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Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
一章下編『一切の望みを捨てよ』

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Deviance World Online ストーリー5『涙』

 その日、陽炎は不愉快だった。

 原因はいくつもある、だが何より気に食わなかったのはギルド経由で通達された違反行為による罰金。

 いくつも弁護は行ったが上は聞く耳を持たず、最終的には金貨まで奪われた。

 だから不愉快であった、が。


「何でありんし? 下僕」

「そ、ソレが……。本部にこのような手紙が届いたのです、『白の盟主』を知りたければ正門前に来るといいっていうような手紙が」

「……、ふざけているのでありんすか?  そんなモノ何百と届いている情報でありんす。その尽くは嘘でしかない、本当にそれが信用にあたると思っている……」

「いえ!! ただの手紙なら私もこんなことをもうしていません!! 重要なのはその手紙に用いられた紙です!! その紙に使われていたのは()()()()()()()()だったんです!!!」


 その言葉に、陽炎は目を見開く。

 『白の盟主』に対する真相はどうでも良い、その情報の価値は高いが欺瞞も溢れかえっている。

 だがその紙はダメだ、探求会の保有している情報の尽くも買い取っている『狐商会』が知らない植物。

 もうソレは、あの鉄壁のエルフの森を超えた先に存在する()()の植物しか存在しない。

 相手は誰であれ、ソレは確実だ。

 涎が垂れる、脳内で皮算用を始め報告してきたNPCを爪で切り裂く。


 心臓が高鳴る、恋と言われれば信じてしまいそうになるほどの激情を抱え。

 陽炎は、満面の笑みを浮かべていった。


「骨の髄まで、抜き取るでありんすよ」


 その笑みは、悍ましく恐ろしくそして狂気的であったと語る。


*ーーー*


 時間はしばらく経過し、ここは正門前。

 黒狼が変装しながら、壁に背中を預け来客を待つ。

 ゴブリンの掃討から時間にして、5時間は経過しておりもうすっかり日は登っている。

 苦手な時間だ、だがこの時間じゃないと警戒心の強い狐は来ない。


「よぉ、久しぶり」

「何でありんすか? わちきには待ち人が……。なるほど、主が例の相手でありんしか?」

「お、覚えてるんだな? 草生える」

「野次馬であれば即座に失せるでありんす」


 そのまま歩いて行こうとする陽炎を、慌てて止める。

 交渉において重要な主導権はすでに握っている、故に逃げられる以外で怖がる部分はない。

 クックック、そのように笑いながら黒狼は口を開く。


「どちらにせよ、ここじゃ明るすぎるだろ? 少し場所を変えようぜ?」

「どこに向かうというのでありんすか? 場所次第では……」

「うーん、まぁ場所自体は単純だぜ? ただある意味この世界で一番物騒な場所かもしれないけど」

「はぁ?」


 不機嫌なのを露わにする陽炎に対して、黒狼は黙って指を鳴らす。

 直後、カーテンのような門が発生して二人を包み込んだ。

 もうお察しの通りだろう、これはケイローンの放った魔術である。

 ケイローンの魔術により、黒狼と陽炎は迷宮の中へ連れ込まれたのだ。


「何でありんすか!? この魔術は!!」

「落ち着け、餅つけ。大丈夫だ、害あるものじゃねぇしそもそも交渉しにきてるんだぜ? 命を奪うはずがねぇ。ソレに、お前みたいに金に貪欲なやつは大体復活手段も用意してんだろ? 慌てんなよ」


 黒狼の推論、ソレら全ては正解だ。

 だからこそ、より不機嫌になりつつも口を閉じてそのカーテンをくぐることを了承した。


 転移する時の違和感、時流のズレ、意識の摩耗。

 吐き気が込み上げ、地面の感覚がなくなり、感覚は倒錯する。

 しかしソレも一瞬だった、すぐに目的地に到着したようで陽炎は感覚の復活を感じた。

 ここはどこだ? 疑問を解消するように、周囲に魔力網を張り巡らそうと動き。


「はい、やめましょう。あまり探られて欲しい場所ではありませんし、一応アキレス腱になりますから」


 柔和な笑みを浮かべる、ケンタウロスによって魔力網の全てを断ち切られた。

 ソレどころではない、装備しているアイテムのカウンター機能や攻撃機能。

 防衛機構については働いているが、攻撃に転用できる装備効果の尽くを封じられる。


 焦り、陽炎は相手の顔を確認しようとしそしてそれ以上の重圧を正面から感じた。

 目線を合わせられない、向けられた殺意があまりにも恐ろしく今すぐ逃げ出したい。

 だがそんな感情を捻じ曲げ克服し、そして目の前の存在を見る。


「ふむ、彼女が交渉人というわけか」

「まぁ、そういうことだな」

「念のために申し上げますが、私は仲裁と移動のみしか行いませんので」

「分かってるって、とりあえず警戒して話せないだろうし座る場所と机を出すか」


 会話を無視し、陽炎は周囲を探ることを優先した。

 木材で作成された一室、スキルの使用は禁じられ素材を確認するのは難しい。

 広さはまちまち、5メートル四方の部屋だろう。

 ケイローンと呼ばれたケンタウロスは部屋の隅に下がり、読書を始めている。

 反面、目の前にいる男二人はそれぞれ椅子と机を出しながら陽炎を測るように笑っていた。


「ここは、どこでありんすか?」

「教えねー、とはいえヒントをあげれば難行の過程」


 難行、聞いたことのある文字列。

 そこまで考えた時に、ふとイベントの記憶が蘇ってきた。

 『難行』、ソレを餌に交渉を仕掛けてきた人物がいたはず。

 そこまで考え、思い至る。

 あの憎き鴨だ、目の前にいるのはネギと鍋を背負ってきた鴨に見せかけた悪魔だ。

 不機嫌であり燻っていた心に燃料が投下され、一瞬にして燃え上がる。

 目に炎が発生し、ケツ毛一本も降り逃さないと息巻く。


「アンタでありんしか!! あのクソガモ!!」

「え、覚えてなかったの?」

「もちろん!! 登録して即刻削除したでありんす!! ブロック&削除でありんし!!」

「ほれ、やはり彼女に手紙を渡してもらって良かったではないか」


 烈火の如く怒る陽炎に、黒狼は押され気味になりレオトールは溜息を吐く。

 やれやれ、そんな様子で肩をすくめるレオトールを見て脳内で冷静に陽炎はそろばんを弾いた。


(彼が噂の、『白の盟主』でありんしか。髪色は黒に銀が混じったような色、髪は逆立っており一房だけ垂れていて目つきはやや悪く何よりも筋肉質に鍛え上げられ。外套をきた、傭兵)


 人相書きと、特徴を脳内で照らし合わせ確信する。

 目の前の男こそが、『白の盟主』であるレオトール・リーコスであると。

 疑問を巡らせ、相手のニーズを考えていく。

 何を求める? 金銭、安全、戦力、情報? ソレら全てがあり得るだろう。

 相手は北方最強と言われているらしい男、その相手をどう切り崩し自分の傀儡とするべきか。

 陽炎の脳は興奮を潤滑油としてこれ以上なく回転し、営業スマイルではなく本心からの笑みを浮かべる。

 彼女にしてみればこうして、実在すると確信を得られた時点でもはや勝利したと同義なのだ。

 この幸運だけで、今日の怒りとトントン。

 いや、普通にお釣りが出てくる。


「おや、彼女はもう私の正体を察しているようだぞ?」

「え、早くない? まぁいいけどさ。まぁ、紹介は欲しいだろ? 教えてやるさ。彼こそ『北方最強』と持て囃される『白の盟主(ブラン)』、レオトール・リーコスだ」

「そうらしいでりんすね、どんな関係でありんしか?」

「ん? まぁ、理解者ってところ? まぁ、俺たちの関係性なんてどうでもいいだろ? お前が欲しがってるのは『征服王』と『王の軍』の情報じゃないのか? ああ、コイツの情報も欲しいか」


 悪魔的な笑みを浮かべた黒狼、ソレに対して適当に崩しながらも冷徹な目で陽炎の一挙一動を見るレオトール。

 正反対だ、だからこそ余計にやりにくい。

 何から言うべきか、何から尋ねるべきか。

 ソレを考え、悩み、そして先手を奪われる。


「さて、最初に『王の軍』に所属する全ての盟主の情報だけど。最低でも、20金貨はいるよなぁ?」


 悪い笑みを浮かべる黒狼、というか実際問題彼は相当阿漕な商売をしようとしていた。

 征服王の傘下、盟主の彼ら彼女らの強さは水晶大陸を用いないレオトールと同じだ。

 しかし、その同じと言うのは全ての能力を合計し割った値が大体同数値になるといった話であり条件や状況でランキングは大いに変動する。

 レオトールが北方最強と言われる所以はその総合力の高さと、そしてあまりにも巨大で無作法なインベントリの容量。

 その中に存在する無数の武装(必殺)によって成される依頼の達成能力に依っている、紛うことなき最強ではあるが水晶大陸を前提としなければ比類しうる人間は決して少なくない。

 ソレこそ、グランド・アルビオン王国においての頂点となり得る人間を30人集めれば殺害も視野に入るほどの強さだ。

 まぁ、もうすでにそのレベルの人間は死んでいるが。


 話を戻そう、そのレベルの人間がもう11人もいる。

 常識で考えれば、そんな相手を攻略できるはずがないのだ。

 ソレに離反行為だ、と思うかもしれないが根本的にレオトールは追放された存在である。

 もはや味方でない存在を売ったところで、誇りに背くはずはない。


「ふざけないでありんし、10金貨ですら高いでありんす」

「ククク、あんまり舐め腐るなよ? 俺を。と言うか、20ですらクソ安いと思うぞ? 敵軍のアキレス腱である情報をお前からすれば端金で買えるんだぜ? 泣いて喜ぶべきだろそこは」


 実際、普通に考えれば20金貨でも安い。

 まぁ、相手が普通の軍隊ならばの話だが。

 『王の軍』、その平均レベルは100を上回り雑兵だけでも平均ステータスは1000を超える。

 盟主にいたって言えば、合計10000に至っている存在も少なくはない。

 ぶっちゃけ、対策の仕方がないほどに強い敵しか存在していない。

 一見、黒狼のいう額面で正しいように見えても実態としてはただのぼったくりに他ならないわけだ。


「笑わせてくれるな、でありんす。普通に考えればわかる話、常識的な話として所詮は敵軍のトップの……」


 陽炎はソレを知らない、ただ黒狼が軍事に関する素人と見込んでいる。

 だからこそ、陽炎は黒狼相手に強気の交渉を行い。

 そして、()()()()()()()()()()()()


 ドゴンッ、音が聞こえるより先に空間へ亀裂が走り砕け散った。

 いや、ソレが連続的に発生し最終的に陽炎の目の前で止まる。

 微動だにしない、できない陽炎。

 その緊張の中、パタンと何かを閉じる音が聞こえた。

 ケイローンが本を閉じた、その音だ。


「困りましたね、暴力は御法度のはずですよ? レオトール」

「余りにも舐められた真似をされたのでな、傭兵の面子は一度でも怪我されれば終わりとなる。異国の地といえそれは変わらん、誇りを見下すのであれば命を失う覚悟も持つべきであろう?」

「落ち着けよ、レオトール。しっかし、これじゃ交渉もできねぇな? 陽炎。日を改めようか、今回は俺にとって都合のいい場所だったしな。次はお前の都合のいい場所で、お前が用意できる護衛を用意した上で交渉しようじゃねぇか」


 黒狼の笑み、告げられた言葉に対して深い思慮を忍ばせることができない。

 何せ陽炎の目の前には複数の警告が流れている、具体的に言えばVRCの半径1メートル以内に液体が漏れているという警告が流れているからだ。

 ソレほどまでに、恐ろしかった。

 ただの拳だ、ただの拳のはずだ。

 とてもそうとは思えない速度で振るわれ、明瞭に死をイメージさせられる攻撃だった。

 二度と相対したくない、ソレほどまでに鋭く致命的な攻撃だった。


「大丈夫だ、安心しろ。俺は、コイツに言うことを聞かせられる」

「フン、なんだ? もう4、5発放っても」

「やめろ!! 壁際まで下がれ!! いいな?」

「構わんと言えば構わんさ」


 大人しく従うレオトール、ソレを見て一安心する陽炎。

 そこからはスムーズに話が進んだ、と言うよりは安心を得るために一旦撤退したいと考えたのだろう。

 陽炎は、怯えを一切面に出さないながらも明確明瞭に怯えていた。


 十分後、再度話し合う場を整える相談を終えケイローンの技術によって彼女は送り返される。

 うまくブロックも解除させ、この1回目の話し合いは黒狼の勝利と言っても過言ではないだろう。

 彼女が完全に転移を終えたことを、黒狼たちにケイローンは伝えそして笑う。


「イエーい、ナイス!! レオトール!!」

「ふっ、やはり急拵えではあったが痛楽の計は通用したか」

「驚きましたよ、彼から合図を送られなければあれほどの結界を多重展開することは難解でしたでしょう。しかし……、流石はヘラクレスを殺した勇士です。私の結界をあそこまで容易く破壊するとは、ソレでも弱体化しているのですよね?」

「あぁ、とは言え魔力総量は変化していない。あの程度の攻撃は流石に放てるさ、北方の傭兵はそこまで軟弱ではない」


 そう、先程まで黒狼たちは即興劇をしていたのだ。

 とは言え、全てが全て即興劇と言うわけでもない。

 陽炎が値切ろうと足掻く直前まではまともに交渉を続けようとはしていた、だが彼女が法外な値切り方をし始めたので黒狼も手段を選ばないようにしたのだ。


 別段、元とは言え仲間の情報を買い叩かれてもレオトールが思うことはない。

 財産を奪うにしても、買うにしても最終的には手元に入る金。

 手元に入るのには最終的に変わらない、誰の手に入るのかの問題はあるとは言え。


 レオトールが拳を振るったのは交渉が頓挫すると考えた為だ、彼女の性格は少し話を聞けばわかるが金にがめつい。

 もしもここでレオトールの強さを誇示しなければ彼女は交渉を破棄していただろう、ソレを誰よりも早く察したレオトールは一切の思考を挟まず拳を振るった。

 黒狼はソレを察し、レオトールが拳を振るう前にケイローンに目配せし結界を展開させた。


 ケイローンは本を開いていたが、この状況を把握していなかったわけではない。

 むしろ、誰よりもこの状況を公平にするために常に空間を感知していた。

 だからこそ平均ステータス2000超え、合計では1万を超えるレオトールの攻撃を察し防御結界を展開できたのだ。


「まぁ、これであのクソ女も買わざるを得なくなった。レオトールの実力を測り切ったわけじゃないけど、おおよそ察しただろうしな。ソレに、どうせ情報を活用できないだろうし存分に高値で売ってやろうか」


 ククク、と笑いながら黒狼は背伸びをする。

 そのままレオトールとハイタッチすると、黒狼はその部屋から出て行った。

因みに、この話が終わった後現実に戻った彼女は全力で泣いています。

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