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Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
一章下編『一切の望みを捨てよ』

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Deviance World Online ストーリー5 『ナイアルラトホテップ』

 モルガンが炎を解析している横で、黒狼はレオトールに戦い方を教わっていた。

 乱取り、すなわち実践による問題点の洗い出しは終わっている。

 今行っているのは、黒狼の基本動作の矯正だ。


「違う、無駄な動きを加えるな。筋がないのだから力を意識するな、相手を切ることだけを考えて振え」

「いや、魔術を行うのだからこうやって動いてる感じなんだが」

「魔力操作を鍛えれば関係ない、まずは正確な剣戟を行わなければならん」

「魔力操作を鍛えるってなんだよ、魔力操作って」


 体躯を動かし、そのまま鎧による攻撃の受け方や剣の振り方を習う。

 比較的単純な動き、動作ではあるがそれだけで見違えるほどに黒狼の動きは改善された。

 とはいえ、レオトールの剣技を仮にでも継承できるほどに黒狼は成熟した動きができているわけではない。

 ソレこそ、『極剣一閃』を放つには数ヶ月にわたる鍛錬は必須だ。


「そういえばゾンビ一号は『極剣一閃』を使えるけど、なんでだ? 教えたのか?」

「そういうわけでもない、彼女は元々の経験があるのだろう。自分の剣技が確立している上に、魔力操作も十分だった。故に、見様見真似でも正しくアーツを放てたのだろうとも」

「……ん? 元々の経験? ソレって、素体の記憶ってことでいいか?」

「あー、まぁいいか」


 レオトールの言葉に、多大な違和感を覚えた。

 おかしい、この発言の真意は最初からわからないがソレでも明らかに違和感が存在する。

 意図的に何かを隠しているかのような、そんな雰囲気。

 何を隠しているか、確実にゾンビ一号関連のことだ。


 黒狼は何を考えたのか、インベントリを操作し始める。

 その動作を見たレオトールは、何をしているのかと尋ねた。


「何をしているって? 何も、少し帰るだけだよ」

「……、そうか」

「気にするな、すぐ戻ってくる」


 ニヤリと、笑うように口を動かし黒狼はそのままゲームからログアウトした。

 笑みを微塵も含んでいない、その目を向けて。


*ーーー*


 ログアウトして、起き上がる。

 周囲を見る、誰もいない部屋だ。

 今日は、誰もいない。


「チッ、アイツいないのか」


 不機嫌そうに舌打ちし、そのままAIに対して呼びかけつつ検索用デバイスを目の前に出す。

 映し出される様々なイラストに文字に、無数の情報の羅列。

 その中で一番上にある検索タブに指を這わせ、いくつかの言葉を入力した。


 DWOはもはや世界で話題を呼び始めているゲームである、無数のコミュニティが乱立し数千万に及ぶアカウントが存在し。

 探究会によってこの世界の歴史は暴かれ、恐るるべき情報が少し調べるだけで手に入れられる。

 その中でも、黒狼は自分の記憶を辿り最も気になる点を調べた。


「グランド・アルビオン王国、第三騎士団」


 すぐに情報が出てきた、そして顔写真やその他の捕捉情報も。

 顔写真はゾンビ一号と瓜二つだ、並ばれれば黒狼ですら間違えるだろう。

 少なくともここにある写真は、ゲーム内でのイラストを写したものだが間違いない。

 そして、その他の情報も読み込んでいく。


 まずは、グランド・アルビオン王国。

 プレイヤーが主に集中する国家、基本的な血盟の拠点が集中しており規模も大きい国。

 山と海の双方に恵まれており、人類に対して悪影響となるレイドボスやレイドボス級が基本的に生息していない国家。

 また国が保有している至上の武装が複数存在し、黒狼が確認したサイトにて記載されているものは三つ。


 聖剣『エクスカリバー』

 聖槍『ロンゴミニアド』

 聖鞘『ヴァハネヴァン』


 筆頭であるエクスカリバーはプレイヤー最強と持て囃されているアルトリウスが保有しているが、他二つは不明。

 誰も持っていないのか、もうすでに誰かが保有しているのか。

 どちらにせよ、今の時点では重要ではない。


 開いたサイトの別項目に飛ぶ、今度に見るのはグランド・アルビオンという国についてだ。

 グランド・アルビオン、名前の由来はどうでもいい。

 重要なのは騎士団についてだ、特に第三騎士団。

 とはいえ、急に第3騎士団の話をしてもわからないことが多いため第一騎士団の話から進めていく。


 第一騎士団、グランド・アルビオンが保有する最大戦力だったモノ。

 北方の傭兵との戦争により、もうすでに半壊している。

 元々は王族特務専門の部隊であり、国家よりも王及び王族を優先して守ることに特化した騎士団。

 もはや殉職しているが、元第一騎士団長であるロットが率いた最優の軍隊。

 現在プレイヤーであるランスロットが保有しているアロンダイトを保有していた人物であり、挙げた戦果は数少ないものの王族を守るという任務においては彼らの右に出るものはいないとされていた。

 その最後は真っ白に包まれた世界が晴れたタイミングで、全てが肉片となり死んだらしい。


 第二騎士団、グランド・アルビンが保有していた防衛戦力。

 第一騎士団を王族特務とするのならば、彼らは市民を守る最も普遍的な騎士団である。

 総数は千を超えており、個々人がプレイヤーを軽く上回る戦闘能力を保有していたらしい。

 だが『王の軍』との戦いでその悉くが目にも止まらぬ速度で殺戮され、残る人間は実力が低く戦列に参加していなかったものたちのみ。

 騎士団長に関しては深い記載がないものの、異名としては穿槍が挙げられている。


 そして本題の、第三騎士団。

 グランド・アルビオンが保有していた、対レイドボス決戦部隊。

 レイドボス、その存在に認定されるには『単独で霊長の文明継続が困難になるほどに文明を破壊できる存在』であることが条件とされている。

 一見、非常に難易度が異常に高いように見えるが実際のところ難易度自体は実はそこまで高くもない。

 人類は霊長である、だが同時にあの世界では最も弱い種族だ。

 そんな弱い種族の中で無為に生きる、何の能力もないただの雑魚を殺すことは酷く容易い。

 勿論、中にはレイドボスを軽く屠るレオトールのような外れ値も存在する。

 だが普通は存在しないし、レオトールのような存在が山のようにいるわけでもない。

 故に、レイドボスの条件は比較的簡単に達成できるのだ。

 とはいえど、それがレイドボスが雑魚であるという証明になるわけでもないのは当然の理だろう。


 そのために、国家内に存在するハズレ値を集め決死の覚悟で殺害するための部隊が存在する。

 『銀剣』のスクァートが所属していた騎士団はそこでありまた彼女はその中で最も強かった。

 飛び抜けて、というほどではないものの自分の命を捨てたような戦い方は獣のような獰猛さを孕み悉くを粉砕したという噂があるとされている。


「……、まいった。何時間経過したっけ? あー、眠い」


 一晩、時間にして6時間近く経過した。

 6時間だ、6時間経過してようやくこの程度の情報しか知り得なかったのだ。

 もしも黒狼がもうすこしゲーム内で自由に活動できるのならば探究会から情報を購入するという手段を取れたはずだ、だが黒狼はアンデッドでありそういうわけにもいかない。

 また現在、黒狼はVRCを外している。

 基本的にゲーム内での疲労は存在しないが、こうして肉体を用い肉眼で色々確認すれば疲労感を感じるのも当然の話だ。

 何ぜ、実際に疲弊疲労しているのだから。


「しかも調べた情報のほとんどが壊滅しているために活用不可能って、何だよソレ。再建とかしてないのかと思えば、アレだろ? キャメロットがその席を奪ってるっていう話だし」


 グチグチと文句を言いつつ、供給されるレーションを口に運ぶ。

 流石の3000年代とはいえ、体内にカロリーを転移させることなど不可能だ。

 大人しく飯を食べつつ、頭を掻く。


「思考が変な方向に逸れたな、ゾンビ一号の話だ。ゾンビ一号の肉体はグランド・アルビオン王国の第三騎士団だった、そして俺が迷宮でポップしたその死体をアンデッド化させたことで復活したんだろう」


 呪術スキルに内包されていた様々なスキルを思い出しながら、確認するように呟いていく。

 思考を整理するのならば、やはり口に出したほうがいい。

 冷静に、一つづつ脳内でまとめていく。


「で、そのまま十二の難行を乗り越え彼女は進化を重ねた。進化を重ねた結果人間的判断ができるようになり、俺の手を離れていった。少なくとも、俺はそう認識いている。となればレオトールはこの過程で、俺が何らかの勘違いをしていることの気づいていてその上であえて放置しているな? あいつは何を知っている? 俺と別れた期間何があった?」


 少し黙り込む、何も心当たりがない。

 進化を重ねたのは事実だ、その結果として黒狼の命令以上の行動ができるようになっているのも事実だ。

 故に黒狼は彼女を遠ざけた、黒狼が欲したのは自分の命令を聞く奴隷人形であり人間ではない。

 そしてゾンビ一号もおそらくその事実を理解している、だから自分とゾンビ一号は最近ロクな会話をしていない。

 意図的に避けている、と言われればそうかもしれないが。

 黒狼にとっては少なくともその行動は意図的ではない、意図的ではなかった。


「訳がわからん、けど何か見過ごせねぇな……」


 黒狼、いや敢えて黒前真狼と言い換えよう。

 彼は、眉間に指を当てて黒狼としての意識を減らす。

 違う、いや違うのではなくダメだ。


 黒前の心を例えるのならば、そもそも全てが外れている境界だ。

 自分がないのではない、確固たる自分がそこにはある。

 ただ、確固たる自分がある上でソレすら全て他人事なのだ。

 興味がない、とも少し違う。

 とことん、ズレている。

 そこにいるはずの自分が、そこにはいない。


 だからこそ、正面から向けられる情熱を理解できても実感できない。

 実感できないからこそ、無意識で敬遠する。


 充実感がない、常日頃から本気で取り組むつもりがない。

 いや、本気で取り組んでいるつもりだ。

 だが、どこまでいっても他人事である。


 目の前で他人が死んだのと同じ感想を自分の死に際に思うだろう、昨日食べた夕食と同じ様に今朝の飯をそのまま食べる。

 まともに生きてるように振る舞い、ズレた感性で真っ当を叫ぶ。

 勿論、喜びはある悲しみも。

 自分の人生という情動を、他人の人生を見るように生きる。

 どこまでいっても本気ではない、どこまでいっても本気にはなれない。

 だからこそ、心底から興奮する物事に対して本気となり幸運を含めた自分の才覚の全てが他人以上に発揮される。


「訳わかんねぇ、後で聞くか」


 だから、彼は自由を求め不自由を迎えそのほか全てを嘲笑う。

 言葉の全ては本心であり、そしてその悉くは嘘でしかない。

 いや、嘘ではない。

 少なくとも、言葉を吐いたその瞬間は。


「いやぁ、眠い眠い。いや、本気で眠いな。ずっとVRCで寝ていた反動か? まぁ、ソレかもしれねぇ。どうでもいいな、うん。今考えるべきはゾンビ一号のことだ、何でレオトールは俺に何かを隠した? ソレは隠す必要はあったのか? 隠すべきことなんてないだろ。そもそもあの世界は0と一の電気信号の羅列だろうし、別にそうでなくてもいいんだが。俺に対して差したる関係のない話だろ、そんなこと。うん、どうでもいい。今考えるべきはゾンビ一号のことだな。何でレオトールは俺に対して何かを隠すんだ? 隠す事柄に対して碌に何も考えいたらねぇ、疑問だな。冷静に考えればわかりそうな感じ、そう例えるのならば喉に詰まった小魚の骨のような感じだな。小魚かぁ、最近値段が高騰化してるらしいな。宇宙空間での養殖は不可能らしいし、やっぱり重力的な問題があるのか。重力ってそう考えれば、ああ今はそんな話をしてるんじゃない。違う違う、話を戻すか。今はゾンビ一号、いいや主題はレオトールか? レオトールが俺に対して何を隠しているのかっていう話だな。喉が乾いたな、水……。いや、オレンジジュースにするか? 科学的に言えば柑橘系は喉の渇きを潤すのに不適切らしいけど。あ、届いたな。うーん、やっぱり美味しい。なんていうか、この刺激がアレなんだよ。アレ、何だったけ? アレって何だったけ? まぁいいか。話の主題を戻すか、レオトールが何で俺に対して誤魔化したのか。単純で明瞭な疑問だな、だが結構難解でもありそうだ。あいつが嘘を吐く理由に思いいたらねぇ、何で嘘というか態々誤魔化した? 結構な合理主義者だろうあいつは。いや、合理主義とも違うかもしれないか。まぁ、無駄なことはしないだろうに謎に何で誤魔化した? 何で俺を? 訳がわかんねぇ。訳がわからねぇな、うんとりあえず喉が渇いた。もう一杯注ぐか」


 思考をそのまま言葉に変換しながら、一つのことしか処理しきれない愚かな脳を働かせる。

 連続的に、断裂的に、並列的に、直列的に。

 言葉を吐けば吐くほど、自分でもわからなくなる自分の所在地。

 悪魔のように契約し、嘘と欺瞞の真実を語る狂気の塊。

 彼は誰よりも自由であるから、自由を求める。


 いいや、自由ではなく混沌を。

 誰も近寄れる、自分の背中に存在する混沌を。

 自由と表裏一体の、世界に穴を開けるような混沌を。

 狂気と狂乱による救いようのない、どうしようもない混沌を。


 文字通り、黒狼は顔のない人々の体現者なのだ。

 まとまりのない思考を、理路整然としない思考を、冷徹無比のような思考を動かし。

 最初から最後まで、最後から最初まで。

 我欲でしか動くことのできない、そしてその我欲すら認識できない位相のずれたような人間。


 背に蠢く混沌であり、顔のない人間であり、黒という闇に潜むものであり、大いなる使命を背負ったような道化であり、闇に吠えるものであり、何でもありの何でもなし。

 誰でもないが故に誰かであり、誰かであるが故に誰でもない。

 ジャック・ザ・リッパーのような快楽を以て殺戮を振りまく狂気でもない、テスカトリポカみたく争いを好む蛮神でもない。

 そこにいるだけの、ありふれている、鏡面のように自分がずれた。

 酷く、酷く、ソレこそ酷くありふれているだけの。

 ただの人間だ。


「あーあ、何もわかんねぇ。まぁ、いっか。わかんないならわからねぇでどうとでもなるし、そもそも唯の一般人が他人の嘘を看破できる訳もねぇしな」


 クックック、そう笑いながら再度VRCを頭部に装着する。

 それだけでいい、そうするだけでいい。

 彼は特別でない、特別なのは彼ではない。

 ただ、彼は彼の願うがままに異なる世界に足を踏み入れるだけだ。

あ、別に黒狼の正体がニャル様とかいうわけではありません。

ただ性質がよく似ているだけの一般人です、安心して読み進めてもらって構いません。

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