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Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
一章下編『一切の望みを捨てよ』

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Deviance World Online ストーリー5『狼煙』

 ケンタウロスの村に到着して、最初に黒狼が感じたのは違和感だった。

 違和感、ずっと騒々しさを感じる。

 その違和感を感じながら、黒狼は視界の端にとらえた。


「存外、弱ってるな」


 呟き、それを耳ざとく聞きつけた男は黒狼のほうへと振り返り。

 そのまま、彼もふっと笑った。

 当たり前のように、当然のように片手をあげてこの男は黒狼に返す。


「久方ぶりだな、黒狼」


 片手をあげ、気軽に返すこの男は。

 否、北方最強にして白の盟主。

 誇り高き牙、レオトール・リーコスは軽く体をひねりながらも立ち上がる。


 どうやら、水晶大陸の影響は抜けきっていないらしい。

 いや、むしろ水晶大陸の影響以外の面で彼が弱っているようにも見える。

 黒狼は歩きながら、彼に近づいていく。


「随分、なんというか。弱ったか? レオトール、その弱弱しさじゃ俺でも殺せそうだ」

「ならば試してみるか? 私は一向にかまわんぞ」


 早速物騒な会話を繰り広げているが、実際問題レオトールは相当弱っている。

 間違いなく、黒狼にはそれが理解できた。


 全身の骨がきしんでいる、おそらくだが被服の下には包帯がまかれていることだろう。

 それもポーションにでも漬け込んだ、相当回復効果が高い包帯を。

 可笑しな話、と一笑する。

 最強であっても、なおヘラクレスというレイドボスは厳しいらしい。

 たった5分程度、もしくはそれ以下の戦いだったにも関わらずこの男はそれだけでへこたれているのだ。


「最強って、名が泣くぜ?」

「別段構わんさ、私が望んで得た称号ではない。あれば利用し、無ければ放置するだけだ」

「ちょっとちょっと、何よさっきから話し込んで!! というか、彼が噂の最強さん? 存外覇気がないモノね」

「…………、ちぃと尋ねたい事ができた。手前、其の剣はどこで作りやがった? どの名匠が作り鍛えたもんだ?」


 ロッソが口火を切り、流れるように村正も話に混ざる。

 村正は相当気になるらしい、レオトールの水晶剣が。

 指をさすどころか、無意識で近づき嘗め回すように見る。

 水晶剣、謎多き長剣。

 すべてを映し出すような、或いはすべてを凍り付かせるような。

 恐怖と狂気性を孕んだ、ただの壊れないだけの剣。


「ふむ、コレか? 一応は門外不出を貫いている我が一族の剣だ。余り容易に見せびらかす煌びやかな剣ではない、精々こちらで我慢していろ」


 息を飲み込み、見入る村正。

 当然だ、当たり前の話である。

 なにせ、レオトールが代わりに出した剣というのは『津禍乃間』だったからだ。


 炎竜帝を討ち果たし、その鱗を削った結果に完成した最上級の剣。

 攻撃の中でも最上位の、概念攻撃を可能とするほどに濃厚な炎。

 そして滅却を翳す竜炎を発生させるそれは、規格外の逸品である。


「ぐはっ!!? そんな物、急に見せんじゃねぇ!!?」

「見せろと言ったり見せるなと言ったり、面倒な男だな」

「いや、ナニソレ? 鑑定が弾かれるどころか俺の方に炎が迫ってません事!!?」

「これ、余り暴れてくれるな。静まらなければ、叩き折るぞ?」


 再度阿鼻叫喚になりかける一幕、今度はケイローンも割り込んでの阿鼻叫喚だ。

 というか、壊すとは? 壊せるというのかこの男は。

 村正が認めるほどの逸品、そんな剣をそうも容易く?

 その思考に到達した全員が冷や汗を垂らす、否。

 黒狼だけは、出来ると確信をもって本気で割り込み取り上げようとする。

 こんな男、使い手としては最上やも知れぬが持ち手としては最悪すぎるのだ。


「奪うな、取るな、盗むな馬鹿野郎!!? ッ、ク……。内臓が……、参ったな……」

「大丈夫ですか? というか何をしに外に出たのですか!? 貴殿はいまだ絶対安静の状態を維持する必要が……!!?」

「フン、自分の体のことなど私が一番把握している。ステータスの回復が思った以上に順調でな、体躯が鈍らぬ為に次いでとばかりに猪を倒したまでだ」

「ちょ、まてよ!? 先回りされて倒したの? デジマ!??」


 相変わらずの規格外振りに、全員が頭に疑問符を出す。

 この男は常識で語るのが間違いなのは重々幼稚だとは思うが、ここまで酷ければ馬鹿の類だ。

 バーカバーカと煽り倒す黒狼、それを一撃で粉砕するとレオトールはロッソと村正に向き直った。


「改めて、初めましてだ。貴様らはコレとの旅を楽しめたか? 仔細は知らぬまでもよほどに愉快な旅路だったろう?」

「愉快奇怪極まりなかったよ、んで。手前は、『白の盟主』レオトール・リーコスでいいな?」

「そもそも、貴方は『王の軍』の傘下でしょ? ここにいる理由とかも色々聞きたいわね」

「そうだー、そうだぞ。それに、袖すり合うも他生の縁というやつだ、是非とも協力してもらうからな。俺の、俺たちの目的に」


 黒狼の脅迫まがいの文句に、苦笑しながら構わんさと返す。

 だが今はそれより優先すべきことがあるだろう、そういわんばかりに片眉を動かしケイローンを見た。

 その目線を受け、ケイローンは一瞬頭に疑問符を生やし。

 そして、何かを思い出したかのように手を叩く。


「ああ、そうでしたね。先にやらなければならないことが、と言うよりも『王の軍』が探知出来ないように工作しなければ」

「え、迷宮にアイツらって干渉できるの?」

「詳しい話はまた追々、と言ったところだ。とりあえず、先に宿屋へ向かうぞ。今にも、体が壊れそうなほど痛むのでな」


 ククク、と笑うその様子に反して実際に彼の内情は死人一歩手前と言ったレベルである。

 だがそのくせに気丈にも二本足で大地を踏み鳴らし、平然と歩く。

 その後ろ姿を見て、黒狼はバカだなアイツと呟いた。


*ーーー*


 レオトールが部屋に入り、安楽椅子に腰掛けるとそのまま目を瞑る。

 その様子を見て寝るのかと一瞬思った黒狼だったが、直様それが思い違いだと理解した。

 寝るつもりなど毛頭ない、ただ疲労で限界に達しただけだ。


「何があった?」

「ん? ああ、えーとな。まぁ、カクカクシカジカって感じ?」

「ふむ、なるほど。大体理解した、が……」


 詳しい説明をある程度行ったが文章上ではカットする、割とワイワイ騒いでいるだけであったりするし。

 という形で、黒狼の話を聞いたレオトールは少し考え込んだ上で腕をトントンと指で叩く。

 悩んでいる、というよりは明瞭な疑問が一つあるらしい。

 どのように切り出そうか、そう悩んでいるレオトールを見兼ね黒狼が口火を切った。


「アレだろ? アルトリウスが気になったんだろ?」

「ああ、準古代兵器。その恐ろしさは重々承知している、弱者が持っても程度の低いレイドボスならば討伐可能になる異端が如き兵器。先史文明の遺産だが、何故異邦人如きが持っている?」

「知らね、噂では選ばれしものしか抜けない剣として安置されてたとか」

「……、聖剣。面妖な……、いや寧ろある意味納得できる話か? やれやれ、何とも言うに難いことだな」


 眉間に皺を寄せ、目こそ閉じているものの物凄い形相で考えだしたレオトールを見て黒狼は呑気に椅子に手を掛ける。

 レオトールの考え癖は今に始まった事ではない、秘密主義では無いが考え込むことは多い。

 人外染みたその強さは、ありとあらゆる対策によって成立している。

 故に考えることは、珍しいことではない。


「まぁいいか、ソレより例の武装を渡せ。あの王が渡した武装、生半可な代物では無いだろう?」

「ほらよ、盾と槍。名前とかはわかるか? 俺の鑑定じゃ、まぁいうまでも無いけど」

「これはまた……、興味深いというか難解というか……。『ドゥリンダナ』に『炎門の守護盾』、どちらも防衛に特化した武装か。……何故、最初からアーツが使える? 尚更訳がわからん」


 頭を振り、渡された武器をインベントリに仕舞うと再度目を閉じる。

 予想以上にぐったりとしている様子に、本当に消耗が激しいのかと黒狼は現実を再認識した。

 ここまで弱っている彼を見るのは初めてだ、水晶大陸使用後ですらここまでの状態ではない。


「お前の方では何があったんだ?」

「何、過去の味方に殺され掛け運良く生き残っただけだ」

「結局、復讐はしねえの?」

「ああ、だが殺す前に聞く必要ができた」


 迷いが晴れた顔で笑うレオトールに、そうかと笑った黒狼はレオトールに征服王の話を聞く。

 『征服王』イスカンダル、連邦とでもいうべき北方の王。

 最強の軍勢、『王の軍(ヘタイロイ)』を率いる君主(ロード)

 そのほかにも数多の戦士が在籍するその軍勢、黒狼はその話に興味を持ったのだ。


「そうだな、教えないわけにはいかないが……。かと言っても、容易く答えることは難しい。また今度でもいいか? 少々異常にややこしくまどろっこしい」

「なら、俺の仲間が全員集まったタイミングでいいか」


 黒狼がそういったタイミングで丁度よく、部屋の扉が開く。

 奥にはロッソとネロの姿が見えた、どうやら復活したらしい。

 ゾンビ一号も復活したのだろうかと軽く考え、思考を止め。

 そのまま、黒狼は片手を上げた。


「改めて紹介する、こいつら二人はロッソにネロだ。デカい方がロッソ、チビがネロだな」

「よろしく頼むわ、『伯牙』のレオトール・リーコス」

「うむ!! 見るからに素晴らしい強者!! よろしく頼むのである!!」

「ふっ、そうだな。改めてよろしく頼もう、というわけで自己紹介からだな? 私はレオトール。『伯牙』にして『白の盟主(ブラン)』、レオトール・リーコスだ」


 レオトールの自己紹介を聞き、ロッソは警戒を解く。

 理知的にして友好的、話が通用する相手なのは間違いない。

 ソレに名前を交換するというのは原始的な友好の証、ようやく一息つけたとばかりに息を吐いた。


「噂は予々伺っているわ、プレイヤーの中じゃ貴方の噂で持ちきりよ? 追放された『王の軍』の最強格。詳しい事情なんかは私も知らないけど、人相書きも出回っているしね?」

「ふむ、存外人気者になったようだな私も」

「狙われているのは心臓だけど、ね?」


 笑うレオトールに対し、ロッソは訝しげな目を向ける。

 目の前の男が最強にはどうしても見えない、黒狼の持ち上げ具合に実績を聞けば弱いはずはないのだろうが……。

 同時に、最強と言われるに相応しい人物ではなくただの病人にしかロッソには思えなかった。


「で、貴方の強さって証明できるかしら?」

「ほぅ、疑念というよりは確認といったところか? 確かにこの状態じゃ強くは見えんだろうな?」

「貴方が強い武器を複数所持しているのは村正の反応で分かるわ、だけど貴方が強いという証明は私。知らないのよ、というわけで是非とも目に見える形で教えてくれない?」

「であれば……、そうだな。本来ならば手合わせという形で証明したいが、今回ばかりは私の都合でそうもいかん。故に、魔石は持っているか?」


 レオトールの問いに、是と返す。

 そしてインベントリを開き、適当な魔石を取り出し渡す。

 測るように、もしくは程度が知れると言わんばかりに胸を張りながら見下すロッソ。

 だがその態度は、一瞬で崩れる。


「こんなものか、一応の実力の補足になったかと思うがどうだかね?」


 赤色、血液のように赤いガラス質の魔石の色が変化する。

 魔力が込められているのだ、一体誰の? 答える必要はない。

 レオトールの魔力に決まっている、彼が魔力を魔石に注ぎ込みその色を変質させているのだ。


 その量、およそ数千MP。

 異端、異常、驚異的な。

 それを示す言葉はあっても、この心を明瞭にする言葉はない。


 モルガンが数千近いMPを運用し、魔術を展開できるのは単に魔杖『ルビラックス』の補助があっての話である。

 ルビラックスがなければ、アレほど連続的に転移魔術や周囲への影響が甚大となる広範囲攻撃は行えない。

 だがレオトールは、特別な道具などなく。

 少なくとも、ロッソにはそう見える形で数千以上のMPを運用したのだ。


「一体、どんなイカサマをしたわけッ!?」

「その様相、魔術師に見えたが実態は違ったか? というかこの装備のどこからこの程度の魔力を捻出すればいいという?」


 呆れたように、もしくは狼狽するロッソにトドメを刺すように。

 レオトールは平然と、そう言い捨てた。

 彼にとってみれば、数千という魔力は決して膨大ではない。

 捻出しようとすれば、できる程度の量だ。

 しかし、ロッソにとっては数千という量は膨大極まりなくソレを捻出できれば戦略戦術の幅が大きく変化する。

 魔術師、いやこの世界に生きる人間にとって魔力とは即ち力であるのだ。


「……、本当に貴方って強いのね」

「まぁ、本業は近接だがな? 魔力量にも自信はあるが近接戦闘の方には数倍の自負がある」

「え、化け物?」

「人間だ、少なくとも私はそう思っている」


 あまりにも失礼なロッソの物言い、それに丁寧にそう返したレオトールはゆっくりと体を伸ばす。

 椅子で揺っているのも退屈だったようだ、黒狼との情報共有で大体のことは把握したので本格的にリハビリに勤しみたいらしい。

 インベントリからナイフを取り出すと、手で回し遊びながら呑気にそう考えるレオトールを見て黒狼は息を吐いた。


「そういや村正とゾンビは?」

「彼ならケンタウロスの鍛冶場にいってたわ、ケイローンからどうせならばとお願いされてたの。ゾンビ一号は体調が悪いからって休んでる」

「ふぅん? じゃぁ、先にこのメンバーだけで方針を言うか」


 とはいえ、方針に大きな変化はないけどな。

 口を動かし、少し笑いながら黒狼はそのままインベントリを開いた。

 取り出したアイテムは、いつかの時に得た硬貨。

 ソレを指ではじき、空中へ飛ばし。

 レオトールは、手で遊んでいたナイフを使ってコインを真っ二つにする。


「まずは外にでてモルガンを連れてくる、そしてゾンビ2号を回収して。黒騎士が守る準古代兵器を、回収するぞ」


 グランド・アルビオンが発行している硬貨を破壊する、即ちグランド・アルビオンへの宣戦布告。

 まだ狼煙を上げるつもりはない、だがすでに火種は燻っている。

 それが大火になるか、小火で済むかは黒狼の働き次第だが……。

 不思議と、確信があり。

 不思議な、未来が見える。


「行くぞ、馬鹿ども」


 だから、黒狼はそういった。

 悪と分かりながら、悪の道を進むしかない外道。

 そんな自分たちを、バカと称しながら。

 誰よりも自由に縛られ、混沌的である不器用な男はそう笑った。

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