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Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
一章下編『一切の望みを捨てよ』

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Deviance World Online ストーリー4『魔王』

「ふざけるのも大概にせいやぁぁぁァァアアアア!!!!」


 心底からの叫び、絶叫は周囲へ響き渡り男は再度蒸発する。

 日光という致命的な弱点、それを克服したかのように思えた黒狼だが問題はそれだけではない。

 普通に、戦闘力が低い黒狼はリスキルを続けられている。

 何故か? 理由は単純、答えは明快だ。


「打撃にも弱いのは分かってたけど、まさか魔法にも適用されるなんて思いもしねぇよォ!!」


 絶叫、同時に十秒後にリスポーン。

 同様に再出現した黒狼は、また周囲を囲まれていることを確認し。

 骨で刀を生成、何とか生還するため謎に上質な棍棒を構えたゴブリンとの戦いに臨んだ。


*ーーー*


 イベント終了後、ゲーム内時間二日後に相当するタイミング。

 そこで、黒狼は泥酔から覚め色々な些末な用事を終わらせた後にゲームにログインした。

 ゲームにログインしたのだが……、問題が発生した。


「参った、まさかどこともわからない場所にリスポーンするなんて。こりゃ、予想だにしてなかったぞ? クソが」


 口から溢れる言葉、思考の冷静さを保ってはいるものの体は焦りに焦っている。

 骨だからいいものの、肉の体であれば全身から冷や汗が吹き出していることだろう。

 焦りと共に、地面を走りつつ投擲される石を刀で弾く。

 異様に強い、驚愕すべき話だ。

 鑑定を行えばレベル30がザラにいる環境、一撃で沈むゴブリンがほとんどだった地下と異なり今のレベルでもタイマンで苦戦を強いられ兼ねない強さ。

 『第一の太陽』を用いれば全然敵う話ではあるのだが、そのための接近や詠唱すら飽和攻撃によって成せない現状。

 中でも上位種なのか、何なのか。

 棍棒のような巨大な刀を扱う敵が、これまた非常に厄介すぎる。

 拳を振るえば一撃で鎧を砕き、刀を振えば肉体を断寸していく。

 幸いにも、そう幸いにも。

 幸いにも、その攻撃の属性が打撃であるため救われているがそうでなければ今すぐVRCを投げ捨てているところだ。


 ステータスを見ながら、投げられた石に鎧が砕け早速ながらHPの1割近くが削れる。

 リスキルの連続、正しくクソゲー。

 テンションのノリが悪いこともあり、思うような行動ができていない。


 だが、それでも。


 ここで逃げるわけにはいかない、やると続けるのならばやり続けるべきだ。

 少なくとも、こんな簡単に死ぬわけにはいかない。

 刀を、蟻顎を残った骨を寄せ集め生成する。

 二本目の刀を持った二刀流、古風にいうならば二天一流。

 そのように剣を握り、投げられる石に反射で対応し。

 だが、弾幕によってHPが根こそぎ奪われる。

 苦悶の表情を浮かべ、眼光に憎悪を浮かべ。

 黒狼は再度死に、そして復活した。


「殺す、ヤロウぶっ殺してやる!!」


 叫びと同時に、刀を生成。

 直後地面が揺れ響き、巨大な鬼が現れた。

 山の中、ここから離れるために倒すべき相手。

 どう足掻いても、この鬼が逃してくれはしないらしい。

 もしくは、此方とて生かして進む気はないというのか。

 眼に憎悪を湛え、殺意と魔力を剣に流し一刀流の構えを取る。


「まずはお前を殺してやる、殺してやるぞ!!」


GUuua


 来るなら来い、圧倒的上位者としての態度。

 対し、こちらが取れる手札は少ない。

 だが、意志はある。

 必ず倒すという、その意志が。


「『蟻刀:顎蟻』」


 体の内側、己の中で蠢く魔力を支配する。

 何かわからないが、このスキルには意志が有りそうだ。

 妖刀が原因で発現したスキルであるから、あってもおかしく無いだろう。

 

 その意思を、その意思に対して黒狼は自由を許さない。

 反対意見など、聞き入れるに値しない。

 自分が使う道具が、自分の意に反することなど。

 たとえどれほどの利益があったとしても、黒狼は許すはずがないのだ。


 剣が、刀がエフェクトを纏う。

 良い武器だ、流石は妖刀工が作成した武器。

 たとえ試し打ちの産物だとしても、作成した武器が内包する情熱は凄まじい。

 使い手が自分でなく、本当の意味で武器の真髄を引き出せる存在が担えばこれ以上ない相棒へとなる事だろう。


 目の前で、鬼はその巨大な刀を構える。

 百キロはありそうな刀、それを片手で軽々と握り独特な構えを取る鬼。

 目の前の存在が、如何に驚異か捉えたようだ。


「行くぜ?」


Gou……!!


 まるで、来いと言っているかのような返答。

 直後、先に迫るは鬼の一撃。

 巨石を叩き、削り出したかのようなその武器は性格無比に黒狼を襲う。

 だが、黒狼とて負けてはいない。

 一瞬にして迫った速度、攻撃を受けた時点でHPの大減少は免れないだろう。

 故に、とった行動は回避のみ。

 カウンターすら狙わない、完全な回避行動。

 襲いかかってくる獣剣を、速度と経験で躱し繋ぐ。


 風圧が頭蓋を撫でながら、甲冑の無意味さを嘆きつつ。

 狙うべくは脚の健、回避の勢いをバネにして地面を這うように迫り抜く。

 わずか一瞬、その間に剣を振り抜き皮膚を傷つけ。


「(だが、やっぱり食い込まねぇ!! 筋肉が、VITが高すぎる!!)」


 しかし、薄皮一枚しか削れていない現状を見る。

 とてもではないが、勝てる気がしない。

 自分の切り札の悉くは、結局圧倒的上位者に刃向かう類のものだ。

 『復讐法典:悪』は、一撃で殺してくる相手に正確に当てなければならず。

 そこまでのテンションは、今存在しない。


 憎悪に心が傾倒しているのにも関わらず、だが思考の冷静さに呆れすら沸く。

 考える暇がある以上、目の前の存在を倒せる事などできるはずがない。

 テンションが上がるというのは、どこまでも思考ができない程に興奮した時を指すのだ。


「『ダーク・シールド』!!」


 咄嗟の防御行動、場外から飛んでくる石の投擲。

 地味ではあるが厄介だ、古典的な癖にダメージがバカにできない。

 減少するシールドの耐久度、無理に魔力を込めて再度強度を上げる。

 この死を無駄にはできない、最後まで足掻きに足掻く以外に手段はない。


 剣を投げる、骨が耐久がHPがある限り再生産可能な以上使い捨てでも上等だ。

 隙が欲しい、『第一の太陽』を展開できるだけの時間を稼ぐための隙が。


 剣が飛んだ、無手となった黒狼に暴虐たる刀の嵐が襲来する。

 一瞬で骨で作られた刀は粉々に、それを見ながら鎧を消費し刀を作り。

 次に飛んできた蹴りを、剣で受ける。

 何気に目の前の鬼は下駄を履いている、ゴブリン風情の長の癖して随分な文明力だ。

 その下駄に刀が砕かれたのを見て、ますます顔を歪める黒狼。


「殺意が沸るなァ!! 絶対殺してやるよ!!」


 装甲となっている骨全てを刀に圧縮する、鎧など無いより有る方が良いがあっても仕方ない。

 一振りの刀を作成し、そのまま切り掛かる。

 相手は振り下ろした刀を再度上段に構え、一気に振り下ろす算段らしい。

 だが、許してなるものか。

 その行動を防ぐため、体を一気に動かして迫った直後。

 振り上げた刀とは別の攻撃、すなわち膝蹴り。

 予想以上に良い体幹をしていたのか、普通は姿勢を崩すであろうその動きを一瞬にして成立させてくる。

 マズい、その言葉を吐くより先に膝の一撃が黒狼へと至り。

 幸いにも、その攻撃も打撃属性。

 よって、十秒後にリスポーンする。


 光が集合し、黒狼は再誕する。

 だがその表情は決して良くない、目の前にはゴブリンが数十名も存在していたのだから。

 剣を再度作成する、構えをとりながら迫り来る轟音に耳を傾けた。

 何秒後に至るだろう、先ほどの場所からどれほど離れているのだろうか。

 頭を巡らせ、視線を険しくし。

 諦めと、ため息を吐いて即座に逃げた。


(強すぎるだろ、普通に戦う手段がねぇぞ)


 先ほどから全て一撃で殺されている、この復活すら何度目だろうか。

 背後から訪れた巨木の襲撃、肉体が砕かれ再度死亡する。

 あの巨鬼が、きっと投擲したのだろう。

 また失敗だ、呆れしか出てこない。

 逃げたら背後から殺される、戦えば実力不足で殺される。

 リスポーン場所が、前回のリスポーン位置から100メートル以内なのも悪意のように感じてしまう。

 これでは一瞬で居場所を看破されてしまう、本当に油断ならない。

 

 復活の時、目覚めのような感覚と共に再誕した黒狼は周囲に散っているゴブリンの姿を見て再度走る。

 弱腰だと? どうだっていい話だ、今は一秒でも長く生きて逃げることこそが目的なのだから。


 濃密な包囲網、何故こんなにゴブリンが多いのか。

 体感的に百体は見ている、暗数を含めれば1000は下らないだろう。

 巨石の投擲に右上腕部を破壊されながら、黒狼は残った骨を剣にする。

 投げて当たれば貰い物、無駄に文化的な巨鬼に向けて投げつつ。

 同時に片腕になったことで、バランスを崩してしまう。

 地面を転げ、これは死んだか? と脳内で思考し次を考え。

 目を瞑って、数十秒。


「あれ、死んでいない?」


 再度目を開けて、だが一切の変化のない世界に疑問を向ける。

 視界に、変化がない。

 上半身を起こし、周囲を見渡し。

 そして、突き付けられた刀を見る。


「両手、上げてくださらんかねぇ? 異邦人」

「NPC、って訳ね。何の様だ? 生きて返せばタダで済ますぞ?」

「良くこんな状況で脅せるねぇ、驚いちまうよ」

「俺の長所だ、いいだろう?」


 声は渋い、いわば30〜40代男性の声。

 姿は見えない、振り返れば一瞬で首を落とされるだろう。

 即ち、絶体絶命。

 そんな状況で、黒狼は口角を上げる。

 遅い、非常に遅い。

 だが、その状況で黒狼のエンジンが掛かってきたのだ。


 無駄に不適な笑みを浮かべ、一瞬でも刀が動けば『復讐法典:悪(アヴェスター)』を発動できるように呼吸を整える。

 いつものアレ、常套手段である道連れだ。

 刀の攻撃、転じて斬撃属性に分類されるであろうそれが原因で死ねば容易く復活はできない。

 だが、それがどうしたというのだ。

 今、黒狼はこの絶体絶命を楽しんでいる。

 どう足掻けば、どう動けば相手に最大の害を与えられるのか。

 考えるだけで、興奮で体が疼く。

 その興奮によって、自分が被る被害など最初から頭に入ってなどいないのだ。


「怖いなぁ、キミ。逃げようとしていないだろう? 寧ろ、反撃を企んですらいる」

「さて、どうかな? まぁ、普通に考えればそんなふうに考えてる訳ねぇけどなァ?」

「殺されたがっているようにしか見えない、全く困るよぉ。そういう相手の隠し手段なんてさぁ、苦手なんだよ」


 直後、黒狼の背中が蹴られる。

 HPの減少、そして地面をバウンドしながら転がりつつ。

 鎧の一部を剣にして、相手を見る。

 いや、見ようとする。


 テンションが上がっていた、これが最大の理由だろう。


 刹那に振るわれる一撃、神速を垣間見た抜刀術。

 恐ろしい速度で迫る刀に、黒狼は刀を合わせて対抗する。

 まさかの速さだ、技もクソもない黒狼の剣が間に合ったのは奇跡と言えるかもしれない。

 そこで黒狼は、初めて相手の顔を見る。


 パッと見は普通の男性だ、和服を羽織り腰に二本の刀を。

 厳密には、一本の刀と鞘を差している男。

 下駄を履いているようで、随分と和を強調してくる。

 なので違和感はただ一つ、額に突き出している二本の角だ。


「お前も、鬼か」

「そうだ、ねぇ? で、それがどうしたのかい?」

「いや、ゴブリンの進化結果が鬼とは随分だなと思ってな」

「ああ、それは魔王に影響された結果だよ。と、少し語りすぎちまったねぇ」


 瞬間、下から剣が迫ってくる。

 間合いが掴めない、剣が一瞬で現れたようにすら感じる絶技。

 肋骨を切られつつも、ギリギリで回避した黒狼は目の前の存在の強さを再認識する。

 暴虐でない、冷徹にして粋がある。

 この男は闘争によって得た技術ではない、正しい剣技を持っているということを。


 条件次第では有利であり、勝ち目もある。

 だがこの条件下では、きっと負けるだろう。

 冷静に、的確に判断していく。

 行きすぎた興奮は、逆に冷静を誘う。

 後のことを考えられないほどに興奮し、だが今に熱中するからこそ選択肢を思考する。


(ああ、クソゲーが!!)


 叫び、そのまま攻撃を弾く。

 相手は一瞬で殺す気はないらしい、急所から狙いを外し始めた。

 これは厄介だ、種を知られたら黒狼の持つ手段は容易く突破される。

 つまり、この時点で詰み。

 小技を連続させ、四肢の動きを軽減させられればその時点で反撃の芽は無くなってしまう。

 相手が動けず、こちらが動けるだけの傷を受けるには相手が上手すぎた。

 

「あぁ? なんでそこに居やがる? 黒狼」

「ほえ?」


 だから、聞こえてきた声に思わず体が反応した。

 自分以外の何かを意識しすぎた影響だ、この状況下で突破点となる特異を探すのに必死になった結果聞こえてきた声に気を取られすぎた。

 拮抗させられていた剣が、崩れる。

 神速の一撃が黒狼の腕を切り飛ばした、同時に刀も体から離れる。

 斬り殺される、故に『復讐法典:悪』を発動しようと喉に力を入れたのだが。


「魔王? なんでここに居るのですかねぇ? このアンデッドとも既知の中のようですし」

「はぁ!?」

「んぁ、何だ? 問題でもあるのか?」

「い、いえ」


 押し黙った鬼、そこに不意打ち気味にマウントポジションを取った黒狼。

 一瞬の隙が生まれ、そして黒狼は発動する。

 その、身勝手で自己勝手な復讐を執行するスキルを。


「『復讐法典:悪(アヴェスター)』」


 発現、同時に相手は絶叫した。

 そう、この鬼の腕の骨が切られたのだ。

 正しく、自業自得。

 因果応報、同量の罪に同量の罰。

 目には目を、歯には歯を。

 苦悶に顔を歪めた男の顔を見て、黒狼は嗤い。


「『ファイアー・ボール』、『蛇呪』、『暴走』」


 そして三つのスキルを、一瞬で発動する。

 あまりの早技、村正もそれを防ぐことなどできなかった。

 黒狼の自滅技、同時にその鬼も致命傷を被る。


「手前……、ちっ」


 目を細め、村正が苛立たしげに額を抑えてしばらく後。

 光が収束し、黒狼がリスポーンした。

 その姿を見て額を叩き、村正は一言声を掛ける。


「何の積もりだ? 手前、あの状況でここまでする必要なんざなかっただろう。手前の行動には、道理が通ってねぇぞ」

「道理が通ってない? ふざけんなよ、何回殺されてると思ってる? 寧ろ、今すぐ殺したいぐらいだ」


 黒狼の言葉、それに村正は一旦黙りそして自分が反論素材を持たないことを悟る。

 ここで口を挟むことこそに、道理がない。

 息を吐き、鬼の方へと刀を投げ刺すとそのまま天を仰ぐ。


「手前で治せ、魔力はあるんだろう? 手前らの行動と、手前の油断が招いた結末だ」

「魔王……、その骨の言葉を……!!」

「信じるさ、信じるとも。この男は、儂を信じさせるだけの行動をした。レイドボスを倒すのに相応以上の貢献をした、故に疑わんさ」


 村正の言葉、その言葉に鬼は目を見開きそして黙り。

 腹に突き刺された刀に魔力を流し、自分を癒す。

 そして、そこに立っている二人を見た。


「さて、村正。色々聞きたいいことができた、話してくれるよな?」

「儂こそ、手前に聞きたいことがある。家に招待してやるから、洗いざらい話せ」


 険悪、ではない程度に腹に一物を抱え互いに言葉を交わす。

 始まりの終わり、その開始の火蓋が切って落とされた。

一章中編『黒の盟主と白の盟主』でした。

予想していた方はるのでしょうか?


さて、今話からDWO一章下編が開始します。

一章を通してのキーワード、それはやはり『最強』ではないでしょうか?


一章上編、そこで黒狼は『北方最強』と出逢います。

一章中編、そこで黒狼は『プレイヤー最強』を敵と定めます。

一章下編、そこで黒狼は『最弱』から『最強』となります。


一章は、黒狼とレオトールの話であり如何にして黒狼が『最弱』を脱し『最強』となるのか。

それが下編のテーマとなっています。

どんな話を経由して、どんな結末に至るのかを是非とも期待して待ってください。

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