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Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
一章中編『黒の盟主と白の盟主』

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Deviance World Online ストーリー0『エヌマ・エリシュ』

 上にある天は名づけられておらず、


 下にある地にもまた名がなかった時のこと。


 はじめにアプスーがあり、すべてが生まれ出た。


 混沌を表すティアマトもまた、すべてを生み出す母であった。


 水はたがいに混ざり合っており、


 野は形がなく、湿った場所も見られなかった。


 神々の中で、生まれているものは誰もいなかった。


         『エヌマ・エリシュ』冒頭部

*ーーー*


 英雄の王、黄金の覇者。

 暴君にして賢王、そして世界に14しか存在しえぬ者の一人。

 『破壊者』ギルガメッシュ、それこそが彼の名だ。


「懐かしい気配を感じてみれば、久方ぶりだな? ヤヤウキの神。」

『ーーーーー(久方ぶり、か。)』


 呟きと共に黒い影は蠢き、笑う。

 神の降臨は終了したはずだ、そう思ったのならば間違いではない。

 黄金の王と黒き神は互いに互いを笑いながら、思い出話に花を咲かせる。


「第一は世界を滅ぼし眠り、第二は封じられていた。第三は今や機構と成り果てたか?」

『ーーーー(契約だ、天上との。主神たるΔίαςは無用なことをしたな、異邦と手を組みソトより移ろわぬ者を呼び込むなど。)』

「無用ではあるが愚かではない、我はその判断を善とはせぬが滅びに対する手段として無限の可能性のある人類を用意するのは無駄では無かろう。」

『ーーーー(されとて無駄は無駄だ、そもそも未来と過去の全てを識り全てに存在する貴様相手では可能性など塵芥に過ぎん。)』


 その言葉にギルガメッシュは笑みで返す、その笑みを見た黒き神は心底恐怖した。

 目の前の存在の真価を知っているからこそ、この様に世界の裏でコソコソしているのが酷く恐ろしい。

 この男は、見渡す限りの全てと知りうる限りの全ての現実を破壊できるのだから。


「余り警戒するな、今の我は機嫌がいい。普通であれば馳走の一つでも振る舞わせるところだが此度の宴は我が馳走を振る舞うとしよう。」

『ーーーーー(生憎と本能が震える、貴様の力の一端でも浴びれば全ては恐怖により発狂するだろう。)』

「まぁ、仕方なき話よなぁ? だが震えを止められんとは耄碌したか? これでは興が削がれる、もう一柱も招待するか?」

『ーーーー(相手次第だ、翼ある蛇を呼べば即座に太陽が降臨するだろう。)』

「あの女は呼ばん、元より天界に位置する神を呼べば泥沼が始まる。」


 ホッと一息はき安心したかのような動作を取る影にギルガメッシュは笑い、そして呆れたように二人を見る男の存在を目で捉える。

 『花の魔術師』マーリン、彼もここに最初から存在していた。

 

 さて場所を説明しよう、此処は神の居城と現の狭間。

 高知にして高次を繋ぐ白亜の先、未だ誰も到達できぬ分岐路。

 もしくは、楽園と称されるか妖精が作り上げた魔術師を捕えるための牢獄か。

 花が広がり、非常に華やかなその中心に聳え立つ牢獄で三人は集まっていた。


「何か言ったらどうだ? 魔術師。今の我は余興を求める。」

「全く酷いね? 貴方は。王として神としての責務を放り出し封印されたかと思えば、こうしてひょっこり現れる。一体どれほど経過したのか知っているのかい?」

「知らん、知らんが星の廻りが数度回った後というのは過去に見た。」

『ーーーー(手間のかかる言い方だな、いわば数千年だろう?)』


 星の廻り、惑星直列が数度発生した後の世界。

 それを黒い影は要約し、影から貢物を取り出すと齧った。

 ギルガメッシュはそんな彼の姿を見て、華が足りんと空間に手を突っ込み形なき神を呼び出す。

 瞬間、蔓延する死の濃厚な気配。

 だがその全ては現実に塗りつぶされ、無意味に帰す。


『ーーーーーー(お許しを!! お許しください!!)』

「クハハハ!! 神の怯える姿とは正しく滑稽!! 至極愉悦の限りだ、散々見飽きたモノだったが久方ぶりに見ればこれもまた善きものだな? そうは思わぬか? 魔術師。」

「可哀想だとは思うね、これはウルの美酒かな? 頂いても?」

『ーーーーー(お? 冥府の果実だな? これはこれで、なかなか芳醇な味わいで好きなんだよな。)』


 泣き叫ぶ半身がスライム状の美女を肴に、ギルガメッシュは酒を飲み美味を振る舞う。

 中々に趣味の悪い酒の飲み方だが、ここでは文句を言う輩が存在しない。

 まぁ、苦言を呈する輩はいるがそれも宴会の中の一興だろう。

 

 あまりに莫大かつ濃密な現実を浴びせられ、今にも死にそうな顔で泣き叫ぶ女神を足蹴にしつつ黄金の王は緩やかな服装で椅子へと存分に腰掛ける。

 ここにいる神や魔術師とギルガメッシュは縁深いものではない、むしろ縁は浅いと言うべきだろう。

 昔に殺し殺されをしたと言う程度か、もしくはそれよりも薄い程度の縁しかない。


「さて、大英雄が死んだぞ?」

『ーーーーー(知っている、幾度か我が権能で死を与えたのだから。)』

「奇跡のような幕間だった、現代に生きる英雄と現代に現れた異常者と死者の競演は正しく英雄譚の締めとして十分なんじゃないか?」

「ああ、我も大満足だ。(先ほど)(遥か太古)覗いたが、あの健闘は暫く見れんだろう。誰が1人欠けても到達し得ない奇跡の一幕だ。」


 その言葉に2人は手を叩く、その言葉には同意見だからだ。

 故に英雄の蕾というスキルが与えられ、それの開花を望むことができる。

 新たな英雄の誕生は、神と王と魔術師といえども祝福すべき事柄。

 ギルガメッシュの微笑みは、正しくその英雄たちへ向けられたものだろう。


「さて、本題へ入ろうか。魔術師に神、双方ともに下郎どもがどのような未来を行くと思う? ああ、結末は我も知らん。未来より眼を用いるなと言われ、結末の一幕を知らされたのだからな?」

「古来より世は収束し、結末は細分化する。僕に言わせれば、ヒトが滅びることはない。ただ、そうだね。あの男は気になるな、北方より現れたあの傭兵は。」

『ーーーーー(第一の目覚めが起こらなければそれでいい、この星の法則はこの星で収束する。星という土台が壊されれば、我らを生かすシステムも消え失せよう。)』

「で、あろうな。」


 深刻そうに言う2人に対して、ギルガメッシュは面白みもなさそうに返事を行う。

 未来を予測した頭脳が導き出した通りの、予想通りの答えだったらしい。

 少し不満げな態度を示しつつ、片目を閉じる。


「異邦と邦、二つの世界が交わった先など無数に未来が分岐する。そも我が手を離した世界だ、自由に伸びるのが世の摂理。だがそこにも問題がある、あの愚神だ。」

「対策は全部、Ἄρτεμιςに任せているけど問題はやはり?」

「嗚呼、我の封印が解けた事であろうなぁ? アレは事を急ぐぞ。世を再度波乱に導く、故に我は現世に干渉する。第一が目覚めれば、今度こそ星が消えよう。」

『ーーーーー(だが如何する? 正義を掲げた騎士王は当の昔に消え去った。残るは精霊の体躯のみ、だ。)』


 その言葉を聞き、違えるなよ? と言い放った英雄王は口を歪め手を開く。

 まさか、そう言言い放とうとした2人は顔を歪め一瞬のちに確信した。

 目の前の王は、明確に干渉するつもりだ。

 その埒外にして規格外の実力を振るい、現実へと。

 間接ではなく、直接で。


「理はある、それにもしあの骸が再度来訪するのならば結末は収束する。すなわち、一つの節目へと。故に、だ。故に集めた理由はわかるな?」


 その言葉と共に、王は剣を取ると死の神の首を刎ね再生させる。

 己が愉悦のための道楽だが、死の神はより一層恐怖を発露し体が蠢く。

 だが逃れることはできない、破壊者の目が逸れる事など無いからこそ。


『ーーーーー(これ以上の干渉はしない、アレに渡した権能だが今の俺には無用の長物。それを発展させても、2度目の降臨はない故安心してくれ。)』

「此処に来るのならば兎も角、だ。それに僕はただ見守るだけの花のような存在、警戒しなくとも結構だよ。」

『ーーーーーーー(ももももももちろん!! 勿論手出し致しません!! その従者である彼女にも!! 私の権能を貸し与えはしていますがそれ以上の干渉は!!)』

「ならば良し、残るは原初が一柱に月女神が一柱といったところか?  本音を言えば双方ともに手を下して欲しくないのが我が感想だが……、そのために出向くにしても出向かせるにしても深度が深すぎるな。厄介且つ不快極まりないが、堪忍してやろう。しかし、今やこれほどの神が深淵に追いやられているとなれば……。あの愚神め、相当一度この世の春であったのだろうな?」


 その呟きに、誰も答えない。

 やや不機嫌となった王へ何かを申せば次に飛ぶのは己が首だろう故に、何も言わない。

 その三人の様子を見た王は、不満げにしつつも世界を破く。


「ではまた後程逢おう、それが云つになるかは知らんがな?」


 神と王と魔術師の邂逅は、これにて終了する。


*ーーー*


 深淵の底の果ての底の果て、無限が業が犇めく魔の坩堝。

 その罪禍の中央に、一柱が何かが存在していた。

 正真正銘、悪の権化。

 それは、一柱の来訪を祝福する。


「高次の言葉でなくて申し訳ありません。」

『ー(あまり申し訳なさそうにするな、代替だが此れは神性神格を持たぬ邪龍だ。オリュンポスに生きた真正の女神である其方が頭を下げるには我が格が足りん。)』

「お優しい龍ですね、やはり。」

『ー(真の善き神に影響された迄だ、そも悪性とは善も孕む物。悪が善きを孕まぬ訳なければ、善が悪しを孕まぬ訳でも無し。優を孕むのも、また悪たりうる資格なりて。其方が真に思うのであれば、此れは確かに優き龍なのだろう。)』

「ふふ、会うのは初めてですがその姿にらしいと感じますね。」


 柔和な雰囲気を保ち、燐光を輝かせながら笑う女神に対して一匹の龍は眉間に皺を寄せながらも対話の意思を示す。

 双方ともに話は伝えられた、現実すら歪む深淵の底ではあるが短い言葉を理解できない訳ではない。

 内容は一言、王の命令だと言う文言のみ。

 だが叡智を持ち、常世を覗き込んでいる2人ならば意味は分かる。


『ー(去れとて困った話だ、あの骨に加護を与えているのが此れでない以上その話を遵守するのは不可能故。そも在れは自由意志なき自由、混沌にして意思の坩堝。代弁者たる此れに言われたとて如何様に返すべきかも知らず、與し力も碌に鍛えずのに如何様に施せば良き物か。)』

「そんな事もないでしょう、彼は自分なりに悪を悪と規定し活用している。私はそんな彼を、そんな人間を愛おしく思います。」

『ー(地母神でも無き神去れど愁傷な事だ、其方のような神が人の世を支配し導くべき成りと考えるに。実情誠に情けなく思う、人知らず我が世を全て思う神が横行する世は廃れるべき世だ。)』

「この世全ての悪を知っているものの言葉は無視できませんね、ですがそれでは混乱を招く。」


 太古の龍、原初に生きた龍の言葉の重みは比べられるものではない。

 例えそれが十二の柱に数えられる女神とて、だ。

 仲良く談笑する端で生まれた憎悪にしの数々、この世で悪とされる全てが集まり収束する中で邪龍は空を見る。

 目を細めれば見える星、転じて人間の数々の内一際輝く星があった。

 それこそが、ギルガメッシュの魂の輝き。

 眩く望み、笑いながらも悪の龍は怨嗟を呟く。


『ー(嗚呼、如何程の時が流れようともこの世の悪は尽きまじき。此処が悪の坩堝なれば此処こそ世界の中核、されど実情は真に嘘なり。この星の果て、永劫なき永劫の未知にこそ真なるこの世の全てがあるだろう。女神よ、女神。其方の言う望みとは歩みでは無く滅び其の物、神の世の果てはこの世の悪が直々に拒絶しやう。違ゑる事なきやう心せよ、其方の思惑なぞ人を導く物でなき。月は果てにて輝く故に美しゅう事あら成る、其の月導くで有る成らば人の航海燦爛に拐かされ其の美しさは魔性の物へと変貌し善性は流転と共に悪政へと転げ落ちるであろう。)』

「忠告、感謝いたします。ですが、私にも目的があり意志がある。妄執の類ではありますが、私は責めて私へ全てを捧げた彼に報いたい。何もできなかった、何も果たせなかった神の願いがあります。」

『ー(であらば、此方は何も言うまい。先ほどの言とてこの世全ての悪を代弁したのみだ、此方が行なう事の全ては世界の滅びを回避する事である。最悪は破壊者が防ぐであろうが最悪を起こさぬように事前に行動するのは当然の道理である訳で、この世全ての悪の吐口を作るのもまた此れの役目だ。)』

「貴方は勤勉な龍なのですね。」


 其の言葉に何も返さず、そのまま悪の中に溺れゆく邪龍。

 話は終わったと言いたいらしい、もしくは喋りすぎたと言いたいのだろうか?

 ゆっくりと沈みゆく邪龍を少し見た後、月女神も踵を返す。

 彼女も彼女でやることが多い、全盛期には遠く及ばぬ見せかけの権能とはいえ本質は月より闇と魔を司る純潔の神なのだ。

 それに太陽を冠する神の殆どは未だ生きているものの、月を冠する神の殆どは既に殺されたか休眠している。

 故に月への奉納の管理の殆どは彼女が専門であり……。


「私の、私の長い長い生涯は終わりでしょうね。」


 彼女は己の体を見る、とても美しく輝く消えゆく体を。

 骨は、黒狼は約束すら覚えていないだろう。

 あの一方的な約束すら、己の寵愛と共に預けた使命すら。

 深淵から逃れるにはもう時間が足りない、最速で歩めば可能だったかも知れなかったが彼は其の道を閉ざした。

 彼は月も太陽も選ばず、明けと宵いの間を望む。

 少なくとも女神はそう判断し、そして自己にかかった封印を解くのを諦める。

 最後の足掻きは無に帰した、塵芥にも成らぬ希望は消え失せた。


「嗚呼、申し訳無いです。これほど長く仕えて頂いたのに、この程度の恩返ししか出来ななんて。」


 黒騎士に、其のように謝罪し彼女は世界を運行するための機構に成り果てるための最後の仕事に就く。

 意思を、その神性を捧げれば後数千年は安泰だろう。

 そのような皮算用をしながら、彼女の意識は落ちてゆき。


〈ーー『Ἄρτεμις』の神性が剥奪されましたーー〉


〈ーーこれにより、特殊クエスト『月女神の解放』が失敗となりますーー〉


〈ーークエスト受注者:プレイヤーネーム『黒狼』へのメッセージが送信されますーー〉


〈ーー失敗報酬が授与されーー〉


〈ーー訂正します、神性剥奪を停止。レイドボスによる神性の供給が確認されましたーー〉


〈ーーアナウンスを告知しますーー〉


〈ーー『女神よ、せめてこの生き様だけでも』ーー〉


 盤面は新たな局面を迎える、遥か太古より続く因縁は新たな世代へと伝えられる。

 時代の夜明けは近い、ただしそれは神々の時間感覚で。

 女神の精神は、摩耗の果てに消失した。

 クエストは失敗の文言が綴られている、神々の思惑は巡り巡る。


 因縁の清算、運命の機織りは全てを紡ぐ。

 黒狼は、一体どんな結末を得るだろうか?

さて、本編で全然登場しない奴ら+α(邪龍のこと)の登場回です。

アルテミスは実に100話以上ぶりの登場ですね、作者も若干の懐かしさを覚えます。

彼女のドラマは殆ど挟まらない気がしますが……、感動を誘発させられるような物語にしたいですね。

まぁ、多分それ以上のインパクトで掻き消される気がしますけど。


さて、久しぶりの登場だった本作規格外TOPことギルガメッシュ。

彼の能力が徐々に明かされはじめましたね。

武装に依存しない彼の能力の詳細は……、NPCの人物紹介を書くときに事細かに書きましょうか。

まだ一章なのにインフレし過ぎとか思われるかもしれませんが、薄々お気付きの通りこの作品は一章が一番インフレしています。

物理最強レオトールに、本編にモロに出てくる最強であるギルガメッシュ。

他に一章上編ボスであったヘラクレスに、一章ラスボスを務める黒騎士。

また戦争を再開させようとしている征服王と『王の軍』、対抗するために用意されたのはプレイヤー最強であり準古代兵器を保有する『騎士王』とグランド・アルビオンの騎士たち。

そんな中、中心で地雷を踏み回りながら踊る黒狼と言う200話近く紡いだ内容の集大成です。

作者は書き切れるのでしょうか?一章終了予定は300話なので残り110話ですね。

おそらく退屈することはないかな? こっからはもう激動ですからねぇ。

それでは!!また次回。


ああ、あとエピソード0の部分は間違いではありません。

この内容は本編ではありませんが、ギルガメッシュが登場する以上エピソード0と書く必要があるので(書かなくても大きな問題はないですが。)このような表記になっています。

まぁ、場合によっては今後間話に変化するかも知れません。

気にしないでください。

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