Deviance World Online 間話『騎士、もしくは黒い騎士』
さて、黒狼の預かり知らぬところで黒狼が勝手に盟主にさせられそうになっているが……。
まぁ、彼はうまく順応するだろうということで放置されていた。
悲しきかな、黒狼よ。
「さて、本格的に話を詰めて行きましょうか。」
モルガンの宣言、それとともに全員が口を閉じた。
もちろん、自ら閉じたわけではない。
モルガンが全員に向けて、攻撃の魔術を放とうとしたからだ。
「お喋りはここまで、よろしくて?」
全員が頷く、モルガンの手に掛かればこの洞窟を崩壊させるのが簡単であると一瞬で悟ったからこそ。
しかし空気感は最悪だ、自力でどうにか出来そうだと認識しているゾンビ一号以外は敵意に塗れた目でモルガンを睨む。
いわばこの状況は、味方に対して銃口を向けているわけなのだから。
「先ずは其れを消しやがれ、魔女。」
「はい、これでよろしいでしょうか?」
なんか、もう清々しいまでの満面の笑みで彼女はそう言い放つ。
瞬間展開されていた魔術は、一瞬にして消失。
彼女の精神的に変化を如実に感じ取った村正は厄介すぎる、と確信する。
「手前、吹っ切れやがったなっっっつつ!!!? 長の席を譲るって考えたら真面目になるのが面倒になったんだろ!?」
「ええ、なんか疲れました。割とアクが全員強いですし、ここに来ないバカも居ますし私が一番まともだからってここまで奔走するのっておかしくないかな? っと思いまして。」
「言っとくけど、手前も割と巫山戯てるからなぁ!? 下手すりゃ儂が一番まともだぞ!!?」
絶叫する村正、残念ながら彼も彼で空気を読めないタチだ。
他の四人よりマシであり、空気感を改善することに努めてはいるがソレでもドングリの背比べが良いところだろう。
詳しくは書かれていないが、刀鍛冶を始めると周囲の話を聞かないことも非常に多い。
あと職人気質が暴走して、気に入らない客は割と叩き切っている。
普通の行動では一般人だが、他の行動を諸々込みするとコイツも普通に狂人だ。
「全く呆れるわね、落ち着くこともできないのかしら? ああ、黒の魔女っていう厨二女は癇癪持ちだったのね? あははは、気付かなくて悪かったわ。」
「おや、ウィッチクラフト。物を作るしか脳の無い魔女が何を仰っているのでしょうか? そもそもプレイヤーとしての貢献度合いは私の方が遥かに上でしょう?」
そして喧嘩が発生する、魔術の打ち合いが発生しなかっただけマシなのだろうか?
そう思うゾンビ一号、彼女はその四人を俯瞰している。
ぶっちゃけ、彼女は話に加わるのが完全に面倒になっており結果さえ把握できればとも考えていた。
その理由は、彼女はこのパーティーに入り込む隙がないからだ。
ゾンビ一号からしてこのパーティーは相性が良い、と感じている。
勿論、性格面の相性はこのひと時過ごした時点で良くないことは理解していた。
全員、アクが強すぎる。
黒狼はそもそもテンションが低ければその能力を発揮せず、モルガンは見た目や実績に反してズボラで適当な面倒臭がり。
ネロは言わずもがなマイペースすぎて、村正は一意専心と情熱が一つの物事にしか傾かない。
ロッソは一見まともだが、嫉妬心が人一倍強く性格も若干嫌味。
しかも集まれば相乗効果を発揮し、全員が全員の欠点を発揮するという致命的な部分がある。
故に性格的な相性は非常に悪い、おそらくだが五人で立ち上げているクランの共通目的すら把握してない人も居るだろう。
具体的には黒狼とか、ネロとか。
だがその部分に目を瞑れば、相当パーティーとしての相性はいい。
面制圧が可能なモルガンに一点突破の村正、バフはネロが行い黒狼は遊撃と撹乱を行える。
ロッソは随時全体の補助が行え、状況次第で誰の代わりにもなれる才能があり。
そして何より、土壇場での盤面を引っくり返す才能がある。
ふわっとした話だが、これは意外に重要だ。
どんな戦いでも、ソレが決められた物でない以上想定外が介在する余地がある。
その想定外、ここでは奇跡と称すべきか?
奇跡を呼び起こすその雰囲気を作り上げられるというのは、ハッキリ言って規格外と称してもいいだろう。
例えばヘラクレス戦、あそこで黒狼は土壇場で『エクスカリバー・アコーロン』を完成させた。
あの戦いで彼はヘラクレスを一瞬でも拘束した、あの戦いで彼はヘラクレスに呪血を付与することに成功する。
全て奇跡だ、奇跡と偶然の産物だ。
だが、これは偶発的に発生したとはいえソレが発生する条件は整えられていた。
そして、その条件は大きく飛躍する。
あの戦いでは黒狼とレオトールとゾンビ一号の三人でしか、奇跡が発生する土壌を作れなかったわけだが。
ここからはその前提が引っくり返る、何せそれぞれの分野の専門家が奇跡の土壌を用意するのだから。
全員が別方向に同じように突出している、そこから導き出される回答はあらゆる奇跡が無尽蔵に発生しかねないという結論。
そしてアクが強すぎ、可能性の振れ幅が大きい。
纏められるのなら、ここまで強い可能性の塊はいないだろう。
「一旦皆さん黙りませんか? 無駄だと思うので。」
だからこそ、その思考に至ったからこそ口を挟む。
この血盟がこのまま拗れれば、黒狼に対して大きな不利益になると感じたから。
少し場違いな感じがするが、子供じみたこの四人をどうにかするのが先決だと判断したのだ。
「無駄、ですか。そうですね、同意いたしましょう。」
「……あー、いや。なんでもねぇ、続けてくれ。」
「あ、ごめんなさいね?」
素直に謝る元凶1と2に、元凶3は何か言いたげに口を噤む。
そのまま三人はそれぞれ目線を合わせないようにしながら、ゾンビ一号の話を聞く姿勢に入った。
だが、ゾンビ一号は口を深く噤んでいる。
そして、少し恥ずかしそうにしながら口を開いた時彼女が言い放った言葉は四人に驚きを与える物だった。
「すいません、貴方達の目的ってなんですか?」
三人はズッコケたという。
*ーーー*
「あー、なるほど。貴方達はその、キャメロットという血盟を倒したいんですね? 分かりました。」
「はい、そうです。彼らにはそのために集めましたので、何か間違いなどはありますか?」
「いんや、ねぇ。」
「ない、わね。」
十分程度後、三人は目的を再認識しソレを纏めてゾンビ一号に伝えていた。
勿論、ネロは爆睡中である。
彼女に難しい話はできないのだ、ホントこういうところから協調性ないよね?
「しかし殺しても死なない異邦人が結成する血盟を倒す、ですか。相当に厄介でしょう、特にあの聖剣が非常に厄介ですね。」
「やはりエクスカリバーはソレほどの代物なのでしょうか? 伝承は把握しているのですが、ね?」
「なんて言えば良いのかは分からないのですが、エクスカリバーという代物はグランド・アルビオンの象徴です。あの王国の名称が、聖剣神授騎士王国という時点で明確でしょう。」
「ええ、成り立ちも聖剣を持った騎士王という存在が国を興し未開の大地を切り開いたという話でしたよね?」
その言葉を聞き少し眉を顰めながらも頷くゾンビ一号、彼女も建国記の触り程度なら知っている。
故にモルガンから言われた内容に同意したのだ、それはそれとして聖剣を持った騎士王? と脳内でなってはいるが。
ここであえて注釈しておくが、モルガンが保有する正しい歴史とゾンビ一号が持つ伝聞の歴史には相当な差異がある。
例えば初代国王の名前、モルガンはその名前がアーサーであると知っているのだが。
ゾンビ一号の場合は、現在のグランド・アルビオンの初代王であるアンブロシウスと認識している。
いわばモルガンが知っているのは、グランド・アルビオンと称される国家の真の意味での初代である先代『騎士王』の名前を知っており。
逆にゾンビ一号は、『聖剣神授騎士王国 グランド・アルビオン』の初代国王であるアンブロシウス王を知っているにとどまっていると言う事だ。
非常に込み入った話なので分かりやすくすると、古代エジブトの初代ファラオの名前を知っているのかエジプトの初代国王の名前を知っているのかと言う話になる。
実態は大きく変わってくるのだが、本当に非常に明確に如実にややこしいのでここでは省略しよう。
「ま、まぁ良いですか。聖剣というのはこの世界のパワーバランスを引っくり返す代物です、貴方達は知らないでしょうが……。この世界には全てを超える最強の兵器にして武器が存在します、エクスカリバーはそこに分類されるのですよ。」
「準古代兵器ですね。」
「え、なんで知ってるんですか!? 異邦人がなぜ!? 一応国家秘密ですよ!? しかも複数の国で協定を結んで原則秘匿してる国家秘密!!」
「書庫に潜り込んでいるとき、および彼女の記憶から少々。どう言う様な代物かは不明ですが、原則人類では対抗不能な究極兵器でしょう?」
意味深にしていた割にあっさりと答えを言われたので、ガックリと肩を落とすゾンビ一号。
これに関してはモルガンの情報収集能力が高かったというだけだ、ぶっちゃけゾンビ一号が意味深に隠したのは成果なのである。
準古代兵器という代物は、この世界においてレベル差を埋める強大な兵器だ。
レベルを貫通するという意味ではなく、規格外の攻撃性能でレベル差など意味がないレベルの攻撃を行うという意味での。
「じゃぁ知っているのなら古代兵器に関する諸々を省略して、エクススカリバーに備え付けられているという機能。聖剣の極光に関してを単刀直入にいいますね、あの聖剣は魔術的障壁と物理的壁以外を無効化した攻撃が可能です。記憶によれば架空属性? という物らしいですね、封印状態でも常に周囲に漏れていて他の在来属性全てを凌駕する属性です。話によれば、他の属性を無効化する能力もあるとか。」
「私の知り得ている情報では、ソレは正しくあの極光は他の属性を無効化しているようです。無効化の度合いは純粋な出力ですが……、はっきり言いましょう。エクスカリバーの放射に直接対抗する場合、最低でも防御魔術に1000MPを注ぎ込む必要があります。」
「……本当か? あれほど連発される攻撃の一発を防ぐのに、1000も必要ってのは。」
「事実です、私が試しました。」
ああ、あと。
そう続け、彼女は『エクスカリバー』一撃に要求されるMPを言う。
その総量、およそ100MP程度。
つまり要求される量の10倍ものMPで防がなくてはいけないのだ、言葉通り規格外という他ないだろう。
さらに追加で、絶望的な真実がある。
聖剣エクスカリバーは魔力を生成する聖剣だ、そしてその聖剣が生成する魔力は最低でも秒間で100に到達していた。
つまり、彼に聖剣を使わせる以上魔力切れが発生しないということ。
流石のゾンビ一号も、顔を青ざめさせる。
少なくとも当たれば生き残る自信がない超弩級の攻撃を、最前線で連射して来るのだから。
「ひとつ、質問。良いかしら? 良いわね、じゃぁ聞くけど。準古代兵器に精々がプレイヤーメイドの武器で勝てるの? 純粋んに出力で正面からねじ伏せられて終わりじゃないかしら。」
「んにゃ、別段出力が全てでもねぇ。いわば魔術理論を主格とした武装って事だろう? であれば儂に対抗手段が存在する、規格外には規格外をと言うわけだ。」
「ほう、どのような規格外で?」
「そいつぁ、これさ。」
そう言い、ムラ甘さがインベントリを開き一つの刀を取り出す。
銘はない、だが村正はこの刀をこう呼んでいる。
無銘刀、無銘と。
その刀は完成された刀としての究極点であり、言葉にできぬ美しさと鍛えられあげた極致を魅せる。
そして何より、全てを切ると言う感覚を与えられ全てを切り裂きたいと思考が回る。
全員が恐怖に慄いた、そんな思考に傾く自分の脳に対して。
切り裂きたい、全てを切り裂きたいと思わせてくるその刀に対して。
「此奴は規格外にして最上の刀剣、規格外の権化でさぁ。刃があたれば何でもかんでも切り裂く、こいつにきれない物はない。」
「それは……、聖剣の光であってでもでしょうか?」
「ああ、切れるはずだろう。」
「では、ソレを使えばあの忌まわしき聖剣を!!」
モルガンがそう言った瞬間に、村正は首を振る。
切れない、と言う意味ではないだろう。
では何が問題か、一瞬で村正の言いたいことを看破したロッソは刀に鑑定を行う。
「きゃっ!? 何!?」
「辞めとけやめとけ、此奴は自分の刃に当たる物全てを切断する。魔法だろうが魔術だろうがスキルだろうが、そこに例外はねぇ。」
「……、まさか耐久性が死んでいるのですか? その……、妖刀は。」
「ああ、そう言うこった。此奴を直接使えるのは、良くてもあと2回だろう。」
村正の言葉に、モルガンは黙る。
ソレではダメだ、聖剣を2度凌げてもその後に続かない。
しかし剣の性能は明白になった、スキルシステムすら凌駕する刀などこの世に二振りとて存在はしないだろう。
期待以上とも期待以下とも言える結果にモルガンは少し陰った表情をして、だが切り替える。
ここ一番で対抗する他ない、もしくは……。
「準古代兵器、を用意するしかありませんね。」
「あ、うーん……。」
「どうしたのですか? ゾンビ一号さん。」
「あ、いえ。一応、準古代兵器がある場所は知っているんですよね。攻略可能なら、ですけど。」
空気が一気に様変わりする、全員が目の色を変えた。
準古代兵器の在処を知っている、であればソレを入手する他ない。
だがその反応からその在処には、洒落にならない何かが存在していることを理解させられる。
そしてその理解は、紡ぐ言葉で明白となった。
「私の知りうる限りの最強、天と地が逆さになっても負けるその最強でもあの黒いレイドボスに勝てるか相当に怪しいんですよね。本人がそう言っていましたし、ソレ以上に相手。多分ですけど、レイドボスの中でも相当上位ですよ。生憎、私は直接対面していませんが。」
「……、まさか黒騎士? 確かにあのレイドボスの姿すら観測できず鏖殺されています。ですが実際にソレほどの実力者なのですか? あの黒き騎士は。」
「そうですね、分かり易く言うと……。あのヒュドラ、あれを倒すのははっきり言って苦労しません。ヒュドラの毒を無効化する何かを用意すれば一人だけでも十分対応できる相手。ですが、ソレを事前準備無しで倒せる化け物が存在しています。」
一言、そう区切る。
レイドボスに単騎で対応できる、その事実は少なくとも驚愕しうる物だが驚愕でしか無い。
現実問題、確かにその通りだとは思えたからだ。
絶対的な絶望、そういう風に称するにはやはり質が低い。
だが、事前準備なしと言うことになれば話は大きく変わる。
事前準備無し、ソレは絶死の猛毒に蝕まれながら殺せると言う話に他ならず。
ゲーム風に言えば特攻なしで攻撃を行っているようなもの、メインボスがエキドナだと思っていたため殆ど特攻アイテムを雑魚敵に使ってしまっていたがソレでもキャメロットの人間は特攻武器で威力を嵩増ししていた。
ソレでもギリギリ以下でしかなかったのに、そんな対策なしで戦えばどうなるか?
「あり得ません、あり得てはいけません。そこまでいけば人間ではない、人でああるはずがない。」
モルガンは、即座に否定した。
否定するしかなかった、否定しなければなかったのだ。
黒の騎士、黒き騎士、まぁ呼称が定まっていないのはレイドボスコールの時に名称のところにノイズが走るからですね。
じゃなきゃ、もうとっくの昔に名称なんて判明してるでしょう。




