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Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
一章下編『一切の望みを捨てよ』

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Deviance World Online ストーリー4『道具と人』

 黒狼は不機嫌そうに床で転がされ、ゾンビ一号は気まずそうに視線を彷徨わせる。

 その中心に置かれたモルガンとロッソは顔を顰め、痴話喧嘩を見守っていた。

 なお、村正はいない。


 ここはロッソの工房、迷宮でレベリングを兼ねた八つ当たりをスクァートに向けている最中にモルガンに縛られ連れてこられた黒狼は地面で芋虫になっていた。

 抗議の視線を送れば、二人から睨み返され渋々ゾンビ一号を見る。

 相変わらず顔はいい、少し血色は悪いがその弱々しさも含めて清漣白美と言えるだろう。


「で、何を話せばいい? 俺は」

「分かっているでしょう、何故私に尋ねるのです? 黒狼」

「というか、ギクシャクしてたら面倒なの。早く話の決着をつけてくれない? いえ、着けて。じゃないと、その拘束をより強めるわよ」

「へいへい、全く暴力ヒロインは今日日受けねぇぞ」


 笑えもしないジョークを口にして、息を吐く様に動く。

 そのまま鎧を適度に解除して拘束から抜け出そうとし、モルガンが拘束を強めて諦めた。

 ヘラヘラとした雰囲気が消えた、真面目な雰囲気が現れ改めてゾンビ一号を見る


「お前は何がしたいんだよ、ゾンビ一号」

「どう……、って言われても……。私は……、私は最初から!!」

「感情的になるなよ、その成長がクソだっていってるんだ」


 残酷な話だ、黒狼のために成長すればするほど黒狼はゾンビ一号に対して苛立ちを募らせる。

 簡単だからこそ、面倒であり厄介なのだ。

 道具に意思はいらない、道具に感情はいらない。

 ソレは不要であり余分でしかない、少なくとも黒狼にとってのゾンビ一号とはそんな存在でしかないわけであり。

 人として成長するゾンビ一号は、道具としてみている黒狼に必要とはされない。


「道具は道具らしく、俺の言うことを聞いて実行すればいい。ソレをより良くしようとか、より良い結果をもたらそうとか考えるなよ」

「私は人間です!! 私は人として、感情ある生物としてあなたの役に立ちたい!!」

「気色悪い、知るかそんな話。道具が、道具のまま人間になれると思うな。倫理の問題じゃねぇ、真っ当な理路整然とした感情論だ。お前は、そう言う意味では話し合いのテーブルにすら着いていない」


 吐き捨て、バカにする。

 この感情は、この敵意は間違いなく黒狼にとって正しく人類にとっては悪なのだろう。

 強い意志を込め、睨みつけながらモルガンの魔術を解除しようとスキルを発動する。

 モルガンは黒狼の抵抗を感じ取り、一瞬悩んだ後にその魔術を解除した。


「すまんな、後ありがとう。ようやく冷静になった、それと迷惑をかけたな」

「逃げることは許しません、仲を戻せとも言いません。ただ、対話を行いなさい。ソレが貴方が今なすべき、正しさです」

「勿論、分かってる」

「そう? ソレなら私も彼女も苦労しないのだけれど、まぁ入り口は封鎖しておこうかしら」


 ロッソとモルガンの言葉に、真剣に返す。

 そしてゆっくりと、静かに冷静に、黒狼は自分の空虚で無機質でどこまでも無責任な心を曝け出した。


 一つ、もしもこの後に至って勘違いしていて

 一つ、もしもこの状況で三人の関係性を誤読し

 一つ、もしも黒狼を理解していると思っている


 そんな、人間がいるのであれば訂正を設けよう。

 黒狼にとって、ゾンビ一号とは自分が作った道具であり。

 黒狼にとって、レオトールとは何処まで行っても交わらない運命だ。


 ゾンビ一号は泣きそうな目で、黒狼を見る。

 怒るでも、悲しむでも、殺意を向けるでもなく。

 ただ無価値になった道具を見るかのように、黒狼は立っている。

 道具には、道具以上の価値はない。

 それは、機械で言うところの歯車であり人で言うところの金でもある。

 剣士にとっての剣、と言う事の言い換えだと思ってもらって構わない。

 それ以上も以下でもない、黒狼にとってはゾンビ一号は動いて喋る死体以上の価値はない。


お前(ゾンビ一号)は意思を持った」


 ソレが、最大の間違いだ。

 道具に意思はいらない、道具は道具であればいい。

 潤滑油を注げばより滑らかに、手入れをしなければ錆びつくような。

 そんな、歯車のような持ち主の行動を写す鏡であればいい。

 ましてやそんな道具が感情を持つ、ソレは黒狼にとって。

 黒狼にとって、どこまでも自分を愚弄し尊厳を壊すことに他ならない。


「お前は間違えた、だからお前を俺は捨てる」


 興味はある、惜しい気持ちは残っている。

 だが、それでは許せない。

 人を背負うだけの責務を、何より自分以外の思惑を自分自身に入れ込むことが何よりも許せない。


 私はあなたを愛しても、私はあなたを愛さない。


 二人の運命は普遍的で当たり前に交わった、だが片方がそれを拒絶する以上交わりは当然の如く解けていく。

 ゾンビ一号の、無垢故の憧れは知恵を彼女に与え。

 ゾンビ一号の、無知故の憧れは恋慕を彼女に与え。

 人と成った彼女は、黒狼と言う男を理解することを放棄した。


 理解とは、憧れから最も遠い行動だ。

 憧れがない、だからこそ相手を理解できる。

 持ち得ないことを知り、己が無力を知り、他者に嫉妬しない事こそが理解を促す事となる。

 故に、理解に憐憫はない、愛玩もない、殺戮もない、敵意もない、憧憬も、そこには何もない。

 そこにあるのは、ただのそう言うものという理解だけだ


「何でですか!! 私はこんなにも、好みがたとえ朽ちようとも!!! 貴方に尽くす覚悟があるというのに!!」

「だから? だからなんだよ、それがどうした? 俺は求めたか? いいや。微塵も求めてねぇよ、俺が求めているのは最初から最後までただ一つ。俺の手から離れるな、ただそれだけだ」


 静かに告げた言葉に、ゾンビ一号は表情が抜け落ちた。

 溢す涙は無い、涙すら流せない、流すという人間的行動ができない。


 これほど悲しいのに、泣けない。

 その違和感が、彼女の中で軋みをあげ接合された魂が分離するかのように悲痛を叫ぶ。


 ゾンビ一号の精神年齢は、本来的な精神の成熟具合は決して高くない。

 大人の頭脳を与えられ、大人として生きた記憶があるだけの生後半年も経過しない赤子である。

 その無垢たる魂に最も触れ合い、その生涯の目的(製造理由)を与えた黒狼は一見すると前世から恋慕を抱いていた相手にすら見えかねないだろう。

 特に、碌に出会いもせず美化された思い出の中で精神を歪に成熟させれば。

 不完全な魂が、整合されることで完全となり感情を知識的に理解した彼女にとっては。

 紛れもなく、正しい意味で、それは(生きる理由)なのだ。


「何で求めて、何で使ってくれないのですか!! 私は、私は貴方の剣です!! 貴方の盾です!! 貴方の……!!!!」

「生憎と、この世界での俺にとって人間とはどこまでいっても信用できない存在なんだよ。何せ、俺は最初から全てを裏切るつもりなんでな」


 意思ある存在を一切信用していない黒狼にとって、意思を得た彼女はどこまでも信用に足りない存在となった。

 それで、この話は終わりなのだ。

 ただただ、それだけの話。


「もういいか、モルガンにロッソ。俺はコイツを人間として扱う、だからこそ俺はコイツを信用しない。最低限の庇護と製造責任だけは負っておくがそれ以上は自己責任でしろ」

「……、優しいのか厳しいのかわかりませんね? 黒狼、その言い分ですと仲間である私たちも信用しないと?」

「ん? どっちだと思う?」

「我々の中に、信頼や信用などという言葉は不要です。ただただ、利害関係があるだけでしょう。いえ信頼関係はありますね、いつ裏切っても構わないという信頼関係が」


 違いない、と笑って黒狼はそのまま崩れ落ちたゾンビ一号の頭を掴む。

 人間のなり損ない、感情ある道具。

 完全に割り切れば、彼女が向ける感情を愛おしくすら感じる。


 いや、最初からそうなのだ。

 ただその感情は、彼女を道具として見る自分の中には1ミリも湧かなかった。

 道具を道具として扱う顔の人間の中には、そんな感情はなかっただけで。


「『屍従属』、お前の意思で道を進め。ここで停滞するも、この先に歩むのも、愛憎から俺を殺すのも。ただ、俺はお前を愛さない。何故なら俺は、人間であるお前を信用しないから」


 ゾンビ一号の目に光が灯る、感情から、思いから目に光がなる。

 黒狼は、一つだけ考え違いをしている。

 黒狼は、結果から逆算し彼女の感情を推測していた。

 歯車は完全に噛み合い、黒狼の目的は達成される。


「さて、態々集めたんだ。勿論、わかりきっているよな? 攻略するための光明は見えてんだろ? 全体の筋書きは考えるが詳細はアバウトに。それが俺の方向性だ、ついて来れない奴は離反しろ。だが、もしついてくるのならば。俺の選択を疑い信じろ、いい加減レベル上げにも飽きたし確信も得た。レオトールに会うためにも、そして魔導戦艦を作成するためにも、何より好かないあの王様気取りを倒すためにも力を貸せよ?」


 モルガンとロッソに向けた言葉を、何より黒狼は薄ら笑いしながら告げる。

 運命の女神は、未だ賽を振ることはない。

 だからこそ、黒狼は自然体でそこに佇む。

 女神が賽を降らないのならば、すなわち結果は確定しているということなのだから。


*ーーー*


 確信を得た、黒狼はそう告げた。

 一体どこで、一体何の確信を得たのか? それを問い詰めようとしたモルガンだったが有耶無耶に誤魔化された。

 言いたくない、というより言う気がないと言うのが正解の様子によほどの自信か確信があるのだろうと納得する。

 どちらにせよ、目標ははっきりと定まっているのだから。


「しかし、能力面で明かされた情報が恐ろしく……。まぁ、倒せない程度ではないですが。しかし存外黒狼も強いですね、とはいえ。粘った挙句に、自己回復されるとか。本当に困った程度の強さです、ええ本当に」


 呟きと共に、脳裏にあの騎士の動きを思い浮かべる。

 見覚えは、ある。

 アルトリウスが用いる、剣技そのもの。

 つまり、グランド・アルビオンに広まっている一般的な動きだ。


 ただし、そこに独特なリズムが混じっている。


 モルガンは努力を惜しんでいない、アルトリウスを打倒するためその剣技を完全に頭に叩き込みその弱点まで完全に網羅している。

 故に、多少程度の剣士ならばモルガンはその剣技を上手く凌げるだろう。

 しかし、この騎士を崩すのは難易度が高い。


 大雑把に振るわれる直剣、魔力を視認すればその動きにどれほどの密度の魔力が集っているのか理解できる。

 鑑定を用いてその魔力量を見れば軽く数千はある、モルガンが知る中の人類と比較しても上澄だろう。

 振るわれる剣速は黒狼がギリギリ余裕がある程度、フェイントは混ざっていないように感じるため村正でも可能と考えられる。


 なので、本当の問題は黒狼からの伝聞となるがHPを削った後の自己回復と魔力による砲撃だ。


 あれはダメだ、黒狼が完全に対応を間違える意識外からの攻撃は流石のモルガンでも対応策を考えかねる。

 そもそも見ていない、伝聞の情報だけで全てを知った気になるのは愚行となるだろう。

 しかし、それでも。

 黒狼の直感や、本人のテンションに依る動きの万能性を知っているからこそモルガンは対処不能と結論する。

 黒狼は決して強くない、プレイヤー全員の能力を数値化し計測すれば彼はまず間違いなくトップクランのメンバーには遠く及ばない。

 しかし、バトルロイアルの場合彼は2番手を取れると確信がある。

 流石に、最強の武装にして最高の武器であるエクスカリバーを保有するアルトリウスには敗北するだろう。

 だが、それ以外の相手には自分の力以外も利用し稀有な勝利を手にすると思わされる能力を持つ。

 そんな彼が、対応不能な攻撃など。

 まず、その直感が鈍いモルガンや戦闘経験の浅いロッソ如きでは対処不能だ。


「まぁ、対策がないわけではないですが」


 横で献身的にロッソの協力しているゾンビ一号を見る、彼女の実力は純粋な剣技でアルトリウスを上回りその身体能力は黒狼が呼び出したあの神に追随する。

 この血盟に最大級に不足しているのは、実力ではなく経験だ。

 学びがないから、応用もできない。


 だから、最初から応用もできる人間に任せればいい。

 彼女の実力の詳細は不明だが、低いはずがない。

 低ければ、そもそも黒狼が惜しむはずなどない。

 彼が彼女を突き放したのは、結局自分が武装として御せる範囲を超えて動き出したからに過ぎず。

 彼なりに、不自由に自由を実行した結果だろう。


 最も、彼の本心を慮ることなどできないが。

 顔の無い、転じて顔しかない人間とシステムに認められるほどに自分がない人間の感情など推測するだけ無駄だ。

 十秒前には恋人であった人間を、次の瞬間には宿敵と定められる男だ。

 会話すら、あの男とは無駄である。


 話が逸れた、再度攻略法を思案する。

 ゾンビ一号ならば経験から、かの騎士の攻撃を凌ぎうることが可能になるかもしれない。

 黒狼は一切そこを知らないと答えたが、ヒュドラ戦を鑑みれば可能性云々を語る必要がないほどに基礎はたり得ている。


「モルガン〜? ぶつぶつ呟きながら、馬鹿らしくなる量の魔術を展開してほしくないのだけど?」

「おや、能力不足による僻みですか? こうして魔力供給して差し上げている恩を弁えず文句を言い出すとは厚顔無恥極まりますね」

「ここがどこかわかっていってるのかしら? ん? ここは私の工房、私の陣地よ。秘密基地的に貸してあげているのだけど、今すぐここから追い出されたいのかしら?」

「ふふふ、不思議なことを宣いますね。魔術戦で私に……、おや? それは空間魔術。私のとは方式が違いますが……、それに無駄が多いのでは?」


 モルガンの言葉に、ロッソはニヤリと笑う。

 直後、モルガンは()()()()拘束された。

 眉を顰め、魔術式の解析を行うモルガン。

 しかし、その企みは不必要と一瞬で理解する。


「面白い、圧縮できたのですか。魔法陣を見て、全てを知ったつもりになっていた自分が無様に思えますね。これはあの黒い影の魔術を流用したと言うところですか」

「ふぅん? 中々の解析力ね、真っ当に読み解いて誤解するまでは想定内だけど……。こんなに一瞬で本命の効果まで看破されるとは予想外よ」

「実力を探るのはやめませんか? 互いにとって不利益を被りますし」

「貴方が言う? ソレ、自分の魔術をコッソリ展開しながら私たちのことを見てるくせに。よくもまぁ、キャメロットから追放されないわね」


 バレていますよね、といいながら自分を拘束している魔術に干渉を始める。

 魔術とは結局プログラムであり、概念を具現化したに過ぎない。

 副属性を主に据える無属性ならばともかく、空間属性程度ならばハッキングは容易い。

 システムの穴を探り、構造の脆弱性を露呈させる。


「えぇ、流石の自信作だったのだけれど僅か数分しか拘束できないなんて。私なんて自分に使った時に、十分はかかったんですけど?」

「流石に練度が違います、それに空間魔術の脆弱性は私が一番把握しているでしょう。あの塔の引き籠りどもの形を引き継ぎ効率的な魔術として現代に復活させたのは私ですよ? むしろ、私レベルの魔術師を数分間拘束したことを誇りに思うべきですね」

「バカにしてるのかしら? 貴方風情を僅か数分しか拘束できないのに、何を誇れと?」


 馬鹿みたく睨み出した二人の間にゾンビ一号が割って入り、馬を収めようと頑張りだす。

 今日も今日とて、平和らしい。

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