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Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
一章中編『黒の盟主と白の盟主』

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Deviance World Online 間話『コイントス』

 あり得ない、そう否定するモルガンの言葉をゾンビ一号は否定しなかった。

 あり得てほしくない、その気持ちはゾンビ一号にとっても同じだったから。

 だがこの世界には明確に存在する、彼女らの常識では測れない脅威的な存在が。

 人間というのも烏滸がましい、そう言いたくなるほどに強く強靭で化け物染みた人間が。


「人ではない、気持ちは分かります。信じるかどうかはあなた次第だ、だが事実として彼らは存在するのです。」

「……っ、ソレでは!! その人間はどれほどの鍛錬を行い、自らを鍛えたと言うのですか!? 人であることすら殴り捨てるほどに地獄以外の何物でもない鍛錬を積み上げたと言うのですか!?」

「ええ、積み上げたんですよ。きっと、そして確実に。一つ聞きますよ、異邦の旅人。貴方は命を賭けた事はありますか?」


 答えられない、答えない。

 目の前の存在がいう命を賭ける、そこに込められる意味合いは決して生半可なものではないが故に。

 モルガンは、口を開けず。

 だからこそ、焔の鍛治士が口を挟む。


「有るさ、嗚呼。有るとも、幾度も幾度も。焔を宿し、我が身を投じて。燃え盛る炉心に心を投げ入れ、魂が燃えるかと錯覚するほどの熱量を全身で感じ。儂はいつも命懸けで生きている、ここでもその前提は変化しねぇ。」


 空気の読めない発言、だがそれはモルガンにとっては幸運にも余りに息をしづらい空間に風を通してくれた感覚だった。

 舌戦ですらない、彼女にとってただの質問でモルガンは押し負けていた。

 この世界に対して彼女は本気のつもりだった、だが思い知らされた事実は本気などではない事だ。

 馬鹿にしていた、この世界に生きる人間を。

 ソレを今思い知らされた気分だった、憤怒で顔が歪みそうだった。

 だが、魔女としての威厳でソレを押しつぶす。

 自分もまた一人の人間で有ると再確認させられながら、理外にして人外の胆力でその侮辱を受け流した。


「貴方には聞いていません、鍛治士。私は、彼女に。この魔術使いに質問を解いているのです。故に、黙れ。」


 憤怒に塗りつぶされそうだったのはゾンビ一号も同じだ、彼女にとっても村正の一言は相応以上に気分を害された。

 何度死んでも問題ない人間の命、ソレはどの程度の重さを持つ? そんな存在の命など高が知れている。

 ましてや何度も死に一回しか死ねないこの体、そんな軽々しい発言など感化できるはずがない。

 だが嘘でない事はわかる、そんなことは百も承知だ。

 彼の目の炎は、その大言荘厳を許されるだけの熱量を持っている。

 だがそんな所感は関係ない、そんな所感で納得できるはずがない。


 スクァートの記憶を知った、グランドアルビオンに生きた偉人になり得た可能性たちの人生を見た。

 その全てが、レオトールに殺された。


 彼女でも認識していない、だが彼女にとってレオトールという男は畏怖すべき存在であり憧憬する存在であり主上が如き尊き人になった。

 なってしまっていた、なってしまっていたのだ。


 レオトールという存在は古今無双の最上にして、冷徹無比の冷血漢である。

 これは事実というより、認識としてそうなってしまうという話だ。

 彼が最強で有る限り、北方最強で有る限り彼はどう足掻いてもその呪いにも等しい憧憬から。

 その畏怖から、その色眼鏡から逃れられない。

 有る意味完全な精神汚染だ、恐怖による完全な支配を行うかのようなそんな精神汚染。

 数少ない例外を除き、その精神汚染からは逃れられない。

 どれほど長時間身直にいたとしても、いや身直にいるのならば余計にその精神汚染は深まるだろう。

 何せその恐怖は、人間が持つ根源的恐怖で有るからこそ。

 異邦も、北方も変わりない。

 人ならば、その恐怖に眼を曇らせ憧憬し人外が如きその強さを目の当たりにすることで恐る。

 いつしか決壊し、彼を殺さんとする多大な恐怖に変換されるだけの理解から最も遠い憧憬だ。


「儂に聞いていない? 笑わせるな、余り舐めた口を効いているとその首を叩き切るぞ? 女。」

「辞めなさい、村正。確か貴方は前にこう語っていましたね? 道理が無い、と。今回も同様です、これは(魔女)彼女(騎士)の語り合いであり貴方が介入するのは通りが通りません。」

「……っ、まぁいい。だが違えるな、通りが通らなくとも無理は通せる。仲を保ちたいと考えるのならば、身を弁えろよ? 魔女。」

「ふっ、可愛らしいですね。私は無理に無茶を重ねているのですよ? 貴方程度の無理を通すと思いで?」


 怒りは、消えていた。

 いや、消え切ってはいない。

 いまだにその炎は燻っている、魔女としての激情は未だそこにある。

 だがその程度なら、どうとでも出来る。

 モルガン・ル・フェはそんなに軟な存在ではない、落ち着けばその激情を押さえつけられるだけの人間だ。

 小馬鹿に、だが明確に村正を突き放し息を整える。

 協力などいらない、これは私の戦いだと。


 前提としてこの場にいる五人全員、味方ではない。

 条件が偶々重なっただけの、潜在的な敵で有る。

 ソレを再認識した彼女は、息を整えた。


「さて命を賭けた、でしたか? 勿論、そんな事。有るわけないでしょう? その()()()()()()()()()()()()()()()()()?」


 ふふっ、と笑う。

 その煽りに怯んだのはゾンビ一号だ、馬鹿にされている事以上にどんな意図でその言葉を投げかけられたのか察することすらできない。

 目の前の存在は、理外の化け物の存在を認めることすらできなかったのではないか? その疑問符が頭を巡る。


「何を悩んでいるのです? 何を思考しているのです? お聞かせ願えますか? 腐乱死体風情が。」

「……、何のつもりですか? 魔女。」

「いえ、いえいえいえ。ただ、気になっただけですよ。その質問の意図と、貴方が予想した回答を。」


 流れが、変わる。

 よくよく考えればモルガンにとって、ゾンビ一号を恐怖する理由はない。

 彼女の質問への回答通り、死を覚悟する必要などないのだから。

 なら強気になればいい、失うものは多大だがそれも予定の範囲内に収まるだろう。

 勿論、失わなければそれ以上のリターンを得られる可能性もあるが仮にとはいえ必死に生きて(遊んで)いるのにこの言種はないだろう。

 むしろ、これだけ口撃しても問題ないはずだ。


「ちょちょちょ、アンタ正気!? 馬鹿なの!? いや、バカよ!!!?」


 視界の端でロッソが大変慌てている、だがソレすらどうでも良い。

 魔杖を構える、ロッソと村正が慌てだしネロも目が覚めたようだ。

 一触即発、そんな状況が完成した最中。


「あら、残念です。」


 何も話せていないし、碌なことは何もしていない。

 だがそんなことは関係ないとばかりに、世界が裂け始めた。

 いや、裂けているのではない。

 転移魔術が発動している、プレイヤー全員とその被使役存在を対象として。


「もう、イベントは終わりなのですね?」


 その言葉と共に、この大陸からあらゆる異邦人とソレに付随する存在は消え失せる。

 ただの例外も残さず。


*ーーー*


「あー、よく寝た。」


 どーも、黒狼こと黒前です。

 いやぁ、久々にゆっくり寝たわぁ。

 欠伸が止まらねぇ、二日酔いを起こさない設定にしてたが起こしてもいいかもしれないな?

 気持ち悪さで欠伸が止まるかもしれないし、いや有り得なさそうだし辞めとこう。


「とりあえずこの変態は退かして……、地味に重いなコイツ。」


 去年まで男だった弊害か? 男性ホルモン抜け切ってない感じ?

 体感65はあるぞ、コイツ。

 殴り起こすのも手か?


「聞こえてるにゃー、黒前きゅん。」

「きッッッっッッッしょ、殺意が湧くんだが?」


 人類のために一片死んでみるか? 割と有益だと思うぞ。

 そんな俺の心の声が通じたのか、彼女は両手を上げ自分の首元に手をあて……。


「朝ごはん欲しいな? 黒前きゅん。」

「一片死ねや、お前。」


 俺の全力右ストレートが炸裂した。

 怪奇男女は気色悪い、はっきりわかんだね。


 と、雑談をしつつふと枕元に置いてあるVRCを見る。

 今の時間なら……、イベントは終わったな。

 勝ったか負けたか、考えるまでもない。

 アイツらなら、勝つ。

 確信だな、ソレはソレとして気になるけど。

 

「へクチュッ!! 黒前ー、服ぅー。」

「それで俺のシャツを何枚奪って行くつもりだ? 自分で用意しとけよ、と言うかしてるんだろ?」


 彼女の持ってきた袋の中を見ると、これまた普通のシャツが。

 ソレを適当に着ると、視線の先には俺が仕舞っていた服の匂いを嗅ぎながら選別してるバカが一人。

 下着の類は持ってきているらしい、ソレが出来るのなら最初から俺の服じゃなく自分の服を用意しろ。


 まぁ、毎回新しい服をもらえるからトントンってところか。

 うん、文句は控えておいてやるかぁ。

 これ、一応結構高いらしいし。

 もう数十着きたから実は安いんじゃないかとか疑ってるけどね、実際に高いんだろうな。


「んじゃ、帰れ。」

「また来るー。」


 あの女はそう言ったらそのまま消えた、うんうるさい奴が消えたな。

 そんな思いと共にVRCに電源を入れる、そういや初イベってことで相当気合い入れたけど結構微妙だったな。

 ただあの神父はよかった、アレはテンション上がるって。


「と、そんなことより小説読むか。」


 三時間睡眠だけど、まぁVRCも実質寝てる状態だし短いとは感じないなぁ。

 寧ろ体が動かなくなってるぐらいだ、軽くストレッチするか。

 うーんしょ、よいしょ。


「めんどくせ、小説読むか。」


 VRCを起動させて、っと。

 頭に装着、そのまま仮想現実に入り込む。

 相変わらずの俺の部屋、本棚にある2000年代の本をチラリ。

 うーむ、悪くない。

 2000年代ブーム、というか2000年代初頭ブームで俺TUeeeeeeEEE!!! とか追放とか悪役令嬢とかがジャンルとして流行ってるけど玉石混交って感じがあって悪くない。

 たまに紛れるSFも面白いな、流石に1000年後とか超未来を出してるのは少ないけど。

 過去の人間が考えた未来、っていうのも結構悪くないだろう。

 実際、こんな未来なら良ければなぁとは思うがね。

 人としての尊厳を持って生きるために、っていう名目で自由をある程度剥奪されてるのは気に触る。

 まぁ、理由にも納得がいく以上反対できないのが辛いところだな。


 うーん、モルガンとかには悪いがぶっちゃけ中途で辞めてもいいんだよなぁ。

 金額的には一万円程度、勿論トータルで。

 この一週間はその金を回収するに相応しいだけの体験ができた、それ程に濃い一週間だったろう。

 だけどなぁ、ここから先はぶっちゃけ。


「熱意が足りねぇ〜。」


 もしくは、やる気が湧かない。

 面白みがない、無理難題を突破するだけの情熱が湧いてこねぇ。

 世界一面白いゲームだとは思う、グラフィック然り世界観然り。

 掲示板を眺めるだけでも、相応以上の凄さを味わえる。

 だが、それでも面白くない。


「かの有名な名探偵はこう言った、『簡単なことだよ(Elementary)、ワト(my dear )ソン君(Watson)』。事件解決の時の定番口上だな、小説好きとしては知らないはずがない名言。」


 あの名探偵は一人で完成しているが、ワトソンという(欠点)を手に入れたからこそより一層不完全に完全となった。

 その不完全さがあるからこそ、面白いと感じる。

 ではその名探偵が如き完成されたあの世界に、ワトソンとでも言える欠陥は存在するのか? 答えは否定。

 それは介在する余地がないだろう、だからこそ非常に面白く詰まらない。


「うーん、やっぱりここら辺が異常者って呼ばれる原因か?」


 彼の顔面に再び、仮面が嵌る。

 欺瞞と虚実に塗れ、自分の心すら完全に騙し切っている欺瞞の仮面が。

 その仮面を被った彼は、その欺瞞を曝け出した男はゆっくりと口角を上げる。

 笑いながら、男は呟く。

 理知的、理性的な笑みではなく狂気に塗れた欲望のみの笑み。

 自由への狂信者こそ、彼の異常性にして悪性? いいや違う。

 ただし、その回答も正解だ。


 レオトール・リーコスは、生きているだけで恐怖される。

 そこに複雑な理由が介在する余地はない、怖いから恐怖されるだけ。

 生きているという悪性が故に、それは許容されず容認されず恐怖され憧憬される。

 では黒狼の場合は? 黒前真狼の場合は、如何なる理由でどの様な異常性と悪性を孕む?

 回答は、面白いことにその回答は彼に依存しない。


 空虚で空っぽ、だが何処までも満ち足りている。

 それこそが彼の悪性にして、異常性。

 どんな存在と対峙しても、どれほど莫大な激情を孕んでもそれは閉ざされた水晶の様に露出しない。

 故に、彼は情熱を彼方まで殴り捨てている。

 もしくは、この世界全てをバカにしていると言い換えてもいいだろう。

 

「ひょへぇー、やっと読み終わったよ。」


 そう呟きながら彼は本を本棚に戻し、VRCの仮想空間を操作。

 一つの武器を取り出す、その武器は刀だった。

 そしてそのまま空間を上手く操作し、場を整える。

 戦闘訓練、それを行いたいらしい。


「相手は……、自由で。刀だけの戦闘を、まずは試すか。」


 瞬間、黒前が踏み込み刀を抜刀する。

 何度も見ている、刀の抜刀風景など。

 見よう見まねの我流剣術、だが細かいことは気にしない。

 息を鋭く吐き、襲いかかってきた人型仮想実体を切り裂く。

 

 綺麗に切れた後を見て満足そうに笑い、そのまま体を斜めに下げる。

 一瞬で息を吐き、振り抜くと体の調子を確かめる様に次々に攻撃を苛烈にしていった。

 いつしか、その場にいた敵は全員消え去っていた。


 その様子を確認し、黒前はゆっくりと地面に座りながら息を吐いて……。

 手元にコインを出すと、指で弾く。

 結果は表、コインの表が出てきた。


「しゃーない、売るのはもう少しやめておくか。」


 クク、そんな風に黒前は嗤い空間を操作する。

 そしてゆっくり立ち上がりあがりながら、目を妖しく細めるとこうつぶやく。


「Are you ready?」


 答えは返ってこない、誰に問いかけたモノでもないのだから。

 彼は再度、赴く。

 幸運の女神が望んだ様に、あの世界へと。

世界初じゃない? プレイするかどうかで迷った挙句にコイントスでプレイするかを決定する系主人公は。

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― 新着の感想 ―
混沌の体現者って称号がもしあるとするならばコレほど似合う人物はいないと思う
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