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Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
一章下編『一切の望みを捨てよ』

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Deviance World Online ストーリー5『黄金⬛︎⬛︎』

 黒狼は復活し、そして意外にも自分に飛んできたブレスを見て回避を行う。

 意外にも、そう()()()()


「ゾンビ一号、いねぇな」


 黒狼は、その事実を知って疑問に頭を働かせる。

 いや、働かせる暇はない。

 目の前にサイド迫るブレスを回避する方が先だ、思考は冷静にその判断を下し即座に加速する。


 天地を舞う、それだけの行動でも黒狼という男の恐ろしさがある。

 視覚よりも、感覚が先に来ている。

 この男には、感覚よりも直感が優先されるのだ。


 超高速で地面を走り抜け、飛沫は甘んじて浴び。

 未だ発動しない環境適応という奥の手を残す、二度も死んだ。

 対処法など、とうの昔に判明している。


「お前の弱点は、接近されることだよッ!! だろ?」


 笑いながら、一気に地面を駆け抜けた。

 周りに気を使う必要がない、それ即ち自由な範囲を回避可能となる。


 想像しろ、常に最強である自分を。


 飛んでくるブレスを最小手で回避、回避しきれない部分は気合いで耐えるのみ。

 魔術の展開は無駄だ、余波で壊れる。

 いや耐えうる魔術もあるだろう、しかし耐えるためには詠唱を行わなければならず。

 この瞬間では、詠唱こそ無駄でしかない。

 

「で、何か問題でもあんのかよ!!!」


 詠唱破棄、不可能ではない。

 少なくとも、脳裏に何度思い浮かんだだろうあの魔術の詠唱破棄は。

 決して、不可能などではない。


 最初に渡された魔術、死ぬほど見て覚えた魔術。

 完全に暗記し、しかし結局あまり使っていない魔術。

 それを、使う。


「魔力の限り、尽してやろう!!!」


 四本、迫る。

 四条のブレスが、黒狼に迫る。

 まともに受ければ、間違いなく死んでしまう。

 だから、まともに受けないどころかまともに相手をしない。


 一瞬で莫大な量の魔法陣が発生した、VRCから警告が鳴る。

 脳が、限界を迎え始めている。

 当たり前の話だ、はっきり言ってこんな序章で行う話ではないほどに黒狼は脳を酷使している。


 それは、背後に浮かぶ数百から数千に至る魔法陣を見ればわかる話だ。

 それら全てから、氷の矢が飛来せんと渦巻いている。


 勿論、魔力は不足する。

 しかし、それは事象に変換しなければ構わない。

 魔力さえ流さなければ、事象に変換されない。


 目の前に飛来するブレス、目の前に飛来する直前に矢を数十本当てて相殺させる。

 魔力が一気に抜ける感覚があるが、それでもまだ余裕はある。

 凍結された毒ブレスを見て、黒狼は自分の成長を実感しながら不敵に笑う。


 直後、凍結されたブレスが破壊された。

 そも火力の桁が違う、一瞬を得るための戦術としては悪くないが魔力効率に換算すれば下の下。

 だがその速度、一瞬で眼前まで迫るブレスに対抗するために黒狼はこの手段を用いた。

 こうするしかない、それが真実でありそれが全て。


「『ダークシールド』!!」


 声と共に展開された紫色のシールド、念の為に展開したものではあるがソレでも対応を間違えれば一瞬で死ねるだろう。

 一瞬の勝ち目を拾うためには、相応の能力を発揮しなければならない。

 再度飛来する2条のブレス、重なり合う地点を凍らせれば耐える時間はほぼ存在しない。

 ならばどうするか、答えは単純。

 魔力を過剰に消費してでも、双方共に凍らせるのみ。


「イヒャッハーーーー!!」


 最高にハイってやつだ、この状況は。

 ニヤリと笑い、毒の中を駆け抜ける。

 現在、5本目。

 ヒュドラの首、その五本からブレスが発射されている。

 しかし向かっていくにつれてブレスの収束は甘くなる、だが範囲が膨大だ。

 一本一本の回避は容易くとも、全ての回避は難しいだろう。

 だから、防御する。


「死ぬ気で踊れェ!! 俺の体ァ!!」


 ダークシールドが破壊された、右腕が破壊されかけている。

 しかし、ソレがどうしたというのだ? はっきり言ってこの程度ならば。

 ヘラクレスの方が、余程恐ろしい。


 未だ余裕がある、再度数十本も氷の矢を動員し凍らせ進む。

 孤軍奮闘、絶体絶命。

 例える言葉は無数にあれど、この高揚は例え様がない。


 勝つ、勝利()つ、生存()つ。


 この一回に全霊を賭ける、勝利は目前にある。

 六本目、線や点の攻撃から面に変化しつつあるブレス。

 最初の二本はブレスが継げないのか、一旦休憩している様子だがソレでもだろう。

 前回どうやって攻略したのか思い出せないほどに、致命的な強さだ。

 だから、どうした? 勝つのは絶対だ。

 なら、負けるわけには行かないだろう。


「突破するッ!!」


 叫び、絶叫、すなわち願い。

 願いとは思いであり、思いとはすなわち主人公補正(幸運)

 女神に祈る必要はない、幸運の女神はビチクソであり気に入れば勝手に幸運を渡すのだから。


 間一髪、自分の上空を過ぎ去るブレス。

 自身の体の端から端まで、隅々にまでエネルギーを巡らせ加速する。

 意識的な、感覚的な話だ。

 だが確かに、自分の心というエネルギーが漲っている。


 七本目、ゴールは目前だ。

 あと三秒、否。

 あと二秒で突破し切る、しかしソレを阻むかのように7条のブレスが黒狼を囲い込む。

 万事休すか? まさか、その程度で窮する窮地など死んで乗り越えてきた。


「『環境適応:猛毒』ッ!!!」


 選択肢は、一つしかない。

 ここでようやく、この環境に適応する。

 間違いかもしれない、これで失敗するかもしれない。

 その時、自分は後悔するのか? ソレこそ愚問。

 そもそも、()()()()()のだ。

 負けた時など考えはしない、なぜなら()()()()()

 未来改変、もしくは絶対的な未来予知だろうか? まさかそんなチャチなものじゃない。

 ただの確信、ただの直感ゆえに黒狼は突破する。


 八本目、毒を操作し氷を用いて無理矢理防ぎ。

 黒狼は、扉の先へと潜り込んだ。


*ーーー*


 残りHPを見て顔を青ざめさせつつ、黒狼は目の前で寝転んでいるネロとゾンビ一号。

 そして、その先で早速戦っている二人を見た。


「ああ、頭が回らねぇ」


 ぐちぐちと文句を言いつつ、起き上がった黒狼はインベントリの中に入れてあったポーションを飲む。

 HPの回復、破損していた端々の骨が再生しソレを確認すれば環境適応を取り止める。

 そのまま一息、そして向こうで謝って倒してしまった二人を見ながら黒狼は呑気にステータスを操作した。


「お、レベルアップ。流石の毒九頭竜、マジで強いわ。逃げただけの割には結構な量の経験値が入ったんじゃねぇの?」

「手前!! ちっとは手伝えや馬鹿野郎!!」

「するなとは言わないけど、今は手伝って欲しいわね!!」

「地味に攻撃力高いもんなー、がんばえー」


 雑に返しつつ、インベントリを閉じた黒狼はそのままゾンビ一号の顔面にポーションを浴びせた。

 目覚めない、いくらアンデッドであり呼吸の必要性がないとはいえ顔面に液体を浴びせられて起きないのは有り得ない。

 困ったとぼやきつつ、今度はネロの方を見る。


 死んだはずだ、間違いなく。

 一撃目のヒュドラのブレス、ソレで彼女は死んだはずだ。

 なのに生還し、よもやこうして突破しているのはおかしな話である。


「何で生きてる? ネロ、お前は」


 見間違い? いいや、有り得ない。

 モルガンの反応速度でも対応できないブレス、彼女以下であるはずのネロが回避できるわけがない。

 回避できたとしても、毒のブレスの連打をどうやって回避するというのか? 無理に決まっている。


 もしかすれば、可能性だけ語るのならば。

 もしかすればネロは、モルガン以上の魔術を扱えロッソよりも卓越した技巧によりポーションを作成し黒狼よりも幸運を惹きつけ村正よりもより精巧な武装を作成するかもしれない。

 だがそれは必ず、必ず有り得ないのだ。


 そもそもここにいるのはプレイヤーの中での一握りにして、最上位格の到達者のみ。

 ネロが、その全てと。

 歌唱にして扇動の到達者であるネロが、他の到達者と同等の他の才能を持つことなどあり得るはずがないのだ。


「まぁ、俺は無才だが。いや、ソレでもできねぇよ」


 疑いの目を強め、ネロという虚弱の皮を被った何かを覗こうとして。

 黒狼は、手を止めた。


 そもそも、()()()()()()()()

 どちらにせよ、もしくはどちらにしても。

 結果など、答えなど、正しさなど知り得るはずがないだろう。

 もし知り得るのならば、答えは一つ。

 所詮、自分たちは同じ穴の貉であるということのみだ。


「今は、先に進むことを考えるか」


 黒狼のぼやき、そのまま視線をネロから逸らし誤って殺した彼らの様子を見る。

 逃げることなく、突っ込んでいる鹿に悪戦苦闘しているらしい。

 黒狼は一息吐くと、そのままインベントリを探る。

 あった、その思いのままにインベントリ内から取り出した皮を捻り軽い紐にすると村正に声をかけた。


「片方持てよ」

「遅せぇ、馬鹿野郎。というか、あの二人に何をしようとしてやがった?」

「ん? 確認、もしくは疑いってところだな」

「ふん、もうちっと分かりやすく言えや」


 向かってくる鹿、ソレに向けて引っ張られた皮はそのままかの鹿の角に引っかかる。

 直後、全身が吹き飛び回る黒狼。

 そも黒狼の体重は30kgもない、何故なら黒狼は骨だけの存在だからだ。

 例え進化し、少しばかり重量が増えたところで五十も六十もにならない。

 当然、全身丸ごと吹き飛ばされる。

 しかし、そこまでは織り込み済み。

 むしろ、吹き飛ばされてからが本番である。

 空中をうきながら姿勢を制御し地面に向けて刺さるように回転する、もちろん皮は離さない。

 横方向に引っ張られる力、遠心力を感じつつ首を一回転で捉えた。


「お?」

「存外、判定は甘いってところか? こりゃ」

「甘いってものじゃないでしょ、首に縄を回すだけ? というかそんな無茶な挙動して何でダメージが発生していないのよ」

「そりゃ、気合いよ気合」


 ダメージ判定は傷、ソレこそ内出血を含めた傷を与えた瞬間に発生する。

 勿論、それだけでは無いが基本的にダメージが発生するというのは体内外関係なく傷ついたということに他ならない。

 故に、軽く締めるだけでは血管を圧迫はしても内出血などには至らずこのように拘束という結果に辿り着くのだ。


「じゃ、とりまネロとゾンビ一号を担ぐか」

「ふぅん? 置いていかないの?」

「バカッ!! やめろって、ゾンビ一号はともかくネロはダメだろ。ロリだぞ? ロリを置いて行ったら、ソレこそレイクエムられるやつが出てくるんじゃねぇの?」

「誰も来ないでしょ、こんなところ」


 けど俺らがいるじゃん、というツッコミに確かにと返答するロッソ。

 そんな馬鹿馬鹿しいやり取りをする二人を冷めた目で見つつ、村正は装備を一部切り替える。

 武装解除、というわけだ。

 これから向かう先はケンタウロスの集落であり、尋ねるという形で向かうに過ぎない。

 そんなふうに赴く人間が武装した状態であれば、警戒されるのは必至。

 場合によっては、殺されかねない。


「とりあえず、ロッソ。お前はゾンビ一号背負ってくれね? ほら、俺じゃ色々問題じゃん?」

「……まぁ、いいわよ。で? 貴方はネロかしら?」

「んにゃぁ、勿論。別に村正でもいいんだが……、ほら本人やる気なさそうだし」

「言われたらやるぜ? だが好き好んで持ちてぇとは思わねぇが」


 ほら、と指さしながら慣れた手つきでネロを背負う。

 ソレを見て、ロッソは冷めた目で村正を見た。


 ここで一つ訂正すれば、別にこういう人助けを村正は行わないわけではない。

 行わないわけではないが、別に自分から買って出るほど人助けをしたいとは考えていないだけである。

 間違えてはいけない、いけないのだ。


「というわけで、レッツゴー」


 その言葉と同時に門に踏み込む三人+二人、門の先は相も変わらず陰鬱とした森林に包まれている。

 とりあえずといった様子でネロを下した黒狼は、そのまま森の中で座り込んだ。


 同時に、気配が迫る。

 真っ先に気づいた村正は腰に刺していた刀を抜くように身構え、次に気づいた黒狼に制された。

 その気配、その雰囲気、その魔力を黒狼は識っている。

 森の賢人、計り知れぬ叡智の一人、黒狼の識る賢者。

 レオトールが敬意を払う、ソレほどの存在。

 すなわち、ケンタウロスの長。


「久方振り、ですね。骸の死骸、ソレにして異邦の旅人よ」

「よ、ケンタウロスの賢人。ケイローン、こうして出会うのは何日振りだ?」

「時間は個々の中で流れるもの、過ぎ去る時間を数えることは無粋ですよ?」

「訳わかんねー」


 適当に返しつつ、ケイローンの背後に控えるもう一人のケンタウロスを見る。

 見覚えがある、そう彼女の姿。

 黒狼は懐かしげに、しかし数日前ということを思い出しながら高声を掛けた。


「よ、久々? って感じか。なぁ、ケイネロゾネア」

「ふふ、また其と相まみえることになろうとは。あの傭兵が谷に落ちていた時からうすうす感じてはいたが……、コレは運が良いと喜ぶべきかな?」

「ちょっと待て!? え、居るの? レオトール!!?」


 黒狼の驚愕に、ケイネロゾネアはこくりと頷く。

 まさかの情報、まさかの話に黒狼は驚きを隠せぬままに狼狽えていた。

 すくなくとも、黒狼の中ではレオトールとここで出会う予定ではなかったのに。

 それなのにここで出会う? 心の準備と恩を着せることができないではないか、畜生などと思いつつもそれもまた良しと切り替える。

 

「おいおいおい、こりゃ随分と愉快なことになってんな?」

「というか本当につながっているのね、ここと地上」

「疑ってたのかよ、酷くない?」

「日頃の態度を鑑みやがれ、手前は」


 黒狼はそれもそうだと返答しながら笑い、そして表情を切り替えた。

 レオトールがいるなら話は早い、本来行うはずだった工程を何個もスキップできそうだ。

 そのような意味合いでの笑みを浮かべ、ククと笑い出す。

 その様子の黒狼を見たほか四人は、一斉に彼を無視して歩き始めた。


「おいおいおいおい!? 置いていくなよ!!」


 置いて行かれる奴が悪い、そんな視線を向けられ一瞬動きを止める黒狼だったがそのまま先に進む。

 別に何を言われようとも、前に進むのは決まっているのだから。

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