Deviance World Online ストーリー5 『市場』
結局、交渉は順当に進んだ。
征服王の情報から、軍の人数、盟主の情報。
他にも様々に存在する内容、レオトールが把握しているすべて。
一般からすれば格安とも言える値段でソレらは買われ、ソレでも陽炎は100億Gを支払わなければならないほどに金を消費させられた。
最も、そのほとんどは特殊金属を購入する代金に当てられたが。
「まぁ、こんなもんか」
「いい交渉だったでありんし、今すぐ即刻返してあげるでありんす」
「ソレには及ばねぇよ、バーロー」
言い返しつつ、魔法陣に魔力を流せば門が発生した。
そこを潜りながら、黒狼はそのままにダンジョンへ帰還する。
門の先ではケイローンではなく、ケイネロゾネアが立っていた。
疑問符を浮かべる黒狼、だが背後から現れた黒狼によって押される。
地面に転び、イテテテテと呟く黒狼に対して息を吐くとそのまま借りている部屋へ向かうレオトール。
黒狼もソレを止めず、目の前に立っている彼女に何のようだと聞いてみた。
「いや、その様子だと知らないのか。なら言う必要もない、か」
「え、何だよ?」
「其に言うことはない、ただ……」
少し口籠もり不穏な様子を見せる彼女に、眉を顰める黒狼だが通知からモルガンn呼ばれたことを知り其方を行うためにケイネロゾネアの言葉を遮る。
走って向かえば結構進んだ様子の魔導戦艦が見えてきた、外部装甲はほぼ完成しているようにも見える。
その側で魔法陣をいじりながら魔術を教え込んでいるモルガンを見て、声をかけた。
「何のようだ? モルガン」
「あら、随分と早いご様子で」
「ちょうど交渉が終わったからな、だいぶ金を奪ってきた。それで、お前の用事ってなんだよ? くだらないことじゃないだろ?」
「いえ、思った以上にコレが成長しましたので。戦闘行為は避けた方が良いですが、船内の管理ぐらいならば任せられそうです。ソレを言いたかっただけなのと、もう一つ提案が」
モルガンの言葉に合わせるように魔術を扱い、子犬のように近づいてくるその肉人形の頭を撫でる。
そして肉人形の服が必要か? などと考えつつ、モルガンの言葉の続きを待った。
モルガンが言おうとしていることはそう難しくない、と言うよりむしろ単純だ。
「例の炎を取りに行きましょう、エンジン部を作成すれば残りのタスクは時間さえあれば作成可能です」
「進捗早くない?」
「まさか、むしろあの日から十四日後と言う前提で考えればまだまだです。エンジン部分も、そしてそれ以上に内装を整えるための資材もまだまだ足りません。移動拠点としての運用を主に考えているのでしょう? ならば生産施設も組み込みたいものです、そうなればやはりタスクが多すぎる」
「モルガン、そこまで慌てなくていいだろ。動力部分と最低限の外装、攻撃武器は例の音響装置とかいう準古代兵器で補うんだし。今は最低限の仕上がりを優先した方がいい、拘りは捨てておけ」
そう言いつつ、黒狼は困ったように首を傾ける。
戦いがあるのならば、やはり武器と防具を揃えたい。
だが揃えるのならば王都へ向かうべきだろう、そうなれば結界が阻んでくる。
面倒極まりない、如何しようかと一人で悩んでいるとその様子を見兼ねたモルガンが尋ねてきた。
「如何しました?」
「ああ、武器と防具がないんだよ。金は稼いだからあるんだが、コレだと規模の大きい街には入れなだろ?」
「例の結界ですね、確かに貴方では入るのが難しいでしょう。武装を整えるにしても私の協力が必須となる、その程度相談すればいい話ですが……」
「プライドがあるんだよ、察しろ」
黒狼の返し、不満げに眉を顰めたモルガンは呆れるように首を振る。
そして杖を振りつつ、転移魔術を展開した。
再度、書いておくが迷宮内では空間や迷宮に干渉する魔術は異常に効きが悪くなる。
コレは迷宮属性が影響を及ぼしており、迷宮という環境に適応していなければその干渉は必ずと言っていいほど弾かれてしまう。
だが、勿論抜け道が無いわけではない。
「そもそも間違えてはいけませんが、私の転移魔術は空間座標を擦り合わせるのではなく空間を紙に見たて重ね合わせているようなものです。おそらくこの場合は迷宮という空間に干渉するので迷宮属性に阻まれるのでしょう、なので通常の転移魔術を扱います」
「ケイローンに頼まなくても転移できるの? マジで? 早く言ってくれよ〜」
「……あまり、褒めないように。かの賢人から与えられた技術を利用していますので、私の才能だけという話ではありません」
そう言いつつ、魔術を発動させたモルガン。
瞬間、二人は草原にいた。
直射日光が刺さる、転移直後の違和感に戸惑っている間に黒狼は死にモルガンはソレに気づいあわてる。
そこからおよそ、十秒後。
黒狼からの通知を見て、復活したことを悟る。
「おや、案外近そうですね」
地図スキルを発動し、黒狼の位置を確認したモルガンは軽く草原を歩きながら黒狼を探し始めた。
発見は思いのほか早く、変装した黒狼の姿を発見する。
文句をいう黒狼に対して、全てを聞き流しつつ問答無用で転移魔術を放つモルガン。
今度は、ロッソの工房の中に直接転移したようだ。
雑に装備を整えつつ、スキルと魔術を駆使し変装を行う黒狼を見る。
「どこで購入します?」
「キャメロット、購買部あるだろ? どうせすぐに使い捨てるか改造するんだ。最初からまともなものを買おうなんて思っちゃいねぇよ、なぁ?」
「笑えますね、どうせ壊すからですか……。ソレでは、失うものが多すぎないでしょうか? 老婆心ながらの忠告ですが……」
「死人に墓標は、必要か?」
死んでいるのに、なんで失うことを恐れなければならない?
笑うように黒狼は、そう謳う。
そして騙すためのスキルや魔術、魔法を展開した黒狼はロッソの工房を出た。
裏通りから、表通りへ。
感慨も思いも何も込み上げない、街を歩くNPCにプレイヤー。
だがそこには存在していない、魔物のプレイヤーが。
掲示板を見ていればわかる、明確に魔物プレイヤーが迫害される流れができているのだ。
王都に侵入できないのもあるが、それ以上に魔物のままでこの世界を遊ぶのはどこまで行っても不便しかない。
「ようやく、人間らしくなるな」
不便ならば不便なりに、不便を楽しむのが人間であるというもの。
ソレができないのならば、その存在は人間ではなく子供でありガキである。
未来に思いを馳せ、思いを巡らし、結末を夢想し。
ソレでも最後に出てくる言葉は、やはり面白そうという言葉のみ。
「というかモルガン、お前ってリアル年齢何歳なの?」
「不躾すぎませんか? 殺しますよ?」
「いや、老婆心なんて言ってたし実は剣聖とかと同じ年齢の可能性もあるじゃん?」
「殺しますよ? ソレに私はそこまでの年齢ではありません、加速問題もあるので精神年齢はともかく肉体年齢は普通に20代ですよ?」
そう言ってプイっと顔を背けると道をズンズン進んでいく、ちょっと待てよと追いかける黒狼。
とはいえモルガンが待つことはない、地面から少し浮遊し滑るように人混みを抜けるモルガン。
結局黒狼は追いかけるのを諦め、地図スキルで現在地と目的地を再確認し息を吐く。
そのまま、黒狼は目的地に向かって歩き出そうとし。
「おやぁ?」
腐った、腐敗臭のするような笑みを浮かべ街をみる。
躓く子供、動きが乱れ、だが川の流れの如く元に戻る街並み。
だがその中で、おかしな人間が一人いる。
NPCだ、少なくとも黒狼の感じた違和感の正体は。
プレイヤー特有の、浮ついた雰囲気や流れを感じない。
そして強さは強い、が弱くも感じる。
ただその正体は、まだ目に映らない。
「いや、見えたな? 今」
人と人、その間を縫うようにして黒狼の視線が届いた。
違和感の正体も発覚する、小綺麗な服であること。
そしてそれ以上に所作がこの街に相応しくない、硝子粒に混じるダイヤモンドのように光照らされれば違和感を与えるソレ。
黒狼は、かなりの気分屋である。
そして気分に関係なく、黒狼として動くときは大抵悪辣である。
悪やなんだと関係なく、黒前真狼が悪意を持って楽しむという行為をするために黒狼と名乗っているのだから。
「どうもこんにちは、どうしました?」
『顔のない人間』を利用し、心の底から自分を騙す。
自分で吐いた嘘を真実と思い込み、黒狼としての人間性を。
黒前真狼としての本質を偽造する、ソレがスキルに変化しただけだろう。
黒狼はスキルの理屈におおよその目星をつけながら、そして心象世界の不可解さにも目をつけつつ。
ソレらを思考から追いやり、目の前の女性に集中する。
「あ、あの……。すみません、少し足を怪我してしまって……」
「そうなのですか、ソレは大変だ。ポーションでも用意しましょうか? 手持ちに幾つか存在しますので」
「いえ、ソレには及びません」
キッパリ断る目の前の女性、鑑定を行うべきか一瞬迷いそして止める。
必要ない、ここでソレを行えば黒狼が羽織っている皮が外れてしまう。
掲示板で手に入れた情報ではあるが、鑑定系統のスキルを発動した場合逆探知されることがあるらしい。
勿論、黒狼はこの情報を信用しているわけではないが嘘ではないという思いもある。
というか、多分レオトールなら普通に看破しそうだ。
まぁ彼の場合、実力差ゆえにそもそも黒狼の鑑定が通用しないが。
「しかし困った婦女を見捨て置けません、お名前は……?」
「私は……、私の名前はエレインです。貴方のお名前は?」
「私ですか、私の名前はバーゲスト。血盟には所属していない、いわば逸れもののプレイヤーです」
黒狼、もといバーゲストの自己紹介に少し訝しげな目を向けるエレイン。
だが彼の爽やかイケメン風フェイスに上手く騙されたようで、黒狼の手を借りて立ち上がる。
そのまま服を軽く叩き、粉塵を振り払うと黒狼に礼を告げ走り去っていった。
「ふぅん? なるほどなるほど。モルガン、アレと知り合いか?」
「おや、バレましたか」
「バレるも何も、そんな暴力的な魔力の動かし方をするのはお前しかいないだろ?」
魔力視の発動をやめ、背後に振り返った黒狼は心配になって黒狼を探し始めていたであろうモルガンを見つける。
はぁ、とため息を吐いたモルガンは探知の魔術の発動を止めそのまま杖をしまう。
そして、黒狼の手を取り町を歩き始めた。
「別に逸れたりしねぇよ!? コレじゃ俺がガキみたいじゃん!!」
「時間を無駄にロスしそうなのと、彼女みたいな高貴な身分の方々と接触する可能性が大きく増加するのでこうします。恨むのならば一瞬前の自分を恨んでください、まさか彼女と出会うなど私の予想外にもほどがあります」
「ふーん? 彼女の正体は?」
「ギネヴィア、グランド・アルビオン現王であるウーサー王の妃。彼女の養女です、そしてアルトリウスに恋慕する先のみない愚か者ですね」
辛辣にいうモルガン、黒狼は話半分でソレを聞きつつ王城の前に露店市場に到達する。
中ではプレイヤーやNPCがごった返し、売り場特有の熱気を放っていた。
適当にふらつき、そして適当な品をろくに交渉もせずに買っていく。
「値切らないのですか? 黒狼」
「もう嫌になったよ、メンドクセェし。それ以上に陽炎の交渉で頭を使いすぎた、今日はゆっくり適当な品を買いたい」
「そんなものですか、せっかく得た貨幣が泣いていますよ」
モルガンの言葉を無視し、それぞれの装備を確保していく。
とはいえ、黒狼が購入するものは多種多様だ。
本人が気ままに気に入った本や、雑貨や、ナイフや武器や小物や石など。
適当に確保し、尽くをインベントリに入れる。
「よし、こんなものかな?」
「何を、確保したのですか?」
「スキルが反応するものすべて、俺の腕とスキルの動き次第で結構面白くなりそうな予感がするんだよな」
「スキルが反応? にしては普通では使えないアイテムを多く確保していたように見えましたが……」
モルガンの疑問を無視し、買った荷物を纏めれば黒狼はそのまま街から出るようにモルガンに促した。
流石に少し怒りを露わにしながらも、黒狼の指示通り転移魔術を発動させ都市の外に出る。
そのまま再度転移魔術を発動し、ダンジョンの中に舞い戻った。
「フィー、サンキュー。ようやくこれで、俺の武装も充実させられるかも?」
「させて貰わなければ困ります、必ず武装を完成させなさい」
「まぁ、細かいところは神の味噌汁っていうわけで。是非とも程々に期待してもらいたいな、モルガン」
「期待せずに待っておきましょう、黒狼。こちら時間の明日には、回収に向かいますので」
その言葉に適当に返事を返しつつ、黒狼は村外れの森の奥へと潜っていく。
黒狼は手段を豊富に持っているが、同時にその手段の尽くを使いこなせていない。
だからこそ、スキルを使いこなすためスキルが反応する素材を買い集めていた。
「さぁて、どんなものができあがるかな?」
ワクワクしたようにそう言い、地面に様々な道具を広げると。
黒狼は、スキルを見ながら作業を進め始めた。
本来は陽炎が泣き叫ぶ予定だったのですが、書いてみるとレオトールが弱く見えすぎたのでカットしました。
今回は情報を売って大金を稼いだと覚えていただければ構いません。
情報の詳細は、多分五十話以内に判明します。




