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Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
一章下編『一切の望みを捨てよ』

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Deviance World Online ストーリー5 『戦争、もしくは蹂躙6』

 目の前に存在する二人の盟主に一人の王、其を見ながら戦うことは早々に諦め手を投げ出す。

 そして、半ば投げやりに目の前の3人を煽りつつ黒狼は話を聞くことにした。

 というよりも、話を聞く以外の選択肢を与えられなかったと言った方が正解だろう。


「でさ、レオトールはどうなってるの?」

「まぁ予定通りならば『白の盟主』が足止めしてるであろうなぁ、うむ。此度はお主とだけ話をしたかったのでな、少しばかり心苦しいが足止めをさせておるのよ」

「……まぁ、死なないかアイツだし。其で、イスカンダルだったか? 何を聞きたいんだ」

「いやいや、別に深く語る言葉などありはせん。ただ『黒の盟主』と定めた男がどの様な存在かをこうして見たかっただけであり、そして儂が感じた通りの男だったという答えを得ただけであるとも!! うぬ!!」


 声を張り上げ笑うイスカンダルに、肩を落としそれだけのために呼び寄せたのかと恨み節を吐く黒狼。

 ソリが合わない、といえばそうとも言える性格の違いに会話疲れを起こしつつ。

 黒狼は用意された飲み物を差し返す、アンデッドが飲み物を飲めるわけがないのだ。


「それで、俺は盟主ってやつになったんだよな? なんか特典ある?」

「無い、もとより盟主という立場には特別な損益が存在せん。あるのは儂が認めたという事実のみでなぁ、生憎と主が望む様な特別な褒章の類は存在せんのだ」

「武器の一つや二つや100や1000ぐらい渡せよ、ケチめ」

「ヌハハハ、この儂をケチ呼ばわりとは!! 本当に腹が座っておるな!?」


 影から送られてくる視線、流石に度が過ぎたか? と思う黒狼だが別に目の前の彼も笑ってるしいいじゃ無いと適当に思考を変化させる。

 もとより、黒狼にはまともに取り合う気がない。

 目で訴えながら椅子を作らせ、そこに堂々と座りながら頬杖を付く。

 そのまま後頭部を黒い鞭のような、そんな類の魔術で叩かれつつ抗議の視線を向けた。


「それで、俺の人柄は把握しただろ? 帰らねぇの?」

「ん? 何故儂が帰らねばならん?」

「そんな気がしてたー、で何が目的?」

「話をすることだと言っておろうに、全く」


 その言葉を聞き、目の前の存在のわけのわからなさを噛み締めつつため息を吐く。

 何をしたいのか、意図が汲み取れない。

 そもそも立場、実力が大きく違う。

 理解を示そうにも、示せるはずが無いのだ。


「仮にでも『黒の盟主(ノワール)』と認めた相手だ、やはり顔を合わせ語り合わねばのぉ!!」

「いやどすぇ……、俺はお前みたいなの嫌いかもしれん」

「むぅ、結構儂は好かれる存在と思っているのだがのぉ?」

「距離感と無駄に強いカリスマ性があるからな、うん。多分普通に付き合う分にはいいおっさんなんだけど、近くに居たくない。俺の思想や思考が歪められそう、そんな気がする」


 黒狼の言葉にイスカンダルは苦笑いで返し、そのまま彼はワインを飲んだ。

 高価な、というわけではない。

 少なくとも黒狼の目から見て、高価とは思えない様な。

 ひどく美味しそうには見えない、そんなワイン。


「うむ、故郷の味は無類の味であるな。どれほど至高のワインと比べれど、故郷の味に勝るものはない」

「故郷の酒か、俺にそんなのはないからな」

「ふむ、異邦というのは安住の地であると聞いているぞ? 故郷が気づかぬ内に滅びているなどはあるまい」

「違う違う、そういうのじゃねぇ。こんな発展途上の世界と違って、星の裏側どころか外に飛び出ても全く同じ様な製品が現れる。地域での違いとかも存在しない、故郷の味っていうものが存在してねぇんだよ」


 黒狼の言葉に、少し眉を潜めるイスカンダル。

 世界の特色が無い、見果てぬ彼方まで同じ地平が続いている。

 それは、紛うことなく退屈な世界だろう。

 退屈で、地獄のような天国の世界。

 人々は安住の生活を手にし、安寧を享受し切っている。

 そんな、世界を夢想し。


「やはり、主は盟主に相応しい」

「知るか、イスカンダル。俺を勝手に規定するんじゃねぇ、俺はそういう風に型に嵌め込まれるのが嫌いなんだ」

「型に嵌め込まれる? 何を言っておる、主はもとよりこれ以上ない型にはまっているではないか。話を聞く限り、そしてこうやって対面すればするほど理解できよう。うむ、主という存在は謂わば……」

「やっぱり俺はお前が嫌いだ、『征服王』イスカンダル。俺はお前みたいな、お前みたいな支配者とは相容れないらしい」


 黒狼の突き放す様な言葉に、イスカンダルは豪笑する。

 面白かった、イスカンダルにとって黒狼の回答は面白かったのだ。


 イスカンダルは力で全てを制してきた、征服者にして征服の王。

 だが力で制圧するが故に、その全てに一定以上の理解を示し共存の道を測らんと叫んだ。

 あらゆる文化を保護するように敬い、その上で道を塞ぐのであればその悉くを切り裂く。


 北方で、最強たる軍団。

 『王の軍(ヘタイロイ)』を率いる、『征服王』たるイスカンダル。

 何よりも、誰よりも王たらんと命を叫び。

 誰よりも、何よりも己を誇示せんと命を張る男。

 それが故に、それがために。

 征服王は、征服者であるのだ。


 故に見抜いた、故に知り得た。

 黒狼という男の、面白さを。


「まぁ良い、もはや知り得た。儂の戦いに主は入り込めず、儂は主の戦いに関わることはなかろう。儂らに大義はなく正義もない、それが一つの答えであろう」

「おい、征服王。遺言があるのなら一つ聞いてやる、何をして欲しい?」

「……、ふん。なれば、北方へ赴いた際に見極めよ。この世界のあり方を、不都合を。主が思う、この世界の生き様を」

「ホント、俺はお前が嫌いだわ。北方って土地の、程度も知れるな」


 黒狼の言葉、直後に首を刎ねられた。

 征服王、彼が持つ宝剣によってあっさりと首を切断され。

 そうして、征服王はマントを翻す。


「無礼は許そう、だがそれは儂に対してのみだ。余に対して、北方に対しての無礼はもはや許す気などない」


 対話は不要だった、最初から会話もろくに存在していない。

 二人はうっすらと予感する、予感している。

 もはや、二度と会うことすらないという事実を。


「さらば、矛盾たる『黒の盟主』よ。主の生き様を儂は知り得ることなどないだろう、故に送り届けようとも。儂の、死に様を」


 イスカンダルの言葉が聞こえてか、もしくは聞こえずか。

 骨が、完全に消失し。

 イスカンダルはそれ以上口を開かず、その道を歩き始める。

 黒狼にとって、これは最初で最後の北方の王との対話であった。


***


 グランド・アルビオン、その中の円卓。

 そこでアルトリウスを含めた円卓の騎士と、NPCの騎士が一堂に会し目前に迫る脅威を再認識している。

 『征服王』、それらと『王の軍』という存在。

 勝てるとは到底思えない、故にアルトリウスは無礼を承知で王に説いた。


「何故、降伏しないのですか? もはや敵い様がないのは見るまでもない事実だ」


 老齢の王、かの王は指をゆっくりと折り曲げ震える声で応える。

 もはや、アルトリウスを迎えたあの日に見た権威と知恵に塗れた姿は見えない。

 そこに寝転び座しているのは、老齢の紳士だけ。

 震える声、震える指でアルトリウスの言葉を聞き返し笑うように指を折り曲げる。


「ならば、アルトリウス。負けるからと、誓いを捨てろと言うか? 我ら太古より。古代より紡いだ誓いを、捨てろと?」

「いえ、いいえ。ですが、もっとより良い手段があったはずだ。もっと、人が死なない方法があるはずだ」

「やめてください!! お父様も!!」


 一人の、円卓に並ぶ少女が叫ぶ。

 そう、黒狼が助けた少女にして女性。

 王女、ギネヴィア。

 アルトリウスに恋慕し、自分の権力を利用して迫る女狐。


「もはや起こってしまったことはどうしようもないじゃないですか!! 今行うべきは、あの憎たらしい軍勢への対策に他ならないでしょう」

「否定、できませぬな。お二人方、少し落ち着かれよ」


 少女の叫びに呼応し、エクターという初老の騎士は静かに正す。

 王に対して意を唱えるのが騎士ならば、宥め冷静にさせるのもまた騎士の役目だ。

 老齢の騎士は、それでもなお鋭い眼光を以て睨みつけアルトリウスの興奮を抑える。


 そもそものスタンスが違う、同様に国に対しての思い入れも違う。

 この円卓に座す存在、王に姫に騎士たちは空席だらけの円卓を見ながら黙し言葉少なく現状を話し会っていく。


 死んだ、死んだ。

 圧倒的に死んだ、なんの意味もなく無意に死んだ。

 残酷に、無慈悲に、理智能わず死んだ。


 どうしようもないのだ、もはや。

 勝ち目がない、どころの話ではない。

 グランド・アルビオンは先の戦いで半壊、もしくはそれ以上の状態になっていた。


 剣術指南、アムルは都市防衛のために死んだ。

 一流の冒険者であるベイラン、ベイリン兄妹はそのまま逃げ惑う人たちを逃すため盟主に戦いを挑み敗北する。

 エルフであり、古くから国を見守ってきたブランシュフルールは街に放たれた竜炎を鎮めるために身を捧げ。

 

 それだけではない、プレイヤーの死亡数はもはや5桁に乗りだしておりNPCの死亡数ですら4桁を目前としている。

 進行こそ止まったものの、それは状況の好転を指し示すわけでなく。

 むしろ、悪化と言い換えてもいいほどに状況は悪い。


「……、問題はそれだけではありません。例の黄金の城、あれはプレイヤーの産物でなければそれは第三勢力の介入を指し示すことに他ならない。目下最大の問題は征服王ですが……、あの城主がどう言った対応を行うかによって我々も対応を考えなければ」


 アルトリウスの言葉に静かに頷く一同、彼らとて黄金のジグラットの脅威を知っている。

 刻まれた紋様の悉くは魔術的意味合いを保有し、神秘を纏い秘密のヴェールを纏っていた。

 解析など不可能、透析など不可解。

 覗くことは不可能であり、赴けばいつの間にか道に惑う。


「……、ん? え……。このタイミングで? ワールド・クエストの発生が? なんで……」

「どうされましたか? アルトリウスさん」


 アルトリウスが困惑の声を上げる、その困惑はアルトリウスだけに示されたものではない。

 キャメロット全体に伝播していく、その困惑が。

 ワールド・クエスト、存在だけは知られているクエスト。

 受託した存在はひどく少なく、NPCを除けば『銃撃魔』ビリー・ザ・ガールに発注された『世界文明の向上』。

 黒狼に発注された『ーーーー』、『脳筋神父』ガスコンロ神父に発注された『脳筋進化』。

 『インフォメーション教授』ポリウコスに発注された『世界の究明』などなど、全体から見ればその総数は少ないもののなんらかの形で発生しているワールド・クエスト。


 だが、こんな急に。

 そして広範囲で、一気に発生することなどあり得ない。

 そんな思考が過り、現実を再認識することであり得ていることに恐怖する。

 何が起こっているのか、何が起ころうとしているのか。

 恐怖に慄きながら、アルトリウスはその内容を読んでいく。


「ワールド・クエスト名、『終焉回避』……? は? 一体どういう……」


 体が強張った、恐怖に顔が歪む。

 何が起ころうというのか、ただでさえ後手後手に回っている現状でより大きな厄介ごとが起ころうとしているのか。

 高鳴り、恐怖を訴える心臓の鼓動を聞きながら。

 アルトリウスは、ゆっくりと文字を目にしていく。


 書かれている内容は、簡潔であり単純だった。

 『ワールド・エンドボス』の発生の抑制、もしくは『ワールド・エンドボス』による世界終末の回避の実行。

 規模感が、急激に変化する。


 もしも、後世でDWOの話題が上がり。

 このゲーム内での一つの始まりがどこにあるのか、それを語るとするのならば今日この日。

 今この瞬間を除き、他にない。


 最上にして至高、至高にして究極。

 ワールド・エンドボス、文字通りに受け取る他にない世界の終わりを告げる化け物。

 その存在が知れ渡った、その日であり。


「喜べ、下郎。この我に謁見する栄誉が与えられたことを、そしてこの我の言葉を耳にすることができる幸福を。そして、この我直々にこれ以上なく面白い余興を行う権利が与えられたことをな」


 円卓が壊された、壊された音がする。

 本能が恐怖を訴え、理性が死滅を予知し。

 理解は事実を否定し尚、生きようと本能が踠き足掻く。

 恐怖の大王にして、破壊者。

 王の具現にして暴君、暴君にして賢王。

 過去と未来を見渡す双眼を有し、星の終わりまでを知り尽くす狂気。

 すなわち、その男こそ。


「名乗りが欲しいか? ならば名乗ってやろう。我こそが、『英雄の王』たるギルガメッシュだ。図が高いぞ、無知蒙昧ども」


 一人の女を背後に侍らせ、黄金の着衣を纏い黄金の髪を艶かしく濡らし万物至上を魅了する人間(かいぶつ)

 その存在を目にし、呼吸は止まり音は消え感情は一色で塗りつぶされて。

 竜に睨まれたかのように、否。

 竜に睨まれるで済まない感情を与えられた、カエルのように。

 アルトリウスたちは、黙り込む。


「すべての盤面が整った祝いだ、この我を楽しませる不可解の交差だ。泣き叫び喜べ、これほど幸福な話はない」


 笑みを浮かべ、ギルガメッシュは笑い唄う。

 高笑いだけが響く、この円卓に。

 その、高々に歌われる声だけが響く。

 響いて、響いて、響き続けて。

 いつの間にか重圧は消えた、いつの間にか恐怖は去った。

 それでもなお、感じられた。


「あれが……、世界の滅び……。世界の、滅びだ」


 ワールド・エンドボス、その存在を認識したアルトリウスはゆっくりと恐怖を噛み締めながらそう呟く。

 世界を遊戯としか捉えていない様な、そんな化け物を目にしてアルトリウスはそう呟くしかない。

 生きていることを幸福と思うなど、人生の中でこれが初めてか。

 VRCから鳴り響く、精神保護機能の音を聞き思わず息を吸い込んで深呼吸を行う。

 今は、この酸素が美味い。

 それだけが、唯一の救いかも知れなかった。

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