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Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
一章下編『一切の望みを捨てよ』

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Deviance World Online ストーリー5 『吸血鬼』

 謎のゴーレムを飛ばし消し、そのまま階段を降りようとして。

 目の前から襲いかかってくる、その集団を認識する。


「ここは私が……」

「邪魔だ、病み上がりには丁度いい。この程度、一瞬で蹴散らしてやろう」

「ま、行けるか」


 レオトールが二人を制しながら、剣を引き抜き構えもしない自然体で出迎える。

 襲いかかってくる敵は多数のブラッドバッドという魔物、単体数は決して多くないが集まれば面倒な敵。

 だがレオトールの前には烏合の衆、剣が一瞬輝いたかと思うと圧倒的な光を放つ。


「『極剣一閃(グラム)』」


 もはや語るまでもないが、語っておこう。

 その一撃で、ブラッドバットは全滅した。


 目を丸くし、驚くモルガン。

 反対に平然な顔で階段を降り始めた二人、その動きを見て半ば放心しながらもモルガンは着いていく。

 強い強いとは言われていたがここまでとは思わなかったのだろう、ソレほどまでの実力に。


 ブラッドバット、その強さはプレイヤー評でそこそこのレベルとされている。

 洞窟などで散見され、吸血性を持つ蝙蝠。

 場合によっては吸血鬼の眷属とも言われ、闇魔法を用いての攻撃を行う好戦的なモンスター。

 一体一体の実力はそこまでだが吸血によるデバフや、一撃で沈めるのが難しい程度の硬さを誇るために厄介とされている。

 勿論、オールステータス2000超えのレオトールのは障害物にさえなりはしないが。


「さて、この奥にトラップがあると見込んだが……。やはり、ギミックドラゴンか」

「それだけじゃなさそう、か? 何か嫌な感じがあるぞ」


 階段を下り切った先、そこそこ広大な空間に竜を模した人為モンスター。

 名称を、ギミックドラゴンが鎮座していた。


 しかし、それだけではない。

 その奥に、何か黒い影が見える。

 二人に下がっているようにと手で示し、レオトールはいつでも技を放てるように魔力を蜂起させると目を細めた。


 一歩、まだギミックドラゴンが動く様子はない。

 同様に、その背後に見える黒い影も。


 二歩、ギミックドラゴンは動き出さない。

 だが、背後の黒い影は動き出した。


 三歩、ギミックドラゴンが起動を始めた。

 そして黒い影も、ギミックドラゴンの影から現れその姿を見せる。


 ダンジョンのように発光する遺跡の内部、ギミックドラゴンの影から現れたのは一人の若々しい男性だった。

 燕尾服に全身を包み、杖を振りながら悠々と近づいてくる。

 どうやら、何か対話の意思はあるようだ。

 レオトールの歩みに対し、悠慢に歩みを進めつつ言葉を紡ぐ。


「ヒトが、一つ二つ三つ。久々に、美味な血液を飲めそうだ」

「吸血鬼か、爵位を持っているということは人からの変化だな? 全く哀れな生き物だ。肉体を捨てられず、かといって魂の高位化もできない中途半端な存在。私から言わせれば、愚昧極まる」

「そうか、死にたいのか」

「いいや、まだ死ぬ気はないな」


 瞬間、ギミックドラゴンが口を開きブレスを吐いた。

 圧縮された魔力、属性によって色付けられ炎となって放出される。

 いいや、それだけではない。

 吸血鬼による補助か、支配の影響でドラゴンが血液の混じったブレスを吐いている。

 血液に触れれば、血液魔術による致命的な攻撃を行われる可能性がある。


〈ーーレイドボス級が覚醒しましたーー〉


 背後に飛び退き、後ろを見るレオトール。

 そこではモルガンが結界を張っており、レオトールに対しても早く入るべきだとジェスチャーを行なっている。

 視線を外す、そこでは一撃で仕留めきれなかったことに不満を抱いたのか吸血鬼が顔を不満げに歪めていた。


〈ーーレイドボス級名:ヴァンパイアギミックドラゴン【バロン:メカズ】ーー〉


 息を吐き、やれやれとばかりに肩をすくめて剣を握るとそのままアーツを発動させる動きに入る。

 一人で、レイドボス級に挑もうというのか? 驚くモルガンと少し離れて観戦する姿勢に入った黒狼。

 その視線の先で、レオトールはニヤリと嗤う。


〈ーーレイド、開始しますーー〉


 アナウンスが完了する、同時にブレスが動きレオトールを狙う。

 レオトールは口を動かし、スキルを発動させた。

 北方最強の実力を、ここで魅せ付けるために。


「『孤高にて』『活路を開く』『英雄必剣(プルートガング)』」


 『極剣一閃』すら使わず、自己強化スキルとアーツを発動させ襲いかかる炎と血液の本流を切りさばく。

 エネルギーである炎ですら、液体である血液ですらレオトールの絶技の前には無為になりその究極的な剣裁きは全てを逸らす。

 神業、極技、まさしく極剣。


「何者だ、ヒトッッッツツツ!!」

「傭兵、レオトール・リーコスだ。手向としてくれてやるとも、吸血鬼」


 瞬間、ブレスを切り裂き弾くのを止める。

 そのまま地面を蹴り、空を舞いながら一気に接近。

 剣を手放し、インベントリを開き。

 そのまま、加速する。


「『抜刀』」


 次に現れた直刀を握り、構えて。

 そのまま具足に魔力を流し、展開された結界を蹴りつけ。

 加速し、加速し、加速する。


「『桜花泰然万象捨斬(擬)』」


 瞬間、桜色のエフェクトが幾百幾千も展開され抜刀に合わせて舞い散る。

 そのエフェクトに当たったメカニカルドラゴンは各所が傷つき、破壊されていく。

 とはいえ、相手は流石のレイドボス級。

 その程度では死ぬはずもない、同様にレオトールの猛攻がこの程度で収まる筈もない。

 桜花吹き荒れ、桜雲舞い散る。

 防御を破壊し、斬撃を刻み込む絶技。

 放たれた技の悉くが、相手の悉くを殺すために蠢くソレら。

 殺し尽くすことしか考えない、殺意の技の最高峰。


「参った、硬いな。『剣限』」


 手放した剣を左手に取り、右手の刀と落ちてきた鞘を仕舞いつつ放たれる爪の一撃を剣で弾く。

 続け様に振るわれる尾の薙ぎ払い、それを剣に腕を添えるように防御しインベントリから出した槍を蹴り付け攻撃とする。

 流石の装甲、その硬さを攻略するのは流石に手間がかかるだろう。

 その上、吸血鬼と融合しているらしく再生能力を有しているらしい。

 余裕綽々に、困った様子を見せながらもレオトールは水晶剣を握る。


「……ヒトか? 普通はアレで全身砕け散るのだが……?」

「生憎、あの程度ならば『灰の盟主』の方がよほど重い」

「長き眠りについていたが、外は魔境となっていたか? どちらにせよ殺すのには代わり無しッ!!!」

「いいや、殺せないとも」


 挨拶代わりの最速の初手、コンボを成立させる起こりの技。

 その陰から放たれるスキル『ゴールドラッシュ』、剣を片手で扱い余った腕から黄金のエフェクトが舞い散りつつ両腕を器用に動かし装甲を破壊せんと迫る。


 硬い、シンプルに硬い。


 スキル、アーツを連続的に叩き込んでも火力が不十分。

 いや、不十分じゃ済まない。

 装甲に罅を入れることすら困難、最上級のアーツを用いれば話は変わるだろうが牽制代わりに放つこの技ではダメージこそ発生するものの有効打には程遠くなる。


「おおよそ、3000と言ったところか? 中々のステータスだ。こんなところで燻っていなければもっと強くなれただろうに、最も私には到底及ばんが」

「……、認識を改めよう。何者だ、ヒトよ」

「言っただろう? 私は、レオトール・リーコスだと」

「……リーコス? まさか、いやならばなぜ此処に?」


 疑問のように告げる吸血鬼、反対に遊ぶように口を開きながら武装を入れ替えるレオトール。

 剣を鞘に直し、ヘラクレスより残された斧剣を持つ。


 ミシミシ、と。

 レオトールの体躯が、周囲の空気と空間が、メカニカルドラゴンが。

 音が鳴るように錯覚する、いや錯覚ではない。

 空間が歪み、確かにズレているのだ。

 何が? そう、時間が。

 時間が、停滞している。


 斧剣『帝帯』、かの大英雄が用いたはずのこの剣本来の力こそ事象の停滞。

 その権能に等しきチカラを用いるためレオトールの膨大な魔力を注ぎ込み、そして適用した。

 この、空間に。


「尋ねよう、伯牙だな?」

「リーコスを冠する人間に、それ以外はいると思うのか?」


 問答無用、全てが遅くゆっくりと停滞した中でレオトールは遺憾無くその超高速を発揮する。

 生前、ヘラクレスは無数のスカーレットにヴァイオレットにレイドボス級にレイドボスを屠ってきた。

 帝王を名乗るが如く猛威を振るうその獣どもを倒した獣狩りの大英雄、幾度と死に復活しながら戦う狂戦士じみた戦いの中で一時とて離れたことのないその斧剣。

 神すら殺せる神器に消化された斧剣は、臍曲がりながらも従順にレオトールに従う。


 停滞する秒間の中で、幾百の斬撃を叩き込む。


 回避、防御など絶対不可能。

 ただただ受けることしか出来ない、無類の絶対。

 その攻撃の連打により、その装甲が破壊される。


「伯牙ッ!! なるほど噂に違わぬ実力だ、あの狂乱の大地に赴いた王侯を殺したモノ達なだけあろう!!」

「先先代の話だな、噂に聞いたことがある。悪魔族の進撃、ものともせずとな?」


 斧剣をしまいながら、アーツを発動させインベントリから『万里の長鎖』を取り出し。

 そのまま、彼は魔力を操作する。


「『操糸・捕縛陣』改め」


 発生し続ける鎖、それを巧みに操りつつ。

 竜の圧倒的質量で押し潰そうとしている、ソレを見る。

 普通の人間風情では死ぬだろう、少なくともレイドボス級を名乗るに相応しい実力をしているのは違いない。

 だがソレは、レオトールより強いという説明にはならない。


「『操鎖・捕縛陣』」


 鎖が一気に巻き上がり、目の前のメカニカルドラゴンを締め上げる。

 圧倒的質量、まともに戦えば崩すことすら難しい装甲。

 だが別に崩す必要は最初からない、正面から戦うのは最初からレオトールの性に合わない。


 メカニカルドラゴンから液体が漏れ、ソレが人の形となる。

 吸血鬼、少なくともゾンビ一号のようなレッサーなどではない相手。

 チラリと背後を見て、そのまま武装を変更した。

 薄く光る銀の金属、不浄なものに対する特攻。

 穢れなき金属、即ち魔銀(ミスリル)

 その金属を判断に用いたその武装、吸血鬼には相当な特攻武器だろう。


「懐かしい武器だ、伯牙」

「『極剣一閃』」


 言葉はない、不意打ちとばかりに放たれたその攻撃。

 エフェクトに斬撃が宿っていると即座に認識した吸血鬼は即座に血液魔術を発動し防ぐ。

 しかしその奥より放たれた槍が血液魔術で作られた盾を貫通し、顔面に突き刺さった。

 視界を奪われる、顔面ごと。

 だがそれ如きで狼狽える吸血鬼ではない、即座に魔力視で周囲を視認しレオトールを認識する。

 もはや彼は先程と同じ場所にいない、ではどこだ?

 魔力の視認箇所を一瞬で変更させ、全方位の情報を脳内に叩き込む。

 結果把握した場所は、上。


「『オーバーフロー』」


 流し込まれる魔力、肉体の容量を超え流し込まれ続けるソレ。

 判断は一瞬、併せて即決。

 このままでは内側から爆発四散させられると認識した吸血鬼は、即座に肉体を破棄し本体を変更する。

 再度、竜の方に。


「もはや手段を選ぶ余裕無く、徹底的に殺し尽くそうともッ!! 我が病よ、吠えたてろ!! 『血統蜂起(ブラッド・ヴェノム)』」

「……、参った。どの方向性だ? 貴様のソレは、物によっては……。手加減できなくなろうとも、な」


 少し、眉を顰めそう呟くレオトール。

 目の前で肉が湧き上がりメカニカルドラゴンの表層を覆う、もはや本物のドラゴンと遜色ない化け物がそこにいる。

 叫び、吠え、轟く竜。

 勝てないわけではないが、ひたすらに面倒な相手。

 ハァ、と息を吐くと再生速度諸々を頭の中で算出しおおよその強化を識る。

 そして、再度ため息を吐くと一気に鎖を引き抜いた。

 もはや拘束の意味無し、鎖ごとメカニカルドラゴンを覆うだろう肉。

 ならば拘束を諦め、インベントリに閉まった方がいい。

 そのままインベントリから斧を取り出し、レオトールは天井を見る。

 ここは地下、些かレオトールにとっても相手にとっても狭い。

 戦えない訳ではないが、やはり戦うのならば晴天の下がいいだろう。

 それに、日光は吸血鬼の特攻にもなる。


「『大地峰壊』」


 斧に魔力を込め、具足に魔力を流して結界を作成。

 それを踏みつけ3歩で天井に到達すると、そのまま斧を振るう。

 一瞬でその衝撃は天井へ、天井が捩れ崩壊しながら穴が開く。

 そのまま崩壊、遺跡を文化遺産ともみないレオトールに脱帽しつつ黒狼たちが地下に埋もれてないことを確認。

 そして、地下から迫り来る迫力を見る。


「『我が血液、我が血脈、我が血統!! 我らが彼岸は果てへと』」

「五月蝿いだろう、少し黙れ」


 四歩、死合い。

 絶剣なりし、極剣が振るわれる。

 音すら置き去りにした破壊の一撃、新たに形成された中の装甲は脆くレオトールの攻撃を防ぐに能わない。

 流れるように繰り出される大楯の一撃、からの槌での粉砕。

 振りかぶられた竜の手を先程出した盾を蹴り付け弾き、周りカウンターとして行われる尾の一撃を拳で殴りつけ弾き返す。


「『不遜、不快、不敬、無礼!! 死すら生温い、生きることを許されない!!』」


 煩く囀る口に向けて矢を放ち、展開されている血液の矢の悉くを剣で切り裁く。

 五本の指に糸を結び、そのまま周囲の岩や木々ごと切り裂いて。

 放たれるブレスは落ちてきた盾を手に取り、そのまま防ぐ。

 もはや戦闘という概念を書き換える戦闘、一人で全てを兼任する戦いの局地。

 1秒の戦いだけで、10秒の戦いを演じるかのよう。

 全てを兼任し、全てを施行するその様を喩えるのならばまさしく最強。

 形容、比喩、言語の壁。

 映像にしても伝わらない迫力、気迫の全ては魂魄にすら響くだろう。


「『発勁』」

「『己ぇ!! 何故ダメージを入れられる!? アダマンタイトにより作られた装甲なのだぞ!!』」

「『八極拳』並びに『武芸万般』」


 腕が増えたかと、体が増えたかと思うほどに幻想を幻視する。

 瞬間、無数の手や武器から各々の攻撃が放たれ襲いかかる腕を、爪を、体を、尾を、牙を、肉を、血を、炎を迎撃していく。

 ヘラクレス戦とは違い、いくら何でも余裕がある。

 息切れなど起こるはずがない、体が弾け散るかと思うほどの速度で動きながら放つ技は緻密繊細の極端。

 あらゆる武芸を収めたが故に、あらゆる戦いを行う化け物。


 拉致が開かない、あらゆる言動を詠唱化させていた吸血鬼はそう判断する。

 故に、かの吸血鬼は奥の手の奥の手を切った。


「『音を奏でろ、醜悪共(トラベル・ズー)』」


 その言葉に、血が垂れ脳髄が震え。

 叡智は腐り、星は瞬き。

 されど、刻まれた能力は発揮される。

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