Deviance World Online 間話『ネロと柳生』
投票されたキャラクターの話です。
投票結果はネロとレオトールにそれぞれ1票ずつでしたので同率一位という判定です。
今回はネロの話となります、ぜひお読みください。
夜の帳が再び降りる、朝の雲雀が再び鳴く。
朝焼けの陽光に照らされながら、ネロは劇場の中心で満足げに頷く。
「うむ、今日も良い激情であった!!」
誰もいない、全てが死に絶えた劇場の中心。
徐々に黄金の境界となり、溶け消える心象の中心でネロは満足げに頷く。
この度の演劇も、また良い物であったと。
そうして、劇場が全て消え。
草原の中心に童女が一人、佇むこととなる。
爽やかな風が吹いてきた、街まで戻るだけの力がない幼子であるネロは地面に座り込み殺されるのを待つ。
今回はオオカミだろうか、スライムだろうか、もしくはゴブリンかもしれない。
徐々に、徐々に体が欠損し。
徐々に、HPは減っていき。
いつものように、洛陽とともに命が消える。
「なんだい、童女がそんな顔をして。全く、今の世の中はそんなシケたものになっちまったのかねぇ?」
故に、意外だった。
こんな自分を救う存在がいるのかと、劇が終り疲労困憊のネロに声をかける存在がいるのかと。
ネロは、意外な事実に驚いた。
「何をそんなに驚いてるさね? 童が地面で倒れていたら、助けるのが大人の役目。驚くことなどどこにもありゃしない、立てるかい? 寝っ転がっていればその綺麗な南蛮装束が汚れるよ」
「うむ、立てん……!! 起こしてはくれないのか?」
「全く、仕方ないガキだ」
柳生はやれやれと息を吐くと、そのままネロの腕を掴む。
そのまま重心移動の応用で、ネロを背中に背負うとインベントリから取り出した荒縄で軽く縛り付ける。
しかしそんな状態でも戦える姿勢を整えているのは、流石の『剣聖』柳生だ。
少し荒く動くよ、などと嘯いた瞬間に突風がネロの顔面に打ち付ける。
いや、突風ではない。
真逆だ、突風が吹いているのではなくネロがそう感じるほどに超高速で移動しているのだ。
「早い!! 早すぎる!! 余の顔がァァアアアア!!!!???」
「ちぃとばかり早く移動しすぎたかねぇ、少し速度を落とすよ」
「うむ!! うむうむ!! ぜひともそうしてくれ!!!」
絶叫しながらそう叫ぶネロ、別段超高速というわけではなく精々が自転車を全力で漕いだ程度の速度だ。
しかし、急に加速した結果風で顔が持っていかれる結果となりこうしてネロが絶叫する結果となったのだ。
まぁ、慣れれば問題となる速度ではないという事は言うまでもないだろう。
「うむ、余を阻む風はこれでなくなった!!」
「全く、元気がないかと思えばものすごく元気じゃないか。助けなくても、生き残れたようにも思えるさね」
「むぅ!! 何を言う!! 余から元気を取れば残るはこの脆弱な心だけであるのだぞ!! 愛おしい臣民とはいえ、暴言は許せぬ!!」
「私ぁ、いつから臣民になったのさねぇ?」
呆れとともに新鮮さを味わいながら草原を走る柳生、その速度は精々が小走り程度。
だがソレでも、人一人を抱えそれだけの速度で走り会話を成立させるという何気にすごい事をなしながら刀を抜刀する。
野生の獣、改めモンスターが見えた。
倒さなくても逃げきれそうだが、襲いかかってくる相手に容赦はしない。
「少し暴れるさね? 構わないかい?」
「うむ!! 存分に殺すと良い!!」
「物騒なふうに言い換えるんじゃないよ、全く」
その言葉と同時に、ネロは無重力を体験した。
いや、無重力ではない。
重力を無効化するほどの速度で、体が地面に落ちたのだ。
その無重力が、少なくともその感覚が終わるよりも早く。
今度は前方方向へと急加速を体感する、即ち之超速の踏み込み。
肉切る音とともに、血飛沫が飛び散った。
「うむ、素晴らしい斬術であるな!!」
「この程度、どうってことはないさ。私は仮にでも『剣聖』と呼ばれる身であるのに、この程度の事が熟せない訳がないだろう」
「むぅ、余の褒め言葉を誇れとは思えぬか」
「生憎と、美麗麗句は聞き慣れているからね」
柳生の言葉に不満げに、だがその不満すらも楽しく思っているのか満面の笑みで告げる。
運が良かったのは、この表情が柳生に見られていないことだろう。
もし見られていれば、今後の関係性は一変していた可能性すらある。
「そうだ、街まで送っていくだけじゃぁ味気がないだろう? 折角だし私の門下生が開いている茶屋で一服しないかい?」
「チャヤ? ソレは、喫茶店と同じであるのか?」
「だいたい同じさね、少しお茶を飲もうってだけの話だ」
「うむ、ならば是非ともついていく事にしよう!!」
ネロの宣言に苦笑しながら了承する柳生、そのまま街へと向かう。
途中、何度か休憩を挟んでたどり着いた街。
そこはグランド・アルビオンの都市群のうちの一つであり、柳生が居を構えている都市でもあるリーズ。
門番に止められつつも、異邦人であり柳生の立場を告げればあっさりと中に入ることができた。
都市領主に認められるほどに巨大な血盟や相応以上の影響力のあるものとなれば無碍になどされるはずはないのだから。
「スタミナも戻ってきたし、そろそろ降りるさね」
「むぅ!! 嫌じゃ嫌じゃ!! おりとうない!!」
「手のかかる子だねぇ、大人しく降りるんだよ」
「むぅぅ!!」
ネロが駄々を捏ねながらも渋々下に降りる、不満げながら地面に降り立ったネロは柳生と手を繋ぎながらそろそろ昼になろうかと言う街を歩く。
町並みだけならば完全に西洋一色、だが歩く人々は和洋混合といった具合だ。
その中で歩く二人は、歳の離れた姉妹のようだ。
精神年齢ならば、それ以上の開きがある。
だが見た目は、柳生の見た目は20程度。
ネロの見た目は、16歳程度と考えれば納得できるだろう。
「いい日だ、春の終わり目にしては刺々しい暑さがない」
「むぅ、暑くはある。余は涼しい日陰こそが、最も好ましい」
「現状に不平不満を言うのは人の性、私のような年寄りになれば仄かに熱いこの時期こそ最も好ましいさね」
「そんなものであるのか?」
ボンヤリと、返事を返した柳生は周囲を見る。
何処もかしこも活発極まりない、その騒々しさは老魂に対して毒だ。
肉体がいくら若くても、魂は晩年の老人そのもの。
若者の活発的な声は、魂に刺々しく刺さってしまう。
ソレはまるで、夏の日差しのように。
「そんなものさね、剣を極めたといっても所詮は人の身。今に不満を溢し、過去に思いを馳せ、未来に希望をあげるもんだ」
「余には分からぬ、余は其方と違い物事を極めし人ではない」
「ソレでいいんだ、お前さんを見ているとあの小僧との出会いを思い出す。道を踏み外せば、終いに人として失ってはならないものすら捨て去るだろう。私ですら、捨てられなかった人を人とする要を」
「そんなに重要なものであるのか? 覇道を突き進むのであれば人の身では限界が残る、故に捨てねばならん。その程度のものが、果たして本当に重要であると言うのか?」
ネロの言葉、ソレに一切の返答を行わず柳生は道を歩いた。
人を人としてとどめておくべき根底、人が人である要素。
そして、人を人としての才能で留めておく枷。
ネロは言った、そんなものは重要であると言うのかと。
柳生は何も答えない、彼女にソレの答えは持ち合わせていないため。
剣聖と言われても、結局人の手にある答えは限られている。
「そろそろ茶屋さね、団子も付けよう。何がいい? 好き好みがないのなら私が選ぼうか?」
「うむ、任せよう!! 余は美食を好むが、珍味も良いぞ!!」
「ククク、そうかい。じゃぁ、御手洗団子にしよう。確か店一番の得意料理だった筈だ、餅は食べたことがあるさね?」
「ない!!」
元気よく告げる言葉に柳生は再度笑った、そして今日はよく笑う日だと思う。
幼き子供と街歩く日がこれほど楽しいとは、よもや本当に老婆にでもなったかと自問自答を行った。
否、確かにもうすでに老婆だ。
『天流』を名乗るあの小僧や、鍛治士の癖に上等な腕前を持つガキには負ける気はしないがいつか必ず追い越されるだろう。
未だ老婆と後ろ指を刺されるような動きを見せたことはない、だが老いという病に勝てるわけではない。
心から腐って行っている、肉体を誤魔化そうともソレは変わらない。
そんな彼女から見て、やはりネロという輝かしい青少年は……。
「……、どうしたのだ?」
「いや、何も」
純真無垢に振り向く彼女を見て、頭の疑念を振り払う。
何も、疑うことなどない。
彼女は正しく、童女に他ならない。
そんな思考をしている間に、いつの間にか茶屋についていた。
相方としてネロを連れているからか、もしくは別の理由が存在するのか。
門下生も少なく、気付いたとしても声をかけてくる様子はない。
ソレは幸いとばかりに茶屋の奥、そこの四人席を占領して団子と茶を注文する。
「さて、茶や団子が届くまで話そうじゃないか」
「うむ、余は面白い話を知っているぞ?」
「そうかい、じゃぁ是非聞かせておくれ? 面白い話は茶請け前に丁度いいからね」
その言葉を聞き、そのまま続く内容。
お世辞にも面白いとは思えない、内容は飛び飛びであり子供らしく纏まりがない。
故に面白くはない、だがソレでも楽しめた。
子供の話す内容は、ソレが侮蔑的な内容でない限り大抵面白いものだ。
話に聞き入りながら、待ち遠しく茶に団子にと待つ。
偶にの休日、良き出会いがあったと柳生は思う。
彼女は、彼女の名はネロ。
彼女に出会えたという事実は、いつしか忘れる程度の出会いであっても幸運だった
「とまぁそこでだな!! む? 珍しい茶器であるな!!」
「そう見えるのかい? まぁいい、遅かったじゃないか。もう暫し早く届けられるものだと、私は思っていたけどね?」
「なのある武人がそう批判するものではないぞ!!」
「なぁに、ちょっとした皮肉さね。別に怒っていないよ、優先しろという話でもない。少し、意地悪な言い方をしてしまった」
軽く謝罪し、そのまま団子と茶を受け取る。
美味だ、非常に。
少なくとも、ここで食べれる中では絶品だろう。
目の前の童女もソレには同意見らしい、急いで食んでいる。
「うむ!! 美味である!! 余がここに通うのも一考の余地があるぞ?」
「あまり食べ過ぎないでおくれよ、弟子の成長は私の楽しみの一つなんだ」
「む? 臣民の物は即ち余の物であろう?」
「アンタは時々出てくる傲慢さを直した方がいいよ、相手が私だから許されているのだから」
柳生の言葉、ネロはソレを半端も理解していない様子であり。
柳生はその様子を見てため息と共に、周囲へ牽制する。
手を出すな、と。
少女の傲慢さは不快感を孕む物だ、純真無垢が故に孕むその狂気は確かに周囲を不快にさせるだろう。
言わば無意識の悪意、自身の汚点を曝け出すような悪意の集合。
話せば話すほど、語れば語るほど自分の言葉が通じず。
だが会話が成立している状況に矛盾を覚え、そして無意識の悪意を曝け出すことになる。
正しく、王に偽りは通用しない。
柳生はネロを王と認める気はない、だがその身に纏う覇気は幼いながらに王の物であった。
だからこそ、ネロの言葉に怒りを覚え建前を用いた上で害意を向けてくることを許さない。
『剣聖』と呼ばれるに至った彼女には、隠すべき秘すべき俗的な物はない。
故にネロが纏う、無意識の害意や悪意を刺激するソレの影響を受けることはないのだ。
幼子を守るのも己の役目、そんな風に頭で思考しつつネロの様子に魅入る。
「正しく魔性の女、だねぇ?」
「むぅ? 余のフェイスラインが完璧だとでもいうのであるのか!?」
「まぁ、上目遣いが堪らないだろうね。庇護欲が満たされるさねぇ、全く」
「余の虜というわけであるな!! ま、当然であるが!!」
会話が成立しているようで成立していない、彼女の瞳孔を見れば分からせられる。
正面から、ネロは柳生を見ていない。
見ているようで見ていないのだ、彼女は……。
例えるのならば、柳生の影を見ている。
そこに存在している柳生ではなく、その柳生の影とでもいうべき何かを。
「むぅ、なぜそこまで警戒するのだ? 柳生よ」
「急にどうしたのさね?」
「余は聞いているのだ、何故そこまで警戒しているのだ?」
「……、ほぉ?」
息を軽く吐き、体が無意識に刀を抜刀で切る体制になっていることに柳生は気づいた。
第六感、そうとしか言えない何かが確かに体を強張らせている。
何に警戒しているのか、目の前にいるのは警戒する必要すらないただの幼児1人。
意識して構えを解くように体を動かす、無意識の原因に理性で探る。
いや、探る必要すら本来はないのだろう。
故に、構えを解く気にはならない。
無駄な仮定を重ねるのは、本来的叙述において問題なのだろう。
この場において、事実を連ねることこそが最も正しい正解だ。
だが、敢えて無駄な過程を行えば。
此処に、至ることもできていない『天流』玄信がいれば柳生の感じる違和感を理解したことだろう。
もしくは、黒狼やモルガンでも良い。
だが、ソレら全ては無駄な仮定だった。
この場において、柳生は違和感を感じネロはソレを指摘した。
その事実こそ、最も重要な内容でしかない。
「何、気にする必要はないさね」
「語らいにおいて殺気立つのは余の望むところではない、余は万人が等しく座し話すことを望むのである!!」
「……、良い絵空物語だ。私が若かったら、ソレを支持したのかもしれないさね」
過去を憧憬するようにネロの言葉を反芻する、万人が等しくあるべきという思想は間違ってなどいないのだろう。
そして、世の道理を知るうちにそれが正解でないのも知ってしまっている。
人類全てが幸福であるべき、という考え方を成立させるためには不幸である存在は人類ではないという考え方と両立する。
かの男は自著でこう語った、『我が人民は勤労に励んでいるのにも関わらず豊かになることはない、その原因は我が人民以外が我が国に侵食しているからだ』と。
故にその男はこうも語った、『侵食してくる人民を排除しなければ我々に未来はない、この愚行を許せばこの国に住まう我が人民たちは搾取される存在となるだろう』と。
もし、ネロから無邪気さが無くなり世を知ればその回答に至るのは簡単だろう。
彼女の魔性は人の悪性を暴き出す、ソレをうまく用いれば。
少なくともこのDWOで革命を起こすのは難しく思えない。
「団子、美味しいかい?」
「うむ!! とってもとても美味しいのである!! おかわりをしても良いであるか!?」
「カカカ、構わんよ。こう見えて金の類はそこそこある、知名度に相応しい使い方をしなくちゃねぇ? 今度は三色団子とかどうだい?」
「うむ、食べてみたいのである!!」
無邪気に笑う童女を見る、そして柳生は少しだが願った。
どうかその道を違えぬように、どうかその無邪気さを失わぬように。
どうか、万人の幸福を望むのは無駄だと理解し諦めるようにと。
どちらかといえば柳生主体になった気がしなくもないネロ主体の話でした。
というか、ネロの心情を書くのが現段階で無理なんですよね。
彼女の心象、彼女の秘密は必ず明かしますが今書くのは違うというのが作者の思いです。
なので、彼女の思想や目的に近しい内容に触れつつ茶屋で戯れている話を書きました。
内容が異様に不穏ではありますが、気にしなくていいです。
イラストについては概要が完成しているので今月中には作成し終えると思います、しばしお待ちください。
では次回、レオトール・リーコスと黒狼の魔術談義となります。




