表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
一章下編『一切の望みを捨てよ』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

226/372

Deviance World Online ストーリー5『憐れみたまえ×3』

 ロッソに魔石を1000個を渡し、そのまま近くの椅子を引いてそのまま座る。

 そのまま息を吐いて、こめかみを押さえ。

 最後に、ロッソの方へと文句を言った。


「なんで一日も経っていないのに、外装がもう作成されてるんですかねぇ?」

「魔導戦艦の話を聞いたタイミングで安価な金属類はもう回収していたわよ、足りてなかったのは高価だったり入手困難なものだけよ。それに外装とは言っても想定しているだけの厚さには足りていないわ、錬金術を全力で活用しているのに全く集まらないのは嫌気が刺すわねぇ」

「ここの周辺に高山ってあるっけ?」

「安心なさい、この世界の地層の大抵には砂鉄その他が含まれているわ。特にプレイヤーがこの世界に入ってからは加速的に増えているんじゃない?」


 この世界で生命体は死ねば微細な粒子にまで分解され、周囲一体に均等にばら撒かれる。

 ソレはプレイヤーとて例外ではない、血中に含まれる鉄分も地表にばら撒かれこの大地には相応以上の鉄の埋蔵量がある。

 特にプレイヤーが来てからはその傾向は顕著にある、少なくとも統計を行ったわけではないがロッソはそのように感じていた。


 探究会の調査結果によると、ゲーム内時間での一日の間でグランド・アルビオン近郊の死亡者数は1000人である。

 コレはプレイヤー総数の約1%であり、決して膨大というわけではない。

 新規参入してくるプレイヤーが、戦いなれていないモンスターや所謂ボス級と呼ばれるモンスターと遭遇して殺害されることから発生する数である。


 ゲームにおいては決して多くはない、だがもしもコレを現実と考えればどうなるだろうか?

 平均的な数値として、国同士での戦争は2000年代で一日1000人。

 偶然にも、近代戦の一日の死者数に匹敵するレベルとなっている。

 故に表面化こそしていないが、土壌には過剰とも言える鉄分が含まれており錬金術を用いれば相当量以上の鉄を確保するのは容易い状況。


「そういうのを考えなくても、錬金術を使えば鉄なんて結構な数を作れるしね?」

「何度も繰り返さなくて結構だよ、けどまぁ。壮観だな、でっけぇ……。ゴーレムか? ソレを使っての重作業なんて」

「私、都市改造系ゲームとか好きなのよねぇ。とはいえこのタイプの建築は初めてで戸惑ってるけど、ただやり出すと結構面白いわよ? エンジンの方も半分ぐらい完成しているし」


 軽く駄弁りながら、のんびり作業進捗を見る黒狼。

 時間は割と余裕がある、少なくともギルガメッシュに宣言された日までには随分な余裕がある。

 完成するまでに行うべきタスクは多いが、ソレとて今すぐ行う事ばかりではない。

 だから、ケンタウロスの村でゆっくりと寛いで居たのだが……。


「おや、黒狼もいたのですか。丁度いいです、少し来なさい」


 モルガンが空を飛びながら降りてきて、そのまま黒狼へと声をかける。

 話を聞けば、どうやらゾンビ二号の内臓の処理に困っていたらしい。


 ゾンビ二号の全長は恐ろしく大きく、モルガンとロッソ主導で骨格から形状を変化させ錬金術で新たな生物として認定させる作業を行っている。

 その上で発生する廃棄物、特にゾンビ化したことによりその肉体の半分以上は生存に必須の機能ではなくなった。

 モルガンが魔術を刻み込めば、その性質はより強調される。

 結果として大量の内臓類、不用物が発生するわけで。

 モルガンとしての本音では捨てたいところだが、ロッソ的には使い道があるという話がありそういう話の関係からモルガンは黒狼を呼びつけたのだった。


「量が量です、面白い使い道か。もしくは廃棄かを選びなさい、黒狼」

「ロッソの話は? 俺よりよっぽどコレの使い道を考えられるだろ」

「彼女曰く、使い道がないわけではない。とのことです、とはいえ無くなっても困る代物ではないかと」

「だよなぁ」


 大量に、ソレこそトン単位で転がっている臓物を見ながら悩む黒狼。

 念の為にゴーレムを操作していたロッソへ本当に不必要なのかと聞けば、流石にコレよりは小ぶりだが内臓が置かれた箱を見せてくる。

 ご丁寧に、冷蔵機能も付いているらしい。


「いや、こっちにも付けろよ。ケイローンに迷惑がかかるだろ、流石に至れり尽くせりしてくれてんんだぞ」

「……、貴方が言いますか? ソレ」

「一番無礼な人間に言われても全く心に染みないわね、常識って」


 白い目で睨まれた黒狼だが、そんな視線は何のその。

 普通に臓物に近づき、スキルの反応を確かめる。


 当然のように錬金術は反応し、そして次に意外なことに深淵スキルが反応した。

 深淵スキル、その詳細は未だ不明だ。

 というよりレベルアップや経験値取得、認識の改革による変質の条件も曖昧。

 モルガン曰く旧い神々に関連するスキル、ロッソ曰く異なる位相に干渉するスキル。

 黒狼の感覚では、神と交信するスキル。

 とはいえ、黒狼にその正体を判明させる気はない。

 そういうのは探究会にでも任せれば構わない、重要なのはどのように使えるかだ。


「ふんふん、ロッソ。コレって全部溶解してしまってさ、人体錬成した方が面白くね?」

「バカなの? って言いたいけどアリね、この数人だと船が大きすぎるし。けど自己学習ができないんじゃない? 基本的に人造生命体って魂宿らないし」

「いや、深淵スキル。その中で俺が持っているアクティブスキル、『呪屍』が使えるらしい。具体的にどうなるのかは不明だが、まあ悪い結果にはならないだろ」

「そう? まぁ、実験ならいくらでもしていいか」


 ちょっと待ってね、と黒狼を制して地面にチョークで魔法陣を描き出す。

 ちらっと見ても全く意味が分からない、黒狼の使用している魔術系統と全く違うのかと疑問に思いながら見ていると聞いてもいないのにモルガンが解説を始めた。

 どうやら知識をひけらかしたいようだ、聞いてもいないのにすらすらと答えてくれる。


「ルーンを主としたクリミシェラ系統の魔法陣ですか、錬金術との親和性は低いかと思っていましたが……。そもそも原点においてルーンとは音符が主な役割であり音の表記であるモノです、基本的に洗練されている通常魔術系統のシステマチックな方が貴方好みかと思いましたがこのように遊び心も持つのですね。ふむ、しかし純粋なルーンではないですか。独自解釈を含めていませんか? そもそも非効率的で回りくどい書き方、どういう……。ああ、なるほど。あえて回り道にすることで魔力の循環を確保しているということですか、面白い」

「うるさいぞ、モルガン」

「うるっさいわね!! モルガン!!」


 同時に二人が突っ込んできたが、モルガンは平然と黙った。

 そのまま優雅に横で紅茶を飲みだす、コトコトと音が鳴り再度その音が神経を逆なでるがもはやここまでは伝統芸としてだれも突っ込まない。

 基本的に個々のメンバー全員が無礼者である、この程度の無礼ならばもう何も思わないに決まっていた。


「しかし、ルーン文字もあるんだな」

「この世界は魔術系統が結構複雑なのよね、基本的には一般化している例の魔術文字だけど変則的にルーンとかもあるのよね。ただごった煮的に詰め込んだのかと思ったけど、どっちかといえば洗練された結果に廃れたけど一部の機構とかでは用いられているから残っている感じも見えるわ。ホント、この世界はどうやって作られているんでしょうね?」

「そりゃ、プログラムのおおもとに基本的な構成を記載して……」

「だとすればいいんだけどね」


 未だ、世界は解明できていない。

 人類は宇宙の果てを知らない、人類はブラックホールの中を知らない。

 人類史はいまだ地球で停滞し、宇宙への進出は阻まれている。

 良くて、火星が限界なのだ。


「明らかにおかしいのよ、この世界はあまりにも精巧すぎる」

「オカシイ、か。別に良いんじゃないか? それはそれで、面白いだろ?」

「あのねぇ、面白いからって言っても良し悪しはあるわよ。0と1で構成された言語だろうが、幾何学的に構成された天体だろうが。私が見て感じて理解できる以上、全て当価値なのよ? 殺すのならば有用に活用しなくちゃだし死なないのならメカニズムを知りたいでしょ?」

「いや、俺は俺が勝手にできるんなら割と何でもいいかな? 別にコレが本物の異なる世界だろうと所詮は遊び場だし」


 思考回路の違い、もしくは世界に対する考え方の違いだろうか?

 いいや、まさか。

 もっと根本的な部分、人間性の違いという話だこれは。

 この魔女にとっては世界とは、解明すべき事象にすぎず。

 この男にとっては現実とは、自分の遊び場程度にしか感じていない。


「で、肉が全部液状になっているのを見れば気持ち悪いな」

「早くスキルを発動しなさいよ、文句を垂れるためだけにこんなことをさせたわけじゃないでしょう? あとモルガンは早く作業に戻って」

「言われずとも、少しの息抜きで行っているだけですので」

「へいへい、すぐやりますよ」


 紅茶を飲み終わったモルガンがそのままフェードアウトしながら、黒狼は魔法陣に向かって手を伸ばす。

 スキルを指定、同時に脳内に何かが書き出され始めた。

 人間性の欠落、叡智の喪失、盲目たる僕。

 神話の知恵、叡智の果実、極地の蜘蛛。

 暗迷と混乱、混沌的激情の衝動からくる殺意。

 それを嘲笑う、ただの本音。


「『イパルネモアニ、我らは生命たる血脈をささげよう』」


 勝手に、動く口。

 叫ばれる言葉、意味が分からない羅列。

 けど知っている、この名前を持つものを。

 おそらくは、あの黒き神はこれをイレギュラーとして認定するだろう。

 黒狼自身も分かっていた、あの神が黒狼に貸し与えた権能は太陽のみであり。

 眷属を作成する力など、与えていない。


「『太陽は我らを望み、生命の息吹を吹き咲かせ』」


 冒涜だ、これ以上ない神に対する冒涜だ。

 だがその冒涜こそが心地いい、その冒涜ゆえに楽しさを感じる。


 生命を生命として成立させる最大要素、面白いぐらいに注ぎ込まれる太陽の概念を羽織った魔力。


 それは、生命の息吹を証明し。

 生の概念の象徴ともなる、最も誕生に求められるのは性の象徴たる夜ではあるが。

 些細なことは気にするな、今こうして起こって居る事こそが正解たりうる。


「『顔なき人民よ、我が背信となれ。【乾燥の黒き太陽(トシュカトル)】』」


 熱、次に訪れる違和感。

 怖気が立ち、狂気が蔓延し、曇る。


 興味津々に見てくるロッソ、ひょこっと顔を出して覗くモルガン。

 液状の肉が黒く染まり、徐々に人型に変形する。


 内臓が生まれた、骨格が形成される。

 神に捧げる供物、偽りたる人造の神。

 捧げ物ではない、利用するための奴隷として神を踏み潰す。

 故に、背信。


「ーーーーーー」

「へぇ、喋れるのね? 声帯の調整は必要だけど面白いことになったじゃない? コレ」

「『Κύριε ἐλέησον, Χριστὲ ἐλέησον, Κύριε ἐλέησον、【憐れみたまえ(キリエ)】』、ふむ? 魂は存在しているようですが無垢に近い様子ですね。ガスコンロ神父に詳細に見てもらった方がよろしいかもしれません、アレは存外信心深いですから」

「とりま成功ってところ?」


 魔力消費量の少なさに驚きつつ、目の前の存在に鑑定をおこなう。

 名称未定、というよりは謎にジェーン・ドゥも働いたらしい。

 残っている臓腑と、目の前に完成された人型の何かを見比べ黒狼は少し悩む。

 頑張れば、あと4体は作れそうだ。

 ロッソを見れば表情的に魔力の余裕はあるらしい、表情だけで器用に作るのかと尋ねてくる。


 少し悩んだ上で、黒狼はソレを否定した。

 全て消費するのは勿体無い、それ以上にこの存在がどの程度の能力を持っているのかが分からない。

 いわばリターンが保証されていない、だから態々行う理由がないのだ。


「とりあえず……、全員暇じゃないな? となればゾンビ一号を呼んでくれ。中で作業してるって聞いてるし、いるんだろ?」

「ええ、まぁ。ですが……、少なくともすぐには無理です。彼女には動力部に関する作業を行ってもらっているため、下手に連れ出すことができません。なので代案となりますが私がソレに対して教育を行いましょう、流石に肉体改造に関して私はロッソほどの技量はありませんが。ええ、本当に不服かつ納得いかないながらも私では彼女ほどの錬金術の腕がありません。しかし純粋な魔術の技量であれば彼女の上を行きます、言語系統の成形と知識の伝達程度ならば容易く行えるでしょう」

「ふぅん? けど、魔法陣を引いてるんだろ? その作業を止めるのは辞めて欲しいんだけど?」


 黒狼の言葉にモルガンは含みを浮かべた笑みを浮かべた、直後にゾンビ二号全体が光り始める。

 何だ何だ、そう慌てる黒狼を目の横にロッソは作業を再開しモルガンは地面に降りてきた。


 魔法陣の接続の終了、すなわちモルガンが今現在行うべきタスクの完了。

 ゾンビ二号、改め魔導戦艦全体の魔力を循環させることは実はそう難しい話じゃない。

 魔力を流すだけであれば溝を掘るだけで構わない、しかし内部空間の拡張や反重力機構の作成など魔術的に高度な作業を行うとなった場合は話が大きく変化する。

 なので魔術により特化したモルガンが作業を行っていたが、それがつい先ほど終了したらしい。


「そういうわけです、私が作業を行うのならば内部エンジンがある程度形になった時でしょう。ですのでその間、そのアンデッドを教育した方がよろしいと思うのです」

「まぁ、納得。ソレじゃ頼むわ、俺はコレからとあるプレイヤーに会いに行く用事があるし」

「……、誰です? 会いに行く相手とは」

「『化け狐』、陽炎。ちょいと、レオトールを売って金を巻き上げようかなって思ってさ。思ったよりレオトールは元気そうだし、ソレに早めに真実でのみ構成された嘘を教えないとキャメロットは崩せないと思うんだよな。所感だけど、アルトリウスって多分これ以上ないぐらいの主人公だろ?」


 クックック、そう笑う黒狼に対して訝しげな目を向けるモルガンだがその謀略を詳しくは尋ねない。

 尋ねる必要はない、何せこの戦艦さえ完成すれば。

 キャメロットの攻略など、容易いはずなのだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ