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Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
一章下編『一切の望みを捨てよ』

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Deviance World Online ストーリー4『顔の無い人間』

 夜の草原を走る、その心はまるで駿馬だ。

 地面を踏み締め、風の抵抗を感じ。

 街へと向かって、全力疾走する。

 その理由はただ一つ、答えは単純明快。


「モルガンのバーロー!! 後1時間以内に正門前に来いってふざけんじゃねぇぞ!!」


 鬼たちへ早々に別れを告げ、全力で地面を走る。

 横ではゾンビ一号も並走していた、幾分か黒狼よりは余裕があるらしい。

 ソレでも黒狼へと返事をする余裕はないようだ、息もそろそろ上がっている。

 だが、幸運にも時間には間に合いそうな二人だった。


*ーーー*


 ゼェゼェハァハァ、そのように肩で息をしながら目の前に立っているモルガンを睨む。

 本人も少し悪気があるのか、顔を背けていた。


「いつに無く急に呼び出しやがってよぉ、モルガン」

「貴方なら出来ると確信していましたので、悪気では無く信頼ですよ。そう、信頼です。ですので、ゾンビ一号さん、可能であればその剣を下げては……。下げてくれませんよね、ええ分かっていました」

「モルガン、テメェの敗因はただ一つ。テメェはゾンビ一号を怒らせた、つってな?」

「呼び出す立場とはいえ、貴方が席を退き黒狼へと盟主の座を明け渡すのならば相応に態度を考えた方がいいと思いますよ? 本当に。ソレに先日の謝罪もまだです、あまり関係を悪化させたくないのでここは謝罪一つで手を打ちましょう。勿論、今日の件とはまた別で」


 険悪だ、キャットファイトが起こっている。

 だがその雰囲気も長くは続かない、黒狼がゾンビ一号の頭を殴り諌めたからだ。

 驚いた猫のように振り向いたゾンビ一号に呆れつつ、手を軽く振ってついでにモルガンにも拳を向ける。


「喧嘩両成敗、ってな?」

「貴方も悪いのですが? リスポーン可能な時間だったではないですか、なぜ来なかったのです?」

「寝てた、文句あるか?」

「ありま……、はい。わかりました、こう言えば良いんでしょう? 有りませんと」


 視界の端に映る拳を見て、息を吐いて諦めた様子だ。

 ソレでよし、とばかりに黒狼は拳を解き。

 そして本題に入れと言わんばかりに肩を竦めた、なぜ呼んだかを聞きたいらしい。

 モルガンはその様子の黒狼を見て、今度は彼女が頭を抑えるようにし要件を言う。


「なぜ呼んだか、簡単な話です。盟主の権限と、キャメロットの城下町への侵入方法を助言しますので」

「え、無理じゃね? 普通に考えて。だからその件でロッソに相談しようと思ってたのに、お前でできるの? 計画性ゼロのダメ魔女が」

「私、殴っても構いませんか? この骨に対してこれ以上ない殺意を持っているのですが」

「……、一撃だけなら構いませんよ」


 あまりに失礼な様子の黒狼に、二人して意見が合致した。

 珍しい話だ、明日は野生のレイドボスでも襲いかかってくるのだろうか。


 冗談はそこそこにしよう、黒狼に杖で一撃を叩き込んだモルガンはそのまま話をするために場所を変えると言い出した。

 もう移動するのは嫌だ、そんな風に曰う黒狼を無視しモルガンは転移魔術を発動する。

 魔法陣が展開され、景色が一瞬で変化した。

 ここはどこだ? そんな風に疑問に思う黒狼を差し置いて、モルガンは魔術で椅子を取り出す。


「此処は何処か、そんな風に尋ねたそうな表情をしていますね? では説明しましょう。ここはキャメロットの本拠地、王城内部にして離宮の一つ。その外れでもある魔導殿、魔導の塔の3階。つまり、私の部屋です」

「思った以上にあっさり解決したな……、というかその転移魔術があるのなら村正のところから直接運べば良くない?」

「私自身が拘束されていたのが一つ目、二つ目としてもう魔力に余剰がありません。ルビラックスは基本無制限の魔力を供給しますが私側がソレを常に循環させることができないのです、今日は特に大量に魔力を使用したので」

「なるほど、事情を考えずに言ったな」


 殴られ反省したのか、素直に謝罪を口にした黒狼。

 そんな黒狼に対して紅茶を淹れつつ、話を進めようと動くモルガンだった。

 だが、そのモルガンの思惑に反して部屋の扉が叩かれる。

 どうやら来客らしい、少し眉を顰め慌てたモルガンは黒狼に対して言葉短く告げた。


「確か、姿を変える魔術がありましたね。利用なさい、簡単でしょう?」

「了解、『我が身、虚身(うつろみ)故夢幻(ゆえゆめまぼろし)我が身を隠せ(フェイク・フェイス)】』」

「私の見た目は大丈夫ですか、黒狼!? 本当に大丈夫ですか!!」

「お前、殆ど人間の姿して何を慌ててんだよ」


 若干呆れを含ませた黒狼の言葉を聞き、一安心するゾンビ一号。

 そのままモルガンが用意した椅子に優雅に足を組み座る黒狼、その背後にゾンビ一号も控える。

 確認したモルガンはそのまま扉を開いた、その先には数人のプレイヤーとNPC。

 彼女らはモルガンの部屋に幾つかの資料とアイテムを運搬しようとしていた、当然黒狼の姿も見える。

 注目されたので一応、手を振っておく黒狼。

 レオトールの姿を模倣し作製した姿なだけあって、相応に格好いい。

 並ぶ女性の数人が赤面し、一番真面目そうな女性が咳払いをしたことで騒めきは止まる。


「モルガンさん、一つ聞きたいのですが……。彼は、誰ですか?」

「私の友人です、それ以上でも以下でもないのでご安心ください」

「……、そうですか。まぁ、女性もいるので……。いえ、ソレでも部屋に男性を連れ込むって言うのは……」

「貴方からも何か言ってくれませんか? 私がビッチ扱いされそうな雰囲気を感じますので」


 グルリ、そんな音が鳴りそうな雰囲気で振り返ったモルガン。

 黒狼は呆れ笑いでソレに返しながら、椅子から立ち上がる。

 そのまま、物凄い爽やかな笑みと物腰柔らかい雰囲気へ意識を変化させ彼女たちへ優しく語りかけた。


「初めまして、どうもよろしくお願いします。私の名前はバーゲスト、よろしくお願いしますね。愛いらしいお嬢様、たち?」


 模倣するのは完璧な紳士、人間としての理想系。

 頼れる存在であり、完璧な理想そのもの。

 心の底から自分を騙し、ステータスすら欺くように性根を入れ替える。


ピコン♪


 久々の新スキル入手だ、しかし素直に喜べないのは……


ピコン♪


 連続で通知音が鳴る、連鎖的にスキルを入手したのか? 驚きで鉄面皮が剥がれそうになったが恐ろしいほどの精神性でソレを捻り潰そうとし……


ピコン♪


 即座に通知オンを切った、設定や視線すら逸らさずに即座の行動だった。

 これ以上音を聞けば鉄面皮が剥がれるだろう、もうすでに驚愕で魔術を意図的に制御し表情を隠しているのだ。

 手や足が不自然に動かないように必死に制御しながら、全力で自分の心を制御する。


「その名前は真実……、でしょう? 『真偽判決』が働いていませんし嘘ではないのでしょう。ただ聞いたことがないですね、そんな名前……。モルガンさんの部屋にいるぐらいですし、相応に有名な方かと思っていたんですが……」

「無名ですが興味深い方です、ええ本当に。間違っても私が不貞な行動を働いた訳ではないです、誓って」

「けど、そんな……。そんなイケメンですよ!? どこでお持ち帰りしたのですか!? 私も出会いとか欲しい!!」

「貴方の願望ではないですか、いい加減になさい。彼をあとで紹介してあげますので貴族令嬢と分け合ってください、別に彼氏彼女の関係ではないですし彼がどうなっても私は興味がありませんので」

「本当にいいのですか!! ヤッター!! イケメンとの出会いだ!!」


 一番お堅そうな彼女の心を一撃で射止めたらしい、もしくは深夜テンションが入っているのか。

 現在、現実世界統一時間で朝の三時。

 こんな時間帯に起きていると言うことは、もれなく全員深夜テンションということだ。

 VRCプレイ中は睡眠も兼用しているらしいが、脳が起きている間は実質起きているのと同じだ。

 適応率が低い人間は特に、睡眠不足に陥りやすいとされる。


「実験の邪魔です、荷物を置いて即刻出ていってくださいませんか?」

「はーい、しかしモルガンさんがそんな感じのイケメン趣味だったとは……」

「荷物を置いて、即刻出ていってください」


 モルガンがキレた、落ち着いてはいるが威圧感がすごい。

 流石にコレには応えた感じだ、荷物を置いていく。

 その様子を手伝うように黒狼が立ち上がったが、モルガンはソレを静止した。

 どうやら手伝うほどのことでもない、と言いたいらしい。


「これにて失礼します、あと……」


 そう言って、アイテムを渡す。

 何かと思って見てみれば、ソレは記録結晶だった。

 魔力を入れて開いてみれば、フレンドコードが記載されている。


「良ければその……」


 モジモジと動いた彼女、即刻立ち去れと睨みつけたモルガンは他の人間も急かし部屋から追い出す。

 そして扉を閉じて、息を吐き出すろそのまま黒狼を見た。

 だが黒狼はソレどころではない、急いでステータスを表示させ新たに入手したスキルを確認する。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

顔の無い人間(ジェーン・ドゥ)

・実態はない、正体はない、そこにいるのは顔のない男。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 スキルの説明、シンプルな内容に困惑しながらスキルに鑑定を用いる。

 現れた鑑定結果、それを見た瞬間に黒狼は余計困惑した。

 理解できない、規格外のスキルであるという事実を知り余計困惑する。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

顔の無い人間(ジョン・ドゥ)

・実態はない、正体はない、そこにいるのは顔のない女。

〈ーー鑑定スキルがレジストされましたーー〉

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 使用者、というより保持者に対しても情報を秘匿してくるスキルなど考えられない。

 だが、黒狼の話を聞いたモルガンはそうは思わなかったらしい。

 ステータスを表示し、操作しながら色々考察を進める。


「ジェン・ドゥ、もしくはジェーン・ドゥですか。面白い名前です、確かその原型は……。ああ、名前のない人間でしたか」

「名前のない人間?」

「はい、テーマとして用い有名な作品で言えば『ジェーン・ドゥの解剖』でしょうか? 話を戻しましょう。ジェーン・ドゥとは名前の分からない、もしくは不明な人を指し示すモノです。分かりやすく言えば名無しの権兵衛、と言ったところでしょうか? ありふれた名前であるという事です」

「なるほど、偽装スキルってわけな。入手タイミングから大体察してたけど、偽装かぁ」


 額に手を当て、悩んでいる雰囲気を出す黒狼に対してモルガンは推論を進める。

 此処に呼べた時点で時間は作り用がある、どうにでも調理可能だ。

 しかし、このスキルは今推論を進まなければ致命的な見落としが生じる。

 そんな、直感がモルガンを襲う。


「鑑定結果でレジストされたのですよね? 使用者本人の鑑定をレジストする、その前例があるとされているスキルは実は相当数存在します。中でも最も有名なのは【筋肉こそは宇宙なり(マッスルギャラクシー)】、【聖剣抜刀】などでしょう。斯くいう私も【月下の湖】や【妖精女王】などを保有しています」

「規格外だな、前者についてはある程度知っている。後者は……、アルトリウスか?」

「はい、アルトリウスの聖剣。その本領を出す時に使用するスキルです、これもまた謎が多い」

「今はいいか、ソレよりコイツだ。お前が話し出したのなら、ある程度の当たりはつけてるんだろう?」


 『我が身を隠せ(フェイク・フェイス)』を解除しながらそう告げる黒狼へ、モルガンは首肯を返す。

 モルガンが語るには、鑑定が弾かれるスキルには三種類ある。

 一つ目、そもそも上位存在から与えられたスキルであるもの。

 上位存在から与えたからこそ、上位存在の意思がなければ決して閲覧することができない。

 例えばアルトリウスの【聖剣解放】、モルガンの【妖精女王】などが該当する。

 二つ目は、そもそも適合していないスキル。

 使用者が保有していることにはなっているが、使用者がスキルと適合していないため鑑定しても自分以外を鑑定したという工程を踏み結果表示難易度が上昇。

 そのまま、鑑定結果がレジストされるという話だ。

 現段階ではモルガンの【月下の湖】のみ確認されている、いわば普通はありえない話だ。

 そして三つ目、こちらの区分はよりややこしい話でもある。

 三つ目の区分は、心象世界が関わっている可能性があるスキル。

 ソレが該当する可能性が高い、とモルガンは告げる。


「具体例としては、【筋肉こそは宇宙なり(マッスルギャラクシー)】でしょう。効果がまるでステータスやこの世界の法則性を捻じ曲げる様な代物である場合、此処に該当すると私は考えています」

「念押しする様な言い方だな、モルガン」

「近日、探究会へ調査の協力を依頼する予定の分野ですので。そもそも心象世界は個人に拠る魔術の究極系と私は考えていますが、インフォメーション教授は魔術的な工程を用いる事で現実に具象化する心そのものと考えています。まるで、話が噛み合わないのですよ」

「この世界、どこまで考えて作られてるんだよ……」


 辟易とする様子の黒狼に、モルガンがインフォ教授が最高レベルの学者数人に声かけしているそうですよ? と返答する。

 結果としては黒狼の顔が余計面白い感じになっただけだ、モルガンはクスリと笑うと真剣な顔になる。

 そして、表情を入れ替えるとものすごい顔で悩み出した。


「確定情報は偽装、欺瞞系スキルという事実でしょう。ソレ以外の可能性は……、無くはないですが状況証拠的に有り得ません」

「なるほどねぇ、効果を実演するために一度発揮してもいいか?」

「寧ろ此方からお願いしたいところでした、心象世界関係は少しばかりサンプルが少ないのです。ええ、本当に」

「じゃ、発動するか。『顔の無い人間(ジェーン・ドゥ)』、正式な? 少なくともスキル発動に必要な名称発音はジェーンの方が正解なのか。少し意外だな、鑑定スキルを使用した方が正解だと思ったんだが……」


 黒狼の言葉に否定を返すモルガン、そもそもステータスが欺瞞まみれであったとしても基本的なスキルの使用などはステータスを参照しているらしい。

 黒狼はフンフンと頷きながら、適当に聞き流していった。

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