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Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
一章中編『黒の盟主と白の盟主』

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Deviance World Online 間話『戦争準備』

柳生さんの登場です。

時系列的にはゲーム時間内でイベント終了後数日ってところですね。

 剣振り共の道場、その中心で竹刀を持った山姥が声を荒げる。

 もしくは鬼婆というべきかも知れない、見た目が半端に若いのもそれに拍車を掛けていた。


「ほらほら!! 振りが甘いよ、そこぉ!!」


 少しでも遅れれば、即座に竹刀が飛んでくる。

 スパルタの王、レオニダスが見れば喜びそうなその練習風景は中世の雰囲気に削ぐわない武家屋敷の中で行われていた。

 NPCとプレイヤーが入り混じったその風景、痛めつけている側面がある以上気分の良いものなどではないが指導者が『剣聖』柳生となれば話は変わる。

 彼女の指導によりメキメキと上達していく門下生を見ながら、1人の男は息を吐いた。


「全く、久方振りに寄ってみれば此れとは。大層、人生のお後がよろしいようで。」

「おや? そこに居るのは村正の小僧じゃないか!!」

「地獄耳の山姥め、生憎今日は刀を持ってきてねぇぞ?」

「構やしないよ、しかし今聞き捨てならない言葉を吐いたさね? その首、一回切り伏せてやろうかい?」


 柳生の一言に嗚呼怖い、と返事しながら門を潜る村正。

 そのまま縁側まで歩いていくと、インベントリから団子を出した。

 齧り付き、図々しく茶を要求する村正に呆れながらも白湯を出す柳生。

 それを飲みつつ、村正は稽古風景を眺める。


「そういや、手前。聞いたのか? もう直ぐ戦争が始まるらしい、手前はどうするつもりだ?」

(あたしゃ)参加するつもりさね、何であれどうであれ私はどこまで行っても人斬りなんだ。」

「ふぅん? 悪かねぇ選択だ、確かに手前は人斬りでしかねぇ。作るしか能のねぇ儂とは違う。」

「そう卑下することは無いよ、お前さんは作り手だが担い手でもある。それほど武器に愛されている野郎を私見たことない。」


 まぁ武器に愛されている女郎はここにいるがね? と、言い放つ柳生に若干キレながらも村正は白湯を啜る。

 門下生、高弟子が号令をかけ次に乱取りが始まっていた。

 それぞれの得て物に合わせて作られた木細工の剣や槍が、其々に打ち据えられて様々な様相を呈する。

 中には玄信の姿もあり、巧みに二本の竹刀を用いて相手の剣を往なしていた。

 その姿を見て、良い肴だと呟く村正。

 だが柳生は険しい顔をして手を抜くな、と叱咤を飛ばした。

 それを見つつ、厳しいことだと呆れる村正。


「そういや、鬼婆。最近流行している宗教を知っているか? VRCの中の人間にも人権が存在するとかいう、あの陽炎が一枚噛んでるあの宗教だ。」

「嗚呼、あれさね。噂には聞いているよ、特にこのゲームをやっている人間はそれを信じてしまう人が多いらしいね? 眉唾物というには信憑性があるのもまた厄介だ。」

「手前はどう思う? 嗚呼、儂は論外だぞ。神仏全て、信じて居ねぇからな。なのにこんなスキルを与えやがるとは、まぁ天運は何を思っているのやら。」

「前に触れていたさね? まぁ、使い所は慎重にと言っとくけど。それで? 宗教に関してという話さね? 私は別にどちらでも良いよ、文句を言うなら権力で遠ざけるか斬り合うかをするだけだ。」


 物騒な答えに苦笑いをしつつ、らしいなと返す村正。

 暴力もときに手段だ、自分に不都合なことがあるのならば暴力でも権力でも使い遠ざけるのみ。

 そして彼女にはそれを実行できるだけの権力も暴力もある、故にらしいと言う評価であった。

 と、まぁ談笑に興じていると再び来客が訪れる。

 彼は門を潜ると、門下生の間をすり抜けながら柳生の元まで訪れた。


「人の中を通るなんて礼儀がなっていない小僧だね?」

「それは申し訳ない、ですが問題もないでしょう?」

「言うじゃないか、確かアルトリウスとか言ったかい? 小僧。」

「『騎士王』、アルトリウス。以後、お見知り置きを。」


 表情固く、だが柔和な雰囲気を崩さず告げた彼の名乗りを聞き届けた柳生は縁側から立ち上がる。

 そしてニヤニヤしている村正の頭を叩き、竹刀を彼に投げ渡した。


「気に食わないねぇ? で、要件はなんだい?」

「是非、戦争へのご協力を。」

「条件次第で聞いても良いさね? 当然、私のところに持ってくるんだ。相応の品か、覚悟はできてるんだろう?」

「それも含め、是非一手ご教授願いたい。未だ稚拙な我が身なれど、僕の強さとそして()()()()()()を守るためのお力添えを願えないだろうか?」


 その言葉を聞き届けた柳生は、門下生全員に稽古を止めるように告げる。

 そうしてここから先は看取り稽古だ、と告げると腰に刺していた刀の調子を確認した。

 村正が作りし最高峰の一振りが一つ、その銘は『新月』そしてコレは裏打ちという。

 その刀を抜刀し陽光で透かしてから、獰猛な微笑みを浮かべると再び納刀した。


「試合形式は?」

「勿論、無条件で。先にH Pを全て失った方の敗北で、お願いできますでしょうか?」

「フン、小癪な童だ。だが嫌いじゃない、技量で競り合いに来ないところは好感を持つさね。」

「人間国宝でもある貴方にお褒めいただけて、光栄です。」


 アルトリウスの言葉、それに眉間に皺を寄せた柳生は剣に手をかける。

 神速の居合、究極にして極限の抜刀術。

 ステータスなしでも音速を突破する極限の抜刀は、今や唯人の目に映ることすら難しい。

 そんな彼女に対抗するのはプレイヤー最強、『騎士王』アルトリウス。

 彼の聖剣は、この世全てを蹂躙するかのような極光を放つ。

 双方互いに得て物に手をかけ、決闘申請を受理し。

 カウントが数えられ、その時が来るのを待つ。


 3、2、そして1。


 徐々に、遥かに感じたその遠い時間はたった3秒。

 刹那とでも言い表すべきその時間が過ぎ去った瞬間先手を取ったのは、以外にもアルトリウスだった。


「『聖剣抜刀』!!」


 声を出し、スキルを発動する。

 1秒未満の高速詠唱、文字列を認識することすら難しいただの早口で唱えられたその言葉。

 だが聖剣は然りと反応し、極光を露出させる。

 一気に膨れ上がるステータス、今の彼を殺すことは相応以上の難易度を誇るだろう。

 技量の粋に存在する彼女のために、己の全てを賭けるという覚悟を用意し。


「ーーーーーーーーー、ハッ。」


 嘲笑と共に迫った、神速の一撃が到来する。

 狙うは首、スキルも何も用いず数メートルはあったその距離を転移でもしたかのような速度で詰めて振るう一撃。

 後から動いたはずなのに、後手なのに先手を上回る一瞬の閃光。

 逃げることも避けることも儘ならないその一撃を見て、アルトリウスは一歩踏み込む。


 正しく、彼の行動は最適解である。

 神速の抜刀、史上の一撃は避けるも防ぐもましてや逃げるも儘ならない。

 だがその攻撃は、彼が纏う鎧を貫通するかといえば微妙の一言に尽きる。

 いくら神速の抜刀、史上の一撃をとて鉄を切り裂くには些か弱い。

 不可能なわけではなけれども、刀が溢れるのは確実であり耐久は大きく減衰するだろう。

 ここまでの判断がコンマ1秒、その判断を行った柳生は行動を変更。

 動きはそのままに、刀が空を切るように体を動かす。

 見事、そう口が動きそうになったアルトリウスだがその言葉を言うより先に聖剣を上段に振りかぶる。

 西洋剣、すなわちバスターソードの本懐は鉄塊を相手に叩きつけることにあるだろう。

 少なくとも断ち切ることを目的とする刀とは相容れぬ方向性をしている、そのため有効な戦術も変化する。

 聖剣も方向性としてはバスターソードだ、だからこそその有効な戦術は刀と違い一撃の重さを上げることとなり。

 上段に振りかぶられた刀を知覚した柳生は、即座にアルトリウスの懐に入り込み突きの姿勢へと動きを変える。

 目まぐるしく変化する神速の戦いでは、詠唱という低俗な行為やスキルの発動といった小手先は敗北の要因になる。

 アルトリウスの一撃よりも先に、どんな手段を行えるか?

 先手を打ち続けられる柳生はそれを冷静に思考し、神速の突きを手段に入れた。

 それに対し、後手しか取れないアルトリウスは剣を振り続けることを続行。


 一瞬にして迫り来る双方の一撃、どちらも撤退という意思はない。

 音速を超える突きは、音速以下の振りよりも早く到達するのは自然の摂理だ。

 喉を穿つ一撃は明確に、そして確実にアルトリウスへと到達する。


(捉えた、()()!!)


 だからこそ、アルトリウスが優位へ至る。

 喉を貫かれても、HPは未だ消えきっていない。

 消えていなければ、すなわち生きている。

 刀を引き抜くにも、振り切るにも時間はかかり。

 それより先に、アルトリウスの剣が到達する。


「『エクスカリバー』!!!!!」


 この一瞬を逃さないために、爆発的な量の魔力を込める。

 光が轟き、渦巻くとともに叩きつけられた。

 常考では逃げることなど不可能な、絶対即死の一撃。

 アルトリウスが勝ちを確信した、その瞬間に光に隠れて二刀が迫る。


「『二天一流』」


 スキル発動、何故という疑問より先に体を動かしそれを回避しようとするがそれも叶わない。

 遊びがない『剣聖』の強さ、それがどれ程のものなのかを改めてアルトリウスは思い知る。

 技巧の頂、グランド・アルビオンの騎士たちを纏め上げた騎士団長を上回る直接戦闘能力。

 恐ろしいものを見た、そんな顔をするアルトリウスはそのままHPの全てが消え失せる。

 

「まぁ、私も死にかけなんだがね?」


 その呟きとともに自分のHPを見た柳生は空を仰ぎ、そして息を吐くと……。

 バトルフィールドの解除とともに復活したアルトリウスと、自分のHPを見て再度ため息を吐いた。


*ーーー*


「良い試合だったな? 婆ぁ。」

「その口裂いてやろうかねぇ? 鍛治士の小僧。」


 軽口を叩き、竹刀を返すと村正は良いものを見たと言いながら武家屋敷を出る。

 そんな彼を見送っていたアルトリウスに柳生は向き直ると、少し考えるそぶりを見せつつ渋々といった様子を見せながらアルトリウスに声をかけた。


「良い戦いっぷりだったさね、距離が離れていれば負けてたのは私だったよ。」

「ご冗談を、成すすべなく負けたのは僕の方です。」

「あまり謙遜しないこった、そも私も奇策を衒う羽目になっているんだ。そこで謙遜されれば私の立つ瀬がない、若造の童は童なりに年長者の褒を受ける物だね。さて、今ウチの若造に飯を作らせている。昼食にはちょうど良いだろう? 腹が減っては頭も回らん、仮想空間とはいえそれは変わらん話さね。昼餉と共に戦争について、話そうじゃないか。童からはそれだけの覚悟を感じたからね?」

「……、ありがとうございます!!」


 現代を生きる剣聖、その彼女から褒められ認められたという事実はアルトリウスにとってもひどく嬉しい話だ。

 嬉しさを表情に表しながら、彼女の背後についていくアルトリウス。

 途中で騎士鎧は無作法だろうと思い、彼女に合わせて和服にスキルで着替えつつ脳内で話す内容を整理する。

 今回の話は込み入っている、異邦人が原則関わることのない国家間の話。

 それを事細かにしようとすれば、やはりどこかしらで話は逸れるだろう。

 元々考えていた内容をより単純に、よりわかりやすく組み直しつつ案内された和室へ座る。


「先に茶を用意しな。」


 その言葉を聞いた侍従が静かに行動する様子を眺めながら、アルトリウスはインベントリを開き羊皮紙を取り出した。

 書かれている内容をようやくすれば、『騎士王』アルトリウスに伯爵相当の権力を与える代わりに戦争への協力を要請するといったこと。

 一目で粗方把握した柳生は、ため息を吐く。


「相手は何処の何奴だい?」

「北方から来た『征服王』と呼ばれる一団です、彼らは驚異的な戦力を保有しグランド・アルビオン王国の滅亡か従属国化を目的としていますね。」

「なるほど、そういうことさね。だから最近余計に城下は殺気立っている訳だ、しかしその一団。どれほど強いんだい? まさかそれも知らずに話を吹っかけて来たと言うことはないだろう?」

「……詳細は不明です、ですがそのうちの1人である『伯牙』や『白の盟主』を名乗る存在は相当な強さを保有しているらしく。具体的にどれほどかを尋ねられれば色々困りますが……、この王国の近衛第三隊を知っていますか?」


 いいや、そのように首を振る柳生にアルトリウスは少し困ったような顔をして。

 そして少し悩んだ末に、正確な表現を思い浮かべて再度口を開く。


「簡単にいえば、そうですね。僕も又聞きの見聞なので正確な表現は難しいですが、彼女の強さを例えるとするのならレベルが100を超えていて聖剣を持っていない僕といったところです。」

「それはまた、なかなかの話さねぇ。けどアンタもレベルは80を超えたって聞いているさね、となれば……。なるほど? 相分かった、大体イメージは付くよ。」

「はい、では話を戻して。その『伯牙』は、そんな人間が数十人以上集まらなければ殺すことは不可能と王は予想しています。」

「…………、なるほど。話のおおよそが見えてきた、自分でいうのも何だが確かに私のような実力者が必要さね。」


 アルトリウスの成長は驚異的だ、特に聖剣を用いていることからプレイヤーの中でその強さは規格外の域に至っている。

 だがそんな彼が単独で北方の傭兵を討伐不能なのは確実であるというのもまた事実だ、所詮彼の力はチートの息を出ていない。


「で? 名の有る所の協力者は誰なんだい? 私のところに持ってくる前に根回しは行ったんだろう?」

「『ワイルドハント』は条件次第、『探究会』は無条件ですね。また『アイアンウーマン』および彼女所属のクランも一応の無条件、『豚忍』も金銭次第。『化け狐』と狐商会もお金を積めばというところです。」

「ふぅむ、良いさね。じゃぁ、私も協力しようか。」


 彼女がそういうと共に襖が開けられ、湯気立つご飯が運ばれてくる。

 それを受け取りながら、アルトリウスは箸っをとった。

 少し不慣れに箸を用いて食べるアルトリウスの反対では、少し苦笑いしながらもとても綺麗に食べ進める柳生の姿が。


「どうだい? 和食は。」

「……塩が濃いですね、ですがこれもこれで美味しいものです。私は月の方に住んでいるのでこういうモノはあまり食べないのですが、貴方はこれを毎日食べているんですか?」

「ハッハッハ、この前病院から言われたよ。血圧に気をつけろって、私を誰だと思っているんさね!! 健康状態をモニタリングされているが私はこうして元気だよ。」

「ああ、そうでしたね。このようにお元気な姿を見ると、とてもとても老齢とは思えません。」

「ハハ!! よくいうさね、そんなに褒められてっも出るもんはないよ!!」


 こうして談笑しつつ、戦争へ向けての準備は整っていく。

 アルトリウスを中心として、このように着実に。

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