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Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
一章下編『一切の望みを捨てよ』

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Deviance World Online ストーリー4『ゾンビ』

 カマキリの魔物を倒したモルガンは黒狼のほうを見る、其処には滅多打ちにカマキリを叩きつけている姿があった。

 自分の苦労と、相方の遊び具合に息を吐き適当に攻撃を放って仕留めるモルガン。

 振り返り、サンキュという黒狼に呆れた視線を投げつつモルガンは杖を握る。

 目の前の骨、彼の実力は計り知れない。


「いえ、計り知れないのとは違いますね。単純に、テンションの問題でしょう」

「何か言ったか? モルガン」

「常に全力で取り組み励め、と。そのように私は助言したのですよ、黒狼」

「生憎、それは土台無理な話だよ。まずい料理に対して本心から旨いとは言えない、精々表だけしかその姿は作れない。ああ、もちろん例外はある。不味いの定義を変えるという、例外はな?」


 なるほど、とモルガンは興味なさげに呟き現れた宝箱に視線を向ける。

 ダンジョンに登場する宝箱、その理屈はいまだ不明となっており。

 いくつかの説や考証は在れど、決定的なものではない。


「どちらが開けます?」

「どちらでも」

「では此度は私が、開けましょう」


 宝箱の蓋に手をかけ、純白な腕を用いて蓋を上げる。

 中には素材がいくばくか、黒狼では扱いきれずモルガンでは専門外も甚だしい代物。

 軽く息を吐き、残念と漏らしたモルガンはそのままそのアイテムを魔術で転送する。

 ロッソにあとで渡すしかない、残念な気持ちは隠し切れぬが何の利益がなかったわけでもないのは僥倖だ。

 コレが大槌などであれば目も当てられない、誰も使わない武器ほど無駄なアイテムはないのだ。

 

「じゃ、次の階層に行くか? モルガン」

「次は趣向を変えましょう、どちらが早くボス部屋までたどり着けるか。掛けるのは何がいいですか、黒狼?」

「うーん、賭けねぇ? じゃ、次の階層の宝箱のアイテムを賭けるか。どっちが獲得するか、っていう賭け」

「ソレで構いません、では始めましょう」


 現れた扉をくぐり、先にある階段に少し驚きながら下る黒狼。

 久しぶりの階段、12の難行の時は直接転移していた関係もありひどく懐かしく思えてしまう。

 息を吐き、息を吸う。

 実際には動いていない臓器を、実際には存在しない臓器を動かしていく。


「レギュは無し、よーいどんでスタートだ。いいな? じゃ」


 よーい、ドン。

 そう告げた瞬間に、モルガンは爆速で動き出した。

 体を地面から数センチ浮かせ、背中方面からエネルギーを与えているらしい。

 周囲の風にあおられた黒狼は、少し呆れを含ませたまま刀を手にして足に力を籠める。


「行くか、俺も」


 『環境適応(迷宮)』、そう軽く口にし一気に加速を始める。

 スキルの扱い方はいまだ絶妙に拙いが、慣れれば構わない。

 三歩、重心移動が完全に終わったタイミングで『環境強化(迷宮)』を発動。

 地面を滑るかのように、動きを加速させていく。

 切り捨て御免、すれ違った瞬間に相手を蹴りつけ切り飛ばし。


「やっぱ、魔術ってチートだろ」


 それでも未だ、モルガンが先を行く。

 しかし、勝ち目は十二分に存在する。

 モルガンはこの迷宮に至るのは初めてらしい、話によればだが。

 ならばさして条件は変化しない、十分に戦える。

 壁に地面に、天井に。

 各所に足着け、一気に加速していくその様はまさしく白い流星。

 三度の進化を超え、一気に成長した黒狼の身体能力は徐々に規格の範囲を超えていく。


「『抜刀』、加速するぜ? すべてを置き去りにしてやる」


 黒狼の動体視力は決して高くない、だが高くないからといって能力が低いはずがない。

 ダークボールを形成し、それを踏みしめ空中を跳び、さらに加速する。

 すべてを、破壊する。


*---*


 結果として黒狼はモルガンに敗北した、当然の結果だ。

 魔術使いとして、モルガンの腕は並外れている。

 その実力、その能力はすでにシステムで作成されているスキルの範疇を超えておりスキルで行える以上のことをより少ない工程で終えることが可能だ。

 つまり、スキルの範疇でスキルを使いこなすことすらできていない黒狼では力不足甚だしい。


「流石に負けるか、残念」

「と、言う割には中々に厭味ったらしい顔をしていますね? 何か言いたいことでも?」

「別にぃ? だが、魔術や魔術の扱いに改善の余地があると思ってな」

「ほぅ、ではその改善の余地とやらを告げてみなさい」


 黒狼の挑発に、、モルガンは応じるが当の黒狼はどこ吹く風だ。

 何の反応も返さず、扉に手をかけた。

 中にあるのは、中に居るのは鎧を着たゴーストだ。

 部屋の中央、其処で巨大な戦斧を持ちながら静かに座す。

 それをみて、黒狼は少し息をのみモルガンに尋ねた。


「相手の強さは?」

「負けるのも覚悟で、相手の実力は未知数です」

「嫌な予感がする、魔術は控えろ」

「その予感を軽くたたきつぶして見せましょう、黒狼」


 軽口に叩き合い、其処から一転空気が変わり黒狼が動き出す。

 超高速での移動、壁を蹴り天に手をつき地面を転がり。

 縦横無尽に動きながら、刀を抜刀する。


「『抜刀』、『袈裟切り』!!」


 様子見の一閃、一筋の攻撃は明確に鎧に命中。

 されどそこで、刃は止まる。


 鉄は鉄以上の武装でしか切り裂くことは不可能である、コレは絶対的な世界の法則だ。

 鉄を骨で切り裂くことは、困難ではなく不可能。

 そして、同時に金属の鎧を着ている存在に有効打を与えるのでは骨では役立たずである。


「まぁ、予想通りか」


 返しの攻撃、鈍重な振りが返ってくる。

 下半身は存在しないその鎧のモンスターだが、明確に地面を踏みしめているかのような力強さがあり当たれば必死になりかねない攻撃だ。

 だが、その程度回避するまでもない。

 目の前、紙一重で襲ってくる攻撃が素通りする。

 見えている、見え透いている。

 その程度の攻撃何度も受けてきた、今更避けれぬはずもない。


「その長剣が泣いてるぜ?」

「油断は禁物でしょう、『輝ける燐光(サン・ライト)』」

「油断? ちがうだろ、コレは余裕っていうんだよッ!!」


 ニヤケ笑いと共に、剣戟を弾く。

 刀は、当然折れた。

 だがそれでいい、折れた刀を即刻破棄し新たに刀を生成する。

 黒狼の脆弱な攻撃では有効打を与えることができない、だがモルガンが魔術を放つ隙を作ることはできる。


「光系統も微妙、なるほど。となればやはり土系統でしょうか、純粋な破壊力は万物に効くものです」

「早く攻撃をしろよ、モルガン!!」

「分かっていますよ、『掴み、握り、磨り潰せ【其れは粉挽き(ステーンマル)】』」


 上下に円状、そして螺旋が刻まれた岩石が発生し一気に鎧を磨り潰す。

 黒狼は一瞬で回避したが、鎧はそうもいかない。

 一瞬回避が遅れ、そのまま石臼に巻き込まれる。

 鎧が重さで撓み、捻じれ、徐々に徐々にと壊れていく。


「魔力量のごり押しとはまた随分大層だな? あんまり好きじゃねぇけど」

「中々の前衛ぶりです、キャメロットに入っても存分に戦えますよ」

「なんで仮想敵に入らにゃならん、いや内部工作を考えたら割とアリ?」

「もう既にその座には私がいますけど、ね?」


 呆れたように言いながら、面倒そうに杖を動かす。

 同時に回転が増していく、恐ろしいほどの速さで鎧を破壊していく。

 未だ死んでいる様子はない、とはいえ死ぬのは時間の問題だろう。

 机と椅子を取り出し、席に座したモルガンは騒音の横で静かに耳をそばだてる。


「うるさいですね、少々」

「知るか、お前がやってんだろ? モルガン」

「文句ですか? 受け付けませんよ?」


 モルガンの独り言に、黒狼は苦言を呈すがどこ吹く風だ。

 紅茶をすすり、味が気に食わなかったのかワインを継ぎ足す。

 今度は濃すぎたのか、顔をしかめると味の調節を行いだした。

 仮にでも戦闘中、であるのにこんな寛ぎ様。


「紅茶は辞めろよ、別に真面目にやれという訳じゃないけどさ」

「何か、問題でも? 黒狼。紅茶を飲むのも、休むのもすべては私の自由です。それとも何です? 私が仕事をしていないとでも? そういうのであれば貴方のほうがよほど無能な存在でしょう?」

「うーん、こりゃ何とも言えんわい」


 屁理屈も理屈、それは真実。

 モルガンに論破された黒狼は大人しく、口をそのまま閉じる。

 実際、モルガンはこれ以上なく有能だ。

 その働きぶりは目覚ましく、実際に黒狼は非常に助かっている側面がある。

 それを批判できるはずがない、いや批判をする権利が黒狼にはない。

 道理がない、という訳だ。


「しかし、地味に硬いな」

「HPが多いのでしょう、もしくはVITが上振れしているのかもしれません。この魔術、魔法攻撃力を物理攻撃力に変換するものではありますが変換効率も決して良いモノではないので」

「理解、しかし魔術ってそこまで細かくいろいろなステータスを参照可能なんだな? 意外感が強い。もっとステータスっていうのは具体的で神秘性や、未知的な要素が薄いモノかと思ってた」

「数値化されているだけ、それも難しくされているわけではありません。そも一見論理的に思えるステータスですら、突き詰めれば論理よりも魔術的。および神秘的な側面が強い、一度思考実験を行いましょう」


 ようやく、ようやくではあるが魔術が回転をやめた。

 完全に討伐した、その事実が確定したからだ。

 残念ながらドロップ品はないようだが、ここまで原型を残さない倒し方を行っている以上文句を言うのも筋違いだろう。

 現れた宝箱を魔術で引き寄せながら、モルガンは片目をつむり情景を思い浮かべる。


「例えばVITが1000000ほどあったとしましょう、これだけあれば普通に考えSTR1の存在の攻撃が通用するはずがない。ですが実際には、恐ろしく硬いわけでもなく傷自体は発生させられる」

「ん? 何言ってるんだ?」

「分かりませんか? ではより簡単にかみ砕きましょう、まず双方に恐ろしい程のステータス差が存在していると仮定した」


 そして、そのステータスの内弱者が攻撃を行ったとする。

 仮定の話を進めつつ、宝箱に手を掛ける。

 中にはスキルオーブが一つ、内容を確認したモルガンはあきらめたように息を吐き黒狼へと魔術で投げつけた。


「おっと、やめろよ」

「ナイスキャッチ、さすがの腕前です。内容は把握しましたか? 黒狼」

「ん? スキル名は……、なるほど? ふむふむ、微妙だなぁ。盾は俺も使わねぇよ、モルガン」

「話を戻しましょう、その過程を前提に弱者が強者へ攻撃した場合傷つかないか。結論は傷つかなくともダメージは発生します。それがたとえ、小数点以下であったとしても」


 スキルオーブをうまい具合にインベントリに収納した黒狼は、その言葉を聞きなるほどとうなずいた。

 傷がつかない、その事実はおかしな話である。

 常識、もしくはここまで現実に即した世界において物理学が無視されるわけがない。

 どれだけ頑丈な物質であろうとも、光速を超えれば分離するだろうし山に押しつぶされれば死ぬだろう。

 それだけのエネルギーが、其処には存在するのだから。

 しかし、そのエネルギーがステータスを介し何かに置き換わっていれば? それこそ魔力などに。


「生命力ってのはアレだな、生きている力じゃなくてその存在が成立するだけの魔力量とかその存在を構成するエネルギーを魔力に変換した場合おおよそこれぐらいの数値になるという指標的な感じだな」

「そんなモノ、論理で説明可能ですか? いえ、不可能です。論理で定義すればどこかで破綻する、神秘的なモノと考え直すほうがよほど合理的に思えますね」

「長々と講釈を垂れるなよ、メンドクサイ」

「生憎と、私はこのような説明しかできないもので」


 インベントリに増えたスキルオーブを使う相手を考えながら、黒狼はモルガンに突っかかりつつ息を吐く。

 どうしようもない話だ、本人の性分に関係するのだろう。

 一言、そういうものだと言えばそれで話は終わるだろろうこと。

 勿論、黒狼は納得できないだろう。

 となれば、この湾曲し理解が困難な言い方も彼女なりの誠意の可能性もあり。

 少し、言外に理解しきれないことは説明しなくていいという意味を込めて文句を言う。

 結局、黒狼の意図はあまり理解されていない様子だが。


「じゃ、次の階層だな。というか、コイツは通常ボス?」

「まさか、異常です。そもそも私の魔術にこれだけの長時間耐えられる時点でおかしな話、余り見くびらないでほしいモノです」

「見くびってねぇよ、ただお前より強い存在を山ほど見たからな。相手の強さを測りかねるんだよ、普通に」

「そんなものですか、そうですか」


 モルガンの返答はあっさりしたものだった、もう興味はないらしい。

 片手でステータスに何かを書き込み、歩き始めた。

 慌てて後を追う黒狼、この血盟は全員がマイペースでありこのように共に行動する場合は歩幅を合わせなければならない。

 やれやれと肩を竦めるかのように動く黒狼だったが、そんな彼を視界の端に収めたモルガンは彼の思考を看破し何を考えているのかと呆れる。

 五十歩百歩、団栗の背比べと言った所だ。

 わざわざ口にしないだけの良識で、お前も大差ないと考えたモルガンは階下に急ぐ。

 扉の先、階段を下ったところ。

 新たな景色が見え始め、黒狼は露骨に嫌な顔をする。


「墓地とは、これまた縁起が悪い」

「意外ですね、気にしないものかと思っていましたが」

「気にはするよ、だがそれだけだ」

「よくわからなくなってきました、貴方という人間が」


 モルガンがこぼす言葉に、黒狼は不敵に笑いごまかす。

 そのまま刀を握りなおすと、ゆっくり口を開く。

 同時に、モルガンも杖を握りなおした。


「どうやら、トラップに引っかかったか?」


 進化以外でめっきりスキルを取得しなくなったが、むしろそのおかげで感覚が鋭敏になっている。

 肌を、骨に突き刺さるかのような違和感。

 敵意、憎悪の集合体。

 それが一心に突き刺さっており、黒狼は苦笑いをこぼす。

 未だ三層目、レベルの上昇もまだ発生していないというのに。


「魔力体力ともに、十分ですか?」

「場合によっては逃げるぞ」

「ソレですが、残念ながら迷宮属性が魔力を阻んできます。人体ほどの大きさを外部まで飛ばすのは、当然不可能と思ってください」

「最悪じゃねぇか」


 瞬間、魔術が飛来し剣戟が飛んでくる。

 刀でそれを受け止めた黒狼は、憎々しげに息を吐くような動作を行い。

 そして告げた、淡々と。


「マジでメンドクセェ、いい加減直視しろってか?」


 目の前に存在する、白銀の鎧に銀色の剣を握ったアンデッド。

 ボス級、首なし白馬と共に現れた死体を見た。

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