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Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
一章下編『一切の望みを捨てよ』

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Deviance World Online ストーリー4『魔術師』

 そんな風に黒狼の血盟は再集結し、黒狼をリーダーとして再編成された。

 別に何か大きく変わったわけではないし、そもそも全員が集まるタイミング場所もないのは問題ではあるがその点はこの際無視しよう。

 兎も角、黒狼がイベント終了後にログインした後の行動は血盟『混沌たる白亜』のメンバーに対しての根回しだった。

 そして此処からは『混沌たる白亜』結成後、その初めての血盟としての行動となる。

 その行動を行うための、募集をかけたチャットがこれである訳で……。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

血盟『混沌たる白亜』chat:


48:黒狼

しばらく、具体的には数日暇な人手をあげてー


49:ロッソ

その前にゾンビ1号と会いなさいよ、路地裏で死にかけてたところを発見した時は驚いたわよ

ホント、あの時にたまたま回収してなかったら死んでたんじゃないの?


50:村正

儂は無理だ。

イベントが終わって依頼が舞い込んできやがった、暫くは協力できねぇ。

すまん。


51:黒狼

構わん構わん、暇だったらという話だしな


52:モルガン

内容次第です


53:黒狼

レオトール、前に言ってたアイツを探しにいく。

死んでることはないだろうし、色々心強いから早めに見つけたい


54:ネロ

余は暇であるぞ!!


55:ロッソ

貴方の言ってた魔術の構築が難しいわ

暫く手を離せないと思いなさい


56:モルガン

では私が向かいましょう、いくらか拘束されているとはいえよほど不審な行動をとらなければ文句は言われませんし


57:黒狼

じゃ、ネロにモルガンに俺って感じか


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 チャットでメンバーを募集すれば比較的すぐに集まった、案外モルガンには余裕があるらしい。

 黒狼が収集をかけてから十分程度、意外な速度だが他二人も集まった。

 三人に声をかけ、再度情報を共有する。


「モルガン曰く、この先の森が一定程度破壊されてたらしい。方向や向きに関してはゾンビ一号曰く、になるが征服王の駐屯地から伸びている。この事から、レオトール。つまり俺のダチが征服王およびその配下に追いかけられて叩き落とされたという認識を俺は持っている」

「補足を、キャメロットではなくアルビオンの騎士からの伝言となりますが。問題となる破壊跡から、戦闘に加わった存在のレベルは100を超えていると推測されています。つまり総合ステータスが最低でも……」

「その補足は要らねぇ、少なくともレオトール。つまりあの軍でのトップクラスに強い奴の合計ステータスは10000ある、接敵したら死ぬと思え」

「んむ!? なんと、真であるのか!? その話は!?」

 

 ネロは驚き、モルガンも驚いた猫の様に瞳孔を開いて黒狼を見る。

 ステータス合計が凡そ10000、正しく規格外。

 何気なく言った内容だが、グランドアルビオン最高峰の人間でも合計は8000も無い程度となっている。

 そこから2000も高い、数値で全てを判断はできないが判断材料として見るに信頼できる話でありその値は正しく規格外であった。


「戦えば即死すると思え、普通にまず殺されるから」

「なるほど、警戒意識を引き上げましょう。確かに、脅威だ」

「うむ、そのレベルとは聞いていないであるぞ。北方の傭兵とやら、それは実際にどれほど強いのであるのか……」

「……もうすぐ、確実となります。少なくとも、グランド・アルビオンからの声明が発表されるでしょうから」


 モルガンの言葉を耳にしつつ、黒狼は刀を握る。

 森に視線を向けた、深緑の森林。

 未知の空間、知られざる未明の世界とも言えるだろう。

 そこに挑む、自分を夢想し。


「御託はいい、とりあえず生きることを最優先で考えるぞ」


 改革を促す、最悪の場合レオトールと同等の相手を敵に回さねばならないと考えて。

 ゆっくりと、心を整えた。


*ーーー*


 森の中を歩く、ネロは早速疲れ果てモルガンの魔術で移動していた。

 今のところ、モンスターは現れていない。

 同様に、人も一切確認できていなかった。


 だがモルガンも黒狼も警戒は緩めていない、寧ろ森を歩き続ければ続けるほど警戒心は増えている。

 何故か? その答えは、森の中の騒がしさだ。

 モルガンは魔術のソナーを妨害、もしくはジャミングを仕掛けられている。

 いや、ジャミングというほど大仰な内容ではない。

 ただ、明確に魔術の効きが悪いのだ。


 そして、黒狼は野生の直感だ。

 骨が、魔力が、感覚が。

 全てが、弱者としての見識の全てが警告を発していた。

 明らかに、強者がいると。


「驚くべき、話でしょう。いえ、本当に。私の技術、技量は決して劣っていると思いません。なのに、その私の技能でも何をされているのかどの様な意図を持っているのかを確定することが不可能なのです」

「さすが北方、って言いたくなるなぁ? 真面目に正面戦闘だけは避けたい。この違和感の度合いって、偶然巻き込まれたら絶対に気づかないだろ」

「ええ、寧ろ騎士の方々が人ではなく獣が戦った痕跡と称した事実こそ正しかったのかと思うほどです。今私はとても恐ろしい、怖いと言い直しても良いでしょう。とても純粋に怖い、恐ろしい」


 モルガンの呟き、それに呼応するかの様にネロも首を傾げる。

 意識している、意図して敵がいると仮定しなければ理解を拒みたくなるほどに些細な違和感しか感じない。

 感じることが、できない。


 黒狼が目を細める、次にモルガンが杖を向けた。

 スキルを発動し、ダークバレッドを展開する黒狼。

 モルガンも無詠唱で魔術を展開しようとする、しかし一瞬遅れた。


 魔力的な妨害工作、森の中を探りに来た下手人を害するための意図した行動。

 諺として、狩人探せば獣も動くという話がある。

 狩人が警戒を強め、獣を探すのであれば獣もまた警戒を強め動き出すという至ってシンプルな内容だ。


 今回、黒狼たちは弱者ながらに狩人であった。

 獣に見つからないために逃げ惑う、狩人。

 だがその狩人は、獣をあまりにも強く警戒しすぎた。

 有り体に言えば、獣は自分を害する存在を排除するために動いたのだ。

 あからさまに動く、黒狼という狩人を。


「チッ、嘘だろ……!? 待ってくれ!! 他意は無い!! 話をさせてくれ!!」


 故に、黒狼は即座に判断を行った。

 魔法を解除し、モルガンにも同様に示す。

 敵意、害悪、他意など無いと。


 その交渉、その判断は功を奏したのか。

 もしくは別の理由があるのか、幸いにも攻撃は飛んで来なかった。

 目の前に空気が渦巻き、一人の男が現れる。

 飄々とした様子の、青年とでもいうべき年齢の男。

 片手には重厚な魔導書を持ち、軽く睨む様に目を向ける。


「他意は無い、と? 信用は到底できないぞ」

「ナイナイ、マジでない。一ミリも悪意ないから!! 頼むから話し合いにしてくれ!! 戦ったら瞬殺されるから!!」

「ふむ、だが上からはこう言われておるのでな? 戦闘跡を探りに来た存在は殺せ、と」

「マジかよ、ということはレオトールと征服王との対話は決裂って感じだな?」


 軽く、しかし明確に知っていると。

 彼らの正体を、征服王という存在を、何よりレオトールという人物を知っていると語る。

 一瞬、その男の眉が動きモルガンは即座に防御術式を展開すべくルビラックスを全力稼働させる。


「『【隔絶】断界し」

「無駄ぞ?」


 一瞬にも満たぬ早業、後述詠唱で防御術式の性能を飛躍的に向上させたにもかかわらず性能向上する速度を上回る速度のレーザーが照射された。

 モルガンの右腕から右手にかけてが、レーザーによって切断された。

 緊急的に左手でルビラックスを握ると、そのまま回復魔術を無詠唱で行おうとするが妨害によりそもそも魔術を行使するのが不可能となった。

 憎々しげに目の前の男を睨みつつ、ステータスを確認しHPの減少から安全圏ではあると認識する。


「良い杖である、だがその程度の使い方しかできぬのならば無駄も極まっているぞ。嘆かわしい、彼の王国の魔術師の質はこれほど低いモノであるか」

「一応、ウチのエースなんだがな? というか、先制攻撃とは随分酷いじゃねぇか」

「そも、停戦協定は昨夜の夜半を以て効力がなくなっているぞ? 戦争下にある其らを殺すのに如何程の問題があるとする?」

「ふざけんな、論理武装されたらどうしようもないだろ!! いや、真面目に殺すのだけは勘弁してくださいマジでお願いします……ッ!!」


 呆れと落胆、そしてその必死さから男は魔力による魔術の妨害をやめた。

 そのまま地面を蜂起させ、椅子をかたどると座り込みこう言い放つ。

 圧倒的余裕と、慢心を伴いながら。


「構わん、逃げてみせよ。兎狩りにはちょうど良い小春日和だ、死した兎に小賢しい兎。そして欺瞞の限りの兎。すべて、容易く踏みにじってやろうぞ」


 言い放つが早いか、魔力的な妨害が解除された。

 その代わり、本能が訴える。

 今すぐ目の前の化け物から逃げろと、本能という感覚が。


「モルガン!!」

「今、すぐにッ!!」


 僅か一言、それですべてを察したモルガンは転移魔術を発動し即座に森から抜け出そうとする。

 魔術の発動、空間のねじれを通る違和感を感じつつ転移先の風景を観測した。

 直後、黒狼は走り出す。


 無駄だった、それが答えだ。


 転移魔術の発動が狙い通りいっていない、さすがに100メートル単位で転移はしていたが森の外には脱出できていないのだ。

 術式が書き換えられた、転移魔術という本来超高高等的なモノが簡単に書き換えられている。

 モルガンは即座に魔術式を変更し、上空へと舞い上がった。

 ネロも同様、モルガンに率いられ上空に飛ぶ。


 直後、黒狼が狙撃される。


 森の中、地を這うように光線が飛来し的確にその右大腿骨を貫いた。

 ダークシールドを展開していたにも関わらず、一切のダメージ軽減は許されない。

 片足が破壊、行動不能に追い込まれたという確信を持った黒狼は残る足で横に転がる。

 木陰の裏、視界を遮りながら外骨格となる骨を置換させ足代わりにした。

 そのままネメアの獅子皮を被り、魔法攻撃を軽減するように動く。


「ふむ、その皮は興味深いぞ」


 瞬間、腕が切断された。

 おかしい、違和感の正体は即座に看破される。

 そも、黒狼は自身の身体を軽くではあるが覆っていた。

 では、どうやって光は侵入した? 答えは侵入したのではない。


 そもそも中に存在していた微細な光を圧縮し、収束化させレーザーに変化させたのだ。


 両腕が失われた、もう再生の見込みがない。

 鎧がない、腕を復活させることはかなわない。

 だが、ここで大人しく負けるわけにもいかない。


「『外骨甲冑』ッ!!」


 骨を、操作する。

 切り飛ばされた両腕を、アイテムとして鎧と化させ装備した。

 直後の光、その光線を盾と化した鎧で受け止める。

 ステータスの弱体化補正を受けない分、それは不可能ではない。


「『蟻刀:顎蟻』、『抜刀』ッ!!」


 両腕を刀に変形させつつ振り向きざまに一撃、山勘で刀を振りぬく。

 しかし、当たることはない。


 魔力視をアクティブにし、敵の姿を探し始める。

 だが、それもかなわない。

 吹き荒れる突風、尋常じゃない圧力。

 空間魔術を用いた攻撃の嵐、それを四種混合の様々な魔術で

 地面に倒れこみそうになりながら、黒狼はスキルを発動した。


「『戒呪』ッ!! これでどうだ!!」


 魔力を、限定化する。

 範囲は黒狼の視界に流れる魔力全て、限定化する。

 効果の内容は、ただ一つのシンプルなモノ。

 魔力の使用の厳禁化、黒狼の視界の中であれば自然界から魔力を集積することは不可能となった。

 一瞬、魔術の攻防でモルガンが競り勝つ。

 モルガンの魔術はすべて体内魔力、およびルビラックス内の貯蔵生産魔力。

 言い換えれば、フィールドという環境に一切左右されない。

 一瞬で戦況を押し切ろうと、一瞬にして上空を覆いつくすだけの魔術を展開しきる。

 まさしく神業、魔女にふさわしいその攻撃。


「ふむ、魔力を……。少し遊びに興じようぞ、なぁ?」


 その、男は魔術の展開が不可能であると察した瞬間広域に広がっていた男の魔力の残滓が彼の手元に収束し剣の形状を形成する。

 そのまま口角を歪め、一気にその剣を変形させた。

 飛来する魔術の数々の制御権を奪い、魔力化させていく。

 剣が瞬間で巨大化していっていた、モルガンの魔術展開数を即座に自己の魔力として奪い去る。


 魔女の神業は、賢者の叡智によって無意味に帰す。


 彼女は驚愕し、そのままその魔力を収束させた剣によって背後から切り裂かれる。

 同時に、ネロにも付与していた空中浮遊の魔術も限界を迎えた。

 二人して、地面に落下する。


「マジモンの規格外は聞いてねぇ!!」


 黒狼の叫び、同時に動き出そうとして……。

 その無意味さをしった、周囲の木々が蠢き黒狼を拘束したわけだ。

 ものすごい力、万力のような力で骨を粉砕され始める。

 苦痛だ、これ以上ない苦痛だ。


 これは黒狼にとって初めての経験となる、純粋な実力で敗北を喫した初めての。

 今までの幾度とない戦いは、盤面をギリギリでひっくり返せる切り札があった。

 しかし、今回はそんな切り札を用意させてもらえる容赦すらない。


 何故? 疑問に思考を行う。


 答えは単純にして、ひどく簡単だった。

 ただ只管に、これ以上ないほどシンプルな話として。

 切り札なんて、ちゃちなモノを使わせてもらえるほどに相手の実力は低くなかったというだけの話だ。


「それでも、負けるかよッ!! 喰らえ、『復讐法典:悪(アヴェスター)』」


 遅かった? それでもいい、起死回生の一手は未だ容易く打てる。

 死ぬ気で、もしくは死ぬつもりでの一手。

 どうせならば道連れにするという、殺意の決定打。

 此れもまた初めてとなる、明確に倒すべき敵以外にこのスキルを用いたのは。

 そして、本日三度目の初めてを黒狼は味わうこととなった。

 『復讐法典:悪』を、無効化されるという初めてを。


「無駄、でもないが無意味に終わったぞ? 骸」

「嘘……、だろ……!? なんで少なくとも骨が切断されてない!? 今の俺は、お前に骨を折られてその傷は癒されてねぇんだぞ!!」

「ふむ、呪い返しのスキルであったのか。まぁ、つまらん小細工ぞ。魔術師であらば呪い対策は幾重に用意している、その程度の手段しか持ち得ぬ貧相な輩相手に吾が敗北を喫すとでも?」

「ッ、糞!! せめてだ、最後に名前ぐらい教えろ!!」


 黒狼の叫び、それとは点対称に飄々としながら青年は口を開く。

 その言葉に、その内容に最大級の悪意を込めて。

 侮蔑と、最低限の作法と共に。


「戦場で、戦いの場面で誰も彼もが其みたく喋ると思うな」


 瞬間、黒狼。

 ネロ、モルガンは無慈悲にも光の柱によって跡形もなく潰された。

 成す術もなく、ただ実力不足で終わらせられる敗因で。

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