が輝いている、ゲーム内であっても空に浮かぶ星は綺麗なものだ。

 地球旅行した時に見た月の美しさを思い出しながら、人類の愚かさを思い。

 そして、無駄に壮大な思考に呆れて笑う。


「レオトール、あの月にたどり着けるとしたら。お前は、どうしたい?」

「そうだな、ソレでも私は大地を這うだろう。ソレが私の生き方である以上は、な?」

「そうか、結局そうなるか」


 対話を行う必要はない、そもそも対話で埋められる溝ではない。

 二人は親友ではない、友でもないだろう。

 そんな簡単に言い表せて、そして安易な関係ではない。


「多分ないけどさ、もしも俺らが戦うことがあればどうする?」

「ステータス次第だな、私の天敵はお前だ。あらゆるフェイクや意図が筒抜けになる以上、私たちの戦いは演舞にしかなり得ない。先にスタミナが尽きるか、避けようのない致命傷を与えるか。もしくは、その両方を達成しない限り殺すことは不可能だろう」

「だよなー」


 そのまま、黒狼は思考をとめて空を見る。

 幾千に輝く天蓋を見て、黒狼はあくびをして。

 そのまま、ログアウトした。


「いよいよ明日か、体が震えるな」


 それは武者震いか、恐怖か。

 どちらにせよ、夜が明けるのは確実だった。

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