Deviance World Online ストーリー4『空飛ぶ船』
村正の住処にたどり着いた黒狼は面倒な状況に頭を悩ませていた、その面倒な状況は至って単純ではあるが。
シンプルに、村正がログインしていないのだ。
本人曰く、リアルの用事らしい。
「しかし、困ったな。なぁ? ネロ」
本心からそう思いつつ、ネロに声をかけるがネロは返事すらしない。
本当に臍を曲げてしまったらしい、黒狼はその行動を無駄だと悟り諦める。
しかしどうするべきか、そんなことを考えつつステータスを再確認し始めた。
何度見ても異色に育ったステータス、生物的な樹形図から大きく離れて作り上げられたソレはまるで黒狼というアンデッドではなくその中に存在する黒前真狼という存在を示しているかの様。
その中で一際、気になるスキルがあった。
呪術スキル、最初から現在まで常に主力であったスキル。
レベルは順調に上昇しているのに、何故かパッシブやアクティブスキルは解放されていない。
「目を背けていた、か」
ボソリと、呟く。
このスキルに黒狼は碌に焦点を当てて無かった、当てる暇がなかった。
複数のスキル、そして複雑な魔術。
様々な手段を得たからこそ、黒狼はこの使い勝手の悪いスキルを奥の手としても見なくなっていた。
しかし、そろそろ限界だ。
強くなる、その必要がある。
ソレは、もう既に希望から目標へと変貌していた。
プレイヤー最強、キャメロットの王、聖剣を担う騎士の王。
その背中は、もう黒狼には見えやしない。
確信だ、これは確信である。
どう足掻いても、現状の5人ではアルトリウスを攻略することは愚か。
十二円卓一人にすら、下手すれば負けるだろう。
「そもそも人手がたりねぇんだよ、コンチクショウ!!」
結局、手札の多彩さに欠けるというのが結論の全てだろう。
そして、その多彩さを増やす手段を黒狼は得られるはずなのに得ていない。
理論的に説明できる話ではない、だが確信はある。
そしてこの確信は、常に黒狼に対し正解しか告げてこなかった。
故に、今回も正解だ。
この選択は、この思いは正解だろう。
「ほら、やっぱりな? 全く、運命の女神は俺のことが好きなのか嫌いなのか」
ステータスが一瞬、瞬いた。
明滅とともに、呪術スキルのアクティブスキルが発現する。
覚醒、というには薄味で。
しかし、成長というには余りに濃密なその進化が。
スキルが、、成長する。
意味も理由も、その結末も含め。
好き勝手、得て勝手に。
当の本人も、羅針の思惑も超えて。
アクティブスキル、『解呪』『呪毒』『呪血』『呪屍』。
ソレら全てが、一瞬にして進化した。
『解呪』は、『戒呪』へ。
『呪毒』は、『呪髑』へ。
『呪血』は、『呪楔』へ。
『呪屍』は、『呪屍』へと。
それぞれが、独特な進化をした。
特筆すべくは、やはり『呪屍』だろう。
オセロット、南アメリカ南米に生息していたというジャガー。
つまり、テスカトリポカの配下でありジャガーの戦士。
あの神は、手を加えないという割に面白い置き土産をくれていた様だ。
「殆ど使ったことがないスキルだったが、まぁ面白いことになったなぁ? コレ」
最初二つなど、本当の意味で使ったことなどない。
だが、それでいい。
使ったことがないスキルなど、余るほど存在する。
そして、使っていなかった理由は単純明快であり使い辛いかそもそも相性が悪いかだ。
黒狼のプレイスタイルは異色にして異常、常道を真っ向から否定するモノ。
そもそも持っているだけのスキルなどは意味をなさない、使えるスキルは数少ない。
そして、持っているスキルのほとんどは持っているだけであり使えるスキルでもなければ鍛える意味の薄いスキルも多い。
もしくは、一朝一夕では鍛えられないスキルか。
「今は、その一朝一夕で鍛え上がらないスキルを増やす必要がある。うん、ようやく自分の中の目的がすっきりした感じがある」
清々しい顔でそんなことを宣いつつ、黒狼はステータスを開く。
その言葉に嘘はない、黒狼は本心からそう思っている。
実際にはそこまで簡結化されてもいないし、目標自体も今だ曖昧だ。
ただ実態として、黒狼は強くなることを目標と定めたという事実がここにある。
能力の考察を始める、己を理解するために思考をめぐらせていく。
アクティブスキル、『戒呪』
もともとは黒狼が発動した呪術の解呪、つまり呪血の解除などを行えるスキルだったがそれが変化した代物のようだ。
呪いの、魔術の解除という能力が発展した結果として得た能力は魔力の限定化だ。
魔力、魔術的行為に必須とされるエネルギー。
それは本来的に、世界を循環する無限のエネルギーである。
そして、魔術的行為はそのエネルギーを支配し属性を付与することで具象化させているだけ。
故に、魔術の性質変更は直感的で容易く行える。
しかし『戒呪』は、魔術を支配するのではなく魔力を戒める。
いわば魔力の支配、その一端をになうわけであるのだ。
魔術を発生させるには、魔力の操作は必須である。
いわば、魔術という行動における土台。
それこそが魔力というエネルギー、ではそのエネルギーを支配できるのならば?
勿論、完全な支配は不可能。
前述の限定化が限界だろう、しかしソレで大きなアドバンテージとなる。
長期戦に於いて、これ以上有用なスキルも数少ないだろう。
次は、『呪髑』だ。
もともとは黒狼が相手に対して毒状態を付与することが可能だったスキルだが、そもそも今まで戦ってきた相手は漏れなく毒耐性が高かった。
ヘラクレス然り、エキドナ然り、ヒュドラ然り。
雑魚戦では偶に使うことがあったものの、そもそも毒のダメージを行うよりも『復讐法典:悪』を用いたほうが圧倒的に上の火力を出せる。
故に手札としては使い悪さと、上位互換的存在の影響で本当に影が異様に薄かったが一応は黒狼の力にもなっていたりはした。
一切の描写は存在しないが、本当に。
しかし、変状した結果その性質性能は大きく変化した。
まず、このスキルは対象指定が消え去った。
簡単に言えば無差別攻撃に変貌したのだ、それも割と面倒な。
まさしく髑髏の毒素、黒狼が扱うに相応しい名前と効果に名実ともに変化した。
次に、毒性も大きく変わっている。
もともとの毒性はHPを10前後、1秒から5秒毎に数十秒間持続して減少させるスキルだったが変化したことで其処も大きく変化した様だ。
鑑定スキルに表示されている結果、其処に刻まれている毒性は『ステータスの減少、およびランダムに【麻痺】【瘴気】【幻覚】のいずれかを付与』といったものだ。
麻痺はそのまま文字通り肉体的な硬直、瘴気は肉体側が魔力を敬遠し無理やり移動させた場合に魔力の過剰な減少が発生する。
幻覚は色彩が大きく崩れ、視界がまともに確保できなくなるものだ。
それらの効果は短時間かつ微々たるもの、しかし仲間に被害が及ぶデメリットを考えても強力無比だろう。
そして、仲間に影響が及んだ場合は戒呪で解除すればいい話でもある。
半面、元々の効果であるHPの減少は消失した。
このスキルでのHPの減少は一切期待できなくなったわけだ、黒狼はむしろメリットとして受け入れているが。
そもそもステータスの減少は高レベルの相手に程、有効有用な攻撃である。
想定の火力を出せない、条件が限定されるスキルを使用できない。
そんな限定的であるが強い攻撃を持つ相手に対して、非常に有効なのだ。
まぁ、多少の減少など知ったことかと攻撃を用いられればどうしようもない話だが。
ネガティブな話は辞めよう、次は『呪楔』だ。
これに関しては、先ほどの二つほど大きく変化していない。
当然だ、元々のスキル効果が強力無比であったのと元から完成されていた効果。
その二点より、大きく変貌はしなかった。
まぁ、元効果が訳わからないのも理由の一つではある。
変化したその効果は、契約であった。
元効果は血を呪い化させる、といった様子だが変化した結果の『呪楔』は血液を呪い化するのは今まで通りだがその効果をより深めることが可能になった。
つまりは、奴隷化隷属化ということだ。
呪血はそこまでの効果を発揮していない、と考えればそこそこ有用な効果に変貌したのではないだろうか。
最後に『呪屍』、諸に例の黒神の置き土産だ。
オセロット、それは哺乳綱食肉目ネコ科オセロット属に分類される食肉類である。
もっと分かり易く言えば、ジャガーだ。
そのアンデッド、つまりはジャガーマンという黒き神の権能の置き土産ということだろう。
また、その効果は死体のアンデッド化にとどまらなくなった。
容姿の変貌と引き換えに、魔力消費のみで死体の作成が可能となったのだ。
ジャガーの、オセロット的特徴を備えたアンデッドの作成。
それが可能になったようだ、それ以上も可能な様子もあるが鑑定が発揮しないのでこの際無視することにしよう。
「いいね、最高だ。悪くない、なかなかにな。展開しろ、『呪屍』」
そのままスキルを発動する、効果の検証もかねてといった具合だろう。
魔力がごっそりと奪われる感覚と共に、目の前の地面が蜂起する。
地面が隆起し、黒狼と同じ身長程度の存在が発生した。
ふむ、と思考し悩む黒狼。
「む? なんだそれは!!」
「スキルの効果、アンデッドの作成って効果だけど……。残念だな、知性は低い感じか?」
「むぅ、魂の所在が微妙であるな!! 無垢の魂、と言った所だろう!! 知恵を叩き込まなければ、何も話せぬし行動もできぬと思うのであるぞ?」
「なるへそ? うん、なるほど。ゾンビ一号の経験値を継承できねえかなぁ?」
無理だな、という思いと共に黒狼はゆっくりと背後を振り向いた。
そこには和服を着た男、つまり村正が佇んで居る。
よっ、と片手を上げた黒狼に村正は軽く睨みを利かせた。
「何用だ、手前?」
「色々の最終確認ってところ、だな?」
「最終確認だぁ? 何の、という説明を聞かせやがれ。その端的な言葉で意味の全てを伝えられるのは天才か、もしくは恐ろしいほどの愚者しかいねぇ」
「血盟の名称、それと俺がリーダーになることだな」
ニヤリ、と黒狼が笑いかけ村正は苦々しそうに唾を吐く。
その程度の内容など、態々聞きに来るまでもない。
村正の中ではもうすでに許可しているつもりだった、ゆえに言うまでもない。
何も聞かずに勝手に許可出す、面倒だと言いながら。
えぇ!? と驚く黒狼だが、村正はそれを無視して屋敷に戻ろうとする。
それを無理やり引き留める黒狼、村正は呆れて振り向いた。
「何だ、手前。別に儂からすれば儂が所属する場所の名前何ぞ一切気にせん、適当にすりゃいい。ほれ、帰った帰った」
「名前なんて一番重要だろ、せめて話をきーけーよー!!」
「ちっ、早く言え。なんでも良いから早く言いやがれ、馬鹿野郎」
「分かった分かった!! 『混沌たる白亜』、それが血盟の名前だ」
その名前を聞き、片眉を下げるといいんじゃないかと返す。
興味がないのは本当だ、だがそれでも一応は真面目に考えたのだろう。
適当とはいえ、そう返す程度には理解を示し再度屋敷へ赴く。
それを再度制止する黒狼、何だと再度言い返した。
「待て待て待て待て、落ち着けって」
「ちぃ、面倒だ。家に来い、外での長話は好きじゃねぇ」
「割と我儘だな!? お前!!」
「手前も我儘だろ、手前もな!!」
互いに叫びつつ、黒狼はネロを地面に下ろすとそのまま村正宅に向かい始める。
人気が少なく、郊外に位置する彼の家。
絶妙に黒狼が向かうにちょうど良い場所なのだ、色々な意味で。
「んで? 何を態々呼び止めやがった?」
「超巨大戦艦を作ろうと思ってな、ソレも空を飛ぶ。いいだろ? な!!」
「儂は何をすりゃぁ良い? ソレを先に言え」
「エンジン関係、ソレと設計図を見せるからできるところを全部」
黒狼の言葉にこめかみを抑え、しかし乗り気に設計図を見せろと告げる村正。
案外興味はあるらしい、黒狼が設計図を送れば歩きながらではあるが黙り込んで考察を開始する。
空飛ぶ戦艦、魔導戦艦とでもいうべきその船の設計図。
その設計図に書かれている内容は凡そ常識で考えることのできない代物であり、実際ソレを見た村正は馬鹿らしいと一蹴しかけた。
しかし、不可能ではない。
空に鉄の方舟を浮かべること自体はさして難しくない、ただこの世界の技術力と人手では不可能なだけ。
逆を言えば、その2点をクリアすれば可能であるということ。
そしてその2点に目を瞑った場合、確かに黒狼が提示した設計図は現実味がある内容となっている。
「確かに、不可能ではねぇだろう。モルガンやロッソは許諾したのか? これを」
「モルガンは多分、ロッソはお前次第ってところ」
「ふぅむ? なるほど、エンジン部分はあの理論を使う訳か。魔術に関しちゃ専門外だが、この理論は儂の刀剣を用いた魔術の応用か? 確かに、作成さえして仕舞えばあり得るな。だが、成功率はちぃと低いぞ」
「最悪失敗するのなら代案がある、不可能でなきゃなんでもいいよ」
縁側に腰掛けステータスに送られてきた設計図を立体化させつつ、独自解釈を含め変更していく村正。
元の設計図から動線などが大きく変更され、形状以外は完全に置き換えられていく。
黒狼はその光景を、ネロと戯れながら見ていたのだが途中で村正に質問をされ随時返答していった。
一つ、そもおきさはどの程度か。
細かな形状は? 重量や、魔力の透りやすさは? どんな素材まで許容可能かなど。
ほとんどの質問に対し、しどろもどろに返す黒狼だが村正はソレを自己流の解釈とともに設計図を修正する。
「ふむ、悪かねぇ。ロッソの奴は儂次第って言ってたんだよな? 丁度いい、彼奴が暇な時に本格的に話し合おうか」
「お? 結構乗り気?」
「馬鹿野郎、手前……。男が空飛ぶ船に興奮しねぇ道理があるか? 宇宙艇図鑑なんぞ手前も見たことはあるだろう?」
「お前でもそういうロマンはあるんだな、村正」
そう言って、ニッという笑顔の雰囲気を向けるとそのまま飛んできた村正の拳を避ける。
どうやら彼は、ツンデレ属性もあるようだ。




