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Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
一章下編『一切の望みを捨てよ』

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Deviance World Online ストーリー5 『勿忘草』

 久しぶりに、黒狼とゾンビ一号は目を合わせた。

 泣きそうな顔で、これ以上ないほどに嬉しそうな顔をする。

 普通に人間ならば罪悪感の一つでも湧くであろう、そんな顔。

 黒狼は、拳を握るとそのままゾンビ一号の顔面を殴りつける。


「お前は道具か、ソレとも人間かッ!!」

「私は、最初から貴方の道具です」

「じゃぁ、なんでこんなことをする!? バカか? バカだお前は!!」

「はい、私はバカです」


 帰ってくる言葉は全て肯定だ、否定はない。

 道具に否定権はない、道具ができるのは持ち主の意向に沿って頷くだけ。

 いい笑顔で、満面の笑みを浮かべながら。

 彼女は愚かしく、愛おしい彼を見る。


「殺されたいのか? お前は」

「貴方に殺されるのならば、私は貴方に殺されたいです」

「愛されたいのか? お前は」

「貴方が愛してくれるのならば、私は私の全てを捧げましょう」

「何がしたいんだ、お前は」

「貴方に必要とされたいです、私の命が燃え尽きるまで」

「何をされたいんだ、お前は!!」

「貴方に求められるその全てをしたいのです、黒狼」

「これは俺の意思に反するぞ、お前が俺の道具だというのならば!!」

「ええ、わかっています」

「じゃぁ、なんでこんなことをするんだよ!! お前は何を望んでるんだよ!!」

「貴方のお役に立つことを」

「これは無駄だ、命の無駄だ!! 価値を枯らしてお前は無為に死んでいくだけだ!!」

「いいえ、死にません。私は貴方のために永遠に生きて死ぬ」

「お前が死んでもお前の価値が死ぬ、お前は無為で無駄な死を獲得するだけだ!! そんなこともわかんねぇのか!?」

「わかっています、わかっていても止められない」

「殺すぞ、ゾンビ一号。俺からの命令は、ただ一つだ」

「ならば、スキルを使って命令してください。無理なんでしょう? 傷心の私に放った時点で、もはやそのスキルは失われていた。」


 満面の、泣きそうな笑顔で言葉を連ねるゾンビ一号に。

 黒狼は思わず剣に手を伸ばしそうになり、レオトールに腕を掴まれ部屋の外へと投げ飛ばされる。


 立ち上がり、そのままゾンビ一号に掴み掛かろうとする黒狼。

 だが、その行動はレオトールによって止められる。

 やれやれ、呆れを滲ませそのまま扉を閉じて。

 黒狼の腕を破壊し、そのまま言葉を放つ。


「初めるといい、もはや対話の意味がない」

「どけ、レオトール」

「断る」

「二度も、戦うつもりか?」


 冷え切った目で、レオトールは黒狼を睨み。

 そのまま足で、扉を閉めた。


 敵だ、黒狼の意識が一瞬で切り替わる。

 レオトールに掴み掛かろうと、咄嗟に動きレオトールは即座にその動きを威圧スキルで押し留めた。

 もはや、チャンスはくれてやった。

 少なくとも、レオトールは黒狼にチャンスを与え。

 最後の最後の分岐点、そこで黒狼は選択を誤った。


「誇り、お前にはわからんだろう。お前に誇りなどないだろうが故に、何者にも比類する気高さがないが故にお前はどこまで行っても(ノワール)だ」

「ああ、ねぇよ。俺に誇りはねぇ、だがソレがどうした? (ブラン)

「ふん、だからお前は間違えるのだ。お前はだから、どこかで間違える。お前はこれ以上なく黒い悪だ、白が介在する余地のない誇りすら食わない飢えた獣。他者を尊重せず、自己を欺瞞する。だからお前は、間違えるのだ」

「間違える? 笑わせんな、俺は常に間違え続けた正解を得る」


 レオトールは、もはや処置なしとばかりに諭すのを諦め。

 黒狼は、レオトールの言葉を身に受けながら信念を曲げない。


 普通など、この二人には存在しない。


 潔癖すぎて誰もが恐れ慄いたとしても、正解である道しか歩けない男と。

 全てを嘲笑い混沌的に全てを嘲笑って、間違えている道を歩き続ける男。

 対極ではない、線対象でもない。

 常に平行線であり、交わることなど最初からできないのだ。


「誇りを、彼女の正しさを否定し己が我儘を貫くか貴様は」

「貫くさ、俺は俺でありアイツは道具と肯定したのならば」


 平行線上、この二人にとって口論の意味はない。

 最初から、最後まで。

 出発地点から終着点まで一切合切交わることがないのだ、だからこそ一言で口論が終わる。

 自分の主張を通したいのならば、力で貫くしかない。

 先に剣を握るしかない、先に握って殺すしかなく。

 最初から、最後まで黒狼はレオトールに敗北する。


「北方では、北方では誇りとは何よりも優先されるべき内容だ。皆が皆、各々の誇りを剣に誓い仲間に誓い傭兵団に誓い。そして、我々は初めて人間となる。故に、誇りを違えた時点でソレは人間ではない。もはや死人、生きてなどいない」

「何が言いたい?」

「お前は、貴様は彼女の誇りを違えさせるつもりか? と言っているのだ。確かに、彼女は無駄な行動をしている。そんなことをせずとも貴様の役には立つだろう、()()()()()()()? 彼女は自ら誇りを定めた。彼女は自ら、己の正しさに報いようとしている。貴様はソレを違えさせるというのか? ならば結構、私は貴様の敵となろう」

「……クソが」


 どけ、言葉はそれだけで十分だった。

 黒狼の言葉に、レオトールは息を吐き黒狼を止めるのをやめた。

 もはや黒狼に、ゾンビ一号を止める意思が無くなったのを感じたから。


 黒狼の視界の端で、一人の女の姿が見えた。

 一人の、黄金の女が見えた。

 彼女は悪魔的な笑みを浮かべ、黒狼に向けて口を開く。

 どうするのか、そう問いかけた。


「黙れ、ネロ・クラウディア。お前の能書が何かはしらねぇが、お前が何を考えてるのかしらねぇが邪魔だけはすんな」

「むぅ」

「見たいなら見ろ、今の俺はお前にまで気を配れる余裕がない」


 満面の笑みで黒狼に近寄ってくるネロを無視し、黒狼は息を吐いて扉を開ける。

 中では最後の一節を唱えようとするゾンビ一号の姿と、ソレを見守る3人の姿があった。

 黒狼はゆっくり、めんどくさそうに口を開く。


「長い間、もしくは星が瞬く程の一瞬だったが…………」


 何か、言おうとしてやめて。

 そして、面倒そうに頭を叩き。

 入ってきたレオトールとネロを見て、再度めんど臭そうに腕を動かし。

 ようやく、黒狼は続きを言う。

 彼女が求めない、最後の言葉を伝えるように。


「ありがとな、ゾンビ一号。お前はここで死んだ、もう二度とゾンビ一号としてお前が生きることを許さねぇ」


 笑う、微笑う、嗤って笑う。

 心の底から、一切の偽りなく。

 満面の笑みで、全霊の祝福を込めて。

 心の底から、黒狼は言葉を吐く。


「死ね、死んじまえ。お前は俺の道具としてこれから生きるのを許さねぇ、徹底的に殺せ」

「はい、黒狼」


 もはや意思疎通は不可能だ、まともに言葉を交わす気はない。

 ゾンビ一号は、最後の一節を言葉にする。


「どうせだ、全員揃ったし船の名前を決めようぜ? 異論は認めねぇ」


 息を吸うように、言葉を吐くように。

 笑い歌うように、黒狼は言葉を続ける。

 終わりの終わりの、始まりを迎えるために。


「この船は、この船こそが。魔導戦艦『ワルプルギス』。さぁ、とっとと死に晒せゾンビ一号」

「『【凍てつく私と愛情よ(ミオソティス)】』、二度と私は貴方と出会わない。もはや、私はここで死んだのですから」


 ふふふ、ハハハ。

 二人の狂笑が響き渡る、想いが渦巻いた笑みが渦巻く。

 渦巻いて、渦巻いて渦巻いて。

 そうして、最後の最後で黒狼は一言。

 全員に向けて、一言告げた。


「やることをやるぞ、準古代兵器を獲るために」


 返答は、必要ない。

 全員が行うべきことを、行い始めたのだから。


*ーーー*


 夜、ワルプルギスの上に立ちながら黒狼は風を浴びる。

 そして、近づいてきた彼を見て息を吐いた。

 そのまま、迷宮の天井である空を見る。


「ワルプルギス、いい名前じゃないか」

「嫌味なやつだな、お前は」

「まさか、本心だ」


 上を見て、上の空の様子の黒狼にレオトールは一つの剣を渡した。

 そのまま、一つのカップを投げる。

 黒狼はソレを受け取り、上半身を起こした。

 そのまま差し出し、レオトールにワインを注がせる。


「乾杯、失った仲間への手向として」

「乾杯、彼女の思いの儚さに対して」


 コツン、と。

 二人は、コップを合わせ互いに中に入ったワインを一気に飲み干した。

 長いようで短い旅だ、もはや二人の運命に不確定要素は消え去っている。

 もう、終わりは目前だ。


「黒騎士、神話の時代の残り香のような存在だ。私ならば勝てる、だがお前では勝ち目はないだろう。最も、常識として考えればだが」

「笑わせてくれるな、少なくとも俺たちだけで戦う状況を用意すれば勝てる。だから安心して、お前はお前の誇りを執行しろ」

「執行しろ? 違うな、執行する必要はない。私は最初から最後まで、私の誇りに従うのみだ」

「全く、お前の考え方が分からなねぇ」


 笑う黒狼は、そのまま腰にぶら下げていた剣をインベントリにしまうとレオトールから渡された水晶剣をぶら下げた。

 言葉にしなければ分からないことがある通り、言葉にせずともわかることも存在する。

 黒狼にとって、これを渡されるということはつまりはそういうことだ。

 一つ、言葉を吐こうとして諦め。

 そのまま、尋ねる言葉を変える。


「敢えて、問わないでおくよ。聞きたいのは一つだけ、お前は結局何を選択する?」

「いい加減、目を逸らすのも後回しにするのも。全て止めるとも、黒狼」

「そうか、ソレなら俺も文句は言わない」

「怒り散らすかと思ったが、やはり怒らんか」


 ククク、と笑みを浮かべるレオトールに釣られ。

 少し、黒狼も笑い声を上げる。

 そして、眠気と微睡の中で。

 言葉をさらに紡いだ、レオトールに対して。


「怒らねぇ、ゾンビ一号ならともかく。お前は俺の道具じゃない、お前は北方に生きる狼だ」

「そうか、存外評価されていたわけだ」

「評価しないはずがない、お前は俺の最強だぞ?」

「……、フン。語るに及ばん話だな、私は北方最強と呼ばれる傭兵だ」


 流れ出るワイン、湿る地面を見て息を吐き。

 そのままカップをレオトールに返す、Ⅻの迷宮を踏破した時にギルガメッシュに渡されたその盃を。

 もう、二度とあの3人で戦うことは能わないと分かりつつ。


「レオトール、お前が死んだらお前の全てをよこせ。これは、俺とお前の契約だ」

「ならば必ず黒騎士に勝て、私ではアレと戦うことが許されんのでな」

「語るまでもねぇ、勝つに決まってんだろ」

「愚問、だったな」


 また、静かになった。

 夜風が吹く、二人の間を抜けていく。

 もしかすれば、あの日のように3人で集えたかもしれない。

 だが、そうはならなかった。


「そうはならなかったんだよ、レオトール」

「…………、そうだな」


 また黒狼は空を見た、レオトールはワルプルギスに目を落とす。

 そうしてようやく、終わりが始まるのが理解できた。

 物語に例えるのならば、プロローグが終わりそうな雰囲気だ。

 そういう風に感じながら、黒狼はゆっくり寝そべった。

 目を閉じようと意識する、そうすれば視界は全て黒く染まる。


「出会った時を覚えてるか? あの時さ、なんでお前は死にかけてたんだ?」

「語ったと思うが、再度言えと?」

「いいや、言わなくてもいいさ」


 洞窟蜘蛛、もしくはアサシンスパイダーの隠密能力を破れるほどの体力がなく追い詰められていた。

 ソレがあったからこそ、レオトールは黒狼と出会った。


「洞窟でさ、俺はノワールって名乗ったな?」

「今ではお前の盟主としての名前だ、価値はなくとも意味はある」

「意味があっても、価値がなくちゃ仕方ねぇ」


 人影が見えた、彼女はロッソだ。

 ロッソが黒狼に近づいてきて、頭を蹴り飛ばす。

 黒狼は慌てて意識を覚醒さえ、頭の位置を治すと文句を言う。

 その日常のような、ソレを見て。

 レオトールは、何を思ったのか黒狼に背を向けた。


「どこにいくつもりだ? レオトール」

「見果てた夢の、彼方まで」

「そうか、行ってこい」


 ワルプルギスの端まで、歩き始める。

 歩いて歩いて、歩いた時に何かを思い出したかのように振り向いた。

 そしてどこかに行こうとする黒狼に向けて、忘れていたことを改め伝える。


「北方にいくのならば、私の妹によろしく頼む。彼女は、私と違って魔術の腕が良い。お前にならば、妹を託せる」

「ああ、託された」


 もはや、言葉はそれ以上ない。

 レオトールはワルプルギスから飛び降りて、そのままやるべきことを行いにいく。

 黒狼も同じく、行うべきことを行うだけ。

 ロッソと言葉を交わし合いながら、ワルプルギスの最終調整をして。

 そうして、物語は最終局面へと入る。

後書き もしくは 作者の独り言

ゾンビ一号は死にました。

実はこの展開はゾンビ一号が登場してから数日後に湧いてきたものです、なので全て最初から考えていました。

ここ数話は読者を無視する展開が多かったと思います、ソレは少し申し訳ありません。


ゾンビ一号のテーマは語るまでもなく、愛です。

好きだと言う感情すら自覚せぬまま、好きと言うことを曲解し。

心の底から自分を誤認し、叶わぬ恋に身を投げる愚かな女として描きました。

ある意味、本作品の負けヒロイン担当ですね。

最後に、ミオソティス。

つまり勿忘草の花言葉は『私を忘れないで』です、これが彼女の心の叫びですね。

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