Deviance World Online 間話『王者』
イベントが終了し、彼らは。
異邦人と名乗る存在が、街に溢れ出した。
その風景を見てグランド・アルビオン当代国王『ユーサー・ペンドラゴン』は、ゆっくりと溜め息を吐く。
最悪の時代ではある、だがグランド・アルビオンの滅びは回避された。
その確信を持って愚君にして、賢王の彼は息を吐く。
何処までも、何処までも時代が悪いと感じざるを得ない。
第一に征服王が率いる『王の軍』が強すぎた、はっきり言って国力の基礎が違いすぎるのが問題だった。
この世界では才能とは血統だ、強さは努力に直結するがその努力を支える才能は血統に依存する。
ウーサーは過去に一度だけ彼の王を見た、この半年近い休戦協定を結ぶ際の一度だけ。
あの豪胆極まる王が引き連れたのはたった二人のみ、『白牙』レオトールと『王の友』へファイスティオンだけだ。
そう、現れたのはその三人だけであり。
「呆れんばかりだ、僅か三人でスクァート率いる騎士団を。否、ただ一人でスクァート率いる騎士団を殺し尽くしたのだから。」
王は息を吐く、その光景は恐怖の証として脳裏に刻まれている。
恐ろしい、あの顔を思い浮かべただけで怖気が走った。
どんな理屈かしらぬが刺々しく地の理に背くかのように固まり立つ前髪、流すように背後に髪の毛を流し右目の前に垂らした一房。
髪色は黒に銀を差した様な輝きを放ち、目は常に森羅万象を望む鏡のように銀に光る。
鉄か、もしくは魔法金属のプレートを加工したもので首を守りその体躯を外套で隠していた。
しかしボタンは留めていない、何故なら外套の内にも暗器を隠しているのが伺えたから。
着込んでいる服も全て一級品であり、レイドボスに相当する化け物の毛皮を織り込んだ物だろう。
その強度は鋼をも上回り、その柔軟性はシルクにも等しいと思われる。
また戦い方も異様そのもの、戦の常道を無視したかのようなインベントリを用いた曲芸が如き動作。
果てなきと思わせんばかりに長いその鎖で大気を打ち据え、燦々と輝く剣で炎を発する。
そして、戦いの決着がついた時の一言。
ーーなるほど、ソレが貴様の実力か。【銀剣】
歯牙にも掛けず、真面目に相対はしていただろうが本気には程遠い様子で戦っていた彼の言葉。
腹の底まで見透かされていた、そう思う他ない。
王は頭を抑える、聞いた話では北方最強と呼ばれる男らしいが他二人との対話の様子的に酷く突出しているわけではないだろう。
勿論、彼一人との戦いで勝つ手段は思い描ける。
スクァート並の実力者を数名から数十名用意すれば殺せるだろう、相手が逃げない前提であれば。
ギルドに依頼を行い、それだけの人材を捨て駒にすればあの男一人ぐらいは殺せる。
「だがそこ止まりでしかあるまい。」
胃がキリキリと痛む、吐き気を催す。
ここ半年はずっとそうだ、捨て駒が如き手札である異邦人を手に入れたといえその不安は収まる所を知らない。
脂汗が滲み出し、痩せこけた体を大仰なマントで隠す。
齢50に届く体だ、異邦に言わせれば若いとのことだが此方ではもう十分生きている。
足の調子も悪くなり、体の性能も低下し始めている状況。
レベル100をも150をも誇ったその威光は、老化の前に虚しく消え失せるのみだ。
「おい……!! おい!! 居ないのか!! サー・エクター!!」
「王よ、私はここに。」
意識が朦朧とする、あの聖剣の担い手がこの国最後の希望と思えば涙すらも出てくる。
あの騎士が、後継とはできなくとも優秀極まるあの青年が息子であるモルドレードを支えながらこの国を導けば新たな時代の開花となるだろう。
もしくは遥か祖から続くこの偉大なる国が滅びを迎えるか、答えは時と現実を司る黄金の神ビルガメスのみが知る話だろうか?
「サー・エクター、この世の春は終わりを告げるぞ。」
「どういう意味で……、まさか。王よ、冗談でも。」
「冗談や酔狂でいうものか、紛うことなく私はあと半年も生きられはせん。新たな王者の門出を見ることはなく、新たな国のあり方を知ることなく。そして国母が望んだ『義正』を果たすことなく、私は死す。」
口角が歪んだ、この一月で余計老け込んだであろう顔を触る。
王として、古き異邦なき時代を時代を紡いだ最後の王として彼は目を開く。
王は病に蝕まれていた、万人が等しく感染しそして必ず死に至る病に。
老衰という、誰もが逃れられない病に蝕まれていた。
「義正に関しては心配しておらん、あのモルガンという小娘が王者に対して行うだろう。あの小娘は私以外に気づかれず、至上の魔杖にしてエクスカリバーの旧型でもある『ルビラックス』を手に入れた。国母が用いたあの魔杖を、な? 故に私は王者としての資質を問うための『義正』は行わん。」
「異邦の者に、異邦の者を選定させるのですか!?」
「聖剣が、音に聞こえし魔術師マーリンが選んだのだ。彼を、正義の象徴として。聖剣の担い手として、だ。であれば我らは文句を言えまい、あの魔術師は判断を間違えることなどあり得ないのだから。」
情けない話だ、その様に呟いた王に対してこの場にいる侍女も騎士も何も言えない。
王として国を生かすことができず、超常が如き太古から生きる化け物を判断材料にせねばならないのだから。
酷く、酷く情けない話だ。
「サー・エクター、このまま進めばどうなると思う?」
「……わかりませぬ、わかりませぬが確信することがあります。それは、征服王の手に国が落ちると言う事のみ。」
「で、あろうな。」
息を深く吐く、もう言える言葉はない。
答えは確定している、ではどう足掻くべきか。
第一次衝突、その時点でグランドアルビオンが有する軍勢の半数近くが死んだ。
雑兵がほとんどであれ、その全ては確かに力だった。
それを酷く簡単に、容易く蹂躙された。
だからこそ今度は近衛三隊を率いて征服王に挑めば、それは如何に意図も容易く蹂躙され。
もう打つ手がないのだ、異邦の人間に任せるしか。
「準備をしろ、休戦協定はもう暫くで終わりを告げる。その時に盤面をひっくり返す、もう一つの準古代兵器が必要となる。永く目を背けていたが、そうも行かん。倒しに行くぞ、未だ名も知らぬレイドボス。古くから生きる、黒き騎士を。」
準古代兵器、正式名称未定の音響装置。
その性質や性能は不明、だが準古代兵器が一つあれば莫大な戦力差すら覆せる。
嘘でもいい、負けても構わない。
ただ自分が王のうちは、この国を滅ぼさせない。
それが一心で王は、男は告げる。
「伝令しろ、それだけの時間を稼ぐために。国庫を開けて金貨を放出しろ、ギルドに依頼を行え。こうなれば全ては時間の問題だ、故に『王の軍』の兵卒一人につき金貨一枚の褒章とし盟主を僭称する輩は純金貨を与えよ。全ては我らが王国と、その臣民が新たな時代の日を見る事だ。」
王は、後世で愚君と罵られる賢王は言葉を叫ぶ。
その伝令は瞬く間に国中に広がり、そして僅か一月の激動が始まる。
僅か、一ヶ月の激動が。
*ーーー*
アルトリウスはため息を吐いていた、具体的には目の前にいる『冒険王』に対してため息を吐いていた。
騎士王と揶揄される自分に対抗して名乗られた、もしくは名乗らされたであろう『冒険王』だがその噂は何度も聞いている。
彼が率いる血盟は、驚くべき奇人変人の集まりだと。
「で、僕になんの様かな? シャル。」
「いやぁ、特に重要な用事はないわけだけど。ヒュドラの素材が欲しいな、って?」
「馬鹿なのか? 君は。そもそも僕はあの素材を販売しているよ? なぜここに来て欲しがるんだい?」
「何となく? 騎士王サマだったらくれるかと思ったけど、残念。まぁいいや、そんな冗談は横に置いておこうか。」
目の前の男は油断ならないと、騎士王はより一層警戒する。
彼の本題は何か? 頭を巡らせ考える。
様々なことを予想できる、だからこそ真意が全くわからない。
言葉を発さず、ゆっくりと眉間の眉を顰め……。
「不干渉協定、結んでくれないかな?」
「は?」
彼の言葉に驚く、あまりに予想外な彼の言葉に。
シャル、もしくは冒険王。
血盟『十二勇士』を率いる存在にして、聖剣ジョワユーズを保有する男。
その剣は準古代兵器に及ばないが、状況次第ではアルトリウスでも敗北するだろう。
まぁ、真っ当に戦えばアルトリウスが負けるはずはないのだが。
しかしそんな彼が言い出した不干渉協定、その話を聞きアルトリウスは一気に眉を顰める。
十本指に入るほどに構成人数が多い自由系血盟、ここの実力は低くなく十二勇士と呼ばれる彼らの実力はキャメロットの円卓に迫るものがある。
結局はライトプレイヤーの集まりなので、全体の力はキャメロットに及ぶものではない。
だがそれでも、なぜこのタイミングで不干渉協定を結びに来たのか。
アルトリウスは再度眉を顰める、彼の考えが分からないと。
「いやぁ、実は問題があってな? 俺の直感が言っているんだよ、少なくともあと数ヶ月の間にキャメロットと手を組んでたら致命的なナニカが起こるってな!!」
「……?? 致命的な何か? 何を言いたいんだ? 君は。」
「いや、言いたいことはそこまで重要じゃない。不干渉協定を結ぶことだけだ、それ以上でも以下でもないな。」
この男の直感は酷く鋭い、それこそ全体に伝播する厄介事を毎度避けているぐらいには。
そんな男が、キャメロットに関わると碌なことがないと言っている。
根拠のない直感の様だが、それが恐ろしい。
底が見えない、この男は果たしてこの世界の人類の益となるのか?
答えを結ぼうとするほど、答えが逃げていくと言う錯覚に囚われる。
「……まぁ、いいか。確かにここで約束を結ぼう、我々キャメロットは君たちパラディンナイトに干渉しない。」
「サンキュー、あんがとな!! じゃ、素直に話を聞いてくれたお礼にいいことを教えてやるな!! お前、目的を正さないと致命的に道を間違えるぞ。『騎士王』として生きるか、『アルトリウス』として生きるか。覚悟を決めとけよ、な?」
「ま、待て!? どう言う意味だ!!?」
それだけ言うと、シャルはじゃ!! と片手を振ってログアウトしたようだ。
エフェクトが発生し、この場から消えるのを観測する。
それを見たアルトリウスは呆気に取られた上で、彼の言葉の意味を考え出す。
ーー致命的に道を間違える
その言葉の意味が、分からない。
この世界での自分の目的は、この世界に住む住人の守護。
もっと言えば、人類の絶対的な味方。
人であるのならば無条件で、死んでも死なない異邦人を除く人間全てが安寧と平穏を送る生活を作り守護すること。
それこそが、アルトリウスが定めた正義の根底。
シャルは、彼を一目見て理解した。
コイツは、黒狼の同類だと。
彼の直感は非常に鋭い、冒険王と呼ばれている彼だがその奇跡的な冒険譚の裏には彼の鋭い直感があってっこそだ。
そんな彼が確信を抱き、実直に感じたその感覚は間違いではない。
アルトリウス、もしくは騎士王は完璧な人間だ。
人を第一に思い願う清廉なる騎士の王、形容できる言葉はない。
そしてその癖に、彼は酷く冷静沈着だ。
言い換えれば、黒狼と同じく思考の坩堝で迷う事がない。
勝利条件を定め、敗北条件を認め、その上で行動する男。
分かりやすく言えば、正義側に立った黒狼。
だから、彼は分からない。
思考の坩堝に嵌り、道を間違える事がないからこそ思想における分岐点に立つ事がない。
そして人でないほどに真っ直ぐに道を行き、人でしか立つ事ができない分岐点すら間違える。
シャルは、それを理解したからこそ彼に忠告した。
「どうしたのでしょう? アルトリウス。」
「……、ああ。なんだ? モルガン。」
「……ふふ、まぁいいでしょう。それより、王からの伝言です。」
血盟の中心にして、執務室の中。
そこに唐突に現れたモルガンに生返事を返しつつ、アルトリウスはモルガンに対して体を向ける。
王からの言伝、それは聞かなければならないからだ。
「王より、『対王の軍に対する発布』が行われました。雑兵一人につき金貨1つ、階位持ちに関しては最低でも金貨5つ。そして最上級とされる盟主に類する存在には純金貨1つが与えられます、この依頼の施行は明後日明朝よりと言う事ですが……。いかが致しましょうか? アルトリウス。」
「……、残念だ。円卓決議は必要だが……、そうだね。原則、キャメロットに所属する全員は殺害を可能な限りへらし無力化を最優先とする。そう伝えてはくれないか? モルガン。」
「相変わらず、甘いお人。ですがいいでしょう、また他の全円卓に招集の旨を伝えましょうか?」
「ああ、頼めるかい?」
勿論、そう返したモルガンはそのまま魔術を用いる。
魔力量が凄まじいな、その様に呆れ苦笑いしたアルトリウスは再度机に向かう。
そこには彼が腰から引き抜いた聖剣があった、王が政権を象徴するといった聖剣が。
表面を指で撫でる、鏡面が如き美しさを持つその剣には様々な紋様が描かれていた。
「輝かしき聖剣、万象照らし光輝く極光。」
呟きは言葉となり、聖剣に光を灯す。
紋様に魔力が流れ、光を発してゆく。
エクスカリバーの極光、仮想属性と呼ばれる未解明の光。
見るもの全てを魅了し、この世界の膿すらも善良なものへと変えるかのような力強さを持つ。
そんな聖剣を撫でながら、アルトリウスはつぶやいた。
「宜しく頼むよ、僕の聖剣。人を殺さないために、人を救うために。何より、それを僕が本気で取り組める様にね。」
優しい、柔和な笑顔を作りつつ騎士王は聖剣をしまう。
急拵えの鞘であり、何度か壊れてしまった事のあるこの聖剣の鞘だがアルトリウスは案外気に入っていた。
だからこそ、その鞘を慈しむ様に撫でたあと息を吐く。
激動の時代が始まる、異邦人とNPCの衝突が起こるその時代が。
史上最強の軍勢と、異邦より訪れたプレイヤーの軍勢と、そして自由と混沌を臨む悪の三つ巴の戦いの時代が。
その激情の、幕は開かれた。
今回は王のお話です。
ついでにアルトリウスは黒狼の同類です、シャルは黒狼の友人なので何度かの付き合いでその性質を見抜きました。
黒狼とアルトリウスの最大の違いは……、まぁ簡単に言えば定まった正義を掲げるか定まっていない悪を詐称するかですね。
もう本当に根本的には同類です、テンション次第でコンディションが上下するところを含めてそっくりです。




