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Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
一章下編『一切の望みを捨てよ』

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Deviance World Online ストーリー5『誇りと契約』

 ロッソがインベントリから大理石のテーブルを取り出し、設置する。

 村正が細かい装飾を行い、モルガンがそれらの術式を確認して。

 最後に、黒狼が机の上に一つの羊皮紙を置き一つ宣言をする。


「さて、魔導戦艦の建造計画を動かすぜ?」


 黒狼、ロッソ、村正、ネロ、モルガン。

 そして、レオトール・リーコスにゾンビ一号。

 黒狼陣営全員が漸く、ここに集ったこととなった。


「まず私から、魔導戦艦の設計だけどエンジン部分はどうにかなりそう。だけど素材として、ゴブリン1000体以上の魔石を融合させたモノ、ドワーフが神鉄を鍛えるために用いる炎、上位の竜の鱗、前回のイベントで入手した剣たち、心象世界を調律するための妖刀、船の保護に用いる上位結界、その結界を成立させるためのミスリル銀、他にも多くのモンスター素材が必要となるわ」

「ふむ、幾許かは私のインベントリに入っている。竜素材は今すぐ用意できるが……、他素材はそう簡単に集めれまい。特にドワーフの炎はどこでどうやって入手するのだ? ドワーフの拠点は山脈を超えた先だぞ?」

「安心なさい、そこは私が考えています。王都の工房、その最奥でドワーフの火は保管されている他に名匠たちの工房にも多少以上は存在しています。そしてその中でも上位のモンスターにより占拠された鍛治士の工房がありそこに攻め入れば手に入れることが可能でしょう」

「ドワーフの火っていうのはあれだろう? 概念的な炎で魔力を吸収する炎、神鉄の実物までは見たことねぇが性質は知っている。なるほど、確かにエネルギーを発生させたモノから吸収はできるだろうよ。しかし、移動は可能なのか? 彼奴は炎そのもの。薪に次いで移動できるような、単純な物じゃねぇ」


 村正の言葉に、ロッソはそこがミソよと言いかえす。

 ドワーフの炎、それは魔力を吸収する性質を有している。

 しかしソレは比喩でもなんでもなく炎であり、そして継火はできない。


「確かに移動させるのは難解よ、けどそこは問題ない。何故なら、()()()()()()()()()()()()なのだから」

「ほぅ? ドワーフの叡智の結晶、それも神の鉄とまで言われる最上級の代物を鍛えるのに使われる炎。そんなものを容易く再現できると? であるのならば、貴様は少し己の才能を買い被っているのではないかね」

「生憎と、欲しい機構は『神の鉄を変質させる』という機能ではなくて『魔力の吸収を行う』機関よ。流石に何百年と掛けて編まれた最上級の代物を完全に盗むのは不可能だけど、その機能の一部を掠め取ることは容易いわ」

「確かに我々は異邦人、この地で繁栄し生を謳歌する貴方達と比べ我々は雛のようなものなのは否定しません。ですが、私と彼女は魔女の称号を得た一握りの存在。貴方に能力で劣れど、才覚で劣るつもりは毛頭ない。あまり、舐め腐らないでいただきたいです」


 モルガンの言葉に軽く謝罪を行ったレオトールは、だが信用し切っていないのか訝しげな目を向ける。

 確かに、彼女の言葉を信用し切るのは難しい。


 神鉄、ソレは金属の中でも最上位。

 魔力の他に竜種の属性や迷宮の属性など、他にも様々な属性が純粋属性として金属に染み込んだ場合にのみ成立が許される究極の金属。

 魔術的にも、そして物理的な武器防具においてもその価値は計り知れない。

 準古代兵器にもソレらに金属は用いられる場合が多く、相性次第では従来の魔術の数倍から数十倍の結果を発生させることがある。


 と、ここまで持ち上げておいては何だがもう既にここにいる全員は。

 否、モルガンを除いた全員はその神鉄を用いた武装を見たことがある。

 その名は『緋紅羅死』、すなわちレオトールが保有する剣そのもの。

 癖が非常に強く、捻くれているが魔力を注ぎ込めばその属性が変質し竜炎属性に変化するレベルの逸品だ。

 故にレオトールはその炎がどんな代物かを知っており、同時に再現の難易度にも気付いている。

 まぁ、詳細の全てを知っているわけではないので大っぴらには口にしないが。


「んで、心象世界を調律するための妖刀か。儂の分野だな、此奴は。だがどうする? どんな代物を、いくらの代金を寄越す? 手前らは」

「へそ曲がりだが嫌いではない、私が対価を支払おう。例の剣、それを黒狼用に調律できるか?」

「っ!!? て、手前!? 本気で言ってるつもりか!!? その程度の武装、そう簡単に触っていいもんじゃねぇぞ!!?」

「ナニ、恩を清算するだけの話だ。命の恩、そしてこれから先を頼む以上その武装は私が持つべきではない」


 レオトールと黒狼、二人は互いに互いの思考を理解できない。

 いわば共感の不可能、共存すら怪しい部分だ。

 だが、今ここでこの二人は集い存在いている。

 境界線上でしか交われない二人は、境界線上にしか存在できないからこそ互いの全てを理解できていた。


「終わりは決まってる、っていうわけか。宣戦布告もしなくちゃな、傭兵団に向けて」

「まぁ、村正が作製してくれるのは確定したわけね。じゃぁ、次に行くわよ。結界作成に必要な金属の入手、こればかりは市場では手に入らないわ。王城の保管庫か、鉱山で採掘を行うかの二択しかない」

「キャメロットから輸入はできないのか?」

「生憎と、上位魔法金属はそれだけで貨幣価値が存在します。いわゆる国家の資産、現実で例えれば化石燃料と同等の価値を持っているわけですね」


 モルガンの言葉、ソレに黒狼は息を呑む。

 西暦3000年、世界ではもう化石燃料は消え去っていた。

 現代で作成されているコンクリートはもう貴重品に等しくなっている、そしてその値段は留まるところを知らない。


 無論、再構築を行い人工的に作成することは可能ではあるがそのために多大なエネルギーが常に消費されている。

 現在の発電機構ではそのエネルギーを完全に賄いきれていない、ここ数十年で世論は大きく変化し再就職の必要性をエンターテイナーが持て囃していることも多い。

 いつか、電力が賄いきれずマザーコンピューターが機能しなくなるという陰謀論。

 ソレにより既存の安定した社会が崩壊する可能性の示唆、最も今の段階ではただの陰謀論でしかなくそしてそれは未来永劫陰謀論でしかないが。

 もし人類文明が大きく衰退するのならば、ソレは結局叡智の外にある神秘によって形作られた世界を壊せるモノが台頭する時だけだ。


「じゃぁどうやって入手する? このままじゃどう足掻いてもソレらを入手するのは不可能だぞ」

「だから、採掘するのよ。魔法金属の中でも上位金属、プレートや火山地帯へ向かえば採掘は不可能じゃないけど現実的じゃない。普通ならば、けどここには魔術と錬金術の天才が二人もいるじゃない」

「近く、とはいえども数キロ先ではありますがそこに海底火山地帯が存在します。幸運にも海底8km程度、命を賭け武装全てを特化すれば向かうことは不可能ではないでしょう」

「いや不可能だろ、あんたバカぁ?」


 目の前の魔女が狂言を吐き出したので、流石にツッコむ。

 水深10メートルでもその圧力は2倍に届く、数キロ下に潜ればその水圧は計り知れない。

 ソレに活火山であれば噴火の問題もある、まともに対応する術を持たなければ瞬殺間違いなしだろう。

 故の黒狼のツッコミ、ソレを聞いて二人は諦めたように肩を下げる。


「まぁ、これは一番手早く難しい手段です。一番簡単で面倒な手段が存在しますが、そちらを実行しますか?」

「話は聞こう」

「狐商会を利用します、アソコならば必ず我々の目標量以上は有している」

「ほぅ? 理由は?」


 黒狼の質問に、今度はロッソが返答した。

 ロッソのポーション、ソレを入れている瓶には特製の魔力反応を発生させる機構を搭載しておりその所在をおおまかに証明する。

 流石にインベントリ内部に入っていればどうしようもないが、この世界に存在しているのならば必ず追うことが可能だ。


 その結果、ポーションは山脈の向こう側。

 砂国と呼ばれている場所やエルフの森、場合によっては征服王が潜伏している周囲にまで持ち込まれていることが確認されている。

 一番離れているものに関しては、ロッソの探知範囲を超えているものすらあったりするのだ。


「あの腹黒は間違いなく他国への販路を有しているわ、そして他国の貴族にも取り入っている。保有資産はもう既に未知数に片足を突っ込んでいるわよ、金貸を始めてるのがいい証拠だわ」

「清廉潔白であるのが良しとはいえませんが、泥水に魚は住めないものです。やはり異邦人の販路の保有に対して規制案を出すべきでしたか、ですがもう私に発言力もないものですし困ったものです」

「あの国を心配するのは後でいいだろ、んで? 見合う対価の用意だっけか。多分、この全身高級品の塊を連れていえば気前よく吐くと思うんだけどな」

「ふむ、最悪暴れ回ることで脅すのもアリだな」


 なお、黒狼はすっかり忘れておりゾンビ一号は敢えて口にしていないがレオトールのインベントリ内部には必要量の2倍以上のミスリルを含んだ武装が存在する。

 というか、北方では魔物が捕食しレイドボス化することがままある為ミスリルの価値はグランド・アルビオンよりやや低いのだ。

 まぁ、やや低いだけでありふれているわけでないのには注意が必要だが。


 またレオトールはその武器を放出するつもりがないのも需要だ、北方では死者の墓は作られず基本的には火葬され骨は適当な大地にばら撒かれる。

 残されるものはその装備と武器のみ、そして北方において死ぬまで用いた武器は墓代わりとする風習があり。

 戦いの中で死ねばその墓は敵に継承され、病や年齢の他に魔物などで死ねば子息に継承される。

 代々継承される武装は、その家が如何に強いかの保証となり傭兵としての強さの担保となっていく。

 また殺し奪った武装は仲間の中で分け与え、もしくは奪った人間が収集し個人の武勇の証明となる。

 故に、奪った武器の全ては己の誇りでありソレを融解させるなど言語道断であるのだ。


 北方の諺で、『命なくとも剣抱よ』というものがある程にこの風習は根強く存在する。

 例え、全体の利益になったとしてもこの剣を潰すのは死者に対する冒涜にして己の誇りを汚すことに他ならない。


「じゃぁ、その交渉はよろしく。それで? 他多数のモンスター素材はどうする? リストはコレ、私たちは掲示板経由で共有済みだから」

「ふむ、手分けするしかるまい。この中で強いモンスターに関しては後での対処となるな、さすがに今すぐ戦うのはこの体では無理が過ぎる」

「今すぐであれば先に建材の収集を優先しましょう、ネロの心象世界。理屈は不明ですが劇場を用意することでネロの心象世界の効果を増幅可能であるのは把握しています、魔導戦艦の内蔵を抜き整え癒着させれば飛行能力を損なうことなく接着することが可能である。と、ロッソは言っていましたね」

「貴方は内部空間拡張用の魔術を至急発明なさい、私たちの居住空間が狭すぎるわ。空を飛ばすために色々削るのよ? 当然、そんな煽りができるのだから最も容易くできるのでしょうね?」


 バチバチと目から火花を散らしつつ、一息付くと()()()()()()()()から外に出るようの通路を通り出る。

 レオトールも戦闘を行えば相当摩耗する様子だが、日常生活に支障は一切ないらしい。

 普通に歩いている様子を見て、一安心するゾンビ一号。

 その後ろで黒狼はネロを背負いながら、ゾンビ二号の体内から脱出する。


「匂いがキツイわね、腐敗臭っていうのかしら?」

「理論上はエンジンが完成すれば匂いは消えるので、しかし本当にいいのですか? エンジンの作成は。別に、文句がなければ私も是非とも作りたいですし反対する理由はないですけど」

「ん? 何か問題があるのか? 致命的なデメリットでもある感じ」

「安心してください、別に致命的なデメリットなどはないですよ。ただ黒狼に説明するとなれば少し以上に面倒くさくなるので……」


 馬鹿にされてる!? という顔で振り向く骨、一斉に顔を全員がそらす。

 一人で嘘泣きを始める黒狼に、全員が無視を決め込んだ。

  言えない、理解者であるからこそレオトールは黒狼にその話を伝えた時の結果がわかる。

 黒狼と一切の共感ができないからこそ、その行動を未来予知に等しいレベルで理解できてしまう。


 故に、裏で全員に言った。

 ゾンビ一号を、彼女を実質的に殺害しミ=ゴが書き残した永久機関を作成することを黒狼にだけは伝えないように手を回したのだ。


 レオトールは黒狼の味方ではない、契約と誇りの味方だ。

 故に必要ならば嘘も吐く、清廉潔白の白馬の王子をイメージしているのならばその考えは捨てるべきだ。

 レオトールは目的のためならば、手段を選ばない。

 己の誇りと、契約には誰よりも真摯に対応する。


 レオトールは殺されかけた、誇りに背いた叛逆者が存在する。

 何かを問うのは本題ではない、行うべき行動はただ一つ。

 反逆者を、誇りにして契約。

 すなわち血盟を破った裏切り者を処罰する、『伯牙(誇り高き牙)』としての役割を全うする。

 仲間殺しを行う、例えソレが未遂でも。

 仲間殺しを行ったのならば、その存在は全て殺し尽くす他にない。


「さて、あの黄金の王いわく十四日後。今から数えれば十二日後なのだな? 黒狼」


 確認だ、そして確信でもある。

 全ての禍根、運命、天運、過去に決別を告げよう。

 確認のように尋ねているが、その本心は確信しかない。


 『紫の盟主』、その目に宿っているのは未来視の魔眼だ。

 位階としては中位程度に収まっているが、ソレでも規格外にも程があるレベルの代物。

 そんな彼女が魔眼を通して征服王の敗北を宣言した、曲げることは不可能に近いだろう。

 故に、黒狼の言葉によるその未来をレオトールは疑わない。


「待ち遠しいな、戦いとは高ぶるものだが」


 ここまで、嫌な昂り方をするのも珍しい。

 息を吐き、ゆっくりと空を見る。


 嫌な空だ、空気が澱んでいる。

 ケンタウロスの長、賢人ケイローンであっても自然現象の全てを意のままに支配することは不可能だということがよくわかる。

 贋作の空に贋作の大地、迷宮の中、魔物の臓腑でこのように休んでいては気が休まらない。。


「潮時だな、ここを去るのも」

「まぁ、こいつを形にした後だけどな」


 横から割り込んできた黒狼に、意識を再度さく。

 次の言葉が、何を考えているのかわからないくせによく分かる。

 共感はできないのに、理解はできる。

 この男の、次の言葉は。


「何せ、これを保管する場所がない。だろう? 黒狼」

「ああ、気持ち悪りぃ。ハッハッハ、マジで気持ち悪いなコレ」


 ああ、気持ち悪い。

 だがその気持ち悪さが心地いい、憧憬するだけの人間よりも。

 害意を剥いて、理解する味方の方がよっぽど対等であるからこそ。

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