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Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
一章下編『一切の望みを捨てよ』

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Deviance World Online ストーリー5 『戦争、もしくは蹂躙8』

 霧は、恐怖だ。

 白い恐怖、悍ましい恐怖。

 ソレは怪物であり、狂気である。

 自然に生まれた自然の象徴にして、近代以降の人間が扱うに至った化物。


 武器とは、戦いの歴史だ。

 人が作り出した恐怖、人が完成させた狂気の具現。

 怒りと嘆き、憤怒と憎悪の結晶体。

 ソレは、人類が作り上げた殺意だ。


 二つの化け物、二つの究極。

 怪物には怪物を、その理論で編み出されたただ二人の人間の戦い。

 ソレは天地轟々と音を鳴らし、命を縮み上らせる。

 恐怖なのだ、これこそが。


(化け物、か。これほど、この言葉が相応しい男も珍しいなァァアア? レオトール!!)


 笑っている、笑っている。

 霧深き町、霧と黄金と魔術の街。

 歯車と不都合、合理と魔法の都市で戦ったあの日をブライダーは思い出した。

 北方において最強と呼ばれた、そう言われた化け物との戦いを思い返す。


 あの日こそは、恐怖だった。

 あの日こそは、狂気だった。

 あの日こそは、歓喜だった。


 脳が沸騰した、地肉がドロドロにまで融解し。

 霧の怪物がそこに誕生して、その上で怪物は怪物に倒された。

 蠢く恐怖は、凍てつく恐怖に殺された。

 レオトールという、恐るべき怪物に封じられ。


「『絶叫絶技』」

「『血染めの霧』」


 もはや、戦いは加速を一周回り遅く遅く変化する。

 目紛しく変化する戦場の中で、レオトールのアーツにより霧が震える。

 霧の中の物質が震え、崩壊し。

 だが赤色に変化した霧の全てが、レオトールへ向かう。


 地面を歩く、怪物。


 周囲一体を巻き込みながら、全てを崩壊させるように光線と霧が収束し単騎による戦争を完成させている。

 もはや芸術、破壊の芸術。

 森林は絶叫し、理性は蕩け王の号令すら届かない。

 これこそが地獄、これこそが天国。

 死の逢瀬、絶望のワルツ、ワルキューレの福音が鳴る。


「あァ、使わせるかァ!! 人間ンッ!!!!!!」

「来るなら来るといい、排煙の化け物」

「そうかァ、ならばやってやろうォ?」


 直後、音が消えた。

 消えた、戦闘音が。

 消えて消えて、何か消えて。

 何もかもが消えて、恐怖と狂気に侵されて。


 ソラは内にあり

 天蓋は瞼であり

 深淵は臓腑にて

 理性は脳にして

 即ち、此処こそが生命の到達点。


 怪物とは即ち童だ、怪物とは即ち子供だ。


 無辜の子供だ、無垢な叡智だ。その瞳には啓蒙をたたえ、深層の理性にて本能を語る無知蒙昧だ。故にソレらは怪物であり、怪物とは即ち子供である。心はありきたりな表現を望み理性は熱によって溶けていき、黒死の翼は世界へ羽ばたく。教皇は死に、歯車は周り空は罅割れ音は消え。

 理性の無垢たる童謡は心揺さぶり絶望を奏で、排煙は空を未知につつんでいく。もはやそれは泣ける子供、熱に浮かされた病にして終わりなき恐怖。理解は必要なく理性は溶けて消える、母性は血脈に刻まれ血液はワルツを刻み溢れ出る臓物は赤々しい美味を醸し出す。

 理屈による理性の言葉は消え去った、濁る網膜に刻まれる記憶はその力を振るわんと泣き叫ぶ。ソレは血の聖剣、聖なる湖、精霊の言葉。見えぬ物は見れるのではなく見えぬが故に見えぬのだ、まるで眼球の裏のよう。月は瞳、理性は蒙昧。甘美な美味は消え果てて、恐怖の大王は世界の存続を望んでいる。獣は唸り、第一の滅びによって滅びゆく世界は終末を訴え。遙か太古にて未来はすでに確定している、即ちこれこそもう一つの世界なり。故の福音は我らの手にあり、刻まれた血液こそが我らの福音たらん。

 現実はとうの昔に歪み壊れ、音なき音が絶叫を奏で。我ら無知蒙昧たる神の代理人こそ滅びを奏でる我欲の獣、眠れる獣性こそ目覚めてはいけぬ怪物の理性。理性こそは獣性であり社会は滅びのままに思いの丈を譫言として話す、もはや言葉に意味はない。意味ある言葉は意味なき言葉、言葉遊びは童の童謡。狂乱のままに喜びたまえ、これこそが世界の終末を意味するのならばソレはまるで喜びだ。

 笑え笑え笑え、笑う門には鬼来たる。臓物撒き散らし微笑みのままに血液の母乳を飲み込むものよ、白乳じみた血液こそは我らの理性を奪うもの。天蓋に刻まれた意味なき星図を海図とし、時の時流を波として。我らは陸地を目指すもの、遺伝の深淵を下るもの。二重螺旋に挑むもの、これ即ち星の海図に還るもの。

 邪智暴虐なる王は消えた、星の終わりの科学は消えた。世界は霧が支配する、世界を霧が支配する。即ちこれこそ到達点、すなわちこれこそ始発点。終わりの曇天が笑みを浮かべた自由の女神を曇らすときまで悠久生きる我らは自由の終わりを知ることなく。

 怪物は目覚めた、錆びつく鎖は崩壊した。

 喜ぶことだ、有象無象。

 これこそ即ち、()()()()

 終わりを誘う、最後の調べ。

 凍えろ世界、笑うと世界。

 これこそ即ち、王妃の体躯。

 泥水啜れ、愚か者。

 即ちこれこそ。


「『空想の灰姫(シンデレラ)』」


 止まった世界で、斧が落下し。

 赤く蠢くその体躯から、ソレが生まれ出て。


 蒸気が吹き出し、銀世界を形作る。

 ただ違えることなかれ、その銀世界は全てを腐敗させる。


 もはや、レオトールも笑みを浮かべざるを得ない。

 そこにいるのは、怪物の領域すらをも超えた。

 生きる怪物が、生きていた。


 武装を全て収納した、もはや怪物を相手にする戦い方では殺せない。

 白髪巨体、人とは思えない美しさを持つ絶世の美人。

 霧に煌めき、霧が煌めき。

 艶かしく服なき肌を露出させながら、眼球が抉られ血煙吐き出す口を残し。

 生ける化け物たちが、そこにいた。


「手加減、できんぞ?」

「もはや、無用」


 ブライド・ブラスター、否。

 この場合はこう称するのが正しいだろう、『銀世界に沈む灰(アッシュ)』と。


 アッシュは、血液の能力を発動した。

 その力は強大無比であり、そして同時に彼の体を変形させる。

 変形させた体は、変態した体は人の形を持つ怪物でしかない。


 四人に分裂した彼は、解けた包帯を左手で掴み。

 地面に落ちた、斧を手に取る。


 瞬間、レオトールが迫るのではなく回避した。

 回避しなければならなかった、その現象が発生する。

 抗戦をするでもなく、なんでもないただの回避。

 ソレを起こすだけの、それだけのことが起きた。


***


 知っている、こうして見るのは三度目だ。

 私は、ソレを知っている。

 霧を吐く怪物、北方にて最強を騙れるのが私ならば。

 彼は、私を超える化け物だ。


 『空想の灰姫(シンデレラ)』、その能力の特徴は自己分裂にある。

 ソレは存在しない姉妹を生み出すチカラ、スキルともアーツとも魔術とも毛色が違う能力。

 私はそれを、レオトール・リーコスという私はソレを知っている。


 最後だからと手を抜いた、殺すつもりで殺さなかったことが敗因か。

 無駄に冷静な思考に呆れ、笑う。

 互いに薄々感じているのだ、この先で我々は死ぬということを。

 だから、最後の最後で全力で戦いたいと考えていた。


 早い、ステータスではその速度を出せないだろう。

 私もブライダーのステータスを知っている、あのステータスでは音速の突破こそ容易だが制御は不可能なはずだ。

 私とて先読みに先読みを繰り返し、理屈でない感覚の反射で動いている速度帯。

 そこに土足で踏み込めるはずなどない、なのにその速度以上で動いている。

 つまりは、もはやこの世界の仕組みを超えたということに他ならない。


 理屈でなく、力で世界という境界を超えたか。

 さすがだ、この戦いで死ぬのもまた良い死だろう。


 だが生憎と、死ぬ気にはなれん。

 あの時は『緋紅羅死』の特殊アーツに頼る羽目になった、だが此度の戦いではもはやその必要すらない。

 一撃にて、必殺となそう。


 魔力を収束させ、この剣に注ぐ。

 魔力総量、およそ1万。

 軒並みの剣ならば内側から崩壊する魔力量、しかしこの剣においては例外だ。

 そう、この世界に存在しない物質で構築されているコレならば。


 彼も私も傭兵の道を選んだことこそ不幸と呪うべきであろう、もしも剣至の道を歩めば。

 我々は、もっと未来へ歩めたはずなのに。


 だが、ソレでは私はここに立っていなかっただろう。

 故に、結構。

 これこそが、我らの到達点なのだ。


「もはや詠唱など意味を為さん、何もかもが一撃で決着しよう」

「いいなァ、いい話だ。北方最強と謳われる化け物が、本気を出すと言うんだからなァ!!」


 ブライダーの挑発に、少し笑みを浮かべて。

 一人の男は、極剣を振る。


 極まった剣、それ即ち極剣と人は言う。

 そして人はみな口をそろえて言うものだ、そんなものなど存在しないと。


 私も、それには同意見だ。

 極まった剣など存在しない、何せ私はそれを見たことがないのだから。

 だが、アーツからその理念を凡そ察することはできる。

 最初に到達した人間をまねた、このアーツから元々の概念を知る事は出来た。


 極剣、もしもそれが存在するのならば世界を割く剣に他ならない。

 世界、そう世界だ。

 現実と非現実の狭間、無知蒙昧たる人類が知りえない領域。

 我らはその位階に存在しない、だが術理は手の内にあった。

 過去の英雄は、その領域に居た。


 これは贋作であり模倣、低俗極まる不遜の一撃だ。

 だが確かに、その一端は模倣しているのだろう。

 でなければ、炎竜帝たるあの竜が死ぬことを受け入れるはずがない。


「『極剣一閃』、至りて」


 別段、この技は私のみが使えるという訳でもない。

 鍛錬を行えば、別の方策にて黒狼も十分に到達し得る。

 というか、あの男はこの領域に到達せねば『極剣一閃』を真たる意味で習得せしえないだろう。

 あれには私と同じく、才能がないのだから。


「受けてやる、リーコス!! その一撃に対抗してやろう、『機構開放:白銀世界は終焉を告ぐ(ザ・スチーム)』ッ!! どちらが白に相応しいか、決めようじゃねぇかァ!!!」


 いよいよ、奴も斧を開放した。

 幾重に重なる血液の匂い、霧がすべて消え熱と水がそこに収束している。


 知っている、ああ知っているとも。

 かの盟主の武装、私の『津禍乃間』に匹敵しうる至上武装。


 『白銀纏う血啜斧(スチーム・アクス)


 此れこそが、あの化け物が用いる武装の正式名称であり。

 この世界において、類を見ないであろう吸血装備。

 常に霧を吐き出し、周囲を白銀で埋め尽くす奴が排煙たる由来の武装。

 そして、奴の体躯に刻まれている全ての魔法陣の原点。


 解放宣言により、その武装は大きく様相を変化させた。

 超巨大な、元々ブライダーに見合うほどに巨大な斧であったのだが。

 それが、ブライダーの背丈を超えてそこに君臨している。


 ブライダーは、確かに概念攻撃を保有していない。

 だがそれはそうとして、そんなものを関係なく切り裂けるぐらいの規格外を保有もしている。

 斧に纏わりつく水分、蒸発しないように完全に制御された熱。

 その斧を構え、理知の範囲を超える化け物は。

 ブラスト・ブライダーは、私の一撃を前にしてそれだけを用意して迎え撃たんとしていた。


 笑みがこぼれる、傲慢だが結果はやはり見え透いていた。

 私の勝利で、この戦いは決着していく。

 その未来が、もはや覆す方法などなく存在していた。


「『極剣一閃(グラム)』」

「『灰は銀世界に散る(アッシュ)』」


 境界、という概念は知っているだろうか。

 一般的には何かの境目を指す言葉だ、だが魔術的に考えれば境界は別の意味を孕む。

 この世界、適切な言葉が思い至らないためこの場合はセカイと言おう。


 このセカイは、一種の境界である。


 例えるのならば、このセカイは一つの絵巻物。

 本であり、現在は項だ。

 我々はその紙の一枚の中を無限大の広さと認識し、その中で生きていると例えられる。

 故に、魔術に置いての到達点とはその項を認識し絵巻物を改竄することであり。

 その一つとして、心象世界が存在する。


 まぁ、別段この世界を改竄するだけなのならば剣を握って。

 こうして切ろうと思えば、存外楽に切れるモノだが。


「……………、敗北かァ」

「運がいいな、ブライダー。私が万全であれば、その命を完全に奪うことに至っていただろう」

「殺せよォ、レオトール。ああ、殺されェ、たかったのかもなァァァァ」

「もはや怪物たる貴様を殺せるほどの魔力が残っておらん、残念だ」


 嗤うように言葉を吐く私と、彼。

 結局、互いの最強の一撃は互いに必殺足りえない。


 胸に突き刺さり、今なおこの体躯を焼き尽くさんとする斧を抜く。

 血が飛び出た、致命傷だ。

 だが適当にポーションを振りかけ、しばらくすれば完全に回復した。


 いつから、と言えば生まれた瞬間からなのだろうが。

 私は、致命傷を負ってもHPがすぐに消え去らない。

 というより、我々一族全員に言える話だろう。

 進化という選択が廃棄された代わりに、一族が得た力だ。


 とはいえ、目の前で体を四分割されているブライダーを見ればこの程度の力を特殊とは思えなくなるのだが。

 人ならば心臓を割かれた時点で死んでおけ、戯け。


「心地よい戦いだったなァァァ、明日の星を拝むのがァ難しいほどのォ」

「戯け、ソレで死ぬのならば最初の出会いで殺しきっている」


 あの時は頭を落としたというのに、平然と再生しやがった。

 さすがに私と言えど吃驚したものだ、人間じゃないと。

 

 遠くからやって来るドラコを見ながら、考えを巡らせる。

 このまま戦えばさすがに逃げ切ることもままならん、相打ちに持っていくのも……。

 まぁ、無理だろう。

 逃げるにしてもそう上手くは出来ん、さすがにトップクラスの火力を相手にする余裕はない。


 内心焦りつつ、周囲にトラップを張り巡らせてみればドラコは両手を上げながら降参の意を示してきた。

 どうやら、実際問題戦う意思はないらしい。


「さて、何の用だ?」

「王がさすがにやり過ぎだとよ、俺としちゃぁまだやりたいんだがねぇ」

「まぁ、確かに少しやり過ぎたな」


 周囲を見て、私は息を吐く。

 地面が壊れ、融解した上でクレーターまで生まれている。

 さすがに、こちらの土地では耐えきれなかったらしい。


「という訳で、こっちは一時撤退だ。お前は? リーコス」

「私も逃げさせてもらおうか、こう見えてステータスは9割しか回復していないのでな。噂によれば決戦は未だ幾何か先という、休ませてもらうさ」

「そうかい」


 言葉短く交わせば、魔術的妨害もなくなった。

 全く、あきれて言葉も出ないとはこういう状況にこそ言えるのだろう。

 私一人相手に盟主を三人も付けるなど、何処までこの国を大切にしているのやら。


「ああ、プトレマイオスからの伝言だ。『地形を破壊するときはもう少し考えてくれ』だとよ、リーコス」

「考えて破壊できる相手でも無かろうに、そもそもこの戦い方は私とて消耗が激しい。本意でないとしってるだろうに、嫌みな奴だ」


 転移魔術が発動する、私は空間のゆがみを一瞬彷徨い。

 そうして、迷宮へと帰還した。

最強の男、それがレオトール。

ちなみにですが、ヘラクレス戦で何故こんな戦い方をしてなかったかといえば単純にステータスで抑えられていたのと人型であったためです。

彼が言っているとおり、この戦い方は対化け物用でありレイドボスを狩るときに用いる戦い方なので人型存在を相手にするには弾幕のわりに隙が大きくなるのです。

なのでこれは本気というよりは、相手に合わせた結果こんな戦いになったというのが正解ですね

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