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Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
一章下編『一切の望みを捨てよ』

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Deviance World Online ストーリー5 『装備』

 森の中で、装備を触ること数時間。

 スキルでできることの粗方をやり尽くし、久々にまともな生産活動をしたと満足げに微笑む黒狼の背後に迫る人影。


「テェッッッツツツ!! 誰!?」

「儂だ、黒狼」

「お前か!!」

「儂だってんだろうが」


 後頭部を鞘で叩かれた衝撃、減少したHPを見ながら村正が差し出してきた武装をみる。

 金属製の鞘に取り付けられたトリガー、しまっている刀は普通の逸品。

 手渡されたそれをマジマジ見つつ、村正の説明を待つ。


「正式名称『内圧縮刀身形成式魔力装』、銘を刃無しとかけての『噺』。全部纏めて、『式装:噺』だ」

「お、無駄にかっこいい」

「説明するからよく聞いておけ、馬鹿野郎。まずは鞘から抜いてみやがれ、その時点で度肝が抜けよう」


 村正の言葉に従い、刀を抜こうとして。

 刃がない刀を見る、一瞬思考しそして鞘の中を確認するが当然何も入っていない。

 責めるように村正を見つつ、使い方を教えろとばかりに両方差し出した。


「レオトールから銃をもらった時に、あの魔法陣を解析して分かったことがある。あの中は魔力が補充された薬莢内の魔力を用いて弾頭と射出機構を動かしているらしい、少なくとも市場にゃ出回ってねぇ代物だが確かにその程度の武器じゃ費用に効果が見合わねぇ。儂が作った包丁の方が、よっぽど役に立つだろうよ」

「で、それがこれと関係あんの?」

「勿論、黙って聞いとけ。んでだ、その銃を見た時に儂は思ったんだ。内部で弾丸を作成するんじゃなく、刀の形状に固形化した魔力に変えりゃいいんじゃねぇかってな? 魔力は一定以上の温度と圧力がありゃ少しの間は固形化する。とはいえ、精々1時間が限界でありそれ以上は持たん。ま、あまりに脆すぎて関係はねぇが」


 村正の呟きを聞きつつ、うんうんと頷く黒狼。

 話を半分も理解してないが、半分近く蛇足を語る村正が相手だから問題ない。

 こいつらの相性は結構いいのだ、実は。


「それで、そういう感じの機構を搭載したのがその刀だ。面倒で堅苦しい依頼の息抜きにこなしたが、まー結構楽しかったな」

「あれ、予定じゃ明日なんじゃ?」

「ん? ああ、本来の仕事を後回しにした。やってられるか、あんな物!! とはいえ依頼である以上は熟さにゃならんし面倒極まりねぇ。今は鬼どもに炉の温度を見てもらってらぁ、んで? そいつはなんだ?」

「お、良くぞ聞いてくれました!!」


 地面に並んでいる装備の数々を見て質問する村正に黒狼は満面の笑みを浮かべる。

 そして端っこから、並んでいる順に武装の説明を始めた。


 最初は服、鎧と言い換えてもいい。

 キャメロットの正式装備にはならなかった不良品の鎧、それの内側に不明な動物の皮を縫い付けた代物。

 糸にも拘っており、呪楔で染めた血染めの糸を用いて縫い付けている。

 そしてその上に、これまたよくわからない動物の皮から作られたマント(血染め済み)を金具で固定した結果どこからどう見ても禍々しさしか感じない鎧が完成していた。

 ちなみに、キャメロットの正式装備にならなかった不良品の鎧が、なぜ正式装備として配備できなかったのかといえば呪いがかかっており明らかにヤバイ代物だったためだ。

 というか見た目も、黒ずんでる上にトゲトゲしている。

 具足もほぼ同じく、ただ鋭い黒曜石がつけられており触れればそのまま切れそうに感じるだろう。

 山を駆け上がる時でもこれで安心だ、面倒な蔓は触れるだけで切れそうだし。

 兜に関しても同様に、少し血を流しただけで変な工程は踏んでいないらしい。


 次は武器だ、鎧の横に置かれている剣と槍。

 これまた購入品の桶に入っている血液につけられている以外におかしな所が無いソレ。

 だが引き上げれば、脈動するように血管が走っている。

 なんか変な反応が起こっているらしい、村正は嫌そうにそれを見て次の説明を求める。


 次に黒狼が話したのは杖だった、骸骨の頭頂部が砕かれ幾つかの鉱石が複雑に結合し中央で魔石が輝いている。

 木で作られた杖だ、それ以上の特徴は無い。

 強いていう所するのならば、骸骨の部分から光が漏れ出していることぐらいだろうか。


「ふぅん、で鑑定は?」

「当然全部通用しない、なんか文字化けしてる。多分、言語が調律されて無い感じかな?」

「だろうな、手前のそれは武器と言うより神具だ。手前の中に宿る神性と狂鳴した、させたんだろう? そりゃ特定の言葉じゃなきゃ読み解けはしねぇ」

「あの謎言語スキルのレベルさえ上がればなぁ、魔導書を何度読み直してももう経験値が得られないんだろうなぁ」


 などと言いつつ、漬け終わった装備を取り出し適当に着込む。

 鎧と一纏めにしたが小手の類も勿論ある、それを丁寧に着込み動きやすさを確認すると満足したように剣は鞘に杖と槍はインベントリに入れた。

 そのまま、腰に剣を下げる。


「どうだ?」

「闇堕ちした騎士感が物凄いな、中々面白い様子になったんじゃないか? 手前」

「んで、この武器はもらうとして。何用? これだけでお前が尋ねるわけねぇだろ? なぁ、村正」

「察しの良さは一流か? モルガンからのお達しだ、遅いとさ。女は待たせるもんだが待たされるのは嫌いなのが性と言うもの、蒸気を出さねぇ内に迎えに行け」


 村正の言葉が終わるより先に、色々収納した上で走って魔導戦艦まで向かう黒狼。

 背後で忘れ物だ、と言いつつ刀と袋を投げつけてくる村正。

 それをうまい具合にキャッチし、袋の中を見る。

 中には複数のカートリッジと、マガジンが一つ。

 それを見て全てを察した黒狼は、村正に対して礼を言いながらダッシュした。


 しばらく走り、森を抜けた先でモルガンが怒ったような顔で待っている。

 その奥では二人、語り合うゾンビ一号とロッソ。

 チラッと二人の様子を見ながら、モルガンの前に滑り込むとそのまま片手を上げる。


「よっ」

「まだ向かいませんよ、黒狼」

「ん? 他にも誰か来るのか?」

「レオトール氏にも協力を任せています、戦力としてこれ以上なく優秀なので」


 微妙に仲良くなっている二人、それを見てゲスびた雰囲気を醸し出す黒狼に杖で頭部を殴るモルガン。

 その上で仲良くなった理由を説明する、どうやら魔導戦艦を組み立てる上で魔力制御を習ったらしい。

 レオトールは魔術を使えないが、その反面魔力制御は一流だ。

 精密性ではモルガンやロッソを軽く超え、その上で異常な破壊力を併せ持つ。


「おや、二人とも揃っていたのか。……黒狼の性格的にもう少し遅れると思って準備したのだが、これは失敗か?」

「嫌、もう少し遅れるつもりだったけど村正に脅されてな」

「なるほど、まぁ多少遅れたことには変わりない。無礼を詫びておく、モルガン嬢」

「いえ、レオトール氏。態々謝られるほどのことではございません、兎に角先へと向かいましょうか」


 3分増し声が上擦っているモルガンにゲスびた笑みを向け殴られる黒狼。

 そのまま、彼女は魔術を展開する。

 一瞬でダンジョンを抜け、地上へと出た黒狼たち。

 さらにもう一度転移魔術を発動させ、今度は遺跡らしき何かの前にいた。


「……移動っていう工程がなくてあっさりしてるな、俺こう言うの嫌いかも?」

「手間が減るのは喜ばしいことだ、それに嫌だ何だと言いながらも不便なのは嫌いだろう?」

「否定できねぇ」

「早く奥に潜りますよ、結構……。ええ、結構面倒な構造をしていますので」


 モルガンの声に急かされ、遺跡の入り口へと足を進める。

 巨大な石のレンガを組み合わせた、崩れ去った家のようなその遺跡。

 全体の大きさは精々10メートル四方、大きいといえば大きいが特筆すべきほどの大きさではない。


 石のレンガで囲われた、おそらく本来は家の中であったであろう場所。

 ここが目的地か? と首を捻る黒狼を無視し、モルガンは地面に魔力を流す。

 しばらくすればゴゴゴという音と共に石が動き、各所の石が整列し始めた。


「ふむ、穴掘りか」

「視認したことのない場所へ飛ぶのは怖いものですので、内部設計と防衛機構は確認済みですが」

「やだぞ? スコップないし」

「安心しろ、この程度ならどうにでも砕ける」


 石が整列し、完成した階段。

 だが3段目の時点で石レンガが道を封じており、それ以上進めないようになっている。

 それを見て呟く黒狼、対処をどうしようかと悩むモルガンを端に下がっておけと短くいうと。

 レオトールはそのまま、斧を取り出した。


「本来は褒められたものではないのだがな? 拳では少々威力が足りん、故に後ろまで下がっておけ。飛び石で死にたくは、ないだろう?」

「あー、はいはい。あの技ね、どれぐらい下がればいい?」

「私が良いというまで、だな」


 背後に下がっていく二人、ほどほどに下がったことを確認するとレオトールはアーツを発動する。

 いや、まだ発動しない。

 魔力を圧縮し、練り上げ分解し、再度練り上げ成立させる。

 破壊、破断、断割の一撃。

 極限まで練り上げられた、太古より伝わるアーツ。


「こんなものかな、『大地峰崩(カラドボルグ)』」


 言葉の気軽さとは反対に、その鈍重さは桁外れている。

 土煙が渦を巻いて巻き上がり、捻りを加え打ち付けられた斧は遺跡を壊すかという勢いを孕む。

 爆発と爆撃音、威力にして軽く数トン。

 石を砕き、大地を分ち、岩盤まで衝撃をとどかせんとする安易な一撃。

 だが緻密な制御により、それはただ一つの岩を砕くにとどまる。


 いや、とどまるはずがない。


 粉塵が舞い上がり、破片が空中でぶつかりあい込められた魔力の膨大さから嵐の如き姿をとる。

 まるで化け物、狂気と異常が鬩ぎ合う雷鳴の渦。

 空間が悲鳴を上げるかのように、空間が捻れ合うかのように。

 狂乱ごときの音がなり、そして静まった。


「モルガン嬢、少し乱暴するぞ?」

「構いません、破壊装置は全て壊してください!!」

「へぇ、ゴーレムかな? アレ」


 要石、とでも言うべき石を破壊した直後石の先。

 階段の奥の暗闇より、暗い影が訪れる。

 人型のゴーレムの姿、それを見ながらレオトールは武装を換装した。


 斧から短剣へ、拳を握り締め空中に発生した短剣を殴り飛ばす。

 目の前のゴーレムに風穴があき、だが平然と再集合して再生した。

 なるほど、とレオトールが口ずさむとそのまま一気に近づく。


「何を馬鹿な!? 正気ですか、レオトール氏!?」

「あの構え、あの技かな?」


 正反対の反応、その視線の先ではレオトールが拳を振る瞬間が映っている。

 神速、魔力の蠢きを見れば思わず笑うほどの量。

 大規模魔術に匹敵するほどのエネルギーはただ一撃のためだけに、一瞬で練り上がる。


「『ニ打不(此レ、二ノ打チ要ラ不)』」


 一瞬、八極が現れそれを砕くように拳が加速する。

 放たれる拳、超高速で振り抜かれた雷鳴が如き一撃はゴーレムに当たりその体躯を構成する砂状の魔石を砕いていく。

 普通の、それこそ人間相手であれば二手目など不必要な超越攻撃。

 だが相手が人間でなければ、普通でもない。

 即座に再生すると棘を構築し、追撃を行う。


「ふむ、緩いな」


 目で追えば食うであろう一撃、だが来る前に来ることを予知しているレオトールにはもはや虫が止まる速度の一撃にしか思えない。

 背後に一瞬で下がりつつ、事前に発動したインベントリから出した盾で追撃を防ぎ。

 その裏から取り出した槍を巧みに扱い、盾をフリスビー的に投げつつ襲いかかるトゲの尽くを捌く。


 一瞬にして飛び散っていく砂、どんどん体積が減少していきつつだが再度集まることでその体積を再構築する。

 たたかい成立しない、普通に戦っては無駄と言える超再生。

 その尽くを春風漂う平野で佇むかのように、無表情で捌いていく。


「面倒だな、鎧装『緋紅羅死』」


 インベントリからそのまま、全身を出すのではなく小手だけを出し魔力を流す。

 竜炎、概念滅却すらも達成する超火力。

 恐ろしき、畏るべき炎。

 それを情け容赦なくそのゴーレムに叩き込み、一気に砂状の魔石を焼き払って。

 即座に装備解除を行い、武装を変える。

 今度は短弓、僅かミリ秒の早技で矢を番えるとアーツを叩き込む。


「『不死殺し(ヒュドラ)(擬)』」


 かの大英雄、ヘラクレスが用いた最上級の一撃。

 弓より射出するヒュドラ毒の狂気の一撃、触れればレオトールとて無事にすまないその技。

 それを、毒性無しとはいえレオトールは再現した。


 放たれる矢、本来は特殊アーツと物理アーツの混合技だが流石に特殊アーツの領域であるヒュドラ毒の付与は再現不可能。

 故に、擬なのだがそれでも十分。

 一瞬にして7矢番えた矢はそれぞれの軌道を描きつつ、一瞬でゴーレムに到達しその姿を蹴散らせて行く。

 またオリジナルには存在しない周囲への斬撃属性を纏った魔力も振り撒き、その微細な魔石を破壊していった。


「厄介極まりないな、コレは」


 とはいえ、相手も生存特化。

 特定のコアを破壊すればいいタイプの相手とは違い、そもそもその特定のコアがない相手。

 一撃必殺、通常即死、七条の矢を受けても倒れない様子に若干辟易としつつ次なる武装を取りだす。

 一対二本の翠の短剣、双方に構え魔力を込めれば一瞬にして暴風が吹き荒れ始めるソレ。

 雑に構え、背後に吹き飛ばされないように足に力を込めた上で魔力を流す。


 荒れ狂う暴風、巻き上がる風。

 まともに死なないのならば、再生できないほどの広範囲に蹴散らして仕舞えばいい。

 膨れ上がる風と、超広範囲に広がる粉塵。

 個人で発生させられるのかと思えるほどの竜巻に、コレが物理特化の仕業なのかと空いた口が塞がらない二人。

 何はともあれ、だ。


「多分片付いたぞ? 二人とも、ん? どうしたと言うのだ。別段、おかしなことはやっていないだろう?」

「やっぱりお前、閉鎖空間よりも開けた土地になった瞬間に異常さが3割増しになるな」

「コレが、北方最強ですか。少し評価を改めた上で、色々評価を変えなければなりませんね」

「別に、大したことはしていないだろう」


 二人の言葉に呆れ、肩をすくめつつ先へ進むぞと軽く語るレオトール。

 飄々としたその様子に毒気を抜かれ、二人は息を吐きながら先を警戒しつつ遺跡の中を探索し始めるのだった。

久々のレオトールさんの動きが見れる回。

しばらくはレオトールさん無双になるので、安心してチートの様子が見れますね。

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