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Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
一章下編『一切の望みを捨てよ』

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Deviance World Online ストーリー5 『音を奏でろ、醜悪共』

 メカニカルドラゴン、いや吸血鬼の体躯から肉塊が溢れ落ち醜悪な獣の形状を取る。

 無数に増える、血と肉の塊。

 その上から叩き潰すように放たれる衝撃の数々、レイドボス級に相応しい絶望感を演出するソレら。

 レオトールはその全てを冷たく一瞥し、背後に下がる。


「ブライダーとは毛色が違うか、とはいえ厄介なのは違いない」

「『死ぬしかあるまい、殺されるしかあるまい、もはや絶望は目前でしかあるまいッ!! 北方の牙はここにて折れるが良い!!』」

「舐めるな、吸血鬼風情が。未だ有効打の一つすら与えられていないのにも関わらず、すでに勝利宣言とは」

「『ここまで使わせたのだ、死ぬしかなかろう?』」


 レオトールは看破する、相手が用いているスキルの正体を。

 スキル名『呪詛』、話すすべての言葉を詠唱とし話す内容により己にバフを付与する。

 一見素晴らしいスキルに見えるが、当然デメリットがないわけではない。

 話す言葉により己にバフを与えるのならば、話す言葉次第で己にデバフも付与される。

 特に呪い、すなわち呪詛だ。

 下手に弱音を吐けば、致命的なデバフを受ける代物。

 哀れ、そのように思いながらレオトールは大鎌を取り出し接近してきた獣を殺す。


「醜悪だな、とことんまで」


 醜悪にして、血肉の塊、骨と血により悍ましさを増す肉の獣。

 音を奏で不協和音となり、憎悪と共に悍ましき行進を行っている。


 違和感、向けられた視線に憎悪。

 ふと指を見れば血が付着している、指を振っても取れることのない。

 改めて相手の性質を見て、息を吐く。

 理解と共に、相手の厄介さを理解した。


 呪詛だ、この醜悪な獣の全てが。

 殺せば殺すほど、殺した獣の血が体に付着し続け醜悪な獣にさせられていく。

 最終的には己も取り込まれるのだろう、この醜悪な化け物どもに。


「『絶叫絶技(ギャランホルン)』」


 だが、そんなこと関係ない。

 ひとまず目の前の悉くを殺し尽くすのみだ、過去に北方での『灰の盟主』との戦いで同じ系統のスキルをみたレオトールにとって効果能力以外は大抵看破済みの代物。

 全て潰せば、必ず消耗する。

 『万里の長鎖』を用いて爆音と鎖による二重攻撃を放ち、肉片を肉塊を潰していく。

 一瞬で片腕が赤黒く染まり、体躯が血液に包まれて行くが精彩を欠くことは無い。

 依然万全、目は冴え渡り無数の武装を繰り出しながら戦う姿は正しく一騎万体。

 煩く吠える獣どもを蹴散らし、奥に座す吸血鬼。

 いや、もはや吸血竜と称すべき相手にダメージを叩き込んでいく。

 数々のスキルとアーツ、震える音は恐怖に青ざめ無知蒙昧は一度容易く死んでいき。

 理性のカケラ、知恵の瞳孔、虚わぬ真、その心眼は悉くを叩き潰す。

 破壊の鉄槌、生きる流星。

 撃たれる血液は、剣で潰され。

 放たれる炎は、剣で切り裂かれ。

 防ぐ爪は槍が通過し、肉の壁は槍の一撃にて焼けこげる。


「『氷海魚剣(ミスティルテイン)』」


 放たれる技、濃縮された無数のエフェクト。

 それら全てに攻撃判定が付与され、ダメージが算出された。

 装甲が最も容易く弾かれる、肉の壁は弾け飛ばされ装甲にまでヒビが入る。

 退き慄き叫び、後退。

 吸血竜はその戦いの悉くを実行できず、レオトールに戦いの盤面は支配され続け。


「『北方の傭兵!! そこまで強いか、我が王を倒したモノだとは!!』」

「いいや、これ以上だとも」


 叫び、恐怖と愉悦に身を浸しながら告げる吸血竜の叫びにレオトールは笑みを浮かべながら言葉を返す。

 そもそも、戦いが成立しているだけでしかない。

 隔絶的な実力差こそないものの、やはり戦闘経験の差が明瞭に出ている。

 ステータス的には同等、むしろ属性魔力を精製出来ない事を考えればレオトールの方がやや不利なレベルだろう。

 だがコレだけ押されているのは、戦闘経験の密度と量が足りないから。


「『ならば、契約だ』今から十秒時間を寄越せ、その代わり本気で戦え。強きヒトよ、そうでなくては我が誇りが潰えてしまう」

「誇りを賭けた契約か、まぁ構わん。しかし、十秒で大丈夫か? 手出しさえしないのならば十秒と言わず百秒でも待ってやろう」

「クハハハ、そこまでされてはこの顔が立たん」


 直後、地下が爆発し。

 竜の表層に魔力の線が現れ始め、竜の体躯から垂れ続けた血液が姿形を生成する。

 同時にレオトールも巨大な弓を取り出し、矢を番始めた。

 全長、2メートルを超える巨大な弓。

 矢ですら1メールを超えている、しかもそれら全ては魔法金属で作成されており引くこともままならないだろう。

 そんな代物をアッサリと引き絞り、狙いを定める。


「9」


 宣告、視線の先では竜が魔力を圧縮し血液と炎を混ぜ込んだ最上最強のブレスを放たんと待ち受ける。

 同時に醜悪たる全てが一箇所に集い、巨大で不気味な影を形成した。

 影が蠢く、恐怖を唆らせる。

 その悉くを冷徹無比に無視を決め込み、レオトールも魔力を注ぎ込んでゆく。


「8」


 レオトール側も、レオトール側だ。

 膨大、莫大、空気を震わし万物慄くほどの量の魔力が渦巻いている。

 外部から吸収する必要すらない、それだけの量の魔力を自前で用意し用いて。

 弓に、矢にへと魔力を注ぐ。


「7」


 ドラゴンも負けじと魔力を圧縮し、溜め込んで。

 ただの一撃に全てを掛けて、属性魔力が漏れ出し周囲に赤が散らばる事すら気にも止めず。

 人生最高の、必殺技繰り出さんと息吹をあげる。

 

「6」


 音が聞こえなくなった、ゾーンに入ったと言えばいいだろうか?


「5」


 動作が、ゆっくりに見える。

 動作が、ゆっくりと。

 ゆっくりと、ゆっくりと。


「4」


 遅く、遅く遅く。


「3」


 おそく、おそく。


「2」


 お、そ、く。


「1」


 もはや時間が停滞した、まるでアーツやスキルを発動されているかのような中。

 それでも、息が吐かれたような。

 音が、発生するかのような。

 遅い遅い時間の中、遥かに遅い停滞した時間で。

 レオトールは、最後の言葉を告げる。


「ゼロ」


 Slow, slow, quick


 一瞬にして放たれた、ゼロを超えたマイナスの時間。

 時間感覚が巻き戻り、その上で時間が巻き戻ったような錯覚をしながら。

 遥かに遅い時間の最中、二人は各々の最強の技を放つ。


「『矢は放たれた(ザンクト・ヴェクター)』」

「『焼け焦げる血の伊吹(ブルトフレイムブレス)』」


 拮抗、などする訳がない。

 無数の光束、熱と血液渦巻くブレスを突き抜け。

 魔力によって最強化された首の装甲を最も容易く貫きながら、無数の血液と血肉を散乱させ。

 それでも足りんと、矢が空の彼方へ飛んでゆく。


 きらきら星、まるで童話の流星のように空へと登る必殺の一撃。

 その手前で機械仕掛けの竜は、なお壊れながらブレスを吐き続ける。

 死んでもなお、殺さんとするように。


「笑わせるな」


 だから、レオトールは腕を切った。

 黒く、赤く血に染まった腕。

 その腕を、軽くて切り飛ばしそのまま炎の中に投げ飛ばす。

 一瞬で燃え尽きる腕、その中でも残り続ける服。

 それらを見届けながら、急速に苦しみ出した獣を見る。


「誇りを賭けるのなら、命も賭けろ。命より軽い誇りなぞ、私が信用するはずがないだろう」


 レオトールは、意図して致命傷を外した。

 何故ならば、それでは死なないとわかっていたから。

 理屈ではなく経験による直感、それと共にあっさりと命を諦めたように見える吸血鬼の態度。

 その程度では死なないと、それらが直感させていた。


 切り飛ばした腕、流れ出る血を一瞥しそのままポーションを開ける。

 すると生え変わる腕、最上級のポーションの凄さを再認識しながらも警戒を緩めず剣を執る。

 いくら相手が雑魚とはいえ、レイドボス級だ。


 メカニカルドラゴンが、動作を辞めた。

 そのまま血液が流れ出て、一つの塊に変貌する。

 吸血鬼、本来の姿だ。


「命を賭けるのならば、今のうちだぞ? レイドボスとして世界から後押しを受けている間に私を殺さねばもはや勝ち目はあるまい」

「もはや無駄だ、まさか看破されているとは思わなかった。我らが王が滅びた地の者、コレほど強いとは……。天晴れ、見事。もはやあらゆる手段を用いても、敵う道理はあるまい」

「では何故、戦おうとする?」

「我が王を、負け犬の将とせぬために」


 少し、目を開き。

 そのまま、目を伏せる。

 そして、レオトールは剣を納め拳を握った。

 全霊の一撃で、葬るために。


「最後に、名前を聞こう」

「今宵滅びる我等に名前など無し、されど過去の栄光を綴るのならば。この身、この名、この役職こそ我が名前。即ち、私はバトラーだ」

「そうか、バトラー。であれば私も一つ非礼を詫びよう、身勝手ながらここまでの戦いで全力を振るわなかったこと」


 そして。


 続けて、スキルの発動も予備動作もなく血液の剣を構える吸血鬼(バトラー)の心臓目掛け拳を振り抜く。

 回避など、防御など。

 この消耗仕切った体で、もはやできるはずがない。

 目にも止まらぬ速さで振り抜かれた拳は、体の中へと魔力を放ち体内にて幾千回も反復し蹂躙していく。

 スキル『二打不』、それを魔力操作だけで再現したのだ。

 臓器の悉く、もはや分裂や分身もできないその体を見下しながらレオトールは冷徹に告げる。


「ここで、我が全力を振るうことを詫びよう。貴様の誇りを履き違えた、許せとは言わん。ただ二度目があれば、その時は竜の炎で滅却しよう」


 最大限の敬意と、敵に負ける最高峰の賛辞を以て。

 そこにドロップした、魔銀の十字剣を拾った。


*ーーー*


 後ろを見る、今までの戦いを呆然と見ていた二人がいた。

 さして疲れた様子もなくレオトールは二人に近づき、そして落ちた剣を見せる。


「圧勝だったな、存外。もう多少は苦戦するかと思ったのだが、武装が戻ったのが大きいのだろう」

「怖いわ、どんだけ武装持ってるの?」

「千と幾許か、とはいえ全て大したモノではない。知恵を振り絞って作られた、名剣にならぬ傑作たちだ」

「ですが、その悉くが貴方の手により名剣になる」


 モルガンの賞賛に、レオトールは黙って返した。

 黒狼と、モルガンの賞賛はどこか的外れなのだから。


 一度ドロップした剣を見る、十字架の剣。

 聖十字、吸血鬼が最も嫌う聖者の概念が宿った代物。

 あの吸血鬼はこの武装を体内に保有していた、理由など計り知ることはできないが。


 勝つのは当然だ、負け戦など存在しない。

 常勝絶対、でなくば死ぬ。

 だからこそ、戦いにおいてレオトールは誇りを重視する。

 誇り、そう誇りだ。

 コレがあるから、レオトールは伯牙でありレオトールなのだ。


「剣などさして重要ではない、最後の最後で墓標足り得るのならばなんでも構わない」


 今は、この言葉は重要ではない。

 故に、敢えてここで書くことはない。

 必然、話す言葉はない。


 十字架の剣をレオトールは、地面に突き立てた。

 ソレは敬意を払ってのこと、かの吸血鬼の墓場を建てるべきだという畏敬と尊敬を兼ねただけの行動だ。

 そのまま外套を翻し、拳を握る。


「求めるものはさらにこの下だ、向かうぞ」

「りょーかい、穴は開けられるのか?」

「こういう時こそ、魔術の出番でしょうに」

「少し腹の虫が疼くのだよ、モルガン嬢」


 技、魔力操作だけで放った技術の粋。

 地盤を壊し、瓦礫を粉砕し粉塵を巻き上げ。

 全てを粉砕し、穴を開ける。


「レベルが違うねぇ? 化け物め」

「魔術ならば、できるのだろう?」

「そういう話ではないでしょうに、ソレをただの体技で行うのが化け物と言われる所以なのです」

「わかっているとも、そしてその言葉も言われ慣れている」


 崩壊し、崩れ去ったはずの地下。

 粉塵が舞い散り、肺を壊すかのような中で。

 レオトールはそのまま歩みを止めず、奥にある扉に剣を向ける。

 なんらかの、なんらかのセキュリティがあるのは確実だろう。

 だからどうした、そう言わんばかりに剣を振りあっさりと巨大な扉を切断する。


「コレが、例の代物か」

「ええ、その通りです」


 目の前で燃え盛る炎、だが薪がなければ熱さも感じない。

 言い換えるのならば、そこで揺らめいているだけの現象そのもの。

 モルガンは冷徹にその火を見ながら、言葉を紡ぐ。


「ドワーフの工房、ソレらはもはやグランド・アルビオンから消え去った代物です。何せこの国は歴史と高級な武装に溢れているだけの国、一次産業の発達はもはや長くは見込めず強く上位の敵など駆逐され切っている。炎と鉄こそ生き甲斐の彼らにとってみれば、この国ほど面白みがない国は珍しいでしょう」

「じゃあ、ここはなんだ?」

「彼らが使っていた工房の跡地ですよ、黒狼。もはや数十年は稼働していませんが、グランド・アルビオンの遥菜を生きている彼らにとってみればこの程度の技術維持など造作もない。万が一の時のために用いた防衛機構も存在しているところを見れば、本当にドワーフというのは素晴らしい種族なのでしょう。故に、もったいない」

「まあ、俺からすれば利用できればなんでも良いって感じなんだけどな。解析はできそうか? 魔法陣もナニも描かれていないけど」


 炎が宿っている台座を見る、ただただ揺らめいているだけの炎。

 だが黒狼が手を出せば、一瞬でMPが奪われ熱を放った。

 ソレを見て、モルガンは呆れたように息を吐き頭を振る。


「最上位の概念ですよ、普通は干渉することすら許されません。ですが相手は私です、どうにかしますとも。この部屋の探索をお願いできますか? 三日あれば必要な機構の再現は可能です」

「ふぅん? まぁ、いいか。頼んだぜ、モルガン」


 モルガンの依頼、もといお願いを聴きながらレオトールは剣を仕舞いそのままくらい部屋に目線を向ける。

 電灯などの機構もあったのだろうが、先ほどの一撃で全部破壊してしまったらしい。

 流石にレオトールの最上位の通常技を受けてまともに機能は継続できないらしい、やれやれと首を振りインベントリの中からライトのようなものを出せばそこに魔力を注ぎ込んだ。

 一瞬で周囲一帯が明るくなる、単純なライトではないことなどは明白だろう。


 明るくなった部屋を見てみればさまざまな機械部品や、剣や盾の装飾品まである。

 黒狼はその中の一つを手に取り、そのままレオトールに投げ渡すとため息を吐いた。


「全部儀礼用でダメージが低いな、最悪って感じだわ」

「魔法金属が含まれている、使えないことはないが……」

「ならロッソに渡して建造用に回すか、ソレが一番だろ? 多分」

「まぁ、否定はせんな」


 そう言って、適当な武器をインベントリに入れ出したレオトール。

 黒狼も適当な武器を拾うと、そのままレオトールに投げ渡した。

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